コラム

競争を回避しながら、求める人材にアプローチする方法は?「理念経営×人事」セミナーレポート①(ゲスト:人材研究所・曽和氏)

2024年1月11日、“こころざし”でつながるプラットフォーム「visions」(運営:株式会社パラドックス)主催で人事にまつわるイベントが行われました。ゲストは人事コンサルタントの株式会社人材研究所 代表の曽和 利光氏。「理念経営を行う人事だからこそ実践できる、人事のあり方とは?」をテーマに、理念経営をHR領域から推進するための戦略から実践方法まで語っていただきました。
今回は、全3回にわけたうちのイベントレポート第1回目をお届けします。テーマは「競争を回避しながら、求める人材にアプローチする方法は?」です。採用母集団形成にお困りの人事担当者、経営者の方はぜひ最後までご覧ください。

【ゲストプロフィール】
株式会社人材研究所
代表取締役社長
曽和 利光氏

愛知県豊田市生まれ、関西育ち。灘高等学校、京都大学教育学部教育心理学科。在学中は関西の大手進学塾にて数学講師。卒業後、リクルート、ライフネット生命などで採用や人事の責任者を務める。その後、人事コンサルティング会社人材研究所を設立。日系大手企業から外資系企業、メガベンチャー、老舗企業、中小・スタートアップ、官公庁など、多くの組織に向けて人事や採用についてのコンサルティングや研修、講演、執筆活動を行っている。著書に「人事と採用のセオリー」「人と組織のマネジメントバイアス」「できる人事とダメ人事の習慣」「コミュ障のための面接マニュアル」「悪人の作った会社はなぜ伸びるのか?」他。現在、Y!ニュース、日経、労政時報、Business Insider、キャリコネ等、コラム連載中。

時代は、競争を回避する「発掘型」の採用へ


ーー今回は「理念経営を行う人事だからこそ実践できる、人事のあり方とは?」というテーマで、人事という立場から企業の理念経営を推進するための考え方や実践例についてお話しいただきます。最初に、曽和さんが最近感じている採用市場のトレンドや課題感はありますか。
 
いろんな会社のお手伝いをして思うんですけど、どの企業も単純に人手が足りないんですよね。とはいえ大企業や人気企業だったりすると、応募枠は全部埋まる。そう考えると、中小企業やベンチャー企業は、採用のための母集団はかなり必要になってくるんです。実際どの企業も事業を運営するにあたって必要な人材を算定して採用活動をやっているわけですが、多くの会社が人材の獲得に苦戦しています。僕が思うに、採用がうまくいかない原因は、誰もが求めるダイヤモンドのような人材を奪い合ってしまうこと。立派な経歴の人材はどの企業も欲しがるので、獲得競争が激しく疲弊するだけです。
 
表現は乱暴かもしれないけれど、ぱっと見た感じは石にしか見えないけど磨いてみたらダイヤモンドになるような人を狙う「発掘型」の採用にシフトする必要があると思うんです。 求める人物像や人材要件を変えるわけではありません。新卒だったら大学だったり学部だったり、中途採用だったら前職やスキルだったり、多くの人が目をつけないところに着目し、競争を回避する。要は、ターゲティングこそが命だという話で、同じ採用パワーをかけるのであれば、どこにそれをかけるのかということです。
 

本当に会いたい人にだけ会う

ーーそのような市況の中で、採用担当者は何に注力するべきなのでしょうか。
 
採用活動に関しては、プロモーションや選考はできるだけ効率化して、「口説き」のフェーズをコア業務にする必要があります。今は、AI採用データを使うであったり、適正検査をきちんと活用して、能力だけではなく性格の相性なども判別するであったりというのがトレンドにもなっていますよね。こうしたツールやスカウトメディアなどを活用して母集団形成や評価を効率化し、動機づけの方にマンパワーと予算を配分しないといけない。
 
