コラム

【拝啓、26歳の自分へ】「人生に遅れをとっても大丈夫」就職せず、将来が不安なあなたに伝えたいこと | 鈴木 雅矩

8年後のあなたには奥さんがいる。仕事も充実しているよ

突然のお便り失礼します。34歳の僕です。もしかしたら、あなたはこの手紙をイタズラだと思うかもしれません。同じシチュエーションなら、僕も同じことを考えるはずですから。怪しい手紙ではありますが、害はないので読み進めてください。

 
あなたはいま、長期の海外旅行から帰国して、これからの進路を考えています。年齢は26歳。正社員になったことはなく、就職活動に不安を抱えています。「就職して活躍する人や結婚する人も多い中、僕はこのままで大丈夫だろうか」当時はそんな焦りを感じていましたね。

 
でも大丈夫。その後、僕はいくつかの会社に就職します。いまは個人事業主として働いていますし、32歳の時に結婚もできました。この将来は、数ある未来のひとつでしかありません。きっとこの先、あなたの選択で異なる未来が訪れるはず。どの街に住み、どのような仕事を選び、誰と出会うのか。選んだ結果で、その後の自分は変わっていきます。

 
もしかしたら海外に住んでいるかもしれないし、何かの職人さんになっているかもしれない。悪いことをして刑務所で過ごしている僕もいるかもしれないですね。選択肢の数だけ並行世界があるわけです。

 
そのうちのひとつ、とある世界線の僕はライターをしています。これは雑誌やWebサイトで文章を書く仕事です。と言っても、好きなことを書いているわけではありません。依頼主の目的に合わせて正確な情報を集め、読者の課題を解決する文章をつくる。それができてはじめて報酬が貰えます。

 
僕はかれこれ6年間ライターを続けてきました。書いた記事の数は……、正直覚えていません。でも、週に2本以上は記事を書いてきたので、ざっくり計算すると570本くらいになります。仕事は遅い方です。速い人は、週に4〜5本取材記事を書きますから。

 
取材では様々な人にお話を聞いてきました。肩書きを並べてみると、町工場の職人、銭湯の番頭、猟師、仏教の僧侶、神社の神官、栄養士、デザイナー、ゲームの開発者、声優、アイドル、ダンスパフォーマー、エンジニア、営業、人事、スタートアップの経営者、大企業の部長、などなど。異なる仕事に就く様々な人々と話せるのが、この仕事の醍醐味。様々な生き方や働き方、価値観に触れさせてもらうことが楽しくて、気づいたらあっという間に6年が経っていました。

 
せっかく機会をいただいているので身の上話はこのあたりにして、若いあなたに伝えたいことがあります。あなたはこれから仕事を探し、自身を養っていくことになります。退職や転職のタイミングでは大いに悩むでしょう。その時に思い出してもらいたいことをここに綴っておきます。とはいえ、8歳も離れていたら、同じ僕でも価値観は異なるはず。なるべく説教くさくならないように進めますね。

 

やりたいことは先にやろう

34歳になって、僕は若年性の老眼になってしまいました。ライターの仕事は調べ物や文章作成ですから、1日6〜8時間は文字を見つめて暮らしています。ところが、老眼になってからは文字を読むのがしんどくなりました。パソコンのモニターや本を3時間も見たら、眼が痛みます。ひどい時には内容が全く頭に入りません。

 
不具合は眼だけではありません。歳を重ねると、あっちこっち体が不自由になります。若い時には肩こりや腰痛にはならないでしょう? 34歳になると常に体のどこかが痛い。だから僕のデスクにはアンメルツが常備してあります。

 
「やりたいことは老後にゆっくりと」と言いますけど、60歳を超えて体力をキープできている人は少ないものです。仕事も遊びも体力がある方が楽しめます。だから、やりたいことは先にやってしまいましょう。

 
あなたも僕も、22歳の時に自転車で日本一周。26歳でユーラシア大陸を旅行しましたよね。34歳の僕がいま同じことができるかというと、たぶんできません。奥さんが「そんなことしているなら働け!」って怒りますから(笑)。本当にやりたいことがあって、誰にも迷惑をかけないならばやってください。やり終えてから、「やらなきゃ良かった……」と後悔することは少ないですから。

 

自分の体はひとつだけ。健康のために働いてもいい

僕がいる2021年には、複数の仕事を兼業する「デュアルワーク」と呼ばれる働き方が広まっています。会社員なのにイラストレーター、エンジニアなのに会計士、といった働き方をする人が増えてきました。僕もいまは専業でライターをしていますが、兼業に切り替えようと思っています。

 
理由は体調不良を改善したいから。先ほど伝えたように、僕はモニターを長時間見られなくなりました。ここ数年で体重も著しく減っています。ライターという仕事柄、家から出ない日や1日中座りっぱなしの日が多いためです。体を動かさないこともあり食欲がなく、食事は1日1.5食、体重は45kgまで減りました。加えて、1日に電子タバコを2箱吸っていました(今はやめています)。

 
ライターに限った話ではありませんが、一日中部屋にこもり、モニターとにらめっこする生活は不健康です。「このまま専業ライターを続けていれば、いずれ大きな病気を患ってしまうかもしれない」そんな危機感から、半分は文筆業、半分は体を動かす仕事、という塩梅で兼業ライターを目指しています。

