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  • 2023.09.19

脳医学×AIで社会を変えていく。東北大学発のスタートアップが拓くヘルスケアの新領域 | 株式会社CogSmart

高齢化が進む日本において、年々増えている認知症患者。アルツハイマー型認知症などを完全に治す治療法が発見されていないこともあり、早期予防法で健康な脳を維持・向上させることが最も有効だと考えられている。

東北大学発のスタートアップCogSmart(コグスマート)社では、「認知症にならない健康な脳づくり」「生涯健康脳」の社会的な普及を推進。医学的知見と研究成果をもとに、頭部のMRI画像をAIで解析するソフトウェア『BrainSuite®(ブレインスイート)』を開発・提供している。

同社の取締役を務める樋口彰氏は、弁護士として海外で活躍していたキャリアを持ち、多様な企業とのオープンイノベーションにも注力。海外へ羽ばたくスタートアップとして香港も起点にサービスを展開し、中東などでのサービス実装も見据えている。

弁護士としてキャリアを積んでいた樋口氏は、どのように医療・ヘルスケアサービスを展開するCogSmartと出会い、チームをけん引するに至ったのか。そこには、脳健康を世界に届け、豊かな暮らしを実現しようとする社会変革のビジョンがあった——。

【プロフィール】
樋口 彰
株式会社CogSmart 取締役
東京大学法科大学院 修了後に国内大手の法律事務所入所。2019年より英国系法律事務所の香港オフィスにてVCファンド・スタートアップ法務の専門となりCogSmart香港進出を支援。2020年CogSmart香港の代表に就任し、2021年本社代表取締役CEOに就任。2023年9月から現職。日本法弁護士・英国法弁護⼠(Solicitor in England and Wales)。オックスフォード大学修士課程修了(MSc)。東北大学加齢医学研究所分野研究員。

“早期予防”が大切なのは法務もヘルスケアも同じ


法科大学院を卒業した後、海外の案件も扱う大手弁護士事務所で働き始めた樋口氏。担当していたのは、事業会社が適切に金融取引を行えるよう契約書作成したり、リーガルチェックなどを行ったりする金融法務の業務だった。
 
「訴訟や紛争などの争いごとが嫌いだったので、訴訟などになる前のできるだけ早い段階で予防策を講じる法律業務を専門としていました。例えば、金融規制への対策が遅れたりすると、課徴金が何億・何百億円も生じるなど、深刻な事態に陥ってしまうからです。“早期予防”が大切なのは、現在のヘルスケア事業に通じることかもしれません」
 
2014年からは、イギリスのオックスフォードへの留学やイギリス・オーストラリアの法律事務所への出向も経験。当時、日本よりも先に海外でブロックチェーンや仮想通貨に関するFinTech(フィンテック)がブームになっていたという。
 
「その後、日本でもFinTech系の企業が増えてきました。2016年に帰国した頃には、スタートアップの案件も多くなり私も携わるようになりました。AIや仮想通貨について興味があったので、自分から積極的に業界のことを調べるようにしていましたね」
 
その後、起業家の知見も深めるため、留学先だったオックスフォード大学の短期MBA・FinTechコースをオンラインで受講。世界中の受講者とディスカッションするなかで、同じグループだったメンバーたちと共に新たなビジネスを考えるようになる。
 
「起業には至りませんでしたが、様々なフォーラムに出席するなかでヘルスケアテック企業と出会い、その会社で法務も担当しながら経営も少しだけ経験することができました。そこからさらに自分の視野を広げるため、今度は香港の法律事務所で働くことにしたのです」
 
香港に行く前、樋口氏は知人の紹介からCogSmart創業前の瀧氏と初めて会うことに。最初は参画する意思はなかったが、『樋口さんと一緒に起業したい』と語る瀧氏のビジョンや熱意に心動かされたという。
 

(右)株式会社CogSmart代表取締役・最⾼科学責任者(CSO)瀧 靖之氏、(左)樋口 彰氏

「ジョインを決めた理由は大きく3つあります。1つ目は、CogSmartの事業を推進することで、社会全体の医療費や介護にかかるコストを大きく削減できること。認知症の介護の現場では、家族や近親者が仕事を休んで介護するような厳しい状況もあります。
 
心身ともに疲弊する介護の負担を早期予防で未然に防ぐことができるなら、それに越したことはありません。リスクを知り、生活習慣を改善することで『生涯健康脳』のサイクルを創る。他にはない総合的な事業内容に魅力を感じました。
 
