コラム

インバウンド需要で人手不足の宿泊施設を救う。豊かな旅行体験を実現する多言語翻訳支援サービスのポテンシャル|Kotozna株式会社

コロナ禍が落ち着き始めた今、観光業界が直面しているのは人手不足だ。特にインバウンド需要に対して、外国語に対応できるスタッフの人材が圧倒的に足りていない。その課題を第一線で解決しているのがKotozna株式会社である。同社は宿泊客が客室設置のQRコードをスキャンすることで、施設情報閲覧・ルームサービス注文・スタッフへの問合せ機能などを多言語で提供する『Kotozna In-room』、ChatGPT4.0をベースとし、個別事業者案内に特化した、生成系多言語AIチャットボット『Kotozna laMondo』などを展開している。

現在、『Kotozna In-room』は全国450以上のホテルに導入されるなど、観光業界における多言語支援サービスでは圧倒的なシェアを誇るプロダクトに成長した。しかし、2016年に同社の前身となる企業を立ち上げてから、コロナ禍ではインバウンド需要がなくなるなど厳しい現実にも直面した。その時期を乗り越え、多言語支援サービスによってより豊かなツーリズム体験を実現している同社の経緯、成長の秘密をCEOの後藤氏に伺った。

【プロフィール】
後藤 玄利
アクセンチュアを経て1994年株式会社ヘルシーネット(後のケンコーコム株式会社)設立。20年にわたり代表を務め、2004年には東証マザーズ上場に導く。2016年10 月にジャクール株式会社(現Kotozna株式会社)を設立し、代表取締役に就任。東京大学教養学部基礎科学科第一卒業、シンガポール国立大学リークワンユースクール(公共政策大学院)公共マネジメント学科修了。

AIを利用した多言語支援サービス『Kotozna』シリーズ


 
ーー貴社が展開されているサービスについて、まずは『Kotozna In-room』の概要を伺ってもよろしいでしょうか。
 
『Kotozna In-room』は、ホテルの各客室にQRコードを設置し、それを手持ちのスマートフォンでスキャンすると、ホテルの情報を多言語で見られるサービスとなっています。ルームサービスの依頼や問い合わせなども多言語で対応しているため、スムーズにコミュニケーションが可能となっています。
 

 
ーー客室内で多言語のサービスを受けられるのは、外国からの旅行客にとっても安心ですね。
 
そうですね。くわえて、コロナ禍が落ち着きインバウンド需要が高まってきた現在、宿泊施設側は人材不足に悩んでいます。それに対し、宿泊施設側の人材不足を解消できるうえ、ゲストの満足度も向上し、リピーター増などの収益アップにもつながっています。現在は450以上のホテル・宿泊施設に導入されており、前年比2倍以上の導入実績となっています。
 
ーーありがとうございます。最近ローンチされたばかりの『Kotozna laMondo』についても概要を伺えればと思います。
 
『Kotozna laMondo』はChatGPT 4.0を使用した多言語AIチャットbotサービスです。『Kotozuna In-room』をリリースしてから、AIチャットbotサービスも開発してほしいという意見は多くいただいていましたが、ChatGPTの品質が高まり実現することができました。『Kotozna laMondo』はプロンプトエンジニアリングにより、ホテルやクライアントの情報、関連するWebサイトの情報、ヒアリングシートの回答などを事前に組み合わせて読み込ませているため、正確な回答を多言語で返すことができます。
 


 
現在、大阪観光局にも導入されており、公式観光情報サイト『OSAKAINFO』でチャットbotサービスを利用すると、大阪の観光情報についてさまざまな言語で質問することができます。
 

 

失われた30年で疲弊した地方経済を活性化したかった

 

 
ーー後藤さまの経歴について、改めて伺ってもよろしいでしょうか。
 
大学を卒業した1989年、アクセンチュアの前身となるアンダーセンコンサルティングに入社し、約5年半、戦略コンサルタントを担当していました。私が入社した頃はバブルの最高値をつけていた頃でしたが、そこからバブルが崩壊していったのを目の当たりにして、右肩上がりだった日本の経済が転換点を迎えたと感じました。
 
「このままでは、日本の経済は行き詰まってしまう」と思い、新しい時代に合わせた会社を自分で作る方が手っ取り早いと思い、立ち上げたのが株式会社ヘルシーネット(後のケンコーコム株式会社、現楽天)です。1人で立ち上げた企業でしたが、東証マザーズ上場まで成長させることができ、楽天に売却した後に退任しました。
 
ーーケンコーコム株式会社を退任された後、ジャクール株式会社(現Kotozna株式会社)を立ち上げたのはどのような経緯だったのでしょうか?
 
