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  • 2022.10.30

リクルートからスピンアウト。『調整さん』を、より使いやすいプロダクトへ | ミクステンド株式会社

ビジネスシーンで煩わしさを感じることの多い日程調整。昨今はオンラインの打ち合わせが浸透したことにより、仮予定の登録、Web会議URLの発行、同席者の招待など、確定までの工数がさらに増えている。

こうした課題を解決しているのが、日程調整に特化したSaaS『TimeRex』だ。普段使っているカレンダーアプリや予定表とリアルタイムに相互連携。日程候補のリストアップから予定登録、さらにはWeb会議URLの発行まで、日程調整タスクを自動化できる。あらゆる業界で導入が進み、2022年9月には累計登録者が10万人を突破した。

運営しているミクステンド社は、コロナ禍の時流で急成長したように思われるかもしれないが、決してそうではない。2018年に国内最大級の日程調整ツール『調整さん』を事業譲受し、グロースさせてきた実績を持つ。しかも、代表の北野智大氏はインターン時代から『調整さん』の開発・運用に携わってきた元エンジニアだ。

「私たちが目指しているのは、メタバースなど最先端の技術革新ではありません。身近な課題をITの力で解決しながら、より良い社会をつくっていきたい。『TimeRex』や『調整さん』の成長はそれを叶えるファーストステップです」

プロダクトへの愛情と期待で起業を決意した、彼のキャリアを振り返りながら、ユーザーファーストのビジョンを紐解いてみたい。

【プロフィール】
北野 智大
ミクステンド株式会社 代表取締役。2014年から株式会社リクルートホールディングスの新規事業開発室で、システム開発やユーザーグロースに従事。2018年2月にミクステンド株式会社を創業し、『調整さん』と関連事業を譲受。2020年1月には日程調整の自動化SaaS『TimeRex』をリリースし、日程調整を軸とした社会の変革にチャレンジし続けている。

ITに目覚めたきっかけは「読書感想文」


北野氏とIT技術の出会いは、中学生の頃にさかのぼる。勉強に苦手意識を感じていた当時の彼にとって、読書感想文の課題は何より煩わしいものだった。しかし、その時に初めて使用したMicrosoft Wordが彼を救ってくれたという。
 
「原稿用紙とは比べものにならないPCの利便性に驚きました。今となっては当たり前ですが、文章をスムーズに入れ替えられるし、消しゴムでいちいち消さなくていいんだと。面倒なことをITの力で解決しようとする私たちのミッションは、この原体験から生まれているのかもしれません」
 
ITの世界にどんどんのめり込んでいく北野氏。高校時代には、プログラミングを独学で学び、Webサイトの構築に没頭するようになる。アフィリエイトサイトを立ち上げ、計測ツールでパフォーマンス改善に取り組みながら、SEOの上位獲得にも取り組んでいった。
 
さらに大学時代には、アプリ開発にも着手。脳トレゲームをつくり、祖母にプレゼントしたこともあったという。App Storeでダウンロードできる状態にしていたというから驚きだ。一方、大学の専攻はミスマッチだったという。
 
「情報科学を専攻していたのですが、情報技術を一からつくっていくよりも、情報技術をいかに活用するかの方に興味があると、入学してから気づいたのです。そのため、一時期は新たなサービスをつくることに夢中で、アプリ開発に没頭していました。収益を得るために広告も入れていましたが、ビジネスとして成立させるのは難しかったです」
 
課題に感じていた事業運営を学ぶため、北野氏はリクルートホールディングス社のインターンに参加。それまでたった一人で開発に取り組んでいたため、「チームでの開発を経験してみたい」とも思っていたとのこと。
 
「その時に応募・参加したのが『調整さん』のサービス開発部門でした。2006年に誕生した『調整さん』は、当時最低限のメンテナンスだけされているような状態でしたが、私が入った2014年から新規事業に位置付けられ、プロジェクトチームが発足。エンジニアが配属され、本格的に力を入れるようになったのです。開発環境が充実しており、事業の全体像を把握しながら仕事に取り組めたので、色々と刺激を受けることが多かったですね」
 
ユーザーが何につまずいているのか、ユーザー目線で仮説を立てながらABテストをひたすら繰り返していたという。例えば、「CTAが分かりづらい」という仮説なら、ボタンの位置を改善。それに伴うユーザーの意見も取り入れながら、改善を重ねていった。
 
「地道な作業だったと思いますが、『調整さん』は当時80万人ほどに使っていただいていたので、それまで私がつくっていたアプリとは桁違いの社会影響力に、嬉しくなりましたね。それにチームで開発をするので、先輩エンジニアから自分が書いたコードについてフィードバックをもらったり。一人でやっていた頃には想像も出来ない圧倒的なスピードで成長できました」
 