2つ目に、CogSmartの事業に取り組んで行くことで人々の個性を科学的に解明できること。あまり知られていませんが、人の個性は『脳の個性』ともいわれています。つまり、『あの人は変わっている』と言われてコンプレックスを感じる必要は全くないわけです。その事実を多くの人に知ってもらい、科学的に他者へ寛容に接することのできる社会を実現したいと思いました。
 
3つ目に、東北大学発のしっかりしたエビデンスに基づいてサービスを提供していること。元々科学が好きだったことも参画のきっかけになっています」

企業の成長と信頼を支えるのは「人柄」

「CogSmartのサービスなら世界で戦える」と当時から感じていた樋口氏。海外で事業展開することを考え、香港に渡ってすぐに活動をスタートしている。
 
「日本と香港にネットワークを持っていたので、投資家や政府関係者をCogSmartに紹介するようにしていました。そのなかで香港の領事館の方が瀧の著書を愛読されていたということもあり、新たにスタートしたインキュベーション施設のプログラム『香港サイエンスパーク』に推薦してくれたんです。同プログラムで香港に進出するためには、現地に支社を作る必要があったので私も支社の設立に携わっています」
 
2020年にCogSmart香港を立ち上げ、安定的な稼働を見届けてから帰国。2021年にCogSmart本社に加わっている。樋口氏が瀧氏に選ばれたのは、民間企業や官庁を問わず、事業や政策立案を進めてきた経験が豊富だったから。それに加え、瀧氏が何より評価していたのはその「人柄」だった。
 
「私の人柄が良いかどうかはともかく(笑)、CogSmartの採用方針として、能力やモチベーション、ロジカルシンキングだけではなく、人柄を何より重視しているというのは間違いないと思います。この人なら、どんなに困難な状況でも諦めず、一緒に進んでいける。そんなパーソナリティを持ったメンバーをCogSmartは求めています。実直な人柄は強いチームの土台になるのではないでしょうか」
 
2021年2月、瀧氏が東北大学 加齢医学研究所で長年積み重ねた医学的知見と研究データをもとに『BrainSuite®』をローンチ。頭部のMRI画像をAIで解析する画期的なソフトウェアとして、さまざまな医療機関で一般患者に提供されている。

「フィリップスジャパン社との業務提携で販売網が一気に広がり、現在約35の医療機関で『BrainSuite®』が稼働しています。(2023年9 月時点) すでに60施設と契約していますので、導入していただく医療機関は右肩上がりに増え、2024年早々に100施設を超えると思います」
 
多くの医療機関で支持されている理由として、高い精度のAI画像解析技術とそこで活用している脳画像データベースの“質”があげられる。
 
「同じ人の脳について何年も継続的に調査した経年データを使用しているシステムは、他社ではほとんどありません。これらのデータは、2000年代から着実に研究を続けてきた私たちの大きな強みだと思います」
 
※東北⼤学で収集した健常な脳の横断データ約3,300例、縦断データ(8年)約400例と⽣活習慣情報を紐づけた「健常⼈データセット」に基づき、個⼈の属性・⽣活習慣などによって脳にどのような変化をもたらすのかを評価。
 
さまざまな業界とのオープンイノベーションの取り組みも積極的に推進。近年では、保険業界やフィットネス業界とのコラボレーションも進めている。
 
「私たちのサービスはあらゆる業界と連携することができ、幅広い取り組みが可能です。その根本にあるのは『健康』への想い。例えば、保険でいうと病気になって重症化してしまうと多額の治療費が必要となり、そのため保険金が支払われます。
 
しかし、その前の段階で生活習慣を改善したり、日常的にフィットネスなどで体を動かしたりすれば、病気のリスクが下がり老後も健やかに過ごす可能性が高まり、この場合には保険金の支払いは不要にはなります。さまざまな業界とのコラボレーションは、今後も積極的に進めていきたいですね」

フォローアップで一人ひとりの健康に寄り添う


さまざまな医療機関で導入が進んでいる『BrainSuite®』の大きな強みは、記憶をつかさどる脳の部位「海馬」を、AI画像解析技術により精密に解析できることだ。
 
記憶力や判断力などの認知機能が低下する兆候は、「海馬の萎縮」として最も早く現れる。しかし、従来の脳ドックではその兆候を見つけることは困難だという。
 
「海馬は小指程度の大きさしかないので、少しずつ萎縮が進んだとしても通常のMRIと医師の目視確認だけで判別するのは困難です。通常の脳ドックでも、分かるのは疾病の有無だけ。数万円払ったのに、『異常なし』の一言で終わってしまうことも少なくないのです。『BrainSuite®』なら、人の目では判別できないほどの細かい脳の変化をAIで判別し、海馬の萎縮にいち早く気づくことができます」
 
