• 求人
  • 2023.05.26

「古民家ホテル」で地方再生。幅広い経済効果で、文化や暮らしを後世に伝える | 株式会社NOTE

高齢化と人口減少により地方都市の空き家問題は深刻化する一方だ。空き家が増えれば、地域の活力が低下するだけでなく、道路や水道、電気といったインフラを維持することも難しくなってくる。しかし、自治体レベルの対策には限界があると言われて久しい。

故郷に帰るたびに空き家が増えていき、このままでは町が消滅するのではないか、と危惧を抱いていた藤原岳史氏は、そんな地方都市が抱える課題に取り組み、「古民家ホテル」という解決策を見出した。

地元の兵庫県丹波篠山(ささやま)市に株式会社NOTEを設立、2015年10月には日本初の取り組みとして、国家戦略特区を活用し市に残る複数の古民家を改装した宿泊施設「篠山城下町ホテルNIPPONIA」を開業。各地から観光客が訪れ地域の活性化に貢献している。産業と雇用を生み出すこの地方創生のビジネスモデルをどのように創り出したのか、藤原氏に成功への軌跡を語ってもらった。

【プロフィール】
藤原 岳史(ふじわら たけし)
株式会社NOTE 代表取締役。兵庫県丹波篠山市出身。山口県大学を卒業後、大阪の外食産業に就職しマーケティング部門を担当。IT企業に転職後、ITベンチャーに入社。2008年から故郷丹波篠山市の再生に関わる。2010年一般社団法人ノオトに参画し、現在理事。

外食産業で働いて知ったIT環境の課題


理数系が得意だったから、と大学では工学部に進んだが、就職したのは外食産業。東京・大阪を中心に全国約500店舗展開する企業で、営業とマーケティングを担当した。
 
「商売に興味があったので、外食産業が一番経験を積めると思ったんです。社会に出る第一歩の選択としては最適だと考えました。物販やメーカーでは、お客さまとの距離が遠く、フィードバックが返ってくるまで時間がかかる。その点、エンドユーザーの反応がダイレクトに伝わる飲食業界では、ビジネスに必要なすべての要素が学べるのではと期待していました」
 
将来的には起業したい、と志望していたが、どんな分野にその可能性が見出せるのか、未来は漠然としていた。20代は、「自分が進むべき道」の最適解を探していくことに時間を費やそうと決める。30代前半では、目的を定めてしっかり向き合い、それまでに得てきた経験を生かして基盤をつくる、そんな人生計画を大学時代から立てていた。
 
「今から25年ぐらい前、まだADSLも登場していない頃、飲食店ではPOSシステ使い、ハンディカムで注文をとっていたんです。売れた個数順に並べてメニューを作っていき、あまり出なかった料理はメニューからはずしていくだけで、それをマーケティングと呼んでいた。月に数品しか売れてなくても、たとえば、その商品が好きで毎日のように食べにくる社長さんが贔屓にしてくれれば、年間の宴会予約を10件入れてくれることもある。将来は、データを分析して、お客様に合わせたサービス、商品を提供する世の中になっていくだろう、と予測していました。飲食業界はマーケティングに関しては遅れていたので、まずはシステム、サービスが必要ではないかと考えました」
 
そのためにもIT業界に方向転換したい、と考えたが日本では通信環境がそもそも備わっていない。先端をいくアメリカで学ぼうと、知り合いを頼りニューヨークにあるマンハッタン・カレッジで一年間のインターンを経験する。IT企業で研修を受けることもでき、「ITとは何か」を現場で学ぶことができた。当時、日本では電話回線を使ってインターネットをつなぐのが主流。一方、アメリカではすでにLANケーブルでインターネットをつないでいた。
 
「スピードの速さは段違い。企業はもちろん、家庭でも電気回線を使っていました。日本では、NTTも含めて通信会社が国営だったこともあって、広がりをロックしたことで遅れてしまった。もともと理科系でIT関連のベースがあるため、アメリカの技術をしっかり学んでくることができました」

空き家だらけの故郷を救いたい


帰国後、IT企業で仕事をしたいと思い、興味がある会社に片っ端から電話した。職歴がITとは無関係だったためハードルが高く、社長に直訴したこともあったという。インターネットの知識があり、今後目指していく事業を明確に打ち出しているIT企業はまだ少なかった。そんな中、海外事情に通じ将来性が見込める企業に入社する。
 
「携帯電話にPDA機能を搭載した端末、今でいうところのスマートフォンの開発を担当し、そこからIT企業を3社ほど渡り歩きました。過渡期ということもあり、ITが急速に発展している頃だったので、一つのプロジェクトが終われば、その会社ではスキルアップが難しい。最先端のスキルを身につけてキャリアアップしていきたい、と考えて転職をしていきました」
 