 
実験的に始めたのが、銭湯の清掃バイトです。働く時間は銭湯が締まる23時〜0時まで。週4日ほどの勤務です。近所のおじさんやお兄さんと一緒に銭湯の床にブラシをかけ、浴槽をクレンザーで磨き、バケツで水をまいて、タオルで磨き上げています。

 
ちょうどいい運動になりますし、体を動かしていると頭がからっぽになって気持ちいい。報酬は1回1000円ですが、入浴代とサウナはいつでも無料になります。お金を払ってジムに行くより経済的ですし、体を動かすようになってから食欲も戻っていきました。

 
26歳のあなたは、社会に出て働くために就職活動を進めています。やりがいや報酬、得られる経験など条件は様々ですが、健やかに気持ちよく働けるかどうかは、頭の片隅に置いてください。

 
憧れていた仕事に就けても、忙しすぎて体を壊し、別の業界に転職していった人はたくさんいます。僕も1回、会社勤めでうつ病になりました。無理をする時期も必要かもしれませんが、長くは続けられません。自分の体は生涯ひとつだけ。替えがきかないものですから、大切にしてください。

 

進路選択に損得感情はいらない。迷ったら心踊るほうへ

僕たちは生涯で2度、「人生全て暇つぶし」と話す人に会いましたよね。彼らは「突き詰めて考えると、生きていることに特別な意味はない。だから人生とはいい意味で暇つぶしなんだよ」と話していました。それまでは漠然と「誰しも生きる意味がある」「やるべきことがある」と考えていましたから、この言葉は衝撃的だったと思います。当初はニヒリズムに聞こえた彼らの言葉ですが、34歳の現在は腑に落ちています。生きる意味とは、「最初からある」のではなく「見出す」ものだからです。

 
同じ1万円でも、楽して稼いだお金と、苦労して稼いだものでは重みが違います。偶然出会ったありふれたものに、僕らは異なる意味を見出している。フランスの作家サン=テグジュペリは、代表作『星の王子さま』のなかで「きみが、きみのバラを大切に思っているのは、バラの花のために時間を費やしたからだよ」と書きました。意味とは思い込みに近いものかもしれません。

 
人が生きる意味は、生まれた当初はありません。人も生き物の一種です。他の生き物と同じように生きているだけで、特別に優れた生命活動をしているわけではないと思います。もちろん、生きていくうちに大事なものができ、生きる意味が見つかることもあります。「あなたは〜のために生きなさい」と誰かに教えられることもある。そうして見つけたものは大切にしても良いし、しっくり来なければ手放しても良いと思います。もとから意味がないなら、何に意味を見出してもいいんです。

 
前置きが長くなりましたが、この段落で伝えたかったことは「〜しなければいけない」と距離を置いて付き合うこと。べき論は、時に社会生活の潤滑油になってくれます。けれど、振り回されすぎると疲れてしまう。損得で自分の生き方を決めるのではなく、心踊ることに挑戦してください。生きる意味は必須の持ち物ではありません。あれば楽しいし、なくても平気で生きていけます。もし見い出せなくても、誰かと比べて劣っているとか、下手な人生を歩んでいるとか、そういうことはないので安心してくださいね。

 

呼吸するように、感謝の言葉を伝えよう

もうひとつ、周りの人を大切にしてください。これから先も、あなたはたくさんの人に支えられていることを実感すると思います。

 
人はひとりでは生きられません。いつも持ちつ持たれつを意識していれば、誰かにかけた情けはきっと自分に返ってきます。(こう言っておきながら、僕は不義理もたくさん働いてきました。返せなかったお礼や手紙がたくさんあります。「あの時は助かりました」と伝えたい人がたくさんいます……)

 
だから、お世話になった人へのお礼は欠かさず、できれば手紙や贈り物を出してください。特に「ありがとうございます」は呼吸するように言っちゃいましょう。本当に感謝してないと意味がないんじゃないかって? そんなことはないですよ。謝意はコミュニケーションの潤滑油になります。言わないよりは言った方がいいです。「今日は天気がいいですね」くらいのノリでいい。所作という言葉もありますから、言っているうちに謝意が湧くこともあります。

 
そして、誰かが困っていたら無理しない程度に助けましょう。そうすれば、自分が困った時に「助けてください」と素直に言うことができるはずだから。

 

どんな未来を選んでも、僕はあなたを応援します

最後に、「あなたがどんな選択肢を選んでも応援します」と伝えさせてください。生きていると何があるか分かりません。成功も失敗も同じ確率で存在します。並行世界の僕は刑務所にいるかもしれないし、社会的に成功しているかもしれない。いずれにしても僕ですから、都度思いっきり悩んできたはずです。その結果何が起きてもいいんじゃないかと思っています。

 
自分ひとりがコントロールできることには限りがあります。だから選べることは選んで、あとは天に任せてしまいましょう。ここまで僕の手紙に付き合ってくれてありがとうございました。ここから先の未来はあなたが選ぶもの。おそらく僕らはきっと異なる将来に辿り着くはずです。この手紙は忘れてくれて構いません、どうか楽しく暮らしていってください。

 
<筆者プロフィール>
鈴木雅矩(すずきがく)

1986年静岡県浜松市生まれ。日本大学芸術学部を卒業後、自転車で日本一周。旅先の自転車屋で働いた後、ユーラシア大陸横断旅行に出かける。2014年に上京して、ライターとして開業。2016年6月〜2017年9月に編集プロダクションへ所属して、オウンドメディアの編集者を担当する。退社後は再びフリーライターへ。現在はスタートアップや採用など、ビジネス領域を中心に執筆中。
 
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