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- 2023.03.04
食肉の未来を切り拓く。「料理人集団」が創る革命的な一貫生産管理体制 | 株式会社ELEZO社
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そんな中、野生肉の狩猟・流通・加工の他、飲食業を営む「株式会社エレゾ社」代表・佐々木章太氏は、蝦夷鹿を中心として、北海道のジビエ流通に風穴をあけた。料理人からスタートし、2007年、十勝平野の開拓が始まった港町、豊頃町で起業。狩猟から解体、加工、レストランまで一貫して運営する革新的なシステムを構築し、生産から加工販売までの6次産業を成功させた。狩猟、肉の解体、熟成、加工、料理までの過程を知る強みを生かして、佐々木氏が見据えているのは、「食文化の未来」。流行り廃りではない、年々少しずつ積み重なっていくような“文化”を作っていきたい、という佐々木氏に、ジビエ事業に注ぐ情熱を語ってもらった。
【プロフィール】
佐々木章太(ささき・しょうた)。1981年、北海道帯広市生まれ。プロのアイスホッケー選手を目指すが、家業を継ぐために飲食業界へ転身。料理専門学校卒業後、星野リゾートに就職。のちに東京・西麻布のフランス料理店「ビストロ・ド・ラ・シテ」にて修業。2003年に帰郷し、実家レストランの経営立て直しに携わる。2004年、野生肉処理許可を取得。ジビエ肉の狩猟、流通、加工、飲食業を営む「株式会社ELEZO社」をスタート。料理人の知恵と技術を生かしたジビエ肉の供給、加工品の製造でレストラン・小売店からの支持を集める。
家業を継ぐため料理人に進路変更
両親はともに飲食店を経営。北海道帯広市内では知らない人がいないほどの人気店だった。しかし、苦労の絶えない親の背中を見て育ち、料理の世界には足を踏み入れないと決めていた。跡を継ぐことなど頭の片隅にもない、プロアイスホッケー選手を目指すスポーツ少年だった佐々木氏。それが、一転、高校2年で突然、進路を変更し調理専門学校へ。学ぶ技術も多く、ビジュアルも美しいフランス料理に憧れて、軽井沢の星野リゾートに就職、料理人人生をスタートさせた。
「実家を早く助けたい、楽をさせたいと、できるだけ早く親の店を継ごうと考えたんです。技術を人の倍速で習得しようと決意して、仕事が休みの日にも近くのフランス料理店で無給で働くほど料理にのめり込んでいた時代でした」
そんなある日、「日本で一番質が高く厳しい店で働きたい」と、東京の名店「ビストロ・ド・ラ・シテ」を紹介され上京。フランスでの修業も視野に入れ、仕事に励む毎日だった。1年後には一通り技術を習得し、”さあ、フランスへ”、と準備を始めていたところ、実家から、店を切り盛りしていた祖母から母への代替わりの知らせが届く。助けがいると悟った。後ろ髪を引かれる思いで北海道にもどった。
「このまま地方で埋没していくのか、と悲観的にもなりましたが、十勝のこの店でしかできないことは何かを考えながら、まずは厨房をリノベーション。徐々にフランス料理で培った知識や技術を生かせるようなレストランに転換していきました」
ハンターとの出会いで知ったジビエの魅力
そんなある日、店にハンターが訪れた。フランス料理に携わりながらも、それまでジビエ文化にはさほど興味がなかった佐々木氏。ジビエに触らせてもらったり、食べに行っても感動するレベルには至らなかった。
「『十勝の鹿を食べたことあるか。命から食材に転換する作業を見たことないだろう』とそのハンターの方が、2歳のメス鹿を持ってきてくれたんです。それを捌かせてもらい、食べたら衝撃のおいしさ。地元にすばらしい食材があることを初めて知り、探究心がわいてきました」
仕留め方や殺後の処理で肉のクオリティは変わる。プロの猟師の技術と経験がなければ食肉として流通させることはできない。ジビエはヨーロッパからの輸入がほとんどだった。日本では、駆除を目的に毎年一定量の狩猟が行われているが、ほとんど食べられることなく破棄されてしまう。
「国産のジビエを扱うレストランでは、ジビエ専門の流通業者から仕入れるか、猟師と専属契約をして直送、あるいは自ら狩猟免許を取って狩猟に出るなどの方法しかありません。猟師との個別契約の場合は、いつ獲物を仕留められるかわからない。衛生面の確保や安定供給が望めないんです」
破棄されてきた部位の有効活用
そんな状況を改善すべく、2005年、ジビエの狩猟卸業者「エレゾ」が立ち上がる。狩猟のエキスパートを雇用、プロの料理人の経験を活かして食用の肉として適切な処理と管理を行う、画期的なシステムを考案した。
