コラム

女性管理職のススメ ~部下育成での学びを「子育て」に活かす~

みなさんは「女性管理職」という言葉を聞いて、どのような人たちを連想するだろうか。ためしに女性の友人たちに同じ質問を投げかけてみたところ、共通して浮かび上がったのがいわゆる“バリキャリ女子”の姿だった。しかし世の中の女性管理職は、本当にみなキャリア志向が高く、仕事に心血を注ぎ、常に自己成長を意識している人たちなのだろうか。本コラムでは、女性管理職として組織マネジメントを行った筆者自身の体験を踏まえ、管理職経験を通して得られるものについてご紹介したい。

女性管理職をめぐる現状

2022年4月に「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(通称:女性活躍推進法)」が改正され、常時雇用する労働者の数が101名以上の事業主(従来法では301名以上)に対し、自社の女性活躍に関する行動計画の策定と届出および、その情報公表が義務付けられた。
 

女性活躍推進が叫ばれる背景には、少子高齢化が進み人口構造が変化するなかで、我が国がさらなる経済成長を目指すために、男女問わず労働力を確保することが不可欠であることが挙げられる。また実際のデータでも、女性の活躍推進が進む企業ほど経営指標が良く、株式市場での評価も高まる傾向が見られたり、正社員・管理職の女性比率が高い企業ほど利益率が高まったりという特徴があるという。
 

一方で、当の女性たちの意識はどうだろうか。2021年に実施された株式会社博報堂の調査によると、20~30代の女性で「管理職になりたい」と答えた割合はおよそ3割だったそうだ。(※博報堂キャリ女研『女性のキャリア意識調査』
 

この数字を高いと見るか低いと見るかは人それぞれかと思うが、本調査ではさらに興味深い報告がなされている。それは女性の方が男性に比べ、「理想の管理職像に求める要件や資質が多い」という調査結果だ。
 

すなわち、管理職になることをためらう女性たちのなかには「管理職はこうあるべき」「こうでなくてはならない」という思考があり、そのレベルに至らないから自分には管理職の適性がない、求められるスキルを身に付けるのはとうてい無理だ、といったように自らハードルを引き上げてしまっている可能性があるのだ。
 

もちろん、管理職を志望しない(厳密に言うと「志望できない」かもしれない)女性たちの真意は他にもあるだろう。違うステージで活躍できることに魅力を感じつつも、家庭や育児との両立、長時間労働への不安、ロールモデルの不在、責任の大きさへのプレッシャーなど、現実と制約とのはざまで揺れ動く女性たちを筆者自身も多数見てきた。業種や職種によっても状況は異なる。
 

ただ、こうした問題が立ちはだかっている以上、いつまで経っても国が掲げる女性活躍推進政策は絵に描いた餅になってしまうだろう。今こそ一つひとつの課題を潰していき、男女問わず働きやすい社会・会社を目指していくことが求められていると言える。

私が女性管理職を選択した理由


実は私自身も、20代後半に「女性管理職を選択する」決断を迫られた一人だ。身を置いていた人材業界は他業界に比べると女性社員・女性管理職の数が多く、社内には管理職を務める年の近い同性の先輩もいた。したがって、管理職のイメージは比較的湧きやすく、相談できる人たちが身近にいたことはとても恵まれていたと思う。
 

一方で、管理職として働く女性社員たちはみなキラキラしていて仕事でも高い成果をあげていて、なかには帰宅後に幼い子どもを膝の上で寝かせながら深夜まで企画書をつくっている先輩もいた。みなさんとても素敵で、心から尊敬する方たちばかりだったのだが、果たして自分にもそれが務まるかというと…正直自信がなかった。
 

結果として私自身は管理職の道を選んだが、それは当時の上司がこのような言葉をかけてくれたからだった。「周囲と同じである必要はない。君がなりたい管理職像を目指して、やりたいようにやればいいよ」何事においても完璧を追求してしまいがちな自分に配慮してくれた、最大限のエールだったと思う。
 

そしてもう一つ、管理職になることを決断した理由がある。とある女性管理職の方のインタビュー記事で、「部下育成の考え方は子育てと同じ」という談話を目にしたからだ。そして同氏は「元来、生物学的に我が子を育てる本能が備わっている女性は、管理職としてその能力を発揮しやすい」とも述べていた。当時の自分は未婚で子どももいなかったが、人生のステップにおいて管理職を経験することは、少なからず意味のあることなのではないかと思い始めていた。
 

管理職経験は子育てにもつながる


さて、いざ管理職という立場に就いてみると、予想外の出来事の連続だった。9人の部下は年齢も性別もバックグラウンドもバラバラ。
 

Aさんには伝わったメッセージが、Bさんには違う解釈で捉えられてしまう。目標にコミットしていないメンバーに対して、「自分ならこう言われればモチベーションが上がる」というフレーズで行動を促してみても、まったく効果がない。年上の大先輩の部下には、やはり気持ちの面で尻込みしてしまって、やってほしいことが率直に伝えられない。
 

そのほかにも部下と顧客とのトラブルが連発したり、挙句の果てにメンタル面で不調をきたしてしまう部下にうまく対応できなかったりと、管理職1年目は空回りの連続だった。あまりの自分の未熟さに落ち込み、今でも当時のメンバーには申し訳なく思うことがある。
 

