• 求人
  • 2021.05.10

「オンラインで神戸の魅力を伝える」ある旅行会社がたどり着いた、コロナ禍を乗り越える秘策 | 株式会社ビートラベル

さらなる盛り上がりが期待された2020年の国内インバウンド需要。そんな最中、突如世界を襲った新型コロナウイルス。感染症は日本にも蔓延し、入国制限が行われた。訪日外国人の数は激減し、自粛ムードで国内の旅行者数も低迷。大手旅行会社も軒並み売上が下がり、店舗の閉鎖や人員削減のニュースが話題となったことを耳にした人も多いだろう。

そんな観光業界で、「オンラインツアー」という新たな試みに取り組んでいる旅行会社がある。株式会社ビートラベルだ。「コロナ禍でも、できることにチャレンジしていく」──そんな中、生まれた新サービス立ち上げの経緯や顧客からの反応、今後の展望などについて、代表取締役・渡邊華穂氏に話を伺った。

【プロフィール】
渡邊 華穂

株式会社ビートラベル代表取締役。神戸市出身。外資系企業で営業職、旅行会社でインバウンド担当を経験した後、2016年にオーダーメイドの旅行手配サービスを提供する個人事業主として開業。東南アジアの富裕層をターゲットにし、順調に事業を伸ばしていく。その後、「地元を盛り上げたい」と神戸へUターンし、2019年に事業を法人化。全国の貸切バス・タクシーの手配や神戸を中心とする兵庫県内のローカルツアー、インバウンド支援などに取り組んでいる。

一度は安定を求めるも、旅行への想いを捨てきれなかった


神戸生まれ、神戸育ちの渡邊氏は、両親の仕事をきっかけに小学生時代の数年間をドイツで過ごした。その後、大学在学中にも留学や旅行で外国へ何度も足を運び、漠然と「将来は日本と海外の架け橋になるような存在になりたい」と思うようになる。そんな渡邊氏が最初の職場に選んだのは、外資系の製薬会社だった。
 
「はじめは旅行業界に就職しようと思っていましたが、労働環境に不安があり、最終的にドイツ系の製薬会社に営業として就職しました。営業の仕事は自分の成果がそのまま収入に反映される面でやりがいがありましたが、外資系企業といっても経営層が外国人というだけ。思い描いていたキャリアが築けず、『やっぱり旅行会社で働いてみたい』と思うようになり、結婚するタイミングで思い切って転職することにしました」
 
当時はちょうど外国人観光客が増加し、インバウンド需要が高まっていたころ。渡邊氏は海外在住、留学経験を生かし、東京の中小旅行会社にインバウンド担当として勤務することになった。
 
「求めていた仕事ができて、とてもやりがいがありました。旅行が好きで、普段から『どのプランが最適だろうか』と細かく調べることも苦にならないので、自分に合っていたんだと思います。でも、お客さまの要望に応えたくても会社のルール上、決まった範囲でしか対応できない場合もあって。レストランの手配や民泊物件の紹介を依頼されることもあったのですが、それらの細かい対応は契約にないからNGという制限があったんです。そのことにもどかしさを感じはじめたころから、独立を意識するようになりました」
 
会社員では実現できないきめ細かいサービスの実現に向け、彼女はオーダーメイドの旅行手配サービスを個人事業主として提供することを決意。事業内容は旅行にまつわるあらゆる手配の代行や通訳サービスがメインで、巨額な資本や従業員も必要ない。「これなら一人でもできる」と、2016年に開業した。
 
なんの後ろ盾もない中、たった一人で開業した渡邊氏。前途多難なスタートかと思いきや、事業は出だしから順調だったそうだ。要因は「東南アジアの富裕層にターゲットを絞ったこと」だと振り返る。
 
「東南アジア圏の富裕層の方は大家族が多く、大人数の団体予約が入ることがよくありました。みなさんお金に糸目をつけないので、『自分たちの行きたい場所を効率よく回りたい』と依頼されることが多かった。おかげさまで売上は徐々に増加していきました」
 
順調に事業を伸ばしていった彼女。次第に「顧客の幅を広げたい」という思いが芽生え、2019年には法人化を決意。出産を控えていたこともあり、「せっかくなら地元をもっと盛り上げたい」とUターンする形で神戸に拠点を移した。