測定後に渡している結果レポートでは、同性同世代と比べて自分の脳がどれくらい健康なのかも分かるそうだ。

「日々の運動不足、ストレス、過度の飲酒などは、脳の萎縮にも影響を与えることが分かっています。不規則な生活を続ける40代、50代の方々にその傾向は見られており、私自身も20代からの生活習慣の乱れから海馬の萎縮状態が最低ランクでした(苦笑)。それ以来、私も反省して脳に良い運動や生活習慣を心がけて続けています」
 
『BrainSuite®』の結果をきっかけに若いうちに生活習慣を改善することで、脳のパフォーマンスを維持することができるという。
 
「海馬は萎縮するだけではありません。生活習慣を整えることで海馬の神経細胞に変化が起き、記憶力を維持・向上させることができることもわかっています。そのため、脳の状態を測定した上で、重要なことは、脳と体の健康を考えながら生活習慣を改善していくこと。そのためのフォローアップ面談を当社の医師や看護師が初回無料で実施しています」

また、『BrainSuite®』は急速に進む高齢化社会のなかで、認知症以外にも効果を発揮するサービスとして期待されている。
 
「脳の萎縮を防ぐための運動や生活習慣の改善は、フレイル※の予防にもつながります。心身ともにアクティブな状態になれば、引きこもったり介護状態に陥ったりするのを防ぐことも。これから超高齢化社会を迎える日本のなかで、CogSmartが貢献できることはまだまだあるのではないでしょうか」
 
※フレイル……加齢とともに運動機能・認知機能など心身の活力が低下している状態。要介護状態になる前段階で生活習慣の改善が求められる。

「ワクワク」と「誠実な行動」で社会を変える


2023年秋には生活習慣を改善する新たなアプリをローンチするCogSmart社。『BrainSuite®』以外にもAI活用を検討しているものの、医師による個別のアドバイスも大切にしながら設計を進めていく予定だ。
 
「AIは業務効率化のツールとして非常に重要な役割を果たしますが、そこに頼り過ぎないようにしています。東北大学の現役教授・医学博士の瀧が代表を務めていることに加え、医師など臨床実務を経験しているメンバーから、営業、マーケティング、そしてソフトウェアエンジニアなどまで幅広く所属しているので、総合的な力で受診者をしっかりサポートできます」
 
今後さらなる成長が期待される同社で求められているのは、どのような人材なのか。
 
「CogSmartは『脳から社会を変えていく』ことをバリューにしているので、新たなチャレンジについて『面白い』と感じられる方がマッチすると思います。積極的にオーナーシップを発揮しつつ、ワクワク感を持って働いてほしいですね。
 
ただ、ヘルステック領域ということもあり、ファクトを大切にする『誠実な行動』も重要になってきます。また、海外事業などで外国人メンバーも3割ほど在籍しているため、多様な価値観を大切にしながら活躍してほしいと考えています」
 
最後に、同社が掲げているパーパスと樋口氏の思いについて聞いてみた。
 
「パーパスに掲げているのは、『医学とテクノロジーの力で誰もが健やかにそして心豊かに暮らせる社会をつくる』。脳の萎縮に気づき、生活習慣を変えるきっかけを私たちが提供していく。そうすれば健康な状態を維持できますし、家族や知人など周囲の豊かさにもつながります。社会をもっと健康に変えていきたいと考えている人に、ぜひジョインしていただきたいですね」
 
取材・文:VALUE WORKS編集部

会社名 株式会社CogSmart
本社所在地 東京都千代田区平河町1-6-4
役員 代表取締役・最⾼科学責任者(CSO) 瀧 靖之
取締役 樋⼝ 彰
事業内容 脳ドック用プログラム「BrainSuite®(ブレインスイート)」の開発・提供
BrainSuite® HP :https://www.brainsuite.jp/
脳の健康3分チェック :https://cogtest.brainsuite.jp/welcome
脳科学・医学的エビデンスに基づくデータサイエンス事業など
設立年月 2019年10月
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