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  • 2023.08.05

「新規事業で満点を目指さない」売上8割減の危機を救った三代目の戦略 | 株式会社丸山製麺

コロナ禍の外出・外食控えで大きな打撃を受けた飲食業界。日本の「食」を支えてきた製麺業界でも、一時期はラーメン店の倒産が相次ぐなど、多くの店舗が経営危機に。そんな苦境を打ち破るべく生み出されたサービスがある。有名店のラーメンをいつでも買える冷凍自販機「ヌードルツアーズ」だ。

2021年の販売開始から、コロナ禍のニーズにマッチした日本初のサービスとしてメディア各種に取り上げられ、時には自販機に行列ができることも。設置数は日本全国200以上、販売食数は累計50万食を超えている。さまざまな有名ラーメン店から参画希望の声が相次ぐなど、業界内の支持率も高い。

「ヌードルツアーズ」を企画し、新規事業としてグロースさせたのが老舗の製麺会社・丸山製麺で取締役を務める丸山 晃司氏だ。同社もコロナ禍には売上8割減で、倒産寸前の状態だったという。追い詰められたギリギリの状況で、どのようにビジネスチャンスを見いだしたのか。IT業界におけるキャリアと新規事業への想いを伺いながら、会社を救った起死回生の戦略に迫る。

【プロフィール】
丸山 晃司
株式会社丸山製麺 取締役・新規事業部責任者
2011年早稲田大学を卒業後、ITベンチャーに入社して営業・事業開発を経験。グループ会社でスマートフォン向けアドネットワーク事業の立ち上げにも参画し、セールス部門の責任者を務める。2018年家業である丸山製麺へ入社、取締役に就任。主に営業・新規事業領域を担当し、『ヌードルツアーズ』を立ち上げた他、うどんサブスク『UDON LAB』なども開発。バックボーンである“IT”と“マーケティング”の知識・経験を活かし「食×IT」領域にてビジネスを展開。

「30歳で家業を継ぐ」新卒の面接で公言


丸山氏は、製麺業一筋65年の歴史をもつ丸山製麺で生まれ育った。以前は製麺工場の上に住居があり、常日頃から作業着で働く父親たちを目にしてきた。
 
「代表を務める父親のように、自分で事業をやってみたいという想いが昔からありました。小学校の卒業アルバムの『将来の夢』に『社長』と書いていたくらいです(笑)。大学時代には人材紹介の会社を起ち上げたこともありましたが、リーマンショックの影響でなかなか上手くいきませんでした。その経験をふまえて、まずはビジネスをしっかりと学ぼうと、心を入れ替えて就活に取り組んだのです」
 
就活中も「30歳で家業へ戻る」という確固たる意思を持っていた丸山氏。裁量のあるポジションでより多くの経験を積みたいと考え、IT系ベンチャーに入社する。
 
「面接時から『30歳で家業を継ぐ』と公言していましたが、社長をはじめ社内のメンバーは全く否定しませんでした。むしろ応援してくれて、早い段階でいろいろなことを経験させてくれたんです。営業からスタートし、事業開発、チームマネジメントなど幅広い業務に携わらせていただきました」
 
丸山氏が経験した業務のなかで、とりわけ現在に生かされているのが新規事業開発だ。入社2〜3年目の若手が新規事業の責任者を務める環境において、彼もリーダーとしてチームを牽引していたという。
 
「新規事業を成功させるコツがあるとしたら、成功するまで新しいビジネスを試し続けることだと思います。よくあるのは、1つの新規事業の準備に時間をかけて『失敗したら終了』というパターン。でも、新規事業ってそもそも成功の打率でいうと10%ぐらい。大切なのは、スピード感を持ってたくさんのアイデアをどんどん試していくこと。手数の多さは当時から意識していましたね」
 
新規事業を積極的に打ち出せる背景には、最初から100点満点を目指さないアジャイル型の思考法がある。
 
「60点や70点でもいいから素早くリリースして様子を見る。そこで結果が出そうであれば、改善を重ねて100点を目指していくのが効率的です。最初から完全なものを仕上げても、マーケットのニーズに合っていなければ無駄になってしまいます。これは新規事業の定石だと思いますが、実践のなかで学べたことが非常に良かったですね」
 