孤独感でいっぱいだった起業当初


創業後、訪日旅行手配以外に事業の要においたのは神戸を中心とした兵庫県内のローカルツアーだ。北野異人館街や南京町、灘の酒造など人気の観光スポットをガイドと巡る日帰りプランを用意。そのほか、貸切バス・タクシー手配サービスやインバウンド支援など、さまざまな事業に取り組んだ。
 
「会社設立当初は経営知識がなく、周りに相談する人もいなかったので苦労しました。今までと違って決めることが多く、すべてを自分で決断しなければならない。会社とはいえ一人社長だったので、孤独感でいっぱいでした」
 
しかし、前職時代に培ったコミュニケーション力を武器に、彼女はつながりを増やしていく。行政の起業サポートセンターに相談に行ったり、異業種交流会に参加したりすることで、様々な経営者や協力者とのネットワークを築き、次第に「問題を自分一人で抱え込んでしまう」という悩みは解消されたという。
 
「私はじっとしていられないタイプ。アイデアが浮かんだら、ダメモトでチャレンジしてきました。これまで予想以上の成果が生まれているのは、深く考えず行動してきた結果だったと思っています」
 
兵庫県非公認観光PRキャラクターKOBAY(コーベイ)も、そんなチャレンジ精神から生まれたアイデアのひとつ。親しみのあるオリジナルキャラクターをつくり、神戸の認知度を上げることに貢献できないかと考えたのがきっかけだった。
 
「外国人に『神戸のイメージは?』とヒアリングしてみると、場所はわからなくても『神戸ビーフ』を知っている方が多かったんです。神戸牛の知名度が海外でそんなに高いとは思わなかったので驚きましたが、『だったら、神戸牛をモチーフにしたPRキャラクターをつくってみよう』と、自社でオリジナルキャラクターを制作することにしました」
 
キャラクターの名前は、「KOBE(神戸)」と「BAY(湾)」を掛け合わせたもの。デザインの原案を渡邊氏が考え、イラストレーターの手によって今の姿になった。兵庫県の公認マスコットキャラクター「はばタン」とイベントで共演したり、学生ボランティアと一緒に観光地を訪れ、外国人と触れ合ったりなど、コーベイの活躍の場は多岐にわたる。

晴天の霹靂だった2020年。試行錯誤の末にたどり着いた起死回生の一手


そして、迎えた2020年。8月には東京五輪が開催され、国内のインバンド需要はますます高まっていくと思われていたところに陰がさした。コロナウイルス感染症の影響で、世界が未曾有の混乱に陥ったのだ。
 
「コロナ禍の影響は、想像以上に大きかったですね。入国制限がされ、決まっていたツアーはすべてキャンセルになりましたから。訪日外国人が増えるだろうといわれていただけに、本当に青天の霹靂でした。同業種の方たちも、きっとみんな同じ気持ちだったと思います」
 
日本観光局の統計によると、一回目の緊急事態宣言が発令された2020年5月の訪日外国人の数は1663人。前年比99.9%減だったという。リアルな旅行手配の仕事は、需要がなくなってしまった。そこで、渡邊氏が思いついたのがオンラインツアーの企画だった。
 
「神戸市の外郭団体である神戸観光局では、毎年『公民共創事業』といって民間からビジネスアイデアを募り、採用された企業に助成金を出すというプロジェクトがあるんです。2020年のテーマは『Withコロナの時代に必要な観光課題の解決に向けて』。ちょうど南京町でゲストハウスを営んでいる知人がIT関係に詳しかったので、『一緒にオンラインツアー企画を提案してみよう』と応募したところ、この企画が採用されました」
 
さっそく企画の実現に向けて彼女は協力企業や店舗を探す。しかし、前例がなかったこともあり、提携先の獲得は難航する。あまりにも手応えがないため、「本当にオンラインツアーの需要があるのかどうか」、自信を失いそうになる日々……。それでも、「何としても企画を実現したい」という想いで企画を熟考した末、あるアイデアにたどり着いたという。
 
「オンライン上で観光地を案内するだけでは、Youtubeやテレビ番組とあまり変わりません。そこで考えたのが、神戸の特産品をセットにしたオンラインツアーです。まず、ツアーに申し込みいただいた方のご自宅に神戸牛をお届けします。ここからがポイントなのですが、ツアー日にはZoomを使ってレストランのスタッフがクイズや動画などを交えながら神戸牛の豆知識やおいしい焼き方を教えてくれるというサービスです。これなら付加価値をつけて客単価を上げることもできます」
 
