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  • 2022.08.16

未利用魚でサステナブルな商品を。夢いっぱいの缶詰を浜田市から世界へ

日本海に面し、リアス式の地形と砂丘海岸が織り成す優美な海岸線が観光名所となっている港町・島根県浜田市。さまざまな魚種の水揚げ量が全国有数の実績を誇り、戦前から漁師町として栄えてきた。水産加工業も盛んで干物や練り物など魚を材料にした加工食品を手掛ける企業が集積し、商品は日常食から贈答品まで幅広く愛されている。そんな浜田市の中でも地魚を材料に缶詰を作るオンリーワンの会社がある。株式会社シーライフ。2009年設立の若々しいこの企業は干物だけでなく缶詰も自社で手掛け、浜田市内では唯一の缶詰メーカーとして独自の地位を確立している。父で創業者の河上清志社長を支える河上清貴専務に創業と独創的な商品づくりの背景、今後の目標を尋ねた。

【プロフィール】
河上清貴(かわかみ・きよたか)
株式会社シーライフ専務取締役。1989年生まれ。島根県出身。大阪府内の大学を卒業し府内の呉服店で接客業を務めたのち、2016年に島根県浜田市にUターンしシーライフに入社し現職。接客業の経験を活かして営業を引き受けているほか、マーケティングや材料の仕入れを担当する。趣味は娘と遊ぶこと、スポーツ観戦、読書。

浜田で取れる魚の魅力を伝えたい


1967年生まれで浜田市内で水産加工業の会社に約15年間務めた清志社長が2006年、個人商店として現在の称号と同じシーライフで創業したのが始まりで、2009年には現在の会社組織となった。社長は長いサラリーマン生活の中で「浜田で取れる魚の魅力をもっと外に伝えたい」という気持ちが強くなり、独立開業を決意した。
 
創業から会社組織への移行までは干物1本に商品を絞り、市内の同業他社の下請けで仕事をすることもあった。ただ、干物市場は前途多難だ。経済産業省の工業統計調査によれば、干物の年間出荷額は2002年には276億8600万円、同年の水産缶詰は23億9700万円だったものが、2021年には干物は946億1100万円、水産缶詰は592億3000万円と、缶詰のほうが市場規模の大きくなるスピードが速くなっている。この趨勢を読んで、清志社長は創業以来いつか缶詰を作りたいという夢を持ち続けていた。実際、中長期で干物の全国的な市場規模が縮小するなか、缶詰は通年で好きな魚が食べられる、調理に手間がかからないなどの理由で、ここ5年人気が高まっているという。
 
浜田には隣県広島県からの旅行客が日帰りを含めて通年で訪れるが、干物は冷凍状態で保存しなければならず、せっかく作った干物も勝手帰れない状態が長く続いていた。そこで清志社長は、創業当時から温めていた構想の浜田産の魚を使った缶詰の製造に着手した。缶詰の利点は干物と違って常温で保存できることや賞味期限が約3年と長いこと、そして調理の手間がかからないこと。食べやすくて美味しい缶詰には将来性があると踏んだ。そこに全国有数の漁獲量を誇る浜田港で採れた魚を使えば、付加価値は倍加すると考えた。

海の恵み豊かなふるさと・浜田


浜田港は1967年に国から特定第三種漁港に指定された。特に同港で水揚げされるアジ、ノドグロ、カレイは脂がのって味がよく、地元で盛んな石見神楽のお囃子の「どんちっち」という演奏の音を取って、2003年「どんちっち三魚」に指定された。現在では島根県内外で高値で取引されているほか、干物などの加工品が浜田市のふるさと納税返礼品になったり、東京都千代田区日比谷にある島根物産館。にほんばし島根館で扱われたりしている。
 

水産都市浜田の缶詰製造業は戦後初期の1950年代が最盛期で、現在では当時工場で働いていた70歳前後の高齢者がその盛んな様子を知っている。しかし、缶詰として全国的にメジャーなアジやサバの水揚げ量が全国的に減った平成初期には市内の缶詰製造業者がすべて廃業し、シーライフが缶詰製造を始めるまで市内では約30年間、地場産の缶詰がない状態が続いた。河上社長は干物に代わる商品として、付加価値が高い缶詰に注目し作ることを決意した。2017年のことだ。
 

同年夏には、翌年に本格製造する目途を立て数千万円をかけ缶詰を加工する設備・巻締機を導入。ちょうどそのころ、従来よりやや高単価で味にこだわった缶つまのブームが到来し、従来は非常食としてのみ受け取られてきた缶詰への社会の理解が一変しはじめ、高品質・高価格でオンリーワンと言えるほどの独創性を持った缶詰の需要がにわかに高まっていった。設備を導入して缶詰の試作を始めた当初は地元の水産試験場に足しげく通い日夜助言を求めた。商品価値の高いものを求め、地魚を使って30~40種類の缶詰を試作した日々が続いた。最初は加熱しすぎて身がボロボロになったり、缶の巻き締めが甘く完成してから破裂することもあった。商品としての一定の品質を保ったものができたのは、作り始めてから半年後だった。
 

こだわり抜いた新商品の缶詰


缶詰づくりの当初からこだわったのが、アジやサバ、サンマ、イワシといった全国どこでも見かける魚の缶詰を作ることではなく、どんちっち三魚に代表される地元ならではの魚を缶詰にすること。そして、必ず鮮魚から缶詰を作ることだ。大手メーカーが手掛けるアジ、サバ、イワシなどの缶詰は、冷凍した魚を加工するのが普通だが、シーライフの鮮魚を加工した缶詰は鮮度がよく、臭みがなく食感も優れている。
 
