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  • 2023.05.12

付加価値でファンを獲得。都市・地域の魅力を世界に発信し、次世代への架け橋に | 株式会社地域ブランディング研究所

グローバル化、人口減少時代に突入した日本。都市・地域はこれまでにない競争時代に突入し、公企業でも"まちづくり"を冠したタウンマネージメント機関を設立するケースが増えている。生き残りをかけ、地域もブランディングの手法を用いて差別化していく必要性に迫られているのだ。

学生時代に地域活性化に興味を持ち、国内だけでなく世界各国を行脚し、地域活性化プロデューサーを師匠に、数々の地域活性化事業を経験した吉田氏は、“まちの誇りの架け橋”を創業理念に株式会社地域ブランディング研究所を設立した。

「魅力を発掘・独自化し、ファン定着の仕掛けづくり」「わざわざ行きたい、特別な稼げる体験への磨き上げ」「持続可能に事業を経営できるひと・組織づくり」の3つのアプローチから外貨を得ることのできる強いまちづくりを実現し、次世代につないでいけるよう地域のブランド化に邁進する吉田氏に、コロナ禍収束を見据えた地域活性化への取り組みを語ってもらった。

【プロフィール】
吉田博詞(よしだ・ひろし)
株式会社地域ブランディング研究所、代表取締役。1981年、広島県廿日市市生まれ。筑波大学第三学群社会工学類都市計画専攻入学。2004年には(株)リクルート住宅情報Divに入社し、現SUUMOで大手マンションデベロッパー向け広告企画営業を担当。2005年 (株)地域活性プランニングに入社し、映画ドラマのロケ地を通した地域活性化で数多くの自治体・大手電鉄会社・不動産会社・ホテル・ブライダル施設をコンサルや日本で唯一のロケ地検索サイト「ロケなび!」を立ち上げ事業化。ロケ地情報誌「ロケーションジャパン」の企画立案などに携わった。2013年に (株)地域ブランディング研究所を設立。

世界を周り、学生パワーで地域活性を応援


「世の中をもっと良くしていきたい」。高校生の頃から漠然と考えていた。もともと建築に興味があり、そこから派生して都市開発や地域活性化に興味を持った。大学進学の際、進路を選択するときに、理系的なアプローチで都市計画に関わることができる学問があることを知り、これこそ自分の目指す道、と進んだのが、筑波大学第三学群社会工学類都市計画専攻。経済・経営と共に、カリキュラムに都市計画が位置づけられ、世の中の事象を工学的アプローチで解析し、社会問題を解決することを目的とした学部だ。  
 
「最初は、建築の分野に進もうと考えていたのですが、総合的にいろいろ勉強できるなら面白そうだと興味を持ちました。学生時代は、全国のさまざまなプロジェクトを見学しながら、自分なりの理想的な地域のあり方を模索していました。本屋で面白そうな本があれば片っぱしから入手、インターネットで検索したり人づてにキーパーソンと知り合い、人脈を増やしていきました。参加させてもらった中で、特に面白かったプロジェクトは、学生パワーの熱量で地域を応援する、東京の学生チームによる『ホームタウン山形』です。毎月山形に通って、知られざる歴史や人物を掘り起こして、イベントを企画しました。地元の方々も学生には好意的で、多様な機会を与えてくれました」
 
そうした経験を活かした仕事がしたいと就職活動を行ったものの、いわゆる氷河期世代。やりたい分野で就職先が見つからない。それならもう少し掘り下げて勉強してみよう、と大学院に進むことにした。しかし、大学院に入ってしばらくして、机上の空論より実際の現場に身をおきたい、という思いにかられ退学。日本各地・世界各国の都市・地域を行脚する。
 
「”日本を元気に”との思いから、地域活性の仕事に携わるようになり、日本全国たくさんの人との出会いがありました。その中で感じたのは、”その地域にしかない魅力” “人それぞれが持つその人の強み”を理解し、活かし方を知っている地域・人は本当に生き生きとし、また段階を踏みながら常に成長しているということでした」

活性化にはまず営業力。利益を生む地域再生へ


情熱を傾けているプロデューサーが人を巻き込んで新たなアイディアを投入し、さまざまな地域プロジェクトを立ち上げ推進していく。行政などの立場ではなく、自治体や民間ベースでまちが変わっていく。さまざまな現場に立ち会い、そこで出会った3人に大きな影響を受ける。
 
「前職の代表である地域活性プランニングの藤崎慎一さんからは、地域の活性化にはまず営業力が必要であること、価値を提供しながら対価を得るスキルをしっかり持つべきであることを学びました。また、経済評論家、地域エコノミストの藻谷浩介さんからは、市町村に訪れる現場感覚がまず重要であり、その上でデータを駆使しながらプロジェクトを組み立てていく、そういう視点を教わりました。3人目は経営コンサルタント・フリーパレット集客施設研究所代表のマーケッター藤村正宏さん。”体験を売る”という実践的マーケティング手法、エクスペリエンス・マーケティングの考え方で集客施設や企業のコンサルティングを行っている方です。まちづくりは、政策論でアプローチしがちなところがありますが、そうではなく、”人の心がどう動くか”のデータをしっかりとりながら人の心を動かす仕組みを作る。そうすることでまちも変わってくる。その考え方に触発されました」
 