ケンコーコムを退任してから2年ほどは、大学院へ通ったり、旅行をしたりして充電期間を設けていました。その後、新しい事業を始めるときに何をしようかと考えた際に2つのポイントに着目したのです。
 
1つ目はバブル崩壊後の「失われた30年」で特に地方経済が非常に疲弊している点。
 
2つ目は、2020年の東京オリンピック開催に向けてインバウンド事業が大きく盛り上がってきていた点です。私は地域経済を救うものはインバウンドだと思っています。その一方で、地方にはバイリンガルなど多言語対応をできる人がとても少ない。
 
その中で、2016年頃はAI技術の中でも機械翻訳が発展しはじめていた頃でもありました。そこで、この技術を活用して言葉の壁を越えるサービスを展開することで、地方経済に貢献できるだろうと考えて立ち上げたのがジャクール株式会社になります。
 
ーーたしかに、2016年頃はちょうど機械学習などの技術が日本でも大きく発展し始めた時期ですね。ジャクール株式会社を立ち上げる前から、AIなどの技術には着目されていたのですか?
 
はい、ケンコーコムの際にも多言語サイトを作ろうとしていました。機械翻訳のエンジンを使ったりしていましたが、2010年前後くらいはまだ技術が追いついていない印象でした。2016年頃、技術が急速に発達し始めたのでブレイクスルーが起こるなと感じ、ジャクール株式会社を立ち上げました。
 

コロナ禍では、JTBとの提携が転機に

ーージャクール株式会社では、最初はどのようなサービスの開発をされていたのですか?
 
2016年に立ち上げてすぐはまだざっくりした事業領域しか決めておらず、何をやるべきか模索していた時期でした。その頃は、異なるメッセンジャーアプリ間の翻訳サービスや、レストランのメニューをQRコードを使って多言語化対応できるサービスなどを展開していたのですが、ビジネス化できる規模かというとそれほどでもなくて。ですが、2019年、JTBさんから東京オリンピックに向けてホテル向けの多言語支援サービスを探していると話があり、『Kotozna In-room』の営業に関して、2020年2月に資本業務提携をしました。
 
ーーコロナ禍では苦労もあったかと思いますが、どう乗り越えてこられたのでしょうか。
 
おっしゃる通り、コロナ禍の期間は非常に苦労しました。パンデミック中は ホテル自体経営が厳しく新規の投資をできるような状況ではなかったです。ですが、その間にも政府の事業に参画したり、JTBさんがホテルに導入の営業をしてくださったおかげて少しずつではありますが利用施設が増えました。おかげさまで、開発に専念でき、サービスの質を向上できたことも幸いでした。
 
ーー政府の事業への参画というと、初期から大分県や福岡県などのプロジェクトに採択されている印象がありますが、そのきっかけなどは何かあるのでしょうか?
 
もともと私が大分の出身だということもあるのですが、インバウンドの点で言うと、2019年にラグビーワールドカップが日本で開催されました。特に大分はこの時期にインバウンドに力を入れていたので、そのプロジェクトに参画していた面もあります。
 
ーーそうだったのですね。コロナ禍が落ち着いてからは、人手不足の点で貴社のサービスの需要が一気に高まったのでしょうか。
 
そうですね。コロナ禍前にホテルなどツーリズム領域で働いていた人たちは、コロナ禍で仕事ができなくなってしまいました。それで他業界に転職してしまったんですね。また、外国籍の従業員たちは一度母国に帰国せざるを得なくなった。そして、コロナ禍が落ち着いた現在は円安です。そうすると、日本に戻って働く魅力が低い。コロナ禍前にいた優秀な従業員たちはほとんど他業界や他国にいってしまって、多言語対応できるスタッフが圧倒的に足りなくなってしまった現状があります。そこに当社のサービスが対応できたのはよい流れでした。
 


 
ーー貴社のサービスを導入した宿泊施設からは、具体的にどのような反応がありましたか?
 
ホテル側は人手不足とそれに伴うサービスの質の低下を解消したい考えがあり、その要望には応えられていると思います。たとえばリゾートホテルなどはチェックインの時間は大変混み合います。かつ、お客さま一人ひとりに設備の利用時間や利用ルールなどを説明していると、チェックインだけで1人に10分程度かかってしまうんです。スタッフも少ないと大混乱になって、チェックインが1時間待ちになってしまうこともあります。『Kotozna In-room』を導入していれば、まずはお部屋に入っていただいて、設備やルールなどの詳しい説明は、すべて『Kotozna In-room』上で閲覧いただく、という形を取ることができ、日本人も海外の方も助かっている、という声は聞いています。
 
ーーたしかに、チェックインに時間がかかると大きなストレスになってしまいますよね。その一方、現状で感じられる課題があれば伺いたいです。
 
旅行者の視点に立つと、日本語は理解が難しい言語です。旅行に来ても自分がどこにいるかも、歴史的な建造物や地域の情報もわからないので、旅行の楽しみが半減してしまいます。これを多言語整備でサポートしていく必要があります。しかし、今は機械翻訳のイノベーションのスピードが非常に早く、それをいかに活用していくかが大きな課題です。当社を設立した2016年当初はまだ機械翻訳の精度は甘く、翻訳者に間に入ってもらう場面もありました。ですが、テクノロジーの発達により、よりリーズナブルな形で多言語整備を進めていくことができるようになったと思っています。
 

ツーリズム領域以外の支援も視野に

ーー貴社は防災情報伝達の実証実験などにも採択されていましたが、ツーリズム領域以外の展開も目指していますか?
 
