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- 2023.01.31
複業とDXで飲食業界に貢献する。20代起業家が目指す「飲食業界の働き方改革」と「ビジネスモデルの転換」 | 株式会社Core Driven
代表の吉田さんは学生時代に飲食店でアルバイトをした経験から、飲食業界の可能性に魅了された。飲食店の情報提供をする会社に就職し、営業として店をまわる中で様々な課題に出会い、起業を決意したのだという。吉田さんが目の当たりにした飲食業界の課題とはーー彼を突き動かすモチベーションの源泉について、話を聞いた。
【プロフィール】
吉田柾長
株式会社Core Driven代表取締役。ぐるなびやベンチャー企業の経営企画・マーケティング担当、地域活性団体の共同代表など、多彩な経歴の持ち主。これまでの経験を活かしセールス、リサーチ、開発時の要件定義まで幅広く対応。飲食店のプロによる飲食DXサービスの普及促進サービスを提供しながら、飲食業界の複業支援サービス、Restaurant Career Lab.を運営。コーチングやスキル獲得スクールなどもサポート。飲食店を知り尽くしたメンバーによる無料相談も行う。現在、飲食店で働く人々に向けてこうした多岐にわたるサービスを提供しているなか、「飲食店の可能性を広げる」「多様な働き方を体現する」という2つの軸を置いてビジネスを展開している。
飲食業界には、一生飽きない面白さがある
子供の頃から「これがやりたい」という特別な思いはなく、青山学院に入学したのもなんとなく。まさか自分が起業するとは夢にも思わず、「卒業したら一般的なサラリーマンになる」と漠然と将来を描いていた。そんな吉田さんが最初に飲食店に興味を持ったのは、大学3年の時のアルバイト。「決められたことをただこなす仕事はやりたくなかった」。「地元を歩いて探して働いてみたい」と飛び込んだイタリアンと、渋谷センター街のカフェというタイプの異なる2店で経験を積んだ。
「イタリアンではシェフから聞いた話を噛み砕いて、お客様にこういう情報が欲しいだろうということを伝える技術を、カフェでは料理だけではなく場所としての役割が求められていることを学びました。飲食店が持つ可能性を実感したのは、そのときが初めてです。さまざまな形態やジャンルがあって、変化も激しい。この業界は一生飽きない面白さを持っていると感じました」
就職活動ではもう少し意識を高めて仕事に取り組みたいと、多種多様なインターンシップを経験するに至った。その中で、1番興味を持ったのが飲食店の情報を集めたウェブサイトを運営するぐるなびだった。ぐるなびには商材がたくさんあり、課題に対するどのようなソリューションがあるかを提案することに喜びを見出したという。販売する商品の裁量権が大きいところに惹かれて、就職活動は、ぐるなび1本に絞って早々に内定を受けた。
「飲食店で仕事をしてみて、他の業種には感じない多様性に魅力を感じました。飲食ほど自己表現している業種はない。ぐるなびでは、それを支える仕事ができると思ったんです。飲食業界は、労働環境や利益率がどうしても他業界よりも厳しくなってしまうんですけど、そんな中でも誇りを持って働いている方々が多い。単純に尊敬したんです。ぐるなびのインターンシップで、“飲食店の想いをユーザーに届ける”という理念を聞いたときに、『ここしかない』と入社を決めました」
マーケティングでは、”プロダクトアウト”と”マーケットイン”という概念がある。”マーケットイン”は、市場が見込めるからやる、”プロダクトアウト”は、自分がやりたいからやる、という考え方だ。多くの業種では、”マーケットイン”型の考え方が取り入れられるのが普通だが、飲食店は、「自分がやりたいからやろう」という人が数多くいる”プロダクトアウト”の業種だ。
「自分はこういうお店作りをしたいとか、こういう料理を作りたいといった、自己表現をしたい人たちに惹かれて、”プロダクトアウト”のサポートができないかと思ったことが起業につながります。昔の日記を読んでいても、飲食店について惹かれるポイントは、今と変わらない。全然ブレていません」