お金をしっかりと循環させ、かつ、いろいろな人を巻き込みながらアプローチするスキルを身につけたい。そのためには、利益を生む地域再生とは何かを知らなければならない。その勉強をするために、まずはリクルートに就職した。自分でビジネスを生み出していくことを奨励する土壌がある社風であると知っていたからだ。
 
マーケティング、マーケットをしっかり勉強しながらさまざまなメディアを活用し、顧客の経営課題をヒヤリングして、その中に必要な戦略立案を立て誘客やベストマッチングを図る。メディアの活用も含めて、必要不可欠なことを実務の中で経験させてもらえたことが今につながっている。
 
「担当はSUUMOで、デベロッパーのマンションを売るための住宅情報を使った広告の営業でした。マンション周辺の立地におけるお客様の世帯構成、職業、年収などから、なぜその沿線に住んでいるのか、そのエリアに暮らす人たちがどんなライフスタイルを求めているか。データを精査しながら、マンションが売れるためのターゲット層を設定していき、必要な誘客戦略を立てていました。地域の強みを把握しながら他のまちとの差別化ポイントを探していく。このマーケティングが、まちづくりにおいても同様の考え方だと気づき、非常に役立ちました」

師匠の会社に転職、”エンタメ×旅”を提案


この仕事に導いてくれた師匠である藤崎氏の会社、地域活性プランニングに入ることは、リクルート入社前から想定していた。ビジネスを学んだら次は実践である。師匠からも、「そろそろ、うちにこないか」と誘いがあり、チャンスを活かそうと転職した。
 
「地域活性プランニングは、”エンタメ×旅”を提案し、地域の魅力を発信・応援する媒体『ロケーションジャパン』などを発行しています。たとえば、大河ドラマなどのロケ地に行ってみたい読者をターゲットに、映画やドラマのロケ地情報を提供する雑誌です。私は『ロケなび!』という映像制作会社とロケを受けたい地域施設をマッチングさせるWebサイトを立ち上げました」
 
“あのドラマの舞台になった”、とストーリーがあることで飲食店、宿泊、ブライダル施設などが差別化され、付加価値がつく。わざわざ行ってみたい、というワクワクが口コミとして広がり、そういう連鎖を作ることができる。民間ベースでいかに戦略的にそのストーリーを活用し、リピーター作りに展開させていくか、そんな仕組みを作り出した。
 
「鉄道会社の誘致は非常にやりがいがありました。鉄道会社では、ゼロからロケを誘致するプロジェクトに携わりました。ドラマで見た場所をブランディングし、たとえば、”最終回のプロポーズなど大事なシーンで使われた場所”などは、イメージアップ効果があり、ライセンスビジネスにつながることもありました」
 
会社を起ち上げた頃は「地方創生」という言葉が生まれ、フィーチャーされはじめた時代。一方、オーバーツーリズムが問題になりつつあり、旅のスタイルが大きく変わろうとしていた。
 
「そういった概念や問題が生まれた頃に起業しました。ロケの誘致はストーリー性があれば可能ですが、見方によっては一過性になりがちだと感じていました。それで、ロケに頼らなくてもいい資源、魅力を磨いて、そこに興味を持ってくれる人を作り上げていくことに、もっと情熱をかけたいと気づいたんです。人口が減少していく中で、パイの奪い合いになることは避けたい。これから伸びていく、といわれていたインバウンドも含めて展開していくことが必要ではないかと、事業に組み込みました」
 
地方創生という言葉が世の中で声高に使われるようになって、”地方は大事だ”、という意識が生まれた。ひと昔なら”儲からない”と一蹴されることでも世の中の理解が得られ、新しい試みも進めやすかった。
 
「逆に何かもどかしさを感じたところは、地方創生の予算がつくから、と参入してくる組織が増えたことでした。われわれは学生時代から本気で地域を応援したいという思いで会社を起ち上げましたので、そういう人たちと一緒にされたくない、と憤慨しましたね」

体験商品で外国人観光客にも地方の魅力を発信


地方の支援が加速した背景もあり、自治体から相談が舞い込むことが増えてきた。安倍内閣が進めていたインバウンド推進が追い風になった。やがて外国に向けても、日本の旅行を発信していく時代になっていった。
 
「会社を起ち上げた頃は、利益が出ることとやりたいことをほどよく分けていました。インバウンドも含めて地域の誘客をしていく、そして社名にあるように地域のブランド化を推進していく、そこに向けたソリューションを作っていくことを第一の目的として掲げていました。とはいえ、実際に利益を出すソリューションを私もまだ持っておらず、最初の頃はSUUMOなどで培ってきたマンションデベロッパーを顧客として、『このまちには、こんな誇り・自慢があるんです』という地域により住みたくなる情報を収集する。興味がありそうな人たちにささる情報を届けることで、『このまちに住むと、こんなライフスタイルが実現できる』と、住む動機づけにつながるような冊子編集を、事業の利益の手段として一定数打っていきました」
 
