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- 2024.12.23
“心を照らす医療”を全国に届ける。オンライン×対面で進化する総合精神医療プラットフォーム | アトラスト・ヘルス株式会社
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それらの課題を解決するために、オンライン×対面の総合精神医療プラットフォーム「WeMeet(ウィーミート)」の開発・運営サポートを行なっているのが、アトラスト・ヘルス株式会社だ。対面診療では「予約」、オンライン診療では「予約」の他に「受診」「薬の処方」などの一連のフローが全てオンラインで完結。受診のハードルを下げることにより、不眠や不調などの前触れ症状からの未治療期間(DUI※2)が、30か月→13か月になるなど、早期治療とアクセシビリティの向上に大きく寄与している。
医療機関のデジタル化もサポートしている同社だが、ただDXを推進するだけの医療ベンチャーではない。その根底には、患者への深い理解と「心を照らす医療」を拡張したいという強い思いがある。
「世界が灰色になったように感じ、生きる喜びを失った人たちが、日常のささやかな幸せを取り戻せる世界を創っていきたい」そう語る同社の代表・バローチ ニール氏に、前例のない精神医療におけるプラットフォームを開発・運営するまでの道のりについて伺った。
※1 出典:中央社会保険医療協議会(中央社会保険医療協議会総会)
※2 不眠や不調、漠然とした不安といった精神疾患の前触れ症状の出現から治療を開始するまでの「未治療期間」。DUIは一般的に30か月といわれているが、WeMeetを通じて診療予約を実施した提携院の患者の場合は13か月ほどで1/2以下。
【プロフィール】
バローチ ニール
アトラスト・ヘルス株式会社 代表取締役
中央大学商学部卒。高校生の時に起業に関心を持ち、大学1年次にスニーカーマーケットでの情報交換、購入、販売をサポートするスニーカー愛好家向けのオンラインプラットフォームの立ち上げやプロダクトの設計に従事。
2019 年7月にアトラスト・ヘルス株式会社を創業。「“心を照らす医療”を拡張する。」、「個を深く見つめ、広く人類の心を救う。」という2つのMissionを掲げ、自宅から手軽に精神科医療を受けられる精神科・心療内科系疾患特化型のオンライン×対面総合精神医療プラットフォームと、医療現場のデジタル化をサポートするクリニックDX支援を提供。
友人が直面した「通院のハードル」が創業の原点
バローチ氏が精神科医療に対して課題を持つようになったきっかけは、中学生の頃にさかのぼる。仲の良かった友人が、うつ病を患っていたのだ。
「彼はうつ病で通院していたのですが、通院するようになるまで私はそのことに気づきませんでした。『早く気づければ』という思いもありましたが、彼にしてみれば周囲に知られたくなかったのかもしれません。世の中には精神疾患に対する偏見や差別が根強く残っているからです。通院している様子を見ていても、定期的に通うのがかなり大変そうだったので、受診までには物理的なハードルのみならず心理的ハードルが非常に高いと思いました」
精神科医療へのアクセスに課題を持っていたものの、最初から現在のビジネスに取り組んだわけではない。大学時代に立ち上げたのは、興味関心を持っていたスニーカーマーケットでの情報交換、購入、販売をサポートするオンラインプラットフォームだった。
「学生時代から起業には興味があり、希少価値の高いスニーカーを売りたい人と欲しい人のマッチングをサポートするCtoCのプラットフォームに挑戦しました。立ち上げ当時は、顧客が求めるスニーカーと出品者を集めることに苦労しましたね。偽物が出回らないように鑑定書などで品質を担保しながら、配送に関わるロジスティックスも構築していきました」
プラットフォームの構築にやりがいを感じていたものの、スニーカーという一つの商材に特化した事業展開に行き詰まりを感じることも。また、それ以前に事業を通して解決しようとする「課題の深さ」に疑問を抱くことが度々あったという。
「当時取り組んでいたプラットフォームは、スニーカーを通して人々の生活を豊かにすることが大きな目的でした。しかし、いざサービスを立ち上げてみると、もっと深い課題を解決したいと思っている自分に気づいたのです。私の心の奥底にあったのは、中学生の頃に直面した精神科医療における課題でした」
自らの人生をかけて取り組むべきことが定まったバローチ氏だったが、精神科医療の分野における事業立ち上げには大きな課題が。この領域に特化してビジネス展開している企業の前例がほとんどなかったのである。
