コラム

私が新卒で経験した『商品先物』という業界

過去の記事で少しだけ紹介したが、私は新卒で商品先物取引の会社へ入社した。都市伝説の類でしか聞いたことがないレベルでブラックな企業だった。もうだいぶ前の事なので、時効だと割り切ってここに赤裸々に内情を書いていこうと思う。もしも同業界で働く人や、志望している人がいるなら参考にしてほしいが、この業界の全ての企業が同じとは限らないことだけはご理解いただきたい。

金取引による大規模詐欺事件

先物取引についてご存じでない方もいると思うが、詳細の説明については特に重要ではないので省かせていただく。株やFXに近いものだと考えていただければと思う。それらよりも、よりニッチでよりリスキーな業界だ。
 

今から40年ほど前に、世間を騒がせた事件があった。金をメインとした商品取引で、大規模な詐欺組織が存在した。その悪質な手口から、最後には社長の自宅がヤクザに乗り込まれ、刺殺される現場が生中継されることで、世間の注目を浴びた。
 

そんな事件があったため、商品取引に対する法律がかなり厳しくなった。今では契約をする際にお客様の資産や収入についての審査が必須となり、営業方法にもかなり規制が設けられた。なので商品取引のイメージは良くないかも知れないが、今では安全安心の商品だ。と、研修で教えられ、お客様にも同様に伝えた。しかし現実では、業界の根本がそう簡単に変わることはなかった。
 

250時間を超える時間外労働、残業代はゼロ

先物取引の市場は朝8:45から始まる。この時間には市場が動き出すので、顧客に対してはそれまでに連絡を済ませておかなければならない。そうなると社内での情報共有や朝礼はそれよりも更に早い。朝7:00には各班での新聞の読み合わせが始まる。新人が当てられ記事を音読した後、値動きの予想を発表しそれを上司が意見する。そのため7:00までには新聞を読み込み、準備しておかなければならない。通勤時間や朝の準備時間を入れると、大半の社員は5:00には起床していた。
 

日中は飛び込み訪問やテレアポがメイン。営業相手は個人のため、働いている場合も多く夜でないと電話が繋がらないケースもよくある。そのため夜9~10時にも平気で営業電話をしていた。翌日の営業準備などを終わらせ、夜11時を過ぎたあたりでようやく終業作業を始めることが日常だ。
 

土日の両方が休みなのは月初のみ。土日しか家にいない人も多いからと月の中頃は土曜日、月末は土日両方とも出勤させられていた。1日の稼働時間を16時間、休みを4日と考えると月の労働時間は416時間。所定労働時間を160時間とすると、実に250時間を超える時間外労働だ。
 

もちろん残業代は発生せず。というより、毎月月末に嘘の稼働時間をまとめて紙に書かされ判子を押させられるため、残業自体していなかったことにされていた。別の支店だったため詳細は知らないが、入社1年目で同期が過労死のため亡くなった。
 

飛び交う怒号、パワハラ三昧

私のいた支店では15m四方ほどのオフィスに20名の営業がいた。私は運よく営業成績をあげることができていたが、営業成績の悪い社員はそのオフィスの中央に直立させられ、端にいる支店長から大きな声で怒鳴られる。成績や営業内容だけならまだしも、容姿や人格についても悪口を言われる。
 

成績の悪い社員だけでなく、支店長から気に入られていないというだけで同じように怒号を浴びせられる社員もいた。もちろん支店の全社員にも聞こえている。他の社員は通常通りテレアポを行っていたが、電話先にも怒鳴り声は聞こえていたと思う。
 

昼休憩の時間になると、一斉に外に食べに行く。少しでもその空間から離れたいからだ。支店長はそれを良しとせず、ある日から昼食を外で食べることが禁止になった。時間がもったいないという理由で、全員同じ店での出前を強制させられた。
 

休息の時間であるお昼の時間も嫌いな上司と同じ空間で過ごし、その時間でさえも嫌味や悪口をさんざん聞かされた。
 

『なんの信憑性もないけど、上がる気がするので買ってください』

金をメインとした先物取引が中心で、高額商品となるため、必然的にお客様は高齢の方の割合が多かったが、社内に対してだけでなく、お客様に対してもその態度は誠実なものではなかった。
 

