• 求人
  • 2024.01.22

健康医療データとテクノロジーで患者をサポート。医療DXで 実現する「すべての人が、納得して生きて、最後を迎える世界」 | 株式会社MICIN

コロナ禍により健康への関心が一層高まり、医療の在り方が改めて問われている。誰もが納得して生きて、最後を迎えるにはどうすればいいのだろうか。そのカギを握っているのは、「データ」と「テクノロジー」の活用だ。オンライン診療などのデジタルヘルスで、医療のアクセス性や利便性が大きく向上している。

そんなオンライン医療ビジネスを展開するスタートアップの中で特に注目を集めているのが、株式会社MICINだ。同社が提供する『curon(クロン)』は自宅にいる患者がビデオ通話で医師の診療を受けられるというオンライン診療サービス。導入する医療機関は全国6,000施設を超え、急速に成長を続けている。さらに同社では手術患者に向けた治療用アプリの開発や、治験データのデジタル化にも取り組んでいる。

2021年には、がんにかかった人が加入できる保険も提供。先進的かつユニークな事業への期待感から、累計調達額は100億円を超える。健康医療のデータから、一人ひとりの生き方に新たな選択肢をつくるさまざまな医療事業は、どのように誕生し成長してきたのか。医師免許を持つ同社の代表・原 聖吾氏が歩んできたキャリアと、そのビジョンを通じて明らかにしていく。

【プロフィール】
原 聖吾
株式会社MICIN代表取締役CEO(医師)
東京大学医学部を卒業後、研修医として経験したのち、当時の黒川清内閣特別顧問の秘書として、シンクタンク日本医療政策機構に籍を移す。その後、スタンフォードMBAを取得しマッキンゼーに入社。ヘルスケア分野のコンサルタントとして活躍する。2015年に前身となる情報医療を創業し、2018年MICINに社名変更。厚生労働省「保健医療2035」事務局にて、2035年の日本における医療政策についての提言策定に従事し、横浜市立大学医学部で非常勤講師を務める。

医療と政策の「現場」で培った起業への自信

原氏がMICINを創業したきっかけは、大学の医学部卒業後に勤務していた臨床医時代にさかのぼる。
 
「最前線の医療現場で『こんなはずではなかった』と、病気になった自分の人生を悔やむ患者さんにたくさん出会いました。病気に至るまでには、それを未然に防いだり回避したりする選択肢もあったはずですが、患者さんにとっては最適な情報を得ることが難しい。早期診断や予防策を知ることができず、病気の発見が遅れてしまうことも多かったのです」
 
日本の医療現場においては、1998年頃から手術患者の取り違えや、内視鏡手術の不具合による患者死亡などが報じられるようになっていた。地域医療の崩壊も問題視され、医療に対する信頼が失われつつあったのである。

「優秀なドクターたちが毎日命がけで患者さんに向き合っているのに、患者は医療への信頼を失ってしまっている。そのギャップに違和感を感じていました。臨床医としてのアプローチにこだわらず、もっと広い視点で医療システムそのものに向き合っていくが必要だと思ったのです」
 
原氏は医療システムの前提となる「社会の仕組み」をしっかり理解するため、医療政策に携わっているシンクタンクに籍を移し、政策秘書として働き始める。
 
「がん患者に適切な医療が提供されていないことを課題提起し、さまざまなステークホルダーを巻き込みながら、がん対策基本法という法律が作られるプロセス携わりました。課題を解決するためにアジェンダを設定し、適切なステークホルダーを巻き込んでいけば、医療現場に必要な制度をつくっていけることを知りました」
 
貴重な経験になったのと同時に、政策づくりの難しさも感じたという。政策は、課題に対する解決策を広げる上では効果的だが、新しい課題に対しては、新たな解決策そのものを生み出す必要がある。
 
「医療政策は重要な役割を果たしますが、たくさんの利害関係者が存在しており、財政的な制約もあるため、新たな解決策を見つけることは容易ではありません。医療現場を変えるような画期的なシステムを生み出すためには、ビジネス領域における取り組みが必要だと改めて感じました」
 
その後、原氏はスタンフォード大学のビジネススクールへ留学し、MBA(経営学修士)を取得。さらに現場でのビジネス経験を積むため、外資系のコンサルティングファームに入社し、医療領域のコンサルタントとして働き始める。
 
「MBA取得時に起業の選択肢もあったのですが、実践的なビジネス経験がなかったこともあり、コンサルタントとして働くことを決めました。各企業の経営層に近いところで事業運営に携わるなかで、自分で事業を営んでいく自信が持てるようになったのです。自分のルーツでもある医療分野なら、世の中に新たな価値を提供できると思いました」
 
