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  • 2021.08.22

寝たきりの2年間を乗り越え、9人で上場した気象予報士の軌跡 | 株式会社ALiNKインターネット

年間約48億PVを記録し、Twitterでは280万人以上のフォロワーを持つ国内メディアがある。天気予報専門メディア「tenki.jp」だ。日本気象協会との共同事業で、全国約2,000の市区町村の天気予報をピンポイントで発信。気象予報士が日々更新する花粉や熱中症などの季節特集も人気だ。

「tenki.jp」を運営しているのが、株式会社 ALiNK インターネットである。代表の池田洋人氏は、過去に「Yahoo!天気」のリニューアルを手がけており、その経験を活かして「tenki.jp」を国内有数の気象情報メディアに育て上げた。2019年には、たった9人で株式上場も果たしている。

しかし、ここまでの道のりは決して順調ではなかった。気象予報士の試験合格から一転、トイレにも行けない寝たきりの日々…。土砂降りのような逆境であきらめることなく、地道に努力を続けてきたことが現在の成功に結びついている。彼の成長を支えた信念は何だったのか。紆余曲折のこれまでのキャリアから紐解いてみたい。


【プロフィール】
池田 洋人
大学卒業後、民間の気象会社に入社。ヤフー株式会社に転職し、プロデューサー兼ディレクターとしてYahoo!天気情報のフルリニューアルを手掛ける。退社後、株式会社ありんくの取締役COOに就任し、Web事業部を立ち上げ、2013年に株式会社ALiNK インターネットを起業。

気象会社へ入社し、超難関の気象予報士試験に何度も挑戦


池田氏のキャリアは天気予報と共にある。そのきっかけは1995年に起こった「天気予報の自由化」だ。それまで気象庁のみに発表が許されていた一般向けの気象情報が、民間の気象会社にも解禁されたのである。それを皮切りに、気象情報を活かしたサービスが続々と生まれていった。池田氏も気象ビジネスを展開する企業へ興味を持ち、入社することになる。
 

「天気予報自体がビジネスになることを知らなかったので、強い興味を抱きました。とはいえ、もとから天気が大好きだったわけではありません。この業界には、全国のアメダスを学生時代に回ったとか、天気図を毎日書いていた人など、天気予報をこよなく愛している方が多いですが、そこまでの熱意があったわけではありません。何かを企画する時のツールとして、天気を活用できたら面白いなと感じていたんです」
 

池田氏の業務は営業職で、気象庁等の情報に基づいた「精度の高い気象情報」を色々な企業に有料で提供すること。しかし、当時は気象ビジネスが黎明期で「天気予報は無料」と世間で思われていたため、理解を得て契約に至るまでがかなり難しかったそうだ。
 

「業種を問わず色々な分野に営業提案しました。例えば、建設現場で生コンをこねる時に必要な水分量が湿度で変わると聞けば、ヘルメットを被って実際の現場に行ったこともあります。他にも、大きな野外プールの設営に時間がかかると相談された時には、その場所の時間ごとの降雨情報を調べて提供したりしました。私たちの生活は、思っている以上に天気と密接に結びついているんです。天気の奥深さを実感するとともに、気象ビジネスにどんどんハマっていきました」
 

自分のスキルを磨くために、気象予報士の資格取得にも挑戦。合格率5%前後の難しい試験に合格するには、苦手な理数系の知識を中学時代から学び直す必要があった。それでも彼はあきらめない。忙しい仕事の合間にコツコツ勉強し、5度目の試験でようやく合格している。
 

「素直に嬉しかったですが、自分の中では気象予報士の資格を取得してようやく社会人としてのスタートラインに立てたと感じていました。資格を取った方を見ると、天気予報の現場に行って技術を学ぶ方と、お天気キャスターになる人が多いんですけど、私はどちらでもありませんでした。当時から、天気のコンテンツを企画して、みんなに分かりやすく届けたいという想いがありました」