また、新規事業のマーケティングに携わるなかで、自然とマーケットインの考え方も身につけていく。
 
「例えば、従来の食品メーカーは『美味しいものを作ったら売れる』というプロダクトアウトのような考え方が多いと思います。一方でIT系の企業は、ユーザーや顧客の意思・ニーズを汲み取ってサービス開発に反映する『マーケットイン』の進め方が一般的です。両者にメリット・デメリットはありますが、製麺業界にマーケットインの考え方を取り入れることは重要ではないかと。どのマーケットが伸びるのかなど、マーケティング戦略を考える上でかなり活かされています」

コロナショックで売上8割減の倒産危機

30歳のときに退職し、丸山製麺へ戻った丸山氏。家業への想いが強く、退職に迷いはなかったという。戻ってきた1年目は自社の強みやマーケットの理解を深めるため、独自の市場調査を始める。
 
「新規開拓も兼ねて、ラーメンフェスタなどのイベントに行っていました。出店しているラーメン店で働いている知人に頼み込んで、スタッフとして参加させてもらっていたんです。ラーメン店ではどんなことに困っていて、何が求められているのか、従業員の皆さんと話すことで業界の考え方についても知りたいと思いました」

全国のイベントに参加し、製麺業界について話を聞くなかで感じたのは、IT業界と製麺業界の本質は全く変わらないということ。
 
「どちらの業界でも、顧客対応のレスポンスはできるだけ早い方がいい。営業の手法にしても、やはりキーパーソンとたくさん会ってアプローチすることが大切です。業界が変わっても、お客さんの価値観は全く変わらないと思いました」
 
製麺業界と丸山製麺の実情を知った丸山氏は、現状維持のビジネスモデルに危機感を抱き、新たなビジネスを社内で提案する。しかし、なかなか理解は得られなかったという。
 
「当時の丸山製麺にはそういった価値観自体がなかったんです。マーケットが同規模で推移しており、大手との取引を安定的に続けているような状況だったので、新規事業のニーズを感じていませんでした。ベンチャーなどとは違い、製麺業一筋で60年の歴史を持っている会社なので、価値観が違うことは当然だと思います。ただ他の業界を見ても、一つのプロダクト・ビジネスで何十年も成長していくことは難しいので、危機感を感じていたのは事実です」
 
そんななかで丸山製麺を襲ったのが2020年のコロナショックだ。外出・外食控えの影響をもろに受け、同年の2月から売上が急降下。4月ごろには売上8割減という深刻な事態に陥る。
 
「売上がどんどん落ちていって、翌月には8割減という厳しい状況に。そのまま半年続くと、倒産は確実でした。当時はコロナがいつまで続くのかわからない状況だったので、常に最悪の事態も想定して対策を考えていましたね」
 
同時に進めていったのが、店舗前での直接販売と、自社サイトにおける通販事業である。

「広告費をかけられなかったので、それまでのつながりを活かし、Web系の会社など通販をやっている会社と連携しながら企画を進めていきました。ある程度売れましたが、落ちた売上額を補填するには全く足りなかったですね。まだまだ回復の兆しは見えませんでした」

満点を目指さない新規事業開発

コロナ禍の窮地から脱するため、彼が次に取り組んだのが、うどんサブスクリプションサービス『UDON LAB(うどんラボ)』だ。
 
「月1回の小麦を主役とした、究極的にシンプルで新しいうどんの愉しみ方を提案しています。うどんは製粉・塩や水の分量・技術など、実に多くのプロセスが複雑に絡み合ってつくられます。『UDON LAB』では、そのなかの最初で重要な要素といえる『小麦の品種』に着目。国産小麦100%のうどんを食べてもらい、うどんを小麦から知ることができる機会をつくれたらという思いから誕生しました」

日本初のサブスクリプションサービスということで目新しさはあったものの、経営改善には至らなかったという。その背景には大きく2つの要因がある。
 
「まず、アルファベットが読みにくかったことが大きかったですね。『うどんラブ』などいろいろな読まれ方をしていたので、伝えたい価値が十分に伝わらなかったのではないかと思います。また、協業というかたちで進めていたので、自社単体の事業に比べて意思決定のスピードが落ちてしまうことも感じていました。ユーザー視点では、うどんのサブスクなので購入のハードルが高いと感じられていたこともあったのかもしれません」
 
ユーザーが気軽に食べられるにはどうすればいいのか。しかも、冷蔵・冷凍で麺類を送る場合、クール便は送料が高くなることも課題だった。そのため、常温で麺を送付することも検討していく。
 