プロダクトへの愛情と期待感で起業を決意


『調整さん』のサービス開発が、何より楽しく有益だと感じていた北野氏。2年間のインターン終了後に大学へ戻る選択肢もあったが、プロダクトに関わり続けたいと思い、大学中退を決意する。フリーランスエンジニアになり、『調整さん』のプロジェクト推進に携わるようになる。
 
「フリーランスになった時点で、『調整さん』のことを社内で一番知っている自負がありました。プロダクトに対する愛情も人一番あったので、迷うことなくフリーランスへ転向して開発を続けられたのだと思います」
 
『調整さん』のサービス開発においてコアメンバーとして活躍する北野氏だが、2017年に社内の新規事業の全てが見直されることに。『調整さん』もその対象になり、外部への事業譲渡が検討されるようになる。
 
「それまで4年にわたって開発に携わっていた経験から、これからもサービスが伸びていくことを確信していました。しかし、他社に譲渡する場合、運用保守など最低限のメンテナンスだけで現状維持になる可能性もありました。もっと多くの人に『調整さん』を使ってもらいたいと思っていたので、自分で会社を立ち上げて事業の譲渡先に手を挙げたのです」
 
北野氏の開発実績や将来的な事業の安定性が伝わり、2018年に『調整さん』がミクステンド社へ事業譲渡。自らの想いが叶ったものの、起業当初はたった一人で目が回るような忙しさだったという。
 
「プロダクト周りの開発業務は問題なかったのですが、会社を運営する上で必要な経営や経理の知識が全くありませんでした。請求書をどう出すのかも知らず、最初は本当にボロボロで。色々な業務を一人で回そうとしていたので、会社として機能させることが大変でしたね。例えば、ある日のスケジュールでいうと、営業から帰ってきて事業計画を何とか完成させて『ようやく寝られる』と思ったら、今度はサービス障害が発生。結局、徹夜になることもありましたね」
 
自らの人的コストを減らし、安定した経営を実現するため、北野氏は自動化ツールの活用やメンバー増員に力を入れるようになる。
 
「コストを気にして一人で何でもやろうとしていたのですが、そうすると会社の成長が鈍化することに気付きまして。もっと未来にフォーカスして新たなメンバーを迎える方向に切り替えたのです。社内の仕組みが整うと心に余裕が生まれて、新たな事業計画に自分の時間を割けるようになりました。
 
苦しい経験でもありますが、創業当初に社内のあらゆる業務を体験できたことは良かったと思いますね。会社の全体像が分かるようになったので、より効率的な方法を提案しながら、より良いプロダクトを設計できるようになりました」
 

全く予想できなかった飛躍的成長


会社の基盤を整えたことで、『調整さん』はさらに安定的な成長を続けていく。一方、ユーザーからは「ビジネスの日程調整も効率化したい」という要望が数多く寄せられるようになる。
 
「一言で日程調整といっても色々なパターンがあります。飲み会、同窓会、歓迎会、送別会など。それらのカジュアルなイベントは『調整さん』で対応できていましたが、採用面接・商談などビジネスシーンの日程調整でまだまだ解決するべき課題がありました。あらゆる日程調整で使ってもらえるように、新たなツール『TimeRex』の開発を決めたのです」
 
会員登録しなくても使える『調整さん』とは異なり、『TimeRex』は会員登録のプロセスを設けている。そのことにより、普段使っているGoogleカレンダーなどの予定表とリアルタイムに相互連携することが可能に。日程候補のリストアップから予定登録まで、日程調整タスクを自動化できる。
 
「参加者側の操作も簡単で、『TimeRex』が最新スケジュールから日程候補を自動でピックアップするので、希望の日程を選ぶだけです。その候補日が、主催者側のカレンダーに自動で入る仕組みを構築。『調整さん』のシンプルで分かりやすいUX/UIを横展開しながら、文字を読まなくても入力できるくらい誰でも簡単に使えるプロダクトを目指していました」
 
2020年1月にサービスを開始した『TimeRex』は、コロナ禍でオンライン会議や商談のニーズが高まったことにより、登録者数が急増。2022年9月には累計登録者が10万人を突破している。飛躍的な事業成長だが、この結果はリリース前に全く予想していなかったという。
 
「ローンチしたのはコロナ前なので、オンライン会議の急増など全く予測していませんでした。当初はオフラインの日程調整をメインに考えていたのです。しかし、コロナをきっかけに『TimeRex』で設定されるWeb会議の数が5倍に増えまして。ZoomのURLを自動送付する機能など、オンラインのやり取りをサポートする機能を急ピッチでつくりました。Zoom連携でいうと、国内の事業者では当社が一番最初に取り組んでいます」
 

