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  • 2023.02.18

観光を体験型メディアへ。枠にとらわれない発想で新しい価値を創造する | 株式会社自遊人

コロナ禍で一時は深刻な需要低迷に直面した観光業。業界に再び活気を取り戻すために、新たな観光コンテンツの造成も急務となっている。そんななか魅力的なコンセプトを掲げて集客に成功を遂げている宿がある。株式会社自遊人だ。同社は、「豊かな人生のために本当に価値あるものだけを届けたい」と、デザイン、出版、飲食、宿泊と枠にとらわれない発想でさまざまな提案を世の中に投げかけてきた。

創業者の岩佐十良氏は、武蔵野美術大在学中の1989年にデザイン会社をスタート、のちに出版社「自遊人」を起ち上げた。編集者の役割は社会に「体験・発見・感動」を伝えることというポリシーのもと、雑誌だけでなく、既存の「モノ」を「リアルメディア」化することに力を注いでいる。

同社は、順調に事業を拡大する中、東京から事業を新潟へ移転・移住。地方創生の先駆けとして、日本の食文化、地域の食を各地でリ・プロデュース&ディレクションし、注目を浴びた。現在、新しい価値の創造をめざして、新業態を次々と実現させている。地方創生という概念もないころから、"ローカル"の魅力を発信し続けた岩佐氏を突き動かすものは何か、その原動力を探った。

【プロフィール】
岩佐十良(いわさ・とおる)
1967年、東京・池袋生まれ。武蔵野美術大学でインテリアデザインを専攻。在学中の1989年にデザイン会社を創業し、のちに編集者に転身。2000年、温泉や食に関する記事が人気の雑誌「自遊人」を創刊、編集長に。2002年、日本全国の美味しくて安全な食を提供する『オーガニック・エクスプレス』をスタートし、2004年、「お米」を学ぶため、活動拠点を東京・日本橋から新潟・南魚沼に移転。 2014年、新潟県大沢山温泉にオープンした『里山十帖』では、住空間や環境、衣服などの分野まで「編集力」を活かしてディレクション。2020年には「松本十帖」(長野県松本市)を開業。

先行逃げ切りで美大時代に起業


美大に進学することは、自分でも予想外の展開だった。デザイナーの職にも興味を持ったことはない。ただ、小学生時代に、”総理大臣になりたい”と作文に書いたことがあった。その頃から、自分で決めて組織を動かすことに興味があったのかもしれないと岩佐氏は振り返る。大学3年でデザイン会社を興した。大学には素晴らしい才能の持ち主がたくさんいて勝ち目はない。でも仕事なら勝てる可能性があると思ったからだ。
 
「落ちこぼれ学生がデザインや美術の世界で生き残っていくにはどうしたらいいか? それには仲間たちよりも一刻も早く仕事を始めて独立することだ。先行逃げ切りという手段を選んだのです。会社の作り方は法務局に行けば、親切に窓口の人が全部教えてくれると知り、“なんだ、簡単じゃないか”、と仲間が登記を済ませてくれました。法人なら信用されやすいと考えての起業です。“何でもやりますから、仕事はありませんか”と飛び込み営業から始めました」
 
その後、はからずも編集者に転身。手がけたデザイン系の同人誌を見てリクルートの社員が、突然、事務所を訪ねてきたことで運命が一転する。
 
「今、企画している雑誌があるので任せたい、とリクルートの方から連絡がきたんです。デザイン界の巨匠、亀倉雄策さんの事務所に連れていかれ、“これこそがデザインだ。君にはデザインの才能はない”、と亀倉さんの仕事を見せられた。“その通りです”、と答えるしかありませんでした。“向いているのは編集者だから、一冊任せたい”と説得され、それ以降はデザイン会社から編集プロダクションに転向しました」

思い通りの雑誌創りに成功


旅館やホテルを紹介する旅行専門雑誌『じゃらん』を中心に、リクルートが手掛ける雑誌のほぼすべてに携わり、やがて東京のグルメやトレンド情報を伝える『東京ウォーカー』などに広がっていく。編集プロダクション時代には、すべての企画をヒットさせることを前提にし、求められる部数や実売率に対しては確実に数字を出してきた。10年たつと「自分の思い通りの雑誌をつくりたい」という願望が強くなる。そして、自ら出版社を起ちあげた。
 
「編集プロダクションは、雑誌の中身を作れても出版はできません。出版社として必要不可欠な雑誌コードを取るのは至難の業だったのですが、協力者が何人も現れ、取り次ぎ各社の上層部まで話を通してくださった。そのおかげで、出版社を興し、新雑誌