コラム

ブラック企業の見抜き方・実態・入社してしまった場合の対処法を、元求人広告営業が解説

ブラック企業に勤めてしまうと過重労働や搾取など、さまざまなリスクを伴う。しかし、事前にリサーチすれば応募しようとしている会社がブラック企業かどうかある程度見抜くことができる。本記事では、私の実体験や見聞きした内容から、ブラック企業を見抜くためのポイントを解説していく。

ブラック企業の定義について


 
ブラック企業の定義はさまざまで、その解釈は人にとって多少異なるだろう。ただ、一般的に労働法規に違反するような過酷な労働を課し、従業員の健康や生活に深刻な影響を与える企業はブラックと定義して良いだろう。
 
具体的には以下に一つでも当てはまる場合は、ブラック企業である可能性が高い。
 
・長時間労働や過重労働、休日出勤や深夜労働など、違法な労働時間や労働条件を強制する
・法定の賃金や割増賃金を支払わず、給与遅配や給与不払いなどの問題を抱えている
・適切な労働安全衛生管理が行われず、労働災害や労働環境によって従業員の健康が損なわれている
・パワーハラスメント、セクシャルハラスメント、いじめ、差別などが常習化している
・労働者の権利を無視し、自社の利益や目的のために強制的な退職や解雇などを行う

ブラック企業に勤めるリスク

上記で紹介したように、ブラック企業に勤めてもいいことはほぼない。説明不要ではあるが、ここからはブラック企業に勤めるリスクについてさらに詳しく解説しよう。

健康リスク

長時間労働やプレッシャーからの過重労働により、過労やストレスによる身体的・精神的な健康問題が発生する可能性がある。心身共に疲弊し、体調不良はもちろんメンタル的な疾患を患うリスクも高い。

給与リスク

経営層が人を使い倒して利益を得ることに対して何の罪悪感もないため、搾取されるリスクがある。残業代などの労働条件も明確になっていないことが多いので、サービス残業も珍しくない。

キャリアリスク

過剰な労働時間により、自己啓発やスキルアップの時間を確保することができないため、時間だけ浪費して成長が鈍化するリスクがある。ブラック企業で求められるスキルは「その企業の中だけ」でしか通用しない汎用性の低いものが多いので、長く勤めれば勤めるほど市場価値が低下する恐れがある。

法的リスク

もし強靭なメンタルでブラック企業で生き抜き、マネジメントポジションに就任したとしても安心はできない。ブラック企業でのマネジメントスタイルは違法であるケースがほとんどなので、自分が部下から訴えられるリスクもある。「自分も同じように育てられたのだから」とパワープレーで部下をしごき、パワハラで訴えられても文句は言えない。

ブラック企業での実体験


ここで、私自身が経験したブラック企業についても取り上げたい。私は大学卒業後、新卒で求人広告代理店の営業職に就職した。社会人1年目の右も左もわからない私に、社会のルールをイチから教えてくれたことにはいまでも感謝している。優しい先輩や、今でも連絡を取り合う大好きな同期にも恵まれた。一方でブラック企業的な側面があったことも否めない。その理由や実態についていくつか紹介したいと思う。

新卒1年目で残業月80時間

成長への期待も込めて、入社半年後から大手企業の担当を任された。その頃から9:00~18:00の定時など存在せず、8:00~22:00の14時間労働という日々だった。なぜそんなに残業が多かったのか。それは、“ピュアタイム”と呼ばれる9:00~18:00の間はアポイントや新規開拓など、お客さまに接触する時間に充てなければいけなかったからだ。
 
担当していた大手企業の資料作成やデータ分析などは18:00以降に取り組まざるを得ず、連日1番早く出社し、1番遅く退勤する日々だった。気付けば月の残業時間は80時間超え。入社1年経たずして、過労死ラインに立たされ、毎日「眠眠打破」と「モンスターエナジー」で何とか生きていた。