3社目の会社は、2007年に上場しM&Aに重きを置くようになる。自分が関わったサービスで社会貢献がしたかった藤原氏は、会社の方針に興味が持てなかった。新しいフィールドに挑戦する時期だと思い35歳で退職。人生設計を大学時代から立てていた藤原氏にとって新たな道に進む絶好のタイミングだったという。
 
「どういう人生を歩むか、どのように社会に貢献できるか、熟考して地元の兵庫県丹波篠山にある実家にもどることにしました。帰ってみると昔あった店がどんどん閉まっていたんですよね。このままだと空き家化が進んで、将来故郷がなくなるのではないか、と不安が募りました。自分が育ってきた町が危機的な状況になりつつある。地方の課題を解決したい、それを仕事にできないかと思ったんです」
 
地方創生の概念もなく、地方にある課題は地方のNPO団体、ボランティアが解決しようと必死で頑張っていた時代。ボランティア集団 もNPO法人も高給取りである欧米と違い、日本の場合は、地域に対して貢献しても報酬はほとんど得られない。事業として収益を生めるようになれば、いろいろな人材が参画し、課題の解決に向けてスピードが上がっていくだろう。地元でまず再生事業を始めよう、と考えた。
 
「海外では収益を上げることで地方再生が持続可能になるのですが、今の日本では補助金が切れた時点でその取り組みも終了となってしまいます。補助金に頼らない組織を作らなければ、と強く思いました。まず、町の長老的な老舗饅頭屋の社長さんに相談したところ、まちおこしに関わる丹波篠山の副市長を紹介され、彼が代表を務める一般社団法人ノオトの事業に無報酬の理事として参加することになりました」

古民家再生ホテルで地方を活性化


当時の事業主体は一般社団法人で非営利であるがゆえ、基金や寄付金という形などでしか資金が集められない。株式会社を別に設立し、社会的な側面は社団法人に、収益事業は株式会社でと、機能の使い分けができる民間企業を立ち上げる必要性を感じた。そこで、レンタサイクル事業、婚活イベント、市民センターの運営管理など、さまざまなまちおこし事業に携わるNOTEの前身となる株式会社を設立。民間では採算が合わない社会的事業には、とりあえず参画していった。その中でもっとも効果的だったのが、古民家再生だった。
 
「古民家を再生する過程では、地域の工務店など地場産業の雇用が促進し、ホテルをオープンすれば、県外の観光客が地域にお金を落としてくれる。地元の食材を使って料理を提供するレストランや観光スポットをまわってくれることにより町に活気が生まれます。企画当初から開発後にかけて経済効果が続き、地域の文化や暮らしを後世へ残してもいける。さまざまな相乗効果があることを経験して、2014年には古民家再生事業一本に絞りました」
 
そう決めたものの、古民家再生に必要な資金をどこから調達するかが最大の難関だった。地域から資金調達するのではなく、地域には還元していかなければならない。そんな時、知人からヒントを得て不動産開発の入門書を読み研究、必要な資金の調達先は、投資家や金融機関だと閃いた。2015年に、投資家と金融機関からのファイナンス、補助金はほぼゼロで、「篠山城下町ホテルNIPPONIA」を開業。町並みに散在する古民家8棟で構成されており、レストラン・カフェ・ギャラリーなどを回りながら町歩きができる。開業まもなく県外からの観光客を呼び込んで、地方再生に貢献している。この篠山城下町の事業を機に、株式会社NOTEを創立。現在は全国でまちづくり事業を展開している。
 
「コミュニティで一つ古民家を再生すると、地域全体が活性化します。自治体の行政、金融機関、その地域のプレーヤーが、自分たちでこの地域を守りたい、という思いを持って力を合わせているところは再生が早い。兵庫県朝来市では酒蔵を改修して宿屋につくりかえ、兵庫県養父市では養蚕農家を改装して宿屋にするなど、現在、全国で31ヶ所、北海道から沖縄までにプロデュースした古民家があります。中長期で言えば、47都道府県各1件、50地域を目指していますが、”この空き家を何とか町づくりに活かせないか”、という相談を全国各地からいただいているところです」
 
古民家は地域の歴史や文化のストーリーを持っている。再生は日本の文化を守る事業でもある、と情熱を傾ける藤原氏は、地方再生にどのような人材を求めているのだろうか。
 
「働き手は、丹波篠山の本社で数年ノウハウを学んでいただいています。日本の地方では人口が減り、風習、祭りなど暮らしや文化が失われていく一方です。次の世代に受け継いでもらいたい、地方への危機を救い貢献したい、そういう情熱を持って人の心を動かす力を持っている方と共に仕事をしていききたいですね」
 
取材・文:山下 美樹子

社名 株式会社NOTE
代表者 代表取締役 藤原 岳史
本社 〒669-2331 兵庫県丹波篠山市二階町18番地1
連絡先 TEL: 050-6877-6141
FAX: 050-6868-4730
創立 2016年5月
資本金 2億1,418万円(資本準備金含む)
BACK BACK