客先では契約が取れるまで帰ってくるな、良いことだけを伝えろ、とにかく不安を煽れ、など今でも営業会社の一部では同じようなマニュアルがある企業もあるかもしれない。しかし販売相手が高齢で、尚且つ高額商品となるとかなりタチが悪い。
 

先物取引は売買手数料がメインの収入源となるため、一度契約いただいたお客様には必要以上に日々売買させる。長期的に取引してほしいので、一応値上がりしそうな時には買いを勧めて値下がりしそうな時には売りを勧める。
 

しかし株と同じで、その値動きの予想はプロでも難しいと言われるなか、ついこの前まで学生だった新人営業がした予想が当たるはずもない。もっともらしい理由を並べて力説しているが、『なんの信憑性もないけど上がる気がするので買ってください、損した時は自己責任でお願いします』簡単にいうとそういうことだ。
 

なん千万と損をする客、人生が壊れる客

当時で、金1kgが約500万円。スマートフォンと同じくらいの大きさでその金額だ。株の信用取引を知っている人ならわかると思うが、先物取引も同様の取引となる。当時で15万円程度を預けてもらえれば、この金1kgを保有したものとして取引ができる。
 

つまり15万円で金1kgを購入し、金の値段が500万円から450万円に下がったとしよう。預けた金額が15万円だったのに対し、損失は50万円となる。現実には15万円だけで取引する人はおらず、数百万円単位での購入も多いので、その損益の幅はとても大きいものとなる。これが先物取引の一番恐ろしいところだ。
 

実際に私のお客様でも2000万円ほど損金を出した人もいた。すぐに謝罪に向かい、土下座をして謝る。怒鳴られたり泣かれたりすることもある。こちらの精神的ダメージも大きいがそれだけである。損をしたお客様は現実になん千万円という被害がある。もちろん反対に大きい利益をあげるお客様もいる。しかし不思議なもので、上がるか下がるかの二択の賭けなのに、損をしているお客様の方がはるかに多い。
 

当時の先輩が担当したお客様で、多額の損金を出したことにより妻に家を出ていかれ、当然のごとく親権もなく、損金を支払うために持ち家を売却した人の話を聞いたことがある。身近な例だけでもそれだけのことがあるのだ。別の支店や他社のお客様まで含めると、いったい先物取引でどれだけの人が多額の損をし、人生を壊していっただろう。
 

ブラック企業を経験してよかったこと

後に転職をすることになるのだが、面接や新天地でこの話をすると、『でもそういう環境にいたんだから精神的に強くなったり、いいこともあったんじゃない?』と言われることが多々ある。結論から言おう。良かったことがあるとすれば1つ。新聞などで情報を収集し自分で考える癖がついた、それくらいのことだ。
 

ブラック企業を経験したからといって、メンタルが強くなるわけではない。中にはそういう人もいるだろうが、メンタルが壊されてしまい今後対人の仕事ができなくなる人もいるくらいだ。
 

また、金融業界ということで投資の知識が深く、うまいこと儲けることができると思われることもあるが、それも全くない。金融営業の言うことなど一切信用できないし、ネットで一人でするにしてもプロに勝てる気がしない。そもそも膨大な資産を持った状態で始めなければリスクしかない。
 

今後、先物業界を目指している人がいるのであれば、あまりおすすめはしない。というよりもし友人がその道に進もうとしていれば全力で止めるだろう。
 

ちなみに私がいた会社は、不正会計や行政処分を何度も受けていたが、従業員が減ったものの未だに上場もしており、変わらず営業を続けている。
 

<筆者プロフィール>
寺島弘光(てらしま ひろみつ)
商品先物取引のトップセールスとして3年間勤務後、通信業界や求人業界の営業を経て、30歳を超えて大きな挫折を経験。現在求人広告をはじめとしたライターとして、新たな道を歩み始める。大阪人ながらに年間パスポートを保有していたほどのディズニー好き。趣味はバスケットボールで、自分でクラブチームを作るほど。推しは大阪エヴェッサ。千葉への移住計画を胸に、一児の父親として育児・ライティングともに一から勉強中。