雀の涙ほどもないインセンティブ

それだけ苦労していたからこそ、社内MVPや優秀営業賞として選ばれることが多かった。新卒ながら3ヶ月で売上は1000万円以上。目標よりも800万オンで達成したこともあった。その会社では3ヶ月間の売上目標達成者にはインセンティブが支給されるのだが、800万オンで達成した時にも、1円オンで達成したメンバーと変わらないたったの3万円支給だった。「達成してもしなくても3万円しか変わらない」「いくら苦労してオンしても3万円しか出ない」と、さすがにモチベーションの維持ができず、この時は若干病んだ。

付き合いのいい社員や結婚適齢期の男性優先の昇格制度

営業会社だからこそ、売上をあげている営業が評価されて昇格していくのはわかる。しかし、その会社では違った。半年以上目標を達成していなくても、上長たちと休日ゴルフや飲み会に行く社員は私より先に昇格した。また、2、3個年上の男性営業と同等の仕事内容で実績を伸ばしているにも関わらず、30代で結婚適齢期だと、収入を理由に転職されないよう先に男性営業が昇格した。結局、昇格には実績・評価など関係なく、会社都合で決まっていくのだと理解した。

新規部署立ち上げ後に下がる年収

一通り営業を経験したあとは、会社の新たな柱となる新規事業の立ち上げメンバーに抜擢され営業から離れることになった。とはいえ仕事内容は、アポをとり、新サービスを提案する仕事だったので、ほぼほぼ営業と変わらない。むしろ業務量は以前の倍になった。だが、職種名が「営業」ではなかったため営業手当はつかず、シンプルに仕事が増え、収入は減った。この時点で入社5年目。年収は手取りで200万円代。年末配られる年末調整の用紙を見て、涙が出た。

休日のサービス業務は当たり前

新規事業立ち上げではやることが多く業務量が膨大だったため、必然的に退勤後の深夜と、休日である土日に稼働しなければ、仕事が終わらなかった。もちろん手当は出ない。これぞサービス残業だ。給与には固定残業代として45時間分の金額が含まれていたが、そんなものはとっくに超えている。もはやタスクを消化していくだけの人間となり、残業時間をカウントすることもやめた。
 
書きながらだんだんと怒りを感じてきたが、当時はもう「やるしかない!」という精神でただがむしゃらにこなしていた。粘り強く食らいついた分、もちろん身についた経験やスキルはあるが、今思い返すと親や彼氏からの忠告を聞き、もっと早く見切りをつけるべきだったと後悔している。

大学時代の友人が経験したブラック企業体験


このコラムを書くにあたり、最も身近な営業経験のある友人に、ブラック企業の体験談について聞いてみると、私以上にひどい経験だったので紹介したい。
 
ある友人は、小中学生に学力診断テストを受けてもらい、その結果について説明をしたうえで自社の通信教育販売を勧める営業を行っていた。営業スタイルは基本飛び込みで、街の地図を見ながら、なるべくたくさんの世帯が暮らしている団地を中心に訪問していたそうだ。子どもがいるかいないかわからない状態で、とにかくピンポンを押しまくっていたので「心が痛かった」と漏らしていた。
 
当然見ず知らずの人が突然ピンポンしてきたら、営業される側は迷惑だし、怪しまれるのは当然だ。インターホンで冷たい対応をされるのは日常茶飯事で、警察沙汰になったこともあったそうだ。しかし、そこで引き下がってしまうと上司に怒られてしまう。「罪悪感に苛まれながらもパワハラ上司に怯えながら、毎日迷惑行為をしなければいけない状況がキツかった」と当時を振り返っていた。
 
さらにキツいのが、朝礼だ。「ここで結果を出せなきゃ、お前らなんてどこでもやっていけない」「給料日に結果出せないやつはゴミ」「お前らは学歴が大したことねぇんだから、結果を出すしかない」「○○(上司)がしょっぱいから、○○(部下)の結果も出ない」など、毎朝のように罵詈雑言のオンパレード。言葉だけではなく、バインダーを叩きつけたり、机を蹴る日もしょっちゅうで、インフルエンザや忌引きでの欠席でもグチグチ言われる職場だったそうだ。

応募する前に確認すべきこと


ここで紹介した以外にも世の中にはブラック企業がはびこっている。そんなブラック企業に入らないために、長年求人広告を扱ってきた者として事前に確認すべきことをアドバイスしたい。