そのほか普段は安全管理上、関係者以外が立ち入ることができない牧場内も映像で紹介。「クイズに回答したり、気になることは質問したり、スタッフとコミュニケーションを取りながら楽しむことができると、お客さまからの反応は想像以上にいいですね」とのこと。「今度、リアルで旅行するときには、ぜひお店に伺います」という利用者の声もあり、企画に協力した企業からも好評だそうだ。

大手旅行代理店から提携依頼が。社員旅行ができない大手企業からのニーズも


「オンラインならでは」にこだわった渡邊氏の企画は予想をはるかに上回る反響だった。彼女自身、コロナ禍に限定したサービスを想定していたそうだが、大手旅行会社からオンラインツアー販売代理店としての提携依頼もあり、ビートラベルのサービスが大手旅行代理店で販売されることが決定したのだ。
 
オンラインツアーは社員旅行ができない大手企業のニーズにも合致し、団体予約が増加。2021年3月には神戸牛のオンラインツアーだけでも170名ほどが参加するなど、徐々に認知度も広まっているそうだ。
 
現在は神戸牛以外にも、灘にある酒蔵と協力した「日本酒飲み比べツアー」や、神戸スイーツなどのオンラインツアーを企画中とのこと。今後はリアルツアーにも活路を見い出すため、新たな計画を進めているという。
 
「神戸には『ビーナスブリッジ』というカップルに人気のスポットがあります。近くのイタリアンレストランは結婚式や二次会などのパーティ会場としてよく利用されていましたが、コロナ禍でその需要は減ってしまいました。ところが、昨年はカップルやご夫婦がプロポーズや記念日に利用される機会が増えたそうなんです。
 
レストランのオーナーからその話を聞いたときに、『プロポーズ』や『記念日』に特化したサービスが思い浮かびました。『大切な人に喜んでもらいたい』という男性は多いと思いますので、既婚者である私が女性目線でプランニングしたら面白そうと思い、いま計画を進めているところです」

やりたくないことでお金を稼いでも虚しいだけ。本当にやりたいことで、社会に貢献したい


「激務」や「薄給」を理由に一度は断念した旅行業界。しかし、彼女は起業してから輝きを増している。学生時代に想像した「旅行の仕事はハード」というイメージはあながち間違ってはいなかった。新卒で入社した会社のように安定があるわけでも決してない。それでも、充実した日々を過ごしている理由はなんなのか。原動力について聞くと、目を輝かせながらこう教えてくれた。
 
「全て興味があることなので、楽しいんです。儲けだけを考えるなら、別の道を考えたでしょう。でも、『やりたくないことで稼いで満足か』と自問したときに、答えは『No』でした。せっかく起業するなら、好きなことで社会に貢献したい。その気持ちは、いまも変わりません」
 
収束の目処が立たない新型コロナウイルスの感染拡大。それでも渡邊氏は諦めず、前向きに観光業界の未来を描こうとしている。
 
「人生の半分以上を神戸で過ごしてきましたが、いまだに『こんな面白いところがあったんだ』と新たな発見をすることがあります。そんな神戸の魅力をもっとたくさんの方に知っていただきたい。そして、思い出に残る旅を通じて、神戸のファンになっていただきたい。コロナ禍がいつ収束するかわかりませんが、いずれリアルツアーの需要が戻ると信じています。その時のために、これからも事業の種まきを続けていきます」

 

取材・文・撮影:中田 優里奈、編集:田尻 亨太

会社名 株式会社ビートラベル / BE TORABERU Co.,LTD
設立 2019年4月1日
所在地 兵庫県神戸市中央区元町通 2-5-14 キヨシマビル本館 2F
代表者 渡邊 華穂
TEL / FAX 050-5305-2005 / 050-3588-1414
事業内容 ・旅行業法に基づく旅行業
・オンラインツアー及びオンライン体験の企画、開発、販売
・地域特産物及び観光地等に関する企画及び宣伝
・地域特産物、土産等の販売並びにECサイトの運営
・キャラクター(個性的な名称や特徴を有している人物・動物・物)に関連した各種商品の企画、 開発、制作及び販売
・旅行業代理業者に対する旅行の仲介及び旅行業に関するフランチャイズに関する事業並びにこれらのコンサルティング業
・インバウンド事業に対する広告宣伝業並びにこれに関するコンサルティング業
・留学斡旋業
・インターネット等のオンラインを利用した語学教室及び訪問型語学教室の経営
・各種イベントの運営
・労働者派遣事業及び人材派遣業
許可番号 兵庫県知事登録旅行業第3-777号
BACK BACK