コラム

約10年出版業界にいた筆者が考える、「今から編集者になる覚悟」

就活生の人気業界としてあげられることが多い出版業界。実際に就活生の志望業界ランキングでも「広告・出版・マスコミ」は2位にあがっています(出典:就活の教科書)。出版業界の中でも「編集者」は人気な職種の一方、具体的な業務内容は意外と知られていなかったり、「本はもう売れないじゃないの?」と言われたりすることも。そこで今回は、専門書の編集者を約10年続けた筆者が、「編集者になるためにはどうしたらいいの?」「この先出版業界に未来はあるの?」などのトピックを解説したいと思います。新卒・中途に限らず、編集者になりたい人や出版業界に興味のある人はぜひご覧ください!

どんな媒体・ジャンルの編集者になりたいのか


ひとくちに編集者といっても、さまざまな種類があります。雑誌、編集者、書籍など媒体の違いもありますし、エンタメ系、コミック、文学、専門書、実用書などジャンルの違いもあります。自分はどんな媒体・ジャンルの編集者になりたいかはある程度ビジョンを持っておきましょう。新卒や未経験での転職の場合、そこまで細かなビジョンを持つのは難しいとは思いますが(また、初期から凝り固まったビジョンを持ってしまうのもよくありません)、コミックがよいのか、専門書がよいのか、などのイメージは持っておくことが重要です。
 
なぜかと言うと、編集者のキャリアは「どんなジャンルの作品をどんな媒体で制作していたか」に大きく依存するためです。実際に実用書編集者で長くキャリアを積んだ後、コミック編集者に転職しようとしても、キャリアがそこまで評価されないことは往々にしてあります。なぜなら、媒体やジャンルによって業務内容やトレンド感が大きく異なるからです。総合出版社に入社してさまざまな媒体やジャンルに関わることで自分のキャリア志向が固まってくる場合もありますが、大手の総合出版社はそれほどかんたんに入社できません。そう考えると、初期からある程度のビジョンを持って、そのビジョンにふさわしい出版社の求人に応募する必要が出てきます。
 

出版社は狭き門。まずは編プロもあり


出版社は大手企業であっても、新卒であまり多くの人数を採用しません。そもそも新卒採用を行わない出版社も多くあります。また出版社の多くは新卒採用の場合、編集や営業などの部門には分けずに応募するので、配属によってははじめから編集者のキャリアをスタートできないこともあります。
 
ですが編集者こそ、営業や広報などの他部門での業務経験が活かせます。筆者自身は編集部門での採用で入社したためずっと編集部に所属していましたが、他部署の知識やスキルは編集のスキルをより強くすると感じました。新卒で出版社に入ることができたら、まずはいろいろな経験を積みながら、頃合いを見て編集部への異動願いを出すのがよいでしょう。
 
では、もし出版社に新卒で入ることができなかった、もしくは未経験だけれど編集者に転職したい人はどうしたらよいか。それには、編集プロダクションで経験を積むのが手っ取り早いと思います。編集プロダクションとは、出版社が発行する書籍やメディアの制作業務を請け負う企業です。案件によって業務範囲は変わりますが、著者の選定や原稿のリライト、組版、スケジュール調整など広範囲の業務を担うことも多いです。一般的に激務なことが多いですが、編集者に必要なスキルは身に付きます。また、案件が多い編集プロダクションでは人手が必要なので、未経験でも採用されやすい点もポイントです。
 
自分が関わりたいジャンルや媒体をメインに制作している編集プロダクションにまずは入社し、スキル習得や人脈構築をしっかり行なう。その後培った経験を持って出版社の中途求人に応募するパターンは、編集者のキャリアアップとして妥当だと思います。筆者と付き合いのあった編集プロダクションの編集者も、優秀な編集者ほどすぐに出版社へ転職する人が多かったです。
 

自分の「得意」を見極め、伸ばす


編集者に求められるスキルは、多岐にわたります。具体的には、主に下記の業務をこなせるスキルが必要です。

    ・トレンドの分析、マーケティング
    ・適切な対象読者のペルソナ設定
    ・販促のトリガーとなる要素の設定(著者、パワーワード、コンテンツなど)
    ・書籍の適切な企画構成
    ・社内外とのコミュニケーション
    ・原稿のリライト、編集、誌面レイアウトの調整
    ・PR、販促施策の検討と実行

しかし、これら全てに長けているスーパー編集者はそうそういません。重要なのは「自分はどの部分が突出しているのか」を見極めることです。編集者は大抵、それぞれ仕事の流儀を持っています。その流儀が洗練されているほど、質のよい書籍を作ることができる個性的な編集者になることができます。
 
たとえば、企画構成に長けている編集者なら編集プロダクションの力も借りながらトレンドに合った書籍をコンスタントに出すスタイル。原稿のリライトや誌面レイアウトに長けた編集者なら職人らしくコツコツと高品質な書籍を作るスタイル。人脈づくりに長けた編集者なら著者を全面に押し出しPR施策を大きく打ってヒット作を出すスタイル。このように経験を積む中で自分のスタイルを見つけ、それをブラッシュアップすることが編集者として生き残るために重要です。
 

激動の業界で生き残る「覚悟」を持つ


出版科学研究所の調査によると、この約20年で紙媒体の出版物の推定販売額は下降の一途で、特に雑誌の販売額の減少率は高くなっています。ですが、近年は紙媒体の書籍の販売額はさほど減っていないことや電子書籍の伸びが非常に大きいことを見ると、決して未来のない業界ではないと思います。
 
また、新しい技術や表現方法が増えている点にも着目すべきです。コミックジャンルは電子書籍で読むスタイルと相性がよいこともあって、Webtoonなどの新しい形も登場してきています。出版物のメディアミックスもより多くの形が拡がっているように、出版社や書店など出版業界全体が新しいビジネスモデルを模索しています。
 
筆者自身、出版業界にいた約10年間で、コンプライアンスの感覚や営業方法などが古い雰囲気で止まっている業界だと感じた一方、これからは新しいことに挑戦するタイミングが来ている業界だとも思いました。逆に言えば、それらの変化を起こせない出版社は生き残ることが難しいと思います。
 
編集者は多様なスキルが必要とされますが、自分が担当した書籍が読者の手に届く大きなやりがいのある仕事です。激動の時代を迎えている出版業界に今から飛び込んで編集者になろうと思う方は、新しい出版のビジネスモデルを見つける覚悟で、ぜひチャレンジしてみてください!

 
【筆者プロフィール】
伊藤鮎
2023年VALUE WORKS入社の編集・ライター。前職は約10年間書籍編集者として勤務。趣味はHIPHOPとメタルコアとKPOPと料理とお酒。2024年の目標は海釣りに挑戦することです。
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