「成功企業がほとんどいなかったので、初期の情報収集に苦労しました。ただ調べてみると上手くいかず撤退しているケースが複数あったので、最初はその要因を細かく分析していました。それと同時に進めていたのは、患者さんの医療体験を徹底的に調べること。例えば、最初にどんなきっかけで来院し、通院中にはどのようなステップがあるのか。既存の医療体験を整理し、課題が深いところにソリューションを提供するなど、一つずつシミュレーションを重ねていきました」
バローチ氏が最初に取り組んだのは、精神疾患の予防サービスだった。「診療」は医師の専門分野なので、自分たちは「予防」につながるプロダクトや患者同士のコミュニティを構築すれば、精神疾患を理由に悩む人を減らせるのではないか。そのような仮説に基づいて機能開発を進めていったが、患者にヒアリングしてみると実際のニーズは別のところにあった。
「患者さんが深い課題を持っているのは、医療体験そのものでした。私の友人と同じように、多くの患者さんが通院自体に物理的・心理的ハードルを感じていたのです。そのことを知り、『予防』から『医療』へプロダクト開発をシフト。患者さんがスムーズに受診できるように全体を再設計し、DXの要件定義を進めていきました。確度の高い部分は、エンジニアも交えてスモールにプロダクト開発を繰り返していましたね」
100名近い投資家に断られてもあきらめない
精神科・心療内科のクリニックに特化した新たなDX支援サービスを開発するにあたって、多くの投資家に協力を打診。しかし、その結果は非常に厳しいものだった。
「100名近い投資家に会いましたが、そのほとんどが『協力できない』『上手くいかないだろう』というネガティブな反応でした。その背景として、精神科医療の領域で事業を展開している企業がいなかったことが大きく影響しています。『課題はわかるけど、事業としては成立しないだろう』というフィードバックが多かったですね」
バローチ氏はそれでもあきらめなかった。精神科医療の新たなソリューションを提供することで、どうしても実現したいビジョンがあったからだ。
「私たちは精神科医療をきっかけにして、人々の心を照らしていきたいと考えています。例えば、私が知っている患者さんの話をさせていただくと、その人は精神疾患になってから世界がモノクロになり、何をしても楽しくない状態になってしまいました。しかし、ある医師から『何か趣味を見つけてみたら』と言われて、たまたま本を読むことに。そのうちに読書が趣味になり、ついには本屋を作ることが次の人生の目標になったのです。私たちはこの患者さんのように、精神科医療へのアクセスをきっかけにして、ささやかな幸せを取り戻せる人を増やしていきたいのです」
当然ながらビジョンだけでは、投資家たちを納得させることはできない。彼は定量的なデータや患者たちのリアルな声も意識的に伝えていった。
「私たちのように普段から患者さんとの関わりがある人と違って、身のまわりに患者さんがいない場合だと精神科医療の世界はまだまだ遠く、説明してもピンとこない方が少なくありませんでした。そのため、明確なペルソナを立ててそのような患者さんがどれくらいいるのか、市場規模も含めて定量的な情報を伝えることを意識していました。それに加えて、精神科の患者さんたちの声をアンケートや電話などで収集。『まわりの偏見が気になって通えない』などのリアルな声も、プライバシーに配慮しながら伝えるようにしていました」
さらに半年ほどの時間をかけて、精神科の医師にも協力を打診してネットワークを構築。患者側の課題だけではなく、アナログ・属人的なオペレーションが残っている医療現場の課題にもフォーカスしてサービスの価値を伝えることで、少しずつ協力してくれる投資家が増えていった。
その結果、2020年から2度にわたって資金調達に成功。2022年にクリニックDX支援サービスをローンチしている。
「医療機関におけるデジタル化の遅れは、解決すべき課題として医師の皆さんも認識していらっしゃいます。具体的には電話予約、紙での問診票、現金のみの決済方法など。それぞれ人員リソースが必要になるため、オペレーションが複雑になりがちです。患者さんにもネガティブな医療体験を提供してしまうことも多く、初診の予約で数カ月待ちのクリニックもあります。それらの課題を解決するためには、開業時から支援してスマートなDX体制を構築した方がはるかにスムーズです。医師の皆さんには診療に専念してもらい、それ以外の部分はオペレーション設計からマーケティング施策、採用のお手伝いまで幅広く支援しています」
患者のため現場に近いところで開発を進めていく
2023年1月には、オンライン×対面の総合精神医療プラットフォーム「WeMeet(ウィーミート)」をローンチ。診療行為は提携医療機関が実施し、アトラスト・ヘルスが開発・運営をサポートしている。
「精神疾患では受診ハードルの高さにより、精神症状が顕在化するまで患者が医療にアクセスしにくいという課題があります。『WeMeet』のオンライン診療ではオンライン上で受診予約から処方まで完結できる仕組みなので、精神疾患の早期発見と迅速な治療開始が可能に。早い段階で適切な主治医と出会うことが、リカバリーへの重要な一歩となります」