求人広告に使われている地雷ワード

企業が出す求人広告には多くの情報が載せられているが、ブラック企業はブラックさを隠すためにあの手この手で表現を変えてくる。もし求人広告で以下のワードを発見したら応募する前に、細かくその会社についてリサーチしてほしい。

「アットホーム」「和気あいあい」

他にアピールできる情報がないため、やむを得ず人間関係の良さを推している企業にありがちなワード。十分な待遇を用意できず、休みも少ないため、求人広告の制作スタッフが苦肉の策で「アットホーム」を訴求している可能性がある。

「入社1年目で幹部になった社員も」「幹部候補」

未経験募集なのにも関わらず昇給・昇格スピードの早さや幹部候補の募集でることを謳っている求人は要注意だ。離職率の高さや人の少なさから入社後すぐに責任ある仕事を任されるケースが多く、当然のことながら教育体制なども整っていない。入社すぐに大口顧客を任されることも珍しくないので、「圧倒的成長」を望む方は別として、じっくり育ててほしい方は気をつけた方が良い。

「みなし残業」「固定残業」

残業時間についての記載が一切ないケースや、「みなし残業」や「固定残業」「裁量労働制」を採用している会社は要注意だ。例えば、給与備考欄に「※固定残業月45時間、◯万円分含む。超過分は別途支給」と記載があった場合、45時間フルで残業することはほぼ確定で、場合によっては超過分の残業代が支払われないケースもある。裁量労働制も週40時間の勤務でおさまることはほぼなく、多くは残業代を支払いたくない企業のグレーな逃げ道として記載されていることが多い。

「人財」「圧倒的な成長」

人材をあえて「人財」と記載している企業は体育会系の文化が根付いている可能性が高い。体育会系の会社は根性論・精神論を押し付けてくるケースが多いので、「圧倒的な成長」を望む方でなければ、避けた方が賢明だ。

「少数精鋭」

「少数精鋭」という言葉は聞こえが良く、使い勝手がいいので多くの求人広告の制作スタッフが好んで使うワードの一つだ。優秀でえり抜きのエリート集団を指すケースもあるが、多くの場合は人数が少ないので業務範囲が広く、一人何役もこなさないと会社が回らない実態を表していることがほとんどだ。

「スピーディーな対応ができる方」

求める人材の欄に「スピーディーな対応ができる方」と記載がある場合は気をつけてほしい。全ての業務においてスピードが価値であることは間違いない。しかし、過度にスピードを求められる場合は、業務の質が下がり、結果的に雑さがクレームになるリスクもある。さらにいえば、土日や業務時間外にも「スピード」というValueを体現するために稼働が求められる恐れもあるので、注意が必要だ。

「社長直下」「経営陣と距離が近い」「経営に関われる」

そもそも幹部でも役職者でもない一般のポジションを募集しているのに、「社長直下」「経営陣と距離が近い」「経営に関われる」ことをウリにしているのであれば、少数精鋭と同じで待遇以上の役割と責任が求められる可能性が高い。成長意欲が高い方にはチャンスの多い環境だが、「少数精鋭」の会社同様、自主性や主体性が求められるため、じっくり育ててほしい方は避けた方が賢明だ。

「新規拠点が増えれば拠点長へキャリアアップ」

一見、チャンスのある求人のようにも思えるが、「釣り」タイトルのケースも多く、拠点が増えない限り昇格はない。本当に新拠点が増えたとしても、実力がなければ新拠点長になることはないので、実際はポストを得るまでにそれなりに時間がかかる場合が多い。

「賞与は実績に応じる」

これも賞与を「釣り」にしているケースや賞与を出したくないという企業の本音が垣間見える表現だ。確実に賞与を支給する会社は「賞与年2回※昨年実績◯ヶ月分」と明記している。仮に賞与を支給しなかった場合、虚偽広告で訴えられるリスクもあるので、「業績に応じてる」と記載して、逃げ道を用意しているのだ。

「OJT」

「先輩とのOJTを通じて丁寧にレクチャーします」というのはイコール研修制度がないことを意味する。「事前に手取り足取り教える余裕がないので、いきなり実務を任せます。わからなければ、先輩に聞いてください」つまりそういう意味であり、ほとんどの企業がこのパターンに該当する。かといって「OJTと記載がある会社=ブラック企業」と解釈すると中途採用をしているほとんどの企業がブラックになってしまうので、中途採用の場合、丁寧な研修はあまり期待しない方が良い。