起業に至るまでには、コンサルタント時代に出会った仲間の存在も大きかったという。後のMICINの創業メンバーとなる草間亮一氏である。
 
「彼とはコンサルタント時代にいくつかのプロジェクトで協働し、医療分野で起業することも話していました。医療と健康情報をつなげることで、病気を未然に防いだり、病気になる前に早期発見したりできるサービスを提供していきたいと考えていたんです。『すべての人が、納得して生きて、最期を迎えられる世界を』という現在のビジョンにつながる思いと、それまでのキャリアがつながったような感覚がありました」

立ちはだかるオンライン診療の壁

2015年に原氏はMICINの前身となる情報医療を創業。当時はプロダクト開発にあたって必要なエンジニア探しで苦労したという。解決の糸口となったのは、同社のビジョンへの共感である。
 
「エンジニアに限った話ではありませんが、ジョインしていただく方に共通しているのは私たちのビジョンへの共感です。ご自身の入院・通院の経験はもちろんですが、ご家族の健康状態の悪化など何らかのかたちで医療分野の課題を経験している方が、私たちの事業に興味を持ってくれることが多いです」
 
エンジニアをはじめとした新たなメンバーの力を結集し、2016年に医療機関と患者をアプリケーションでつなぐオンライン診療サービス『curon(クロン)』を提供開始。病院(クリニック)における患者さんの予約・問診・診察・処方箋または薬の受け取り・決済までをサポートするサービスである。しかし、そのときにも新たな課題が——。
 
「オンライン診療という新たな領域なので、既存の市場がなく参考にできる過去のデータもありません。手探り状態のまま医療機関にオンライン診療をご案内しましたが、『診療とは対面でやるもの』という固定概念が根強く、なかなか受け入れてもらえませんでした。制度上のハードルやステークホルダーの壁もあり、当初はユーザー獲得にかなり苦労しましたね」

オンライン診療の信頼性向上に苦しみながらも、医療現場において医療情報(Medical Information)を有効活用し、当たり前に使われるものにしていきたいという思いを込めて、2018年に社名を現在のMICIN※に変更。
 

MICIN……スタンフォード大学で1970年代に作られた医療人工知能 “Mycin” のオマージュで命名。Mycinは当時の医療においてAI活用が浸透していなかったため、あまり活用はされなかったものの、一般的な医師より高い診断結果を誇ったとされている。医療情報(Medical Information)の有効活用で、テクノロジーを進化させ、医療現場で当たり前に使われるものにしていきたい。このような想いからMedical Informationの頭文字MIとMycinを組み合わせて「MICIN」が生まれた。

サービス普及の課題を解決するため、業界内のステークホルダーとの関係構築など、さまざまな活動に取り組んでいく。それでも、医療分野は一般的にクローズドな業界で、スタートアップのサービス拡大は容易ではない。その状況を好転させたのは、同社が持つ医療現場や各種の制度についての豊富な知識と経験が大きい。
 
「医師免許を持つ私の他にも、社内には医療分野について豊富な知識を持つメンバーが在籍しています。医療の現場はもちろん、政策やコンサルティングなど幅広い経験があるからこそ、ユーザーとなる医療機関の状況を第一に考えながら提案することができます。短期的な収益ではなく、相手の立場を考えたやり取りが将来的な信用につながります」
 
着実に信頼を積み重ねていったことで、同社のサービスを積極的に活用する医師が少しずつ増えていく。その成果は、2020年以降のコロナ禍にオンライン診療が広まったタイミングで大きく花開き、『curon(クロン)』が多くの医療機関に導入されることになる。
 
「オンライン診療サービスの業界内では、弊社のサービスが最も成長したと思います。ユーザーとして使っていただいている医師が他の医療機関に導入を勧めていただくことも度々あり、それまで培ってきた信頼関係が大きく影響していると感じています」

業界に先駆けて手術患者向けのアプリを提供

『curon(クロン)』を導入する医療機関は全国6,000か所を超え、現在も順調に成長を続けている。その他にも注力しているのが疾病の管理のみならず、予防や診断なども支援するデジタルセラピューティクス事業だ。
 
「デジタルセラピューティクス事業では、手術を受ける患者さんに向けた治療用のアプリ『MedBridge(メドブリッジ)』を開発しています。患者さんの体調や血圧などの情報に基づいて、医師は患者さんの自宅での健康状態や変化を把握できます。患者さんは本アプリを通じて、術前の準備に関する情報を得ることも可能になります」

昨今の医療技術の進歩と共に、手術時の入院日数は短くなっていることから、『MedBridge(メドブリッジ)』などのサービスで患者自身が入院の前後に心身のケアを行うことが大切だという。
 
「医療従事者が手術前後の限られた期間で患者さんを管理したり、外来の短い時間で患者さんの状態を把握したりすることは容易ではありません。患者さんへの情報提供や、主治医に対する在宅時の健康状態の共有などを本アプリで実現できます。特に入院前の患者さんは、手術に向けた不安などを抱えながら日常生活を過ごすことが多いので、少しでもサポートできればと思いました」
 