ただし、マイナスのことばかりであったかというと、そんなことはない。管理職2年目に差し掛かろうかというある日、チームの想いや方向性を共有するためにメンバー全員でワールドカフェ形式のワークショップを行った。ルールは二つ。「遠慮は一切排除して、自分の伝えたいことをとにかく発信すること」「相手の意見や考えを絶対に否定しないこと」である。
 

このワークショップを機に、チームの雰囲気が徐々に変わっていくのを感じていた。各メンバーが相手の立場や状況に配慮した行動ができるようになったこと、そして何よりコミュニケーションの量が増え、みなが以前よりもイキイキと仕事をしている姿を目の当たりにすることができた。
 

同時に、それまでの自分はいかに部署の成果をあげるか、そのために自身がどうするかという視点でしか物事を考えていなかったことに気づかされた。月次目標が未達に終わりそうなときには、自らもプレイヤーとして誰よりも案件を抱え、周りを見る余裕などほとんどなかった。もっと部下を信じて、任せ、そこから生まれる空気感を大事にすればよかったのだ。
 

そんなことを考えていたら、以前読んだ女性管理職の方のインタビュー内容と通じる部分があることに気付いた。「相手を信じて、任せる」――子育てにも共通することだ。部下も子どもも、自分とは違う人間だ。そうした相手に対し一方的に価値観を押しつけたり、行動を変えようとしたりしたところで不可能である。すべては相手を信じ、その気持ちを伝えることから始まるのではないか。
 

そして上記の思いは、子育て真っ只中の現在、改めて痛感しているところだ。たとえば子どもに注意を促す場面でも、頭ごなしに叱るのではなく、まずはなぜそういう行動を取ったのか相手の話を聞くように努める。子どもができるようになったことについて、成果を褒めるのはもちろん、そこまでのプロセスも褒める。子どもが初めてチャレンジする事柄に関して、スモールステップで目標を設定して取り組ませる。そうした一つひとつの関わり方が、部下育成の経験を通して学んだことでもあるし、翻って現在や将来、改めて部下育成の場面で応用することができるのだ。
 

管理職の仕事には大別して「対業務マネジメント」と「対人マネジメント」の二種類があると言われる。性差だけで判断してはいけないが、とりわけ「対人マネジメント」スキルに関しては、女性としてもその能力を発揮しやすいのではないだろうか。実際筆者の周りでも、部下の悩みをうまく聞き出してあげたり、人間関係に角が立たないようなコミュニケーションで他部署と調整を図ったりしていた女性管理職が多かった印象がある。
 

そして何より、管理職の経験はその後のキャリアにも良い影響をもたらす。社内での影響力が高まるだけでなく、例えばいずれ転職を考えたとき、出産や育児を経て復職をしたいと思ったときに、一つのプラスの材料として働く可能性が高いからだ。実績としての側面だけでなく、「経験から得られるもの」という意味でもだ。

管理職を目指すにあたって準備しておきたいこと


最後に、管理職という選択肢を視野に入れている方々に、個人的に準備しておくと良いと思われることを3つお伝えしたい。
 

①どういう管理職になりたいかをイメージする

書籍や研修などでも“あるべき管理職像”に対する言及は多々あるが、一般的な概念を参考にしつつも、自分としてはどういう管理職を目指したいのかを描いてみてほしい。これまでの経験や自分自身の強みをたな卸しし、管理職になった際にどのように活かせるかを考えることも一つの手だろう。
 

②チームメンバーの言動に注意を払ってみる

管理職の仕事として、人事考課は避けられないものである。そして私情にとらわれない公正な評価を行うためには、日常的に各部下の行動を観察し、評価の根拠となる情報をきちんと収集しておく必要がある。そのためのトレーニングとして、日ごろからチームメンバーの言動や組織に与える影響を客観的に見てみることをおすすめしたい。
 

③社内外の“知り合い”を増やしておく

管理職として問題解決をしたいと思った際に、多くの場合自部署単体で行うことは難しく、社内外のさまざまなステークホルダーとして協力して取り組むことが求められる。人脈づくりとまではいかなくても、サポートし合える関係を築ける知り合いを増やしておくことは自身の助けにもなるし、またその後の長いキャリアを歩むうえでも「人とのつながり」は財産になると言っても過言ではないだろう。
 

以上、私自身の体験も踏まえて女性管理職として活躍するイメージを考察してみた。もしも今、管理職になることを迷っている方や、管理職になることに不安を感じている方がいれば、まずはチャレンジしてほしい。限られたタイミングで、限られた人に与えられたチャンスであり、もちろん伴う責任も大きいが、同じくらい人生において得るものも大きいからだ。「ゆるキャリでも管理職を目指してみようかな」――そんな女性が増えていくことをひそかに願っている。
 

<筆者プロフィール>
山中 茉由(やまなか まゆ)
早稲田大学在学中から、大学スポーツ新聞の編集・記者および学生WEBライターとして活動。卒業後は大手人材会社に入社し、企業向け教育研修事業部門の立ち上げに携わる。同事業では企画営業部署の責任者を務めながら、全国の大手~中小企業約300社に教育研修コンテンツを提供。自身も講師として、学生のキャリア支援や就職活動支援を行う。現在はフリーランスライター兼採用/教育コンテンツプランナー。趣味は4歳の息子と、愛する横浜DeNAベイスターズの試合を観戦すること。
 
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