エンジニアが働きやすい環境にこだわる


ミクステンド社のプロダクトにおける最大の強みは、直感的に操作できるシンプルなUX/UIにある。それを実現しているのは、ユーザー体験を向上するための徹底的なABテストだ。
 
「例えば、このボタンはどっちのタイプがいいのか、フォントサイズはどれくらいが最適なのか。1ピクセルごとに違うパターンを用意して、どれが良いのか細かくチューニングしていくこともあります。効果測定の指標もいくつかありますが、日程調整がしっかりされているのかも見るようにしています。参加者が出欠の入力をしてくれないと日程が決まらないので、どれくらい入力してくれるかについても、指標を設けて改善を続けています」
 
北野氏が元エンジニアということもあり、エンジニアが働きやすい環境づくりには特に注力している。その一つが、フルリモートワークの導入だ。
 
「私がエンジニアをやっていた頃もそうですが、コードを書く開発作業は人の多いオフィスより一人でこもって作業した方が効率的だと感じています。コロナ禍の状況に合わせてリモートから出社に戻す会社もありますが、私たちミクステンドはエンジニア文化の強い会社なので、集中して作業できることを重視して引き続きフルリモート予定です」
 
直接顔を合わせることが少なくても、ビジネスチャットでメンバー同士が気軽に話せる雰囲気なので、コミュニケーションが希薄になることがない。また、一人のエンジニアが書いたコードを別のエンジニアがチェックする「コードレビュー」のカルチャーが根付いているので、色々と話しながらスキルを高めることができる。
 
「自分が書いたコードをほかのエンジニアが確認して、間違いがあれば正しいコードをアドバイスしてくれる。効率の悪い書き方をしていれば、より良い書き方を教えてもらったり。アウトプットの質が高まることはもちろんですが、新たなチャレンジをしているとか、こういう部分を伸ばしたほうが良いとか、コードレビューがコミュニケーションのきっかけになることも多いですね」
 
コードレビューは、経験豊富なエンジニアからジュニアへの一方通行ではない。シニアエンジニアのコードに若手がレビューする場面も多いという。
 
「シニアエンジニアが書いたコードを実際に見てレビューすることで、良いコードの書き方を実践的に学ぶことができます。ベテランのメンバーも若手エンジニアの発想に刺激を受けることがあるので、お互いにとって有益なカルチャーだと感じています」
 

メタバースより日々の課題を解決したい


様々なエンジニアが在籍しているミクステンドの社内において、実際に活躍しているのはどんなメンバーなのだろうか。
 
「もちろん技術が好きなメンバーもいますが、それよりも『自分のつくったプロダクトで社会を良くしたい』と考えるエンジニアが多いと思います。例えば、なぜその機能をつくるのか、機能をつくることでどんな未来を実現するのかなど。そういったことをしっかり意識できるエンジニアが、ミクステンドで活躍できると思います」
 
エンジニアとしてのスキルセットは、最初から高いレベルを求めているわけではないという。
 
「一定水準の技術・経験が必要ではありますが、シニアレベルが必要かというと全くそういうことはありません。ジュニアレベルでも全く問題ないです。最低限の基礎的な技術をお持ちで、しっかりサービスを伸ばしていこうとするマインドセットを持っている人と、ぜひご一緒したいと思いますね」
 
最後に、ミクステンド社が目指している今後の展望についても聞いてみた。
 
「まず、あらゆる日程調整パターンに対応していくことです。それぞれのシーンに合わせた機能をつくって増やすのではなく、全てのシーンで使ってもらえるように、汎用性が高くシンプルなUX/UIを追求したいと考えています。
 
次に、他のプロダクトとの連携です。日程調整ツールは、それだけで独立していることがあまりないので、使用頻度の高い営業や採用の分野でもツール連携を進めていきたいですね。
 
既存のビジネスの基礎的な部分には、まだまだ解決するべき課題があると思っています。私たちが注力するのは、メタバースなどの先進的な領域ではなく、もっと人々にとって身近な課題です。面倒・煩わしいと感じていることを、ITの力で解決していきたいのです。私たちのビジョンに共感してくださったエンジニアの方に、ぜひジョインしていただければと思います」
 
取材・文:VALUE WORKS編集部  撮影:岡田 晃奈

会社名 ミクステンド株式会社
本社所在地 東京都千代田区平河町2丁目5-3 Nagatacho GRiD
役員 代表取締役 :北野 智大
事業内容 日程調整ツール『調整さん』の企画・運営
日程調整自動化ツール『TimeRex』の企画・運営
資本金 300万円(資本準備金含む)
設立年月 2018年2月
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