「WeMeet」には多くの医師が協力し、精神科医療へのアクセス向上に貢献しているが、その開発過程では頭を悩ませる場面もあったという。
「非常に難しかったのは要件定義の部分です。医療業界はステークスホルダーが多いので、患者さんの声と医療現場の状況、さらにはプラットフォームの運営会社など、さまざまな意見を反映しながらバランスをとって開発を進めていく必要があります。いろいろな人を巻き込みながらのプロジェクトなので悩むこともありますが、現場の温度感を感じながら開発を進められるのは大きなやりがいにつながっています」
多岐にわたるステークスホルダーの意見を精査しながらも、開発チームで最も大切にしているのは「患者にとっての最適な医療体験」だという。
「医療の現場において各ステークスホルダーの意見を全て反映していたら、結果的に全体の医療体験が損なわれる可能性もあります。例えば、患者さんの声を一時的に反映するよりも、ガイドラインに則って医学的なアプローチを続けた方が、最終的には正しい医療体験を作れることもあるわけです。患者さんの症状がどの程度改善するのか、生活の質がどれだけ良い方向に変わるのかなどの『治療アウトカム』を何より重視して、各所との調整を進めるようにしています」
患者の医療体験を向上させるため、保険診療機能、心理状態のセルフチェックサービス、院外処方機能などの機能開発を次々と実施。その結果、2022年1月のリリースから診療回数は昨対比280%以上に増加し、累積10万回を超えている。
「プラットフォームのUI/UXでは、患者さんのことを考えて視覚的な負担を感じにくいページを常に意識しています。例えば、テキスト量が多いと億劫になることもあるのでイラストも活用するなど。文章のトンマナでも、できるだけトゲのないやわらかい表現を入れるなど、細かい部分まで配慮しています」
多くの患者に利用されている「WeMeet」だが、開発者とエンドユーザーとの距離が近く、ときにはダイレクトな反応が届くことも。
「ある患者さんから届いた退会のメールが特に印象に残っています。退会のメールなのでネガティブな内容かと思ったのですが、実際はその逆でした。元々この患者さんは精神科に片道2〜3時間とほぼ半日かけて通院されていたのですが、『WeMeet』に出会ったことでオンライン診療に。無理なく通院を続けたことで症状がほとんど消失し、精神的に安定した状態の『寛解※』に至ったので退会を希望されていたのです。『泣きながら書いてます』というようなメッセージもあり、嬉しさで胸が熱くなりましたね」
※治療によって病気の症状が一時的または永続的に軽快したり、消失したりした状態。
中長期的には、患者の状態変化にもフォーカス
新たにCTOを迎え、開発体制をさらに充実させているアトラスト・ヘルス。さらなる機能拡充を進める一方で、医療ドメインとして「守り」の部分も常に意識しているという。
「セキュリティ要件の遵守や個人情報の取り扱いなど、患者さんに信頼していただけるシステム環境をしっかり整備しています。また、最初のプロダクト開発から2年ほど経っているので、改修が必要な部分も。『WeMeet』に携わっている医師や医療事務の方々の声も取り入れながら、現場に近いところで改修・開発を進められるので、一般的なSaaS企業や受託開発会社では経験できないシステム開発の醍醐味を感じられると思います」
2024年5月に事業成長が評価され、シリーズAの資金調達を実施しているが、今後の展望をどのように描いているのだろうか。最後にバローチ氏に聞いてみた。
「私たちが現在注力しているのは、医療機関と患者さんとのマッチングですが、今後取り組んでいくべきなのは治療アウトカム(患者の状態の変化)です。つまり、中長期的には症状がどれだけ緩和していくのかなど、寛解率にもフォーカスしていきたいと考えています。チャレンジングな取り組みではありますが、自分の家族や身のまわりの友人が精神医療を受けることを想像していただければ、私たちの取り組みがどれだけ重要かわかっていただけると思います。新たなインフラを社会に浸透させていくため、より多くの方にジョインしていただき、正しい医療を正しく届けていきたいと考えています」
取材・文:VALUE WORKS編集部
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会社名 | アトラスト・ヘルス株式会社 |
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本社所在地 | 東京都中央区日本橋浜町三丁目23番1号 |
役員 | 代表取締役:バローチ ニール |
事業内容 | 総合精神医療プラットフォームの開発・運営支援 クリニック DX 支援サービス事業 |
設立年月 | 2019年7月 |