合格から一転、寝たきりの生活へ。逆風でも成長の歩みを止めない


気象予報士になって新たなスタートを切った矢先、思いもよらぬ事態に見舞われる。椎間板ヘルニアの発症だ。
 

「高校時代に野球で椎間板ヘルニアになってしまい、一度手術をしています。それがまた、気象予報士に合格した頃に発症してしまって…。ある日くしゃみをしたら、そのまま動けなくなってしまいました」
 

約1年間は寝たきりで全く起き上がることができず、トイレにも行けなかった。そんな絶望的な状況でも、彼は成長の歩みを止めることはなかった。
 

「当時は、ここが底だなと思ったんですね。これ以上、底にはならないかなと思ったんで、ある意味仕方ない、時間が解決すると自分に言い聞かせていました。初めの1年間はとにかく痛かったので、痛みを取ることにまず専念して。ようやく落ち着いてきたその後のリハビリ期間で、当時急速に伸びていたインターネットのことを本格的に学び始めました」
 

それまでPCの知識はほとんど無かったが、独学でプログラミングの知識を習得。気象予報⼠を⽬指す⼈たちのためのWebサイトを独⾃に⽴ち上げた。サイト名も天気にちなんでおり、キャロット・クラウドという雲の名前に由来して「お天気キャロット」と名付けている。
 

「どうすれば多くの人に見てもらったり検索順位を上げられるのか、試行錯誤を繰り返しました。広告主をつけて収益化することにも取り組んで、最終的には月5〜15万円の広告収入を得ることもできたんです。リハビリ中の1年間は収入がなかったので助かりましたね。そこでWebページをつくるノウハウや広告をチューニングするノウハウなど、現在のビジネスに繋がる知識を学ぶことができました」
 

Webサイト内には、気象予報士としての知識を活かした連載コーナーも。その内容は「ずっと受けたかったお天気の授業」(東京堂出版)というタイトルで後に書籍化され、全国の図書館の推薦図書にも指定されている。
 

その後、「Yahoo!天気」がまだ「Yahoo!ニュース」の付属コンテンツに過ぎなかった時代にヤフー株式会社へ⼊社。プロデューサー兼ディレクターという中⼼的な⽴場で「Yahoo!天気」をフルリニューアルし、現在のスタイルへと導いた。
 

「日本のインターネットではYahoo!の影響力が大きいので、自分が中に入ってYahoo!天気を変えることにより、業界全体を伸ばすことができると思ったんです。当時はまだYahoo!ニュースの1コーナーというイメージだったので、コンテンツを充実させ、Yahoo!天気として独立させたいと考えました」
 

リニューアルのポイントは、テキストベースで表示されていた天気予報を、現在と同じように日本列島の地図上に表示させること。ユーザーの使いやすさを追求し、地図からのクリックで天気予報を確認できるように変更した。
 

「さらに防災情報も充実させています。例えば、今もYahoo!のサイトに実装されていますが、大きな地震が起きたりするとYahoo!トップを含むページの全てに『地震が発生しました』というバナーが表示されるようにリニューアルしました。その仕組みは部署の垣根を超えて全社横断で導入しており、『ヤフースーパースター表彰』という半年に一度の社内表彰もいただきました」
 

「tenki.jp」をたった2人でフルリニューアル


Yahoo!天気のリニューアルに大きく貢献した池田氏だったが、入社から2年間で独立。社内表彰を受けたのに勿体ないと感じてしまうが、彼の中では元々決めていたことだった。
 

「最初からYahoo!天気のリニューアルを目的に入社しているので、完成した時に十分すぎる達成感がありました。社内表彰もいただきましたし。そこからは、もっとWebサイト全般という広い視点で、ビジネスを展開していきたいと考えていたんです」
 

天気を含めたインターネット全般のコンサル事業を、個人事業主として始めようとしていた池田氏。その矢先、ビジネスで繋がりのあった日本気象協会から、インターネット関連の営業支援でオファーが舞い込む。
 