「ところが、会社を組織しようとしたところ、いまだに屠殺への差別的風潮があることを知ってショックを受けたんです。そんなイメージを払拭したいと、拠点となる食肉総合ラボラトリーを建設し、生産狩猟、枝肉熟成流通、シャルキュルトリー製造、レストランの4つのブランドを構成。最新設備を備えた食の一貫生産管理体制の運営を始めました」
起業にあたって、十勝の狩猟区域から1時間圏内に解体と加工用の工房を建てた。骨付きのまま様々な肉をドライエイジングで熟成させ、サラミなどの自家製加工肉も作ることができる。通常の蝦夷鹿肉の流通方式では、ロースやヒレなど需要の高い部位だけが売れる。人気のない部位は賞味期限ギリギリまで冷凍庫に保管され、その後破棄されることも多い。それなら、売れにくい部位も最大限の付加価値をつけられるようにと工夫した。
「ヨーロッパでは売れない部位は、サラミやハムなどに加工することで、すべての部位を食用にしています。動物の命と対峙する立場に立って痛感したのは、まず、食材を大切にしてほしいということ。きちんと“生かして”ほしい。そうした思いを理解できる意識の高いシェフと取り引きしていきたい」
野生肉のほか、2007年には家畜の生産を開始。短角牛、三元豚、乳飲み仔羊やシャモなどの年間安定的供給が可能になった。レストラン業界の口コミで広がり、今では全国で400店舗、蝦夷鹿だけで年間約800頭を出荷するまでに成長した。
「『一頭まるごとを使い切る』が信念。ジビエに限らず家畜や家禽も同様です。ロースやバラに比べて需要の低いモモやウデも、正しい認識を伴った調理法によりおいしく食べられる。フレンチレストランで提供される以上のシャルキュトリー(パテやハム、ソーセージなどの食肉加工品)の生産を自家工場で開始しました」
商売をするより「文化」を作りたい
高い加工技術を持つ料理人が舵取りをすることで、生産、加工、流通までを自分たちで行う6次産業を成功させた。
「日本の農産業における今の課題は、加工の技術不足。その点、料理人としての知識や経験が役立ちました。加工のノウハウ、レストランの味についての理解、なにより、自然の摂理や原理と常に寄り添う恵まれた環境があるからこそクオリティの高い加工ができるのです」
そして、2022年10月、その集大成としてラボの近くにオーベルジュESPRIT ELEZOがオープンした。食肉の美学、人生哲学の全てを盛り込み、この地にしかない最高の豊かさを提案するレストランを併設した宿泊施設だ。宿泊棟は三棟、一日4組のみ。”食の本質”という特別な目的を満たす心地よさのみを追求した無駄のない空間を創り上げた。エレゾのラボから一番食べ頃の状態で届けられ、高い技術を駆使して仕立てられた肉料理を満喫することができる。
「生き物と直接対話することができる土地でオーベルジュを作る、という目的が果たせました。日々、命や自然と対峙する中で得られる感性、自然美、食肉の美学はじめ、人生哲学のすべてを盛り込み表現するステージです」
エレゾが見据えているのは、「食文化の未来」。商売をするより、「文化」を作りたい。株式化した際はあらかじめ、“最初の10年間は組織の土台作り”に徹しようと決めた。流行り廃りではない、年々少しずつ積み重なっていくような“文化”を作っていきたい。そのためには数百年の継続が必要だ。そう語る佐々木氏は、どのような人材にそれを担ってもらいたいのだろうか。
「狩猟、肉の解体、熟成、シャルキュルトリー、料理を作る。これだけ一環した業種を構築しているチームは世界にもありません。全5工程の生産過程を知っているという強みを活かして、いずれは、人材育成の場、”アカデミー”を創設し、この技術と哲学を伝えていく、それを使命と考えています。料理人や生産者としての経験がなくても、食肉文化に興味を持ち、命の大切さを理解しようとする心構えのある人。今のスタッフも出身地はさまざまなので、北海道の地元の人たちとも交流できる人が理想ですね」
取材・文:山下 美樹子
会社名 | 株式会社ELEZO社 |
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代表 | 代表取締役社長 佐々木 章太 |
所在地 | 〒089-5465 北海道中川郡豊頃町大津125 |
お問い合わせ | 代表 015-575-2211 |
直営ブランド | 1)ELEZO・FARM‐生産狩猟部門 2)ELEZO・MARCHE‐枝肉熟成流通部門 3)ELEZO・PARTY-シャルキュトリ製造部門 4)ELEZO・TABLE-レストラン部門 |
事業内容 | 1)講演及び講義 2)食肉生産及び狩猟全般 3)食肉販売全般 4)食肉加工全般 5)飲食店運営全般 6)商品開発業務全般(主に食肉に関するPB商品の企画・開発製造) 7)イベント企画及びプロデュース全般 |