営業職を経験して得た気づき
「ぐるなびでは、お客様に育ててもらった」という吉田さん。飛び込み営業をして、「ぐるなびに掲載しませんか」と1日50軒ほど訪問、電話営業は150軒にのぼる。自分で作ったチラシを持っていき、飲食店のトレンド記事が更新されると、最新ニュースをまとめて店をまわった。
「新卒当時はレモンサワーが人気で、レモンを凍らせてタワーを作ることがはやったり、面白レモンサワーが考案されたり、そんな情報を集めて挨拶回りをしました。数打てば当たる。とにかくバッターボックスに立ち続けること。今でもこれは意識しています」
結果、ぐるなびでは新卒で唯一22ヶ月連続営業目標を達成。休日も新規顧客を開拓し続けた。店に飛び込んで直接話を聞くことにやりがいを感じたという。
「印象に残っている新規開拓店は、神楽坂に出店したチャーハンの専門店。本格的に修業をしておいしいチャーハンを出していたのですが、チャーハンの需要がない立地だったんです。駅前にあれば、サラリーマンが立ち寄って食べていくこともあるのですが、ちょっとはずれた住宅地。結局、”チャーハンのおいしい居酒屋”に方向転換したものの、チャーハンはそれほど出ない。すすめられるから頼む人もいるのですが、軽いつまみになるだけ。それはオーナーさんのやりたいことではない。夢を持ってやりたいと思って、結局挫折で終わった残念なケースでした」
そういう一面を見て、多くの業界課題を解決するために、”最適配置”が必要だと考えた。楽しいから出勤するという”プロダクトアウト”の性質があるからこそ、次々と飲食店はオープンし、激しい競争世界が繰り広げられている。
そんな飲食店の店舗を盛り上げたいのではなく、経営者やスタッフに目を向けて、「経営者がやりたいことや飲食店スタッフが生き生きと働ける環境を作りたい」そう考えていたところ、営業から企画の部署に異動になる。
今後の日本の飲食店を担う料理人を発掘する若手のコンペティションを担当し、料理人の活躍の場をひろげていくプロジェクトにかかわった。目の前のお客様が喜んでいる、ダイレクトにフィードバックをもらえるのが醍醐味だった。
「料理コンペティションで受賞した人たちを、ぐるなびが別の事業につなげていくんです。たとえば、自治体やメーカーなどとともに、プロモーションに起用していきます。新商品の醤油を出したときに、記事広告で実力ある若手シェフに醤油を使ってパスタを作ってもらう。この醤油はこんな特徴があるから、おいしいパスタができました、と宣伝してもらうんです。また、自治体がお祭りをするときに、料理人が出店して食材の良さを伝えるなど、飲食店で働いている人が厨房の外で活躍する場を作る。最適なシェフを提案して、プロジェクトをディレクションする仕事でした。料理人が店以外で活躍できる場はあまりないので、とても喜んでもらえました」
しかし、ぐるなびではどんなに情熱を持って手掛けた仕事でも、結局は上から予算を落とされて従うだけだった。イベントで出会ったシェフたちに刺激を受けた吉田さんは、次第に企業の中で頑張るよりも独立したいという気持ちが芽生え、ベンチャーで勉強しようと次の会社に移った。
「飲食横丁の開発プロデュースや出店支援を行っていたアスラボに転職しました。横丁のなかに出展する店舗を集める仕事で、候補リストを作るマーケティング職です。営業にパスをするためのリードを取る、見込み顧客をたくさん作っていくことがミッションでした」
独立を見据えていた吉田さんは、言われたことだけをやっているだけはいけないと、会社の外での経験を積むため、さまざまなジャンルのイベントに参加した。複業可の条件で採用してもらっていたこともあり、ボランティア団体の代表にも就任する。
「中でも地域活性は面白かったですね。飲食店と同じで”プロダクトアウト”の思考なんですよ。『自分の地域はこんなに面白い、だから、来てください!』と言える人たちが魅力的でした。しだいに収入にもつながっていき、お客様もついてきました」
そうしたイベントで出会う人たちによって、自分が独立していないコンプレックスが生まれた。フリーランスで仕事をしている人たちの姿がキラキラ輝いて見えたのだ。結局、会社と自分がやりたいことの間にギャップがあることに気づき、半年ほどでアスラボを退職した。