「インターネット関連の事業を、私が色々とサポートするということで話が進んでいきました。しかし、その際に個人事業では信頼性に欠けるということで、私の父親が経営している印刷会社『株式会社ありんく』を通して事業を行うことになったんです。その会社名が、現在のALiNK(アリンク)インターネットの由来ですね」
 

日本気象協会との共同事業の中で立ち上がったのが、tenki.jpのフルリニューアルだ。1996年に気象庁からの指示でスタートした公益事業だが、様々な媒体に押されてPV数が伸び悩んでいる状況だった。
 

「すごくもったいないと感じたので、今までの経験を活かしてBtoCのメディアとして強化することを提案しました。当時はWeb2.0※がすごく流行していた時期だったので、『天気をもっと楽しく』というテーマでフルリニューアルしたいなと。例えば、ユーザーが写真を投稿したり、天気の質問に気象予報士が答えるなど、楽しいアイデアを企画書や事業企画書の中に盛り込みました」
 

※Web2.0……Webの新しい利用法を指す流行語で、2005年から2年間ほど流行。情報が一方的に「送り手から受け手」へ発信されている状態から、誰もがWebサイトを通して、自由に情報を発信できるように変化した利用状態を指す。
 

tenki.jpのフルリニューアルは、池田氏の人生の中でも有数のハードシングスに数えられるという。というのも、事業計画の提案からリニューアル作業の完了までを、彼とエンジニアの2名でほとんど行ったからだ。Yahoo!天気のリニューアルでは8名以上の人員が配置されていたそうなので、驚くほどの少人数といえる。
 

「企画、営業、マネタイズを私が担当していて、もう1名のエンジニアは開発全般を担当していました。納期に追われながら1年余りをフルで働いたのですが、その間の記憶はほとんどないですね(笑)。サービス設計書についてもほとんど私1人で、分厚い書類をたくさん作りました。サービス設計書や画面のモックアップ※は、魂を削る仕事だと思っていて、本当に大変な仕事なんですね。それに、私たちのような小規模の事業者を信頼してくれた日本気象協会の皆さんのためにも、『絶対に失敗できない』というプレッシャーがありました」
 

※モックアップ……「模型」という意味を持つ単語。Web制作などにおけるモックアップは、機能部分を除くビジュアルの完成イメージ。

社会インフラ化を目指して、9人で株式上場


2008年にフルリニューアルされたtenki.jpは、使いやすいインターフェイスと日本気象協会の信頼性で、PV数が右肩上がりに上昇。毎年120〜130%増の成長率を記録している。
 

tenki.jpの事業拡大に伴って、2013年には現在の株式会社ALiNK インターネットを設⽴。池田氏は代表取締役社⻑に就任している。その後の2019年には、なんと9人で東証マザーズへの株式上場を果たしている。
 

上場にあたっては5人のメンバーで準備を開始。コーポレート部門などで人員を補強して最終的には9人になり、令和元年における最小規模の上場企業として話題になった。
 

「元々、社員を増やして一気に事業拡大させるようなイメージはありませんでした。必要な人数を徐々に雇用して、広げていきたいという方針ですね。上場の理由としては、我々がtenki.jpというメディアを持って上場することで、tenki.jpをもっとパブリックなメディアとして認知してもらい、社会インフラ化にもつながるのではないかと思ったんです。会社的にもマインドチェンジというか、方向性が決まったことが上場に向けての動き出しになりました」
 

上場の裏側について聞いてみると、苦労したのは少人数のハードな準備作業ではなく、天気によって変動しやすいPV数の問題だった。
 

「雨が降ったり台風がきたりすると、tenki.jpのトラフィックが何倍、何十倍にも上がります。それに応じて売上が変動するので、数字を読めない部分が多いんです。しかし、上場するためには、予実管理※というのを求められるんですね。毎月、予定に対して前後10%の幅できちんと売上を積んでいくことが1年間必要です。その予実管理を何とかするために、ありとあらゆるデータを集め、ロジックと計算式を加えていきました。例えば、天気の移り変わりに関しては、過去数年分の天気データから平年値を取り、他のデータも加えながら計算式をつくり、最終的な売上に落とし込んでいます。最初はものすごく苦労しましたね」
 

