コラム

「何をするにもやる気がでない…」社会人がセルフネグレクトになる兆候と医療機関へのつながり方

「ああ、今日何だかだるくて仕事に行きたくないなぁ……」そう思ったことは、社会人なら誰しも1、2度(どころか何度も)あるでしょう。そう思いつつ、重い体を引きずって、何とか出社。週末の休みを待ち遠しく思いながら働いている人も多いかと思います。そういったストレスは日々の生活の中で発散できていたり、対処できていたりできていれば問題ないでしょう。ストレスの対応策を体得することは、健康に生活するためにも必要な経験でもあります。

でも、あるとき突然家から出られなくなってしまったら。電車に乗れなくなってしまったら。そうなってからでは、回復に長い時間を要してしまいます。できれば限界を迎える前に、「おかしいな?」と思ったら行動を起こしたほうがよいでしょう。

心身の限界のひとつのサインとして、近年は「セルフネグレクト」という言葉がよく使われるようになりました。セルフネグレクトとは「生活環境や栄養状態が悪化しているのに、それを改善しようという気力を失い、周囲に助けを求めない状態」のことを言います(出典:NHK福祉情報サイト「ハートネット」)。

筆者自身、前職で休職になる前は、思い返してみるとセルフネグレクトと呼ばれる状況に当てはまる症状が出ていました。次第に自分でも異変を感じ、心療内科を訪れたのがきっかけで在宅勤務・休職などの適切な手段を選ぶことができました。このコラムでは、その経験をもとに、行動を起こすべきサインや、医療機関との繋がり方について感じたことを紹介します。なお、これは筆者の個人的な経験によるものです。みなさまのご状況に応じて、しかるべき医療機関にかかり、指示を仰いでください。

社会人のセルフネグレクトの兆候の例


セルフネグレクトの原因としては、認知症や近親者を亡くす喪失感などが挙げられ、もともと日本では高年齢層中心の問題として取り上げられていました。ですが近年では、ストレスや精神疾患、孤立感なども原因とされ、若年層での問題としても着目されています。筆者自身、過労や仕事で感じるモヤモヤなどをずっと溜めていたことが、次第に影響を及ぼすほどのストレスとなったのではと感じています。会社員として働いていた筆者の例としては、下記のような症状が初期に出ました。

    ・帰宅後や出社前に入浴ができなくなる
    ・食欲の感覚が麻痺する(まったく食べない・過剰に食べる・過度な偏食)
    ・洗濯物や洗い物、掃除、ゴミ捨てなどの家事が全くできなくなる
    ・季節感や寒暖差に合わせた服装を着られなくなる
    ・帰宅後すぐに横になるのに、睡眠状態が悪く疲れが取れない

筆者が調子を崩し始めた時期は冬でしたが、仕事で疲れて帰宅すると、寒い室内でも暖房を付けることなく、コートを着たままベッドに潜り込んでしまう日が続きました。本当は洗濯や入浴をしないといけないとはわかっているのですが、どうしても体が動かず横になったまま浅い睡眠が少しだけ続き、朝を迎えるとどうにか入浴を済ませて慌てて出社していました。スキマ時間でメイクを会社のお手洗いで適当にして、回らない頭でデスクにつく。食事もバランスがまったく取れておらず、何も食べない日が続くこともあれば、コンビニでずっと同じものを買い続けて食べる日もありました。
 
いずれも不健康の兆候ですが、今考えるとこの頃一番おかしかったのは「この状況を変だと思っていなかった」ことです。「冬は体調が悪くなりがちだし、仕事も忙しいから仕方ないだろう」くらいに考えていたのです。ですが友人たちと会った際に「顔色が悪い気がするけど……」「体調悪そうだけど大丈夫?」と心配されることが増え、「自分はよくない状況になっているのでは!?」と認識するに至りました。そして、この状況を打開するにはどうしたらよいか行動を起こすことにしました。
 

心療内科などの医療機関へのアクセスは早めに複数確保する


自分ってもしかしてセルフネグレクトになっているかも……?と思ったら、できるだけ早めに行動を起こしましょう。ただでさえ気力がすり減っている状態のため、まだ少しでも気力が残っているうちにしかるべき医療機関にかかることが重要です。筆者は内科や皮膚科などにもかかりましたが、一番手こずったのが心療内科です。不眠と無気力の症状がひどかったため心療内科にかかるべきだとは思ったのですが、実際にアクセスするのは大変でした。
 
数年前の話なので今はもう少し改善されているかもしれませんが、当時は多くの心療内科は初診は2週間以上待ち、しかも電話予約のみ。電話することにすら疲弊している状況では心が折れてしまっても仕方ありません。結果として、筆者は自宅近くの相性のよい心療内科を見つけることが出来たのですが、その際に筆者が感じたポイントは下記の通りです。