基本的にはツーリズム領域がメインではありますが、結果的には防災情報の伝達はツーリズムにおいても非常に重要になっています。日本を旅行中の海外の方が被災されたとき、避難所や交通手段の再開情報などはなかなか理解できません。その部分を当社のサービスではカバーすることができます。
 
当社のサービスは沖縄や北海道で採用されているケースが多いのですが、沖縄では台風、北海道では大雪などで、停電や飛行機の遅延などがよく発生します。その際、『Kotozna In-room』を導入していれば、ホテルに居ながらにして外国の方にはもちろん日本の方にも正確な情報を伝えることができます。
 
ーーなるほど、ツーリズムにおける防災情報伝達は非常に重要ですね。また、コンタクトセンターとの業務提携をされるなどの展開もされていますが、今後貴社としてはどのような展開をしていきたいですか?
 
まず、『Kotozna In-room』に関しては、JTBさんと協力して、今後もよりよいサービスにしていきながら多くの日本国内へのホテルの導入を目指しています。それと共に、やはり今は生成AIが世の中を大きく変えるドライバーになっていると感じています。ChatGPT4などの高精度なサービスはまだ世に出て1年程度のサービスなので、これをもっと活用して『Kotozna laMondo』をよいものにしていきたいです。
 
また先日、バーチャレクス・ホールディングス株式会社と業務資本提携し、コンタクトセンター業務にも進出する予定です。当社はクライアントごとにカスタマイズされたAIチャットボbotを簡単に作ることができる強みを持っています。それを活かして、ツーリズム領域以外でもさまざまなインターフェース上で多言語でのコミュニケーションを実現していきたいです。
 

 

多様性豊かな組織で、世界に通じるサービスをつくる


 
ーー2016年に企業を立ち上げられてから紆余曲折を経て現在まで貴社を経営されてきたと思うのですが、どのような方が中心に働いていらっしゃいますか?
 
最初は3、4人で事業を始めましたが、現在26〜27人ほどメンバーがおりまして、その大半が外国人のメンバーなんです。2018年頃から開発メンバーを増やしはじめたのですが、開発者のほとんどは外国籍のメンバーとなっています。やはり最先端の情報自体がまず英語でリリースされますし、日本と比べても海外はコンピューター系の大学が多いなど、人材のスキルが高いのが特徴です。
 
今当社にいるのは、基本的には日本に住んでいる外国人なのですが、日本に関心が高く、最先端の開発知識やスキルがある人が多いです。かつ採用条件では、日本語が話せなくてもOKとしているので、自分自身も言葉の壁に困っていて、その問題を解決したいと思ってくれている人がジョインしてくれています。
 
ーーそのようなメンバーが多い中で、組織づくりにおいて心がけている点があれば伺いたいです。
 
多様性を高めることは意識しています。そしてその環境の中で、みんながフラットに「よいものを作る」ことにベクトルを合わせて働ける組織を目指しています。
 
ーー今後、どのようなスキルやマインドを持った人と一緒に仕事されたいですか?
 
外国籍のメンバーが多い企業ではありますが、日本の方でも、開発スキルのある方や、JTBさんとの協業ビジネスに活かせる経験を持っている人であれば歓迎です。英語を喋ることができて、開発や営業戦略のスキルを持っている方にとっては多様性のある魅力的な職場だと思います。
 
また、今までにないものを作っていく仕事なので失敗もしますが、その中から学びを得て楽しめる人が向いていると思います。そして、地域経済の活性に興味を持ち、このサービスを世界に通じるサービスにしていきたいと感じてくれている人とぜひ一緒に仕事をしたいですね。
 
 
取材・文 伊藤鮎
 


会社名
Kotozna株式会社
代表者
代表取締役 後藤 玄利
設立年月
2016年10月
主な事業内容
多言語コミュニケーションツールに関わるサービスの提供
資本金
32,499,840円(資本剰余金754,779,080円)
所在地
東京オフィス
東京都港区元赤坂1-7-20メットライフ元赤坂ウエスト 1F
福岡オフィス
福岡県福岡市中央区大名2丁目2−1MIKIビル 701
中国オフィス
语朋科技(珠海)有限公司
Room 110-335, Building 18,No.1889 Huandao East Road,
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Webサイト:https://kotozna.com/