「飲食店から相談を受け続けて、プロモーションをしませんかと、飲食店の販促に電話して提案する仕事をしていたのですが、まわりには飲食店のプロモーションに詳しい人材が多かったので、特別なスキルだとは思っていませんでした。ところが、アスラボには飲食店のプロモーションに強い人がいなくて、プロモーションは僕に相談したいという空気があった。そこで、お客さんのことを理解していること、飲食店に詳しいことが強みになって独立できるのではないかと確信したんです」
飲食店スタッフの市場評価を上げる
ぐるなび時代に400件以上の飲食店を見てきたことで、業界に対する思い入れが強くなった。1店舗だけに向き合うのも楽しかったが、もっとマクロな視点で見るべきだ、と業界全体に向き合うことを考え、まずは、飲食店スタッフのキャリア支援に着手することからスタートした。
「場所と客単価が大体決まっているため、相当なスキルがある人たちが頑張っても給料が止まっている。だから、続かない。それで人手不足になっていることが問題なんです。定着を促進させたいと思いました。それに対してどうするのか、と考えたときに、飲食店で働いたことが他の経験につながる、と気がつきました。たとえば、接客をやったからこそ、お客さんに詳しくなってマーケティングや営業の仕事につながる。接客経験が次のキャリアに生かせるんです」
飲食店スタッフは能力に見合った市場評価がされていない。飲食店で働いたことのスキルが”見える化”されていないことに問題があるからだ。営業職のように、月間何千万達成といった具合に分かりやすい実績が見えない。その市場評価を上げるために、スキルを“見える化“することが必須だと吉田さんは考えた。
「プロジェクトを推進する仕事は、何かひとつに向き合う人には難しいんですよ。いろいろな状況を包括的に捉えて、何を優先して何をするか、同時並行で進めていかなくてはならない。飲食店出身の人はそれができるんです。料理もホールも見て、こちらのお客さんにはこれが必要で、あちらのお客さんはこういう状況になっていると見極めることは、マルチタスクじゃないですか」
また、飲食の世界で楽しんで働いてい中は別の仕事に従事している。複業をすることができれば、飲食店で無理なく働ける。100%辞めてしまわないで、50%のリソースは飲食業に残したま次の仕事に移る、といったスタイルだ。市場価値を上げること、そして、複業を推進すること。どちらも目的としては、飲食店で働く人たちの幸せを願っている。
「代表的な取り組みの一つとして、飲食のコンサルタント業務でスキルの”見える化”を検証しています。実は、飲食に詳しくない人がコンサルをやっているケースもあるんです。SNS投稿などがメインで、リピーターの獲得にはそれほど役に立っていない場合は、新規流入だけ増えて取りこぼしをしてしまう。飲食店スタッフの力を借りながら飲食店が悩むあらゆる課題に対応できないのかな、と思っていたのがきっかけでした。飲食店を開業したいから助けてほしいという相談をされたとき、それに対して、たとえば、ドリンクの課題はバーテンダー、料理の課題は調理師学校を出た現役に依頼する、というスタイルです。そんなふうにして、厨房の外でも活躍できる機会を作りたいです」
飲食店スタッフに別の飲食店を支援する仕事を依頼することで、自分が培ってきたスキルを別のことに生かせる機会を作る。それがキャリアをあらためて考えるきっかけになることもあるだろう。さらに、飲食スタッフのパラレルワークがもっと増えて一般化されれば、飲食店で頑張るメリットも出てくる。メリットがあるのであれば、飲食店で頑張ろう、と仕事の定着率も上がってくる。
機会を与えること自体が「成功報酬」
もう1つ吉田さんが注力するのが代理店販売営業事業だ。ITサービスの営業はサービスに詳しくても飲食のことは理解していないこともあるので、ミスマッチが生まれることも多い。必要もないのに新しいPOSレジを無理矢理導入するなど、その店に合わないサービスを売るケースも多いそうだ。飲食店の人にはそれを判断するITの知識がない。そのため、現場をよくわかっている飲食の現場にいるスタッフがITを理解した上で飲食店に営業をかけた方がミスマッチが起こりにくい。