    ・心療内科の情報でチェックするのは通いやすい距離感かどうか、口コミ、医師の経歴や専門分野など
    ・口コミなどを見ながら気になる心療内科には連絡をとり、2週間後程度の日程であれば予約を取っておく
    ・Web予約などですぐに予約できるところはあまり期待しすぎずに対処療法として予約してもよい

セルフネグレクトが深まりつつある状況で遠い距離のクリニックは現実的ではありません。退社後や土曜午前中などに寄ることができるなど、導線を考えて通院可能な条件で探しましょう。また、口コミも多少は見ておくと参考程度にはなるとは思います。
 
とはいえ、上述した通り心療内科の新規診察の枠はあまり空いていないことが多いです。ただでさえ再診の患者の予約ですでに埋まっているうえに、新規の患者は細かいアンケートや検査などの関係もあり時間を取ることも要因のひとつだと思います。
ただ、まだ気力が少しでも残っているうちに少し先の予約でもよいので取っておくことをおすすめします。その予約が、本当にキツくなってしまったときの重要な助け舟になることもあるのです。
 
その一方で、「いつでもWeb予約で新規患者も予約できる」と宣伝している心療内科も複数あります。すぐに予約を取ることができ、筆者も診察にかかったことがあります。ただ、こういった患者数を重視するタイプのクリニックには筆者はあまり合いませんでした(あくまで個人差があると思います)。実際の予約時間よりも何時間も待たされ、診察は初診なのに5分程度、案の定合わない薬を処方されてしまい途方にくれました。とはいえ、自分の症状を明確に伝え、それに合った処方をスピーディにしてもらえるのであれば対処療法として利用するのもよいかと思います。
 
結局筆者は、すぐに予約できるタイプの心療内科で一度苦い思いをしたあと、幸い割と早めに予約できていた近所の心療内科にかかり、そのときの担当医が丁寧に対応してくれて意図が通じたため、休職に至るまでその方を主治医として診察を受けることとなりました。
 

職場でのフォローが不十分な場合も多いので自ら対応策を切り出そう


なお、産業医の診察や、会社の衛生管理委員会の相談機関などが用意されていればそれを用意するのもよいでしょう。ですが、大規模な企業でない限りメンタルヘルスを含む相談窓口が用意されていないことも多いでしょうし、産業医に相談をして、否定的な意見ばかり言われて辛い思いをしてしまった友人も筆者の周りにはいます。
 
状況にもよりますが、職場の積極的なフォローにはあまり期待しないほうがよいでしょう。当時の上司も、筆者が不調を訴えるまでまったくその事態には気づいていませんでした。部下ひとりひとりの顔色や微妙な変化などは、上司側でも細やかな管理は困難です。もちろん気遣ってくれる同僚や先輩、上司などがいれば頼るとよいでしょう。
 
いずれにしろ、医療機関にかかって業務量の見直しや業務環境の改善を勧められた場合、そのことは自分から職場の人に伝えましょう。もし直接部長などに言うのが怖ければ、話しやすい先輩や身近な上司、人事部や総務部などの人に伝えるのでも構いません。自分の状況と、どのような医療機関にかかり、どのような処方をされ、どのような改善を提案されているか、客観的な事実として伝えることで、職場側も混乱せず、対応の仕方を考えてくれると思います。その結果、状況がひどくなってしまうよりも前に、休職や在宅勤務、時短勤務への切り替えなどの対応を取ることができるはずです。
 

セルフネグレクトから自分を守るのは自分


セルフネグレクトは大抵の場合、自分ひとりの努力や気合いでどうにか対処できるものではありません。しかるべき医療機関にかかり、客観的な事実として自分の状況を捉え、職場と相談する必要があります。
また、筆者は友人との交流に対してはまだギリギリ気力を失っていなかったこと、そして友人たちが的確に指摘してくれたことがラッキーだったと思っており、とても感謝しています。セルフネグレクトが進んでしまうと、親しい人たちとのコミュニティに向き合う気力もなくなってしまいます。こういった点からも、穏やかに関わることができるコミュニティとの関係は複数持っていた方がよいと筆者は思います。
 
頼りになる医師や周囲の人々、さまざまな制度はありますが、残念ながら現状では、多くの場合はそれらには当人からアクセスしないとなりません。つまり、少し大げさに言うならば、自分を守るのは自分しかいないのです。「自分もセルフネグレクトかも…?」と感じるのは、まだ自分自身に関心を持っている証拠でもあり、対処できるタイミングでもあるということです。この記事が、疲弊しているときに自分のことを省みて、大切にする機会を持つきっかけとなれば幸いです。
 

 
【筆者プロフィール】
伊藤鮎
2023年VALUE WORKS入社の編集・ライター。前職は約10年間書籍編集者として勤務。趣味はHIPHOPとメタルコアとKPOPと料理とお酒。2024年の目標は海釣りに挑戦することです。
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