コラム

【ウェビナーレポート】AI時代におけるHR領域のあるべき姿と実務での生成AI活用方法

2024年3月26日(火)、株式会社デジライズと株式会社HRマネジメントの共催セミナー「AI時代におけるHR領域のあるべき姿と実務での生成AI活用方法」と題したセミナーが開催された。デジタル技術の進化が企業経営に大きな変革をもたらしつつあるいま、人工知能(AI)は最も注目を集める領域の一つである。AIの実用化が進むにつれ、さまざまな業務へのAI導入が企業の課題となってきている。

今回のセミナーではAIが人事業務にどのような影響を与えるのか、企業はどう対応すべきか、その現状と展望が具体的に語られた。HR領域はもちろん、ビジネスのあらゆるシーンにおいて生成AIを活用したいと考えている方はぜひ参考にしてほしい。

【登壇者プロフィール】
高橋絵里香(タカハシエリカ)
株式会社HRマネジメント代表取締役
企業人事の領域で20年以上のキャリアを持ち、東証一部上場企業の人事部に約20年在籍し、グループ歴代3人目の女性統括部長として、事業部人事を統括。約120名の人事組織を率いる責任を追う。
2018年には、その経験を活かし人事BPO会社を立ち上げ、現在は約80名の社員を擁する社長として、HR領域を支援。

茶圓将裕(チャエンマサヒロ)
学生時代に英語圏での1年間の留学後、上海にて日系人事コンサル会社にて法人営業に従事。延べ100社以上の人事評価制度構築に携わる。日本に帰国後はSNSマーケティング事業の会社を企業。2022年には世界初の食べて稼げるeat to earn NFTゲーム「Eatnsmile」をスペインにて共同創業。帰国後はAIチャットボット「AideX」、AI語学学習ツール「AI会話」などAI関連サービスを複数開発。現在はX等でAI情報発信を行い(フォロワー10万人以上)、AI専門家としてTBSテレビやABEMAにも複数回出演。GMO AI & Web3株式会社顧問、一般社団法人生成AI活用普及協会評議員を務めながら、2023年に法人向けAI研修、及び企業向けChatGPTを開発する「株式会社デジライズ」とを立ち上げ代表取締役に就任。NewsPicksプロピッカーも兼任。

人事業務においてAIは「強力なアシスタント」

第一部では、HRマネジメント社の代表取締役である高橋氏が登壇し、AIの進化が人事業務に与える影響と対応策について講演を行った。
 
高橋氏は人事部門の役割は経営とスタッフのベクトルを合わせることであり、採用から教育、評価、処遇に至る多岐にわたる業務を担っており、企業を活発化させる部門であると説明した。しかし、外部環境の急激な変化に伴い、人事部門には専門家との連携やAI活用など、新たな対応が求められている。日本の中小企業においては人材確保が大きな経営課題となっているものの、専任の人事担当者が不在の企業も4割に上る現状があり、人事領域に改善の余地が大きいと指摘した。
 
このような課題に対し、高橋氏は「人事BPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)の活用」と「生成AI活用」の2つのアプローチを提案した。
 
人事BPOとは、人事業務の一部または全部を外部の専門機関に委託するサービスである。実例としてコールセンター企業がBPOを活用し、従業員100名を超える規模まで成長できたことが紹介された。組織が拡大する中で、ルールやガイドラインの統一、教育システムの構築が成功の鍵となったという。
 
一方の生成AIは、人事業務の一部を自動化し効率化を図るものである。高橋氏が代表を務めるHRマネジメント社でも昨年から法人向けの生成AIツールを提供しており、人的リソースを付加価値の高い業務に振り分けることで生産性の向上を実現したと語った。
 
高橋氏はAIについて「人間の仕事を置き換えるものではなく、個人専用の強力なアシスタント」と位置づけている。確かにAIは選択肢を示してくれるが、最終的な判断は人間が行う役割だと強調した。しかし、AIを適切に活用できる人とそうでない人との間で、業務アウトプットに大きな開きが生じるリスクがあるため、AIのリテラシー向上が急務となる。重要なのは、AIとともに成長していく資質がビジネスパーソンに求められることである。
 