やがて、将来性を見込んで、インバウンドを事業の柱にしていく方向にシフトしていく。そのためには、海外から誘客しなければならない。今度は海外の旅行会社に売り込み、営業をかけた。LCCで海外に飛び、旅行会社の看板を探しては飛び込み営業をした。
 
「最初は、とりあえず台湾に行きました。その後、東南アジアの旅行会社をまわって、『我々はこういう商品を持っているので、御社の提案する旅程の中に取り入れてください』と、営業をかけて新規開拓していきました。旅行会社のネットワークをどんどん作り上げていき、現在は30カ国2500社以上のつながりを財産として持てるようになったところです。民間と行政両方とお付き合いさせてもらい、テーマパーク、飲食店、ホテルを扱いながら旅行会社に売り込む一方、自治体からは、”うちにはこういう観光地があるから売り込んでほしい”、といった依頼も増えていきました」
 
コロナ前に一番力を入れていたのは「体験商品」。”モノ”から”コト”へと問われる中、茶道体験、着物体験などの日本文化体験を、全国で予約・体験できるサイトを構築した。コロナでインバウンドが止まる中においても、そのプラットフォームを活用しながら、地域の魅力を伝えるために頑張っていたチームがたくさんいた。国内の観光客にもアピールできる、”わがまちの魅力”を再認識するためのプロモーションやリピートしてもらうための仕組み、地元の人が誇りに思い、地元以外の人がわざわざ行きたくなるような仕掛けを作り上げていくことを模索していた。
 
「コロナが収束する中で、改めて準備しているのは、インバウンドだけに頼るのではなく、地元、広域、海外のベストなバランスでの顧客構造を作り上げていくための立案。特に、高単価な富裕層をターゲットにしていきたいと画策しているところです。文化的なものへのリスペクトを持ち、自国に伝えてくれる属性でもあるので、地域の文化を伝承していくために、ルールを守りながら地域参画してもらう、そんな好循環を作り上げていきたい。その結果、地域にお金が落ちる、それが地域経営につながる、そうした仕組みを作り上げつつあります」
 
具体的に進めていて成功しているところは浅草だ。ローカルな居酒屋を巡るツアーが売れている。また、伝統工芸の職人と触れ合う機会を作り、弟子入りのような形で体験するツアー。職人の生きざまを体感することにより、その価値をより理解することができる。体験時間が楽しかったからこそ、一生ものの思い出を手にできる。そんな付加価値を地域に見つけていきたい。
 
「いい価値づくりをしていきたいと考えると、会社をスケールアップさせるものでもなく、今ぐらいの目の届く範囲内の人数で丁寧に編み出していく、一つずつプロジェクトを大切に手がけていくことを第一に考えています。現在、国内および海外においても、パートナーシップを含めて組織を整備しつつあります。海外の各都市にアライアンスパートナーを持つことを目指し、国内においては、地域の生の実情を肌感覚で知ることができるように、メンバーには地方移住してもらっています。今、期待の地域は、せとうち、北陸です。いい素材とそれをつなごうとしている人がたくさんいる。里山・里海といったローカルな生活、地元の方々と触れ合える旅を企画しています」
 
本当に価値あるものを、無理なく、地域にとってメリットがある形で展開していく仕組みを構築することができつつある。そこを花開かせていく、そういうフェーズにある企業にとって、どのような人材が望まれるのだろうか。
 
「日本のローカルこそ価値がある、そこにパッションを持っている方。知的好奇心があり、機動力があり、人懐っこさがある。世界的な文脈の中で日本の魅力を発信していきたい、そういう思いを持っている人と一緒に、日本の地域を面白くしていきたいですね」
 
取材・文:山下 美樹子

社名 株式会社地域ブランディング研究所
役員 代表取締役 吉田 博詞
所在地 東京都台東区雷門2-20-3 アクアテルースUⅡ 8F
電話番号 03-5246-4248
設立 2013年3月
従業員数 60名(パート・インターン含む)
所属団体 一般社団法人日本インバウンド連合会
一般社団法人熱意ある地方創生ベンチャー連合
一般社団法人全国旅行業協会
公益財団法人東京観光財団
東京商工会議所
浅草観光連盟
一般財団法人沖縄観光コンベンションビューロー
一般社団法人せとうち観光推進機構(せとうちDMOメンバーズ)
一般社団法人広島県観光連盟
公益財団法人広島観光コンベンションビューロー
大野町商工会
宮島町商工会
廿日市商工会議所
公益社団法人福岡県観光連盟
一般財団法人沖縄観光コンベンションビューロー
NPO法人日本エコツーリズムセンター
独立行政法人国際観光振興機構(日本政府観光局・JNTO)
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