実際、地元浜田の水産試験場の研究では、冷凍魚よりも水揚げして数時間後の鮮魚を加工した方がうま味が強いという結果が出ており、シーライフはその日の朝に水揚げされた鮮魚を厳選して製品化する。缶詰は一個500円前後と決して安くはないが、確かな高品質と希少価値に裏付けられた商品は人気を博している。清貴専務によれば「特にこの5年、高級志向の缶詰の需要が高まり、需要は今後も伸びる」と見立て、味をとことん追求した方針について意を強めて語る。


浜田港の水揚げ量、出荷額のピークは1990年の19万8千トン、116億3000万円で、2018年には2万1000トン、56億5千万円と数量にして10分の1程度に落ち込んでいる。このあおりを受けて、浜田の名産・どんちっち三魚の漁獲量も低迷し、メジャーな魚種ばかりに頼っていては製造がおぼつかない事態となった。
 
現在、商品化している魚は干物でアマダイ、ミズガレイ、ケンサキイカ、アジなど計8種類。これに対して缶詰はノドグロ、アジ、カレイのどんちっち三魚のほか、需要が極めて少なく市場に出回らないホウボウやボラ、スズキなど未利用魚を含めて40~50種類と多彩だ。
 
未利用魚は、味自体は刺身でも食べられるほど問題ないが、サイズが小さすぎるか大きすぎる、骨が多すぎる、ひれが大きいなどの理由で加工が難しいために市場価値が付かず、通常では商品として出回らない。嫌われ者に思える未利用魚だが、清貴専務によれば「1回漁に出ると水揚げ量の3~4割が捨てられる一方だった未利用魚だ」といい、商品化すれば供給の安定した魚を安価で仕入れられるメリットがあるという。アジやサバといった缶詰としてポピュラーな魚種は不漁で調達しにくい一方、未利用魚は利用できる価値と余地が十分にあるという。また缶詰は高温で長時間加熱するため、骨まで柔らかくなり身を骨ごと食べることもでき、骨が多いという未利用魚特有の難点をクリアできる。
 
昨今の燃油高騰で漁師が打撃を受けるなが、未利用魚に値段をつけて買い取り商品化すれば漁師、シーライフ、消費者にとって三方良しだ。河上専務は「今まで廃棄されてきた未利用魚を商品化することはSDGs(持続可能な開発目標)にかない、未利用魚の缶詰は幅広い人々への貢献になっている」と胸を張る。未利用魚の加工は、缶詰事業を始めた当初から手掛けており今年で4年目にはいる。清貴専務は「未利用魚の加工は全国的にも珍しく、特に缶詰にしているのは全国でシーライフだけ。オンリーワンの存在として今後も市場価値を高めていきたい」と話す。

広がる販路はどこまでも


缶詰は発売当初から味と珍しさが評判を呼び、東京都内の百貨店や島根物産館、缶詰を専門に扱うセレクトショップなどにも流通している。さらに海外にも販路を広げ、台湾や香港への輸出実績もあり、現地の人々に愛されている。
 
魚の缶詰はそのまま食べるほか、缶の煮汁ごと白米と一緒に炊いて炊き込みご飯にしたりアクアパッツァにしたりするほか、ほぐしてサラダと和えても楽しめる。もちろん、お酒との相性も抜群だ。パッケージも海と朝日をイメージさせるツートンカラーにして消費者に訴求する。未利用魚を使った缶詰シリーズ「今朝の浜」は日本海に面した浜田港の海水を利用した塩水だけで味付けし、素材の魚と相まって素朴な味わいに仕上げた。未利用魚の缶詰は特許や実用新案を申請することなく、「未利用魚を加工するノウハウを教えてほしい」とオファーをした市内外の同業他社に作り方を伝授し「サステナブルな漁業と水産加工業を根付かせ浜田や日本を盛り上げていきたい」と語る。
 

漁業、水産業の未来を形作る

シーライフの仕事は、田舎で水産加工品を作ることだけではない。生産地である漁港・水産資源・働き手の未来、消費者の健康・食べたい・美味しいという感動。両方の想いを受け止め、商品という形にして発信し届ける。産地の資源と都会の消費者を結ぶコーディネーター業といえる。清貴専務は「そうすることで、水産加工の仕事のイメージを変え、カッコイイな!憧れるな!という仕事にしていきたい」と胸に大志を抱いている。「数少ない地元出身の担い手だからこそ感じる、これまで浜田市の水産業や雇用を支えてきた人たちの熱い想いに加えて、今後の課題である働き手不足や情報技術の遅れなどに対応すべく、幅広い方面へのPRの仕方や、仲間との連携を軸にして活動していく」と決意を語る。
 
次世代を担う清貴専務は、自身のUターン経験を振り返り、地方にも働き甲斐のある、きらりと光る企業に育てることで地元就職やUターン者を増やし故郷への貢献しようと日々励んでいる。現在は、昨年から清貴専務のイニシアティブで会社組織の制度化を進めている。創業以来支えてくれた親族の従業員が高齢化して引退していくなか、将来有望な缶詰の製造を増強するため工場作業員を募集中だ。最近1年間で10人もの新規採用をするなど、人材確保に余念がない。また創業以来、長らく中国からの技能実習生を迎えて作業にあたってもらっていたが、コロナ禍で新規の入国・雇い入れが難しく長期的に働いてくれるスタッフを募集中だ。必須・歓迎条件や資格・免許といった制限は一切つけず「浜田への愛があり魚が好きな人なら誰でも歓迎だ」と話す。
 
取材・文:古和 隆宏

会社名 株式会社シーライフ
所在地 島根県浜田市原井町907番地2
事業内容 海産物加工販売
資本金 300万円
設立年月 2009年5月1日(創業:2006年1月1日)

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