HR領域においてAIを活用する意義は大きい。AI時代の到来に伴い、企業を取り巻く環境は目まぐるしく変化している。こうした変化の渦中において、企業が競争力を維持・向上させていくためには、人事部門が環境変化を機敷に捉え、適切な施策を企画・実行することが不可欠となる。
 
しかしながら、高橋氏が指摘するように、多くの中小企業では人手不足から専任の人事担当者を置くことすら難しい状況にある。このような状況下で、AIを活用することで人事業務の一部を自動化・効率化できれば、人的リソースを付加価値の高い業務に振り分けることが可能になるだろう。
 
また、採用活動やリスキリング(再教育)など、HR領域の様々な場面でAIを活用することで、業務の質的向上も期待できる。例えば、人物評価の際にAIが人間の偏りを補完したり、学習教材の自動生成によりリスキリングを効率化したりするなどだ。
 
一方で、単にデジタルツールを導入するだけではDXは実現できない。高橋氏が指摘するように、デジタル化による恩恵を最大限に享受するには、組織の在り方や業務プロセスの見直しも重要な課題となってくる。経営層の理解と主導的な関与なくしてはDXは実現できないのである。DXの潮流は、HR領域が単なるバックオフィス業務から企業価値創造の源泉へと進化することを促す契機ともなりうる。これまでHR領域は企業の中でサポート的な位置づけにあり、間接部門として扱われることが多かった。しかし、競争環境がますます厳しさを増す中で、人材こそが最大の競争力の源泉だと認識される時代が到来しつつある。
 
AIをはじめとするデジタル技術の活用により、HR領域の業務が最適化・効率化されれば、人材マネジメントに専念できるようになる。単なる採用活動や労務管理にとどまらず、人材育成や評価、モチベーション向上など、本来の人材への投資を強化できるようになれば、企業の業績向上や持続的成長に大きく寄与できるはずである。

AIを活用できる人材育成と組織づくりが重要

前半の高橋氏に続き、後半はデジライズ社代表のチャエン氏がAIの実務活用事例と導入の際のポイントなどについて講演を行った。
 
デジライズ社では主に3つの事業を展開している。1つ目はAI研修事業で、2023年11月から開始し、すでに7,000名以上が受講している。2つ目は独自のAIツールやAIチャットボットの開発・販売事業である。3つ目は、AIを活用したさまざまなサービスの開発事業だ。チャエン氏自身も、AI分野で情報発信を行っており、X上で10万人を超えるフォロワーを持つ(チャエン氏のXアカウント:https://twitter.com/masahirochaen)。
 
生成AIはAIの一部であり、テキスト、画像、音声などを生成する技術である。代表的なものがOpenAIのChatGPTで、リリース後わずか2ヶ月で2億人のユーザーを獲得した急成長を遂げた。現在では米国のトップ企業の92%がChatGPTを利用しているという。
 
生成AIが普及することで、働き方も変わるとチャエン氏は指摘した。人間は監督者の役割になり、AIに作業を指示するようになる。メール作成や議事録作成など、従来人間が行っていた定型作業はAIに任せられることになる。さらに、分析、企画、設計など、非定型作業もAIで可能になってきた。今後、警備や介護などの分野にもAIが進出することも予想されるだろう。


では、具体的には生成AIをどのように業務に活用すればよいのか。セミナーでは、AI活用の具体例が複数紹介された。まずは人事領域における事例だ。
 
採用広報用の動画作成や面接の自動録画/文字起こし、オンボーディング資料の自動生成など、AIを活用することで大幅な時間短縮と品質向上が可能になる。また、AI面接官を設けることで公平性も担保できる。
 
研修分野でも講師の話を自動で文字起こしし、要約や重要ポイントを抜き出すなどの活用が期待される。さらに自動化された学習コンテンツの生成も可能になるだろう。
 
評価・報酬面でもAIが活躍する。たとえば人事評価制度では、プロンプトに適切な条件を入力するだけで、定性評価と定量評価を含む人事評価シートが一瞬で作成できた。他にも、昇給/賞与の評価モデルをAIに学習させ、個人の評価を自動化する事例などがある。このようにHR領域では多岐にわたってAIが活用可能であり、むしろAIを活用しない手はないだろう。
 