上場後も右肩上がりの成長を続けてきたALiNK インターネットには、他の企業に比べて特徴的なことがある。それは、Webサイト開発、SEO、広告運用、グロースハックなどの業務を外部に委託せず、全て社内で行っていることだ。
 

「Webサイトを運営する上で、SEOもそうですけど、どうやって人を呼ぶのかということは肝だと思っていて。いわば、弊社の事業にとって魂の部分かもしれません。外部にアウトソースしてしまうと、一時的に上手くいっても点でしかなくて、その後の線につながらないと感じています。それに、天気とマッチングした広告を運用することは、一般企業では難しいんですよね。弊社では気象データの扱いが得意な人材が、広告と一緒にデータを分析・チューニングしながら運用しています」

企業成長を支えるのは、人間的な社内文化


ALiNK インターネットではコロナ禍ということもあり、役員とコーポレート部の社員が日替わりで出社する以外、全メンバーがフルリモートワークで勤務している。在宅勤務が基本でありながら、人間関係を深めていくことを重要視しており、オンラインイベントが定期的に開催されている。

「例えば、昨年の夏には暑気払いで『すき焼き会』をやろうということになり、すき焼き用の黒毛和牛や野菜などのセットを、全社員の自宅へ送りました。今年の夏はスタミナを付けるべく、鰻でしたね。他にも、春には桜の花と団子を送って、みんなでお花見気分を味わったりしています。プライベートの会話も交えながら、アットホームに楽しめるのが魅力ですね」
 

円滑なコミュニケーションで信頼を育むことが、順調な企業成長につながっている。現在20人ほどの少数精鋭の同社だが、池田氏がそれぞれのメンバーに求めている能力は、どういったことなのか。
 

「リーダーやマネージャー以上のメンバーに求める要件としては3つあります。スキル、情熱、そして倫理観ですね。スキルと情熱はどんな仕事にも求められる普遍的なことだと思いますが、倫理観は弊社にとって特に重要なバリューの一つです。tenki.jpが共同事業ということもあり、相手と本音の部分で議論していかないと事業が上手くいきません。しっかりと倫理観を持ち、誠実に、嘘をつかずにきちんと協議して事業を進めていく。それを重要視しています」
 

メンバー全員の確固たる倫理観が、tenki.jpの信頼感にもつながっていくのだろう。最後に今後のビジョンについても伺った。
 

「気象情報の総合プラットフォームとして、自然災害時にも正確な情報をいち早く届けられるように、防災に今までと変わらず注力していきたいと思います。それ以外では、ゴルフやスキーなどのレジャー領域とコラボしながら、事業を展開していきたいですね。例えば、ゴルフ×tenki.jpでいうと、ゴルフ場の天気だけではなくゴルフ場の詳細情報を表示させたり。スキー場なら、その画面からすぐに予約できれば便利かもしれません。そんな風にレジャー業界とも連携しながら、tenki.jpの社会インフラ化を進めていきたいと思っています」
 

気象情報の提供を通じて、とにかく人に喜んでもらいたいと願う池田氏。その成長の根底にあったのは、社会貢献への強い想いだった。人々の天気の不安を解消し、「未来の予定を晴れにする」ため、これからも逆境に負けず進んでいくに違いない。
 

取材・文:平原 健士、撮影:岡田 晃奈(支給画像あり)

会社名 株式会社ALiNKインターネット
本社所在地 東京都新宿区山吹町337 都住創山吹町ビル801
役員 代表取締役 :池田 洋人
取締役CFO :中村 和徳
取締役CSO :富田 知尚

事業内容 インターネットメディアの企画/ 開発/ 運営
ウェブコンサルティング
インターネット広告代理
資本金 13億7873円
設立年月 2013年3月

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