Googleの口コミや従業員の口コミサイトの確認

Googleや従業員の口コミサイトをチェックすることも、ブラック企業かどうかを見抜く有効な手段だ。Googleの口コミでは特にその会社にとってのお客さまからの意見が多いため、世間的な評価を確認することができる。また従業員の口コミサイトでは、実際に働いた元従業員たちが赤裸々にコメントを寄せているので、よりリアルな実態を知ることができるだろう。注意点としては、偏った情報も含まれるのであくまでも参考程度にとどめ、複数の情報源から情報を収集していくことが望ましい。

できれば入社前に職場見学を申し出る

職場見学もブラック企業を見抜くために有効な手段のひとつだ。実際に職場に足を運ぶことで、職場の雰囲気や従業員の様子を伺い知ることができる。できれば、先輩社員のデスクの上に何が置いてあるかで見てみると良いだろう。書類で溢れかえっていたり、エナジードリンクが転がっていたら、怪しいかもしれない。もう1つ、社員の表情をよく観察してほしい。ブラック企業に勤める社員は目が死んでいて、顔色も良くない。何より活気がなく、社内の空気もピリピリ、どんよりしている。ただし、なかには訪問者に対して特別な接待をする企業もあるので、必ずしもブラック企業を見抜くために十分な手段とはいえない。こちらも参考程度にとどめ、総合的な判断のための材料にするのが良いだろう。

ブラック企業に入ってしまったら


もし十分に気をつけたにも関わらず、ブラック企業に入社してしまったら。取るべき道は2つだと私は考える。

割り切って何を身につけるか目標を定める

ウジウジと悩んでいても仕方がないので、ここは割り切って、入社した会社で今後自分のキャリアに活かせそうな経験・スキルを身につけることに集中する。キツい代わりに給与が高い会社ならば、貯金額の目標設定するのでも良いだろう。そうしていくうちにある程度慣れたり、忍耐力が自然とついてしまう。私もそうだった。大変な経験ほど「あれを乗り越えてるんだから私は大丈夫」という後の自分を支える糧になるので、そこで過ごした時間や得たスキルは決して無駄にはならない。自分の中で目標をたて、長期的なキャリア形成に向けてぜひ前向きに進んでいってほしい。慣れすぎてしまうと手抜きを覚えてダラダラと過ごしてしまいかねないので、そこだけ注意だ。

病んでしまったら早期の退職を検討する

「自分には向いていない」「眠れない」「疲れが取れない」など思いつめてしまった場合。これはもうすぐにでも退職することを勧める。その選択を誰も責めることはできない。働くことは命あってのことなのだから。辞めさせてくれない会社ならばすぐに逃げろ。大丈夫。「3年以内に退職してしまうと不利になる」なんてことは求人業界で働く私からしたら迷信だ。しっかりと理由を説明すればまともな企業は、きちんと理解してくれる。ただ、転職回数が多いと不採用の理由に繋がりやすいので、そこだけ注意して会社選びをしていくといい。

健康で文化的な“自分らしい生活”を営むために


ブラック企業に勤めることは、健康や生活に悪影響を及ぼすリスクがある。しかし、応募前に事前に企業の労働条件や従業員の声、評判などを確認することで、ある程度ブラック企業を避けることができる。本記事を参考にし、就職前に注意深く企業を選ぶことで、自分らしく働ける。これから転職を考えている人には、どうかそんな職場に出会ってほしい。
 

【筆者プロフィール】
西山 侑里
1993年群馬県高崎市生まれ。空っ風に鍛えられながら、小中高とバスケットボールを追い続ける部活生活を経て、2012年の大学入学を機に上京。大学卒業後、2016年にリクルートの求人広告代理店に新卒入社。売れない営業時代を乗り越え、営業リーダーを任せられるまでに成長。新規部署の立ち上げメンバーとしてIndeedの運用にも携わる。2022年に夢だったライター職に転職。人材業界での経験を活かして求人原稿の制作から、最近ではコラム記事の制作に挑戦中。
 
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