また、他にも様々な実例を紹介しながら、ビジネスシーンにおけるAIの活用方法が解説された。たとえば、生成AIを活用して営業マンの生産性を大幅に向上させる方法である。チャエン氏は、営業マンの7割の時間が営業外の業務に費やされており、営業活動に専念できる時間が3割程度しかないと指摘した。生成AIを活用して営業外業務の時間を半分にすれば、営業時間が2倍になり、売上げを2倍に伸ばすことも可能になるというのが見解だ。
 
ほかにも議事録作成の例。第三者のツール『Tl;dv』を使えば、ズーム会議の録音と文字起こしを自動で行うことができる。さらにその文字起こしデータをAIに入力し、議事要約と次のアクションまでAIに生成させれば、正確で詳細な議事録が作成できる。チャエン氏は営業後すぐにAIに議事録作成を指示し、スラックなどですぐにチームと共有するよう社員に指示しているという。
 
なお、生成AIには「トークン」という文字数に似た概念がある。ChatGPTのウェブ版の有料プランでは文字数にすると約20,000字、デジライズ社の『AIワークス』では約10万字までの入力が可能とのこと。これにより、長文の会議録なども問題なく要約できる。
 
また、チャエン氏は最近9割ほどのメールをAIに書いてもらっているという。実際にサンプルのメールをAIに入力し、丁寧な返信文を一瞬で生成することができた。プロンプトでは「あなたは天才のビジネスパーソンです」と役割を指定することで、より適切な文章が生成されるよう工夫されていたのが印象的だ。メールの相手によって丁寧さを調整するよう指示を出せば、スタイルを自在に変更できることも確認された。カジュアルな文体や流行の文体まで生成可能なため、様々なシーンでAIを活用できる。適切なプロンプトを打てば、魅力的なスカウトメールの作成にも有効である。
 
ただし、AIを有効活用するためには人的能力の強化も必要となる。単にツールを導入するだけでは本当の意味でのAI活用は実現できない。プロジェクトマネジメント力、データリテラシー、AIガバナンス知識など、従業員一人ひとりのAIリテラシーを高める必要がある。特に経営層のリーダーシップが不可欠で、AIへの投資に渋る姿勢は企業の置き去りにつながりかねない。
 
特に日本企業の生成AI導入率は18%程度(参考)と低く、製品の未発達、セキュリティ上の懸念、知識不足がその理由とされている。導入に際しては、リテラシー向上、環境整備、適切なツール選定、継続的な教育などが重要だと指摘した。若年層からすると、AIを導入していない企業は魅力的に見えないというデータも出ているという。
 
デジライズ社はプロンプトが豊富で多量の文字数にも対応できる『AIワークス』を提供している他、『法人リスキリング』によって動画と対面ワークショップを組み合わせた研修を通じて、AIの基礎から実務活用までをカバーしている。導入前後のミーティングやチャットサポートも用意され、AIリテラシーの向上と業務への定着を徹底的にサポートすることが特長だ。
 
総じて、AIはHR領域をはじめビジネスの様々なシーンに大きな変革をもたらす可能性を秘めている。しかしAIの力を最大限に生かすには、ツール導入だけでなく、適切な環境づくりや知識のアップデート、セキュリティへの対応などが重要だということを忘れてはならない。
 
【セミナー参加を終えて】
AIはHR領域をはじめ、ビジネスのあらゆる場面で大きな変革をもたらす可能性を秘めている。しかし、その力を最大限に生かすには、単にツールを導入するだけでなく、組織全体の変革が必要不可欠である。
 
デジタル時代に求められるのは、経営層から現場社員に至るまでの全従業員におけるAIリテラシーの向上だ。AIとは何か、どのように活用すべきか、人とAIの適切な役割分担とは何かを、一人ひとりが理解する必要があると強く感じた。
 
また、導入に際してはAIのガバナンス体制の整備も欠かせない。プライバシー保護やセキュリティ対策、AIの判断根拠の説明責任の確保など、倫理的な課題にもきちんと目を向けることが重要となる。
 
AIは人間の仕事を奪うのではなく、人間の強力な”アシスタント”として機能するはずである。人とAIが適切に協働することで、これまでにない生産性の向上とイノベーションの創出が期待できるであろう。デジタル化の波に乗り遅れることなく、企業が競争力を維持・向上させていくために、AIを賢く活用していくことが求められているのだろう。
 
取材・文/伊藤鮎

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