「たとえば、POSレジの営業電話をかける際に、『僕の店でも使っていますが、とても便利なんですよ』と伝えた方が説得力がありますよね。スキームとしては、うちの会社がアイドルタイムに営業をやる話を持ちかけ、代理店販売契約をIT企業さんと結びます。一方で、飲食店スタッフとは業務委託契約を結ぶ。飲食店スタッフがそのITサービスを販売する。名刺に”料理人、営業”と書いてあると、“なんで料理人が飛び込み営業してるの”と話を聞いてくれたりするんですね」
代理店契約は話を聞いてもらえる利点からIT企業から多くの引き合いがあった。営業をやってみたい飲食店スタッフは、新しい仕事を経験したい。そもそも接客業好きで、「このラザニアおいしいですよ。どうですか」と、売り込んでいる人たちには営業がはまって、飲食店のスキルが生きる仕事が見つかることもある。「たとえ合わなかったとしても、キャリアを考えるきっかけになればいい」と吉田さんは考える。
「体験報酬だと思うんです。機会を与えること自体が重要。ほかに自分に合う仕事あるかもしれない、とモヤモヤしているより実際にやってみることに意義がある。ライティング、SNSプロモーション、デザインなど、職種もいろいろ試してみようと思っています。自分のキャリアを活かせそうな仕事を見つける選択肢となれば、と模索中です」
働いたことが何につながるかということを“見える化”する。複業を試してみて、その仕事が合うかを自己判断してもらい、また人材市場において飲食店経験が高く評価されることで飲食業の人気が出て人手不足を解消していきたい。吉田さんのビジネスモデルのベースには、飲食店で働く人たちが幸せになってほしい、という熱い思いがある。
「持ちかけられる案件は、ざっくりしていることが多いので、あなたはメニュー開発をやってください、あなたはプロジェクトの進行やってください、あなたは営業やってください、ライティングやってください、と、適性のある方にお願いしていきます。依頼する企業としては、飲食店に詳しい人に依頼したい。でも、飲食店に詳しい人で、そのスキルを持っている人はあまりいない。弊社がそうした人材を抱えてますよ、という仕組みなんです」
飲食店を続けながらほかのキャリアを持つ
また、Core Drivenが飲食店スタッフに依頼する仕事以外にも世の中で飲食店経験がどのように活きているか情報収集をしている。「どういう仕事が飲食店経験以外の何かに生きるのか、どういう会社がそういう人材を求めてくれるのか、数を重ねて調査していきたい」と吉田さんは続ける。
「パティシエがスイーツという1つの作品に長時間向き合うことは、エンジニアの仕事と近いらしく、意外とスキルが活きる特性が似ているんです。それなら、新卒で採用して育てるよりも、パティシエをエンジニアとして育てたほうが早いのではないか。飲食店のあの人をこういう仕事で起用しませんか、というモチベーションを企業側に提案していきたい。たとえば、バーテンダーはトークがうまいから営業職とか、ホールスタッフはいろいろなタスクを同時並行で進められるから管理職に実は向いているとか、“見える化”を進めています。可能性は無限大です」
キャリアアップしたいが、飲食店という狭い世界でどのように上をめざせばよいのか。そういう人たちにに向けて別の選択肢も考えたい。そのためには、業界を俯瞰できる人材が必要だと吉田さんは望む。
「飲食業界の離職率を下げるモチベーションがある人たちともっとつながっていって、複業市場を開拓していきたいですね。そういうモチベーションを語ってくれる人を求めています。会社の発展ではなくて、飲食業界全体に対して目を向けている人が来てくれればありがたいです」
取材・文:山下美樹子
会社名 | 株式会社Core Driven |
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代表者 | 吉田 柾長 |
設立日 | 2021年9月16日 |
従業員 | 10名(業務委託含む・全員複業) |