デジタルセラピューティクスは、日本では新たな医療分野として知られていなかったが、海外では既に使われはじめている。将来的に顕在化するニーズをいち早くキャッチできるのは、グローバルな視点を持つMICINならではの強みといえるだろう。
 
「私自身も留学先で知り合った仲間や、コンサルティングファーム時代の仲間が欧米にいるので、グローバルなつながりは常にあります。社内のメンバーも海外から積極的に情報を収集していますね。オンライン診療やデジタルヘルスの分野は海外の方が進んでいるケースもあるので、グローバルな視点は大切だと思います」
 
また、デジタルヘルスの分野では行政、立法、業界団体、アカデミアなど様々なステークホルダーと密に意見交換をとっていく必要があるため、Public Affairs※部門を設置。将来を見据え新たな制度設計が必要と考えられる場合には、民間の立場から積極的に情報発信し、制度設計にも関与している。

※Public Affairs……組織や企業が公共の利益や社会的な関心事に関与し、その関係構築や意見形成に取り組む活動のこと。

「MICINの事業成功には、規制の在り方が大きく影響してくるのはもちろん、それを事業展開に反映させていくための情報収集や土台作りを行うことが必要です。Public Affairsは、これらの役割が求められる部署であり、まさに会社の方向性を決定するための羅針盤のような役割を担っています。実際の活動では、規制改革推進会議の医療介護ワーキンググループにおいて意見を述べるなど、公的なステークホルダーとも良好な関係を築くことができています」

がん患者を新たな保険でサポートしていく

MICINは、病気にかかった後の再発に伴う経済的負担や不安を軽減することも、ビジョンの実現には必要だと考えている。そのため「MICIN少額短期保険」を傘下に立ち上げ、保険業界に参入。乳がんなど女性特有のがんの再発に備える保険を2021年に販売開始している。

「医療の進歩によって見つかる病気や治せる病気が増えているにもかかわらず、病気にかかっていることが分かると入れる保険の制約が増えてしまう。そんな医療と保険の矛盾を課題として感じていました。がんにかかった方は診断されてから1〜2年での再発リスクが高く、一般的な生命保険への加入自体が難しいこともありますが、当保険ではそんなことはありません。手術から6か月以上経過していれば、当保険に加入できます」
 
2022年には全てのがん経験者を対象とした「がん経験者向け入院保障保険」の販売も開始。保険商品の開発には、がん患者から直接聞いた不安な思いが反映されている。
 
「ドクター経由で患者さんの『再発したときにどうしよう』という不安な声を聞くこともあります。手術が成功するかどうか、生きられるかどうかの恐怖を感じているなかで、経済的な補償がないことが大きな問題だと思いました。当保険には患者の皆さんから多くの共感をいただいており、医療従事者の皆さんからもサポートしてもらっています」

保険事業、オンライン医療事業、デジタルセラピューティクス事業、臨床開発デジタルソリューション事業など、ユニークな事業の組み合わせを活かして新たなシナジーを創出しているMICIN社。今後の展望についても、原氏に聞いてみた。
 
「今は症状が出てから病院に行くのが当たり前だと思いますが、医療や健康のデータを最適なタイミングで提供することで『症状が出る前に病気を発見できる世界』にしていきたいと思います。医療機関を探す場面でも、自分に合った医者を探すときに苦労せず、オンラインですぐにマッチングできる。病気になってからも再発・重症化防止のために必要なデータを提供していく。そんな風に、一人ひとりに最適な診断や治療が、適切なタイミングで届けられるようにしていきたいと考えています」
 
2023年に40.5億円の資金調達を実施し、さらなる成長が期待されるMICIN社が今求めているのはどんな人材なのだろうか。
 
「当社には大切にしている5つのバリューがあります。『信頼ベース(Integrity)』、『当事者意識(Ownership)』、『起点メイク(Initiate)』、『完遂イズム(Persist)』、『チームMICIN(Engage)』という価値基準を社内でも大事にしているので、そのバリューに共感していただける方が活躍できるのではないかと思います」

「また、私たちは新たな医療事業を常に展開しており、まだ市場がないところから他社に先駆けて仕組みをつくっていくので、課題に対して自ら変化を起こして解決していくマインドセットが求められます。未開拓の領域へのチャレンジを楽しめる方との出会いを、心からお待ちしています」
 
取材・文:VALUE WORKS編集部

会社名 株式会社MICIN(マイシン)
本社所在地 東京都千代田区大手町二丁目7番1号 TOKIWAブリッジ12階
役員 代表取締役 原 聖吾
事業内容 オンライン医療事業、臨床開発デジタルソリューション事業、デジタルセラピューティクス事業、保険事業 等
資本金 1億円(2022年12月末現在)
設立年月 2015年11月26日
BACK BACK