「常温の麺を送付することも考えていましたが、それと同時に進めていたのが全国有名店のラーメンが買える冷凍自販機『ヌードルツアーズ』です。その当時、冷凍自動販売機が飲食業界で使われ始めたこともあり、私たちもラーメンで試してみることに。自販機なら送料がかからないのはもちろん、食べたいときにいつでも買えるため、消費者に支持されるのではないかと思ったんです」

2021年3月に『ヌードルツアーズ』をリリース。発売翌日にはYouTuberに取り上げられ、プレスリリースの配信プラットフォームでランキング上位に。TV番組などでも取り上げられ、認知度は一気に高まっていった。
 
「準備段階からPRで当てにいくことを決めていたので、プレスリリースはもちろん、Twitter上で同時にキャンペーンを開催するなど、認知を取ることに注力しました。認知獲得には、当時のコロナ禍の状況が追い風になったと感じています。営業自粛している飲食店も多いなかで、多くのメディアは取材できなくて困っていました。そんなときに冷凍自販機なら、店側に迷惑をかけることなく取材・撮影できるので、多くのメディアで取り上げてもらえたのだと思います」
 
『ヌードルツアーズ』がこだわっているのはマーケティングだけではない。有名店の味を完全に再現することをコンセプトに、商品開発を進めてきた。
 
「まずは、有名ラーメン店から麺のサンプルを送ってもらいます。それを開発チームで試食・分析しながら、細かな割合を再現。社内の職人たちが本当にがんばってくれています。完成した麺のサンプルを店主に確認してもらい、長いときには半年以上の期間をかけて完成度を高めているのです。消費者が食べるときの手間も減らしたいので、ゆで時間を短くする工夫なども加えて、最終的にリリースしています」
 
リピート率も高いことから『ヌードルツアーズ』の自販機は全国に広がり、商業施設、ガソリンスタンド、コインランドリー、パチンコ施設やその駐車場など、日本各地のさまざまな場所への設置が進んでいる。今までの学びを活かしながら、スピード感を持って挑戦を続けたことが、成功の大きな要因といえるだろう。

三井不動産レジデンシャルリース株式会社が管理する賃貸マンション「パークアクシス豊洲キャナル」共用施設内にも設置

製麺業界を盛り上げるリーディングカンパニーへ

『ヌードルツアーズ』による認知拡大で、丸山製麺にラーメンの麺を作ってほしいというBtoBの案件が増えている。
 
「近年では従来の卸売だけではなく、さまざまなブランドと一緒に麺を作ったり、戦略〜実行フェーズまでお手伝いするなど、事業の幅が広がっています。例えば、あるカラオケチェーン店では電子レンジであたためて、お客様に提供できるような麺を開発することも。BARや居酒屋でも導入が進んでおり、パッケージまで当社で提案するケースも増えてきました」
 
丸山氏のマーケティング視点を活かした商品プロデュースと、長年培った販売ルートで、独自のポジションを確立しつつある丸山製麺。今後の展開として、どのような方向を目指しているのだろうか。
 
「今は『冷凍ラーメンなら丸山製麺』という認知を拡大しているフェーズです。ただ、私たちにとって冷凍自販機というのは、重要なチャネルではあるものの、販路の一つでしかありません。従来の飲食店はもちろん、無人店舗での販売、Uber Eatsなどの配達パートナーとの連携も進めています。マーケットのシェアを拡大する上でも、冷凍自販機だけで戦っていくのは難しいので、『ヌードルツアーズ』以外の新規事業もどんどん生み出していきます」

製麺業界の常識を打ち破り、画期的な取り組みを続ける丸山製麺。さらなる成長に向けて、社内で求められる人材について聞いてみた。
 
「新規事業にも取り組んでいるので、変化を楽しみつつ素直に働ける方が合っていると思います。積極的に新卒採用やインターンシップも行っていますが、スキルセットだけで採用することはまずありません。一人ひとりの強みを見ながら、できるだけ活躍しやすい環境を整えています。日々の業務では、有形商材を扱うことがやりがいにつながるのではないかと。『麺』でお客様やその先のエンドユーザーに感動を与えられるので、今までにない達成感を感じられると思います。製麺業界を盛り上げようとする当社の想いに共感する方と、ぜひ一緒に働きたいですね」
 
取材・文:VALUE WORKS編集部

会社名 株式会社丸山製麺
本社所在地 東京都大田区上池台5-20-13
役員 代表取締役:丸山 和浩
取締役:丸山 晃司
事業内容 業務用麺類製造、麺類に関する食材等の販売、「ヌードルツアーズ」の運営
資本金 2,000万円
設立年月 1987年5月(創業1958年11月)
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