気をつけるべきなのは、幅広い層にスカウトメールを一斉送信して、応募がきたら1件1件対応することをやめること。自分たちが会いたい人だけにスカウトメールを送れば、そこまで多数の人と会う必要はなくなるんですよね。
 
「会いたい人はどこにいるか」を考えることも重要です。たとえば、大企業や人気企業に内定をもらっている人だと、こちらが内定を出しても承諾してくれない可能性が高い。ひっくり返すには、相当な労力が必要です。なので、まずは戦略の段階で設定しているターゲットが適切か精査する必要があります。
 
新卒採用活動をはじめるタイミングでいうと、大学2年生も含めてターゲティングする企業も多いのですが、その必要はないと思っています。たとえば今年なら5月くらいに日系大手の採用のピークが来ると思うんです。その直後が、優秀層が1番取りやすい。 なぜかと言うと、優秀そうと呼ばれる学生たちは大体調子に乗っていて、大手に落とされると現実とのギャップに気づいて、急に変なトゲがなくなるからなんですね。「調子に乗ってたけどすみませんでした」って反省した人が一番良い。加えて、大手の選考っていうのは意外と粗いので、そこで落ちたからといってダメな人でもなんでもないんです。
 
もちろん早期から採用活動をするのはマイナスではないと思います。ただ、3年生の夏休みみたいなまだまだ遊びたい時期に就活をしている人というのは、大企業への就職意志がかなり強い。ですので、そういう人たちとインターシップをしてすごく良いリレーションが築けたとしても、本選考すら受けてくれないこともあるんです。「勉強になりました。ありがとうございました!大企業に行きます!」みたいな感じになってしまったり。それだったら、「インターシップなんて全然考えてないですけど、先輩から言われたからきました」ぐらいの人が良いと思うんです。そういう優秀な人たちを集めることができれば、早期に採用活動をやる意味があると思います。
 

フリーワード検索から「会いたい人」を探す


ーー今回の参加者の方からは「母集団形成について、量・質ともに苦戦している」といった質問も届いています。
 
新卒・中途関わらずスカウトで母集団形成する上で重要になるのが、フリーワード検索。にもかかわらず、多くの企業がフリーワード検索機能を全く使っていません。ターゲット抽出する際、ほとんどの場合、属性や、前職、志望業界、学校、学部など、そういった既存の要素でソートするじゃないですか。すると抽出されるターゲットはほとんどの企業でかぶってしまうわけです。結果的に競争率が上がり、採用に至らなくなってしまう。
 
だから僕は「フリーワード検索も多用しましょう」とおすすめしています。たとえば論理的思考能力の高い人を取りたいっていう風に思ったときにペルソナを考えます。もちろんひとつのペルソナにまとめる必要はないのですが、「今採りたい人って、バイトは何をやってるんだろう。飲食店なのか、家庭教師なのか、オフィスワークなのか。趣味だったら何だろう。将棋とかかな?」みたいな感じで、 ちょっと検索していただくと面白いです。ペルソナ次第で、どのキーワードがベストに機能するのかはかなり変わります。実際、ペルソナを設定してフリーワード検索で抽出したターゲットにスカウトメールを送ると、反応があるんです。自分たちがほしいと思っている人を導き出すキーワードを考えてみてほしいですね。
 
あと、これも面白い例なんですけど、オファーボックスの情報を全然きちんと入れていない人にばっかりアプローチするという戦略をとっている企業もあります。学業やスポーツ、アルバイトに忙しくて、登録しとけって言われたから登録したけど、ほったらかしにしてる子が実はとても優秀な人材かもしれない。しかもスカウトメールを送ると、「なんで自分に!?」と向こうもびっくりするわけです(笑)。学生時代に起業もしているような若い子たちに聞いたら、オファーボックスを後から見てみたらスカスカだったとも言っていました。これを先程話した地域性などとかけ合わせて検索してみると、会いたいと思う人材に、協業率低く会うことができると思うんです。
 
レポート②へ続く>
 

取材・文:伊藤 鮎

 
<主催:visions(https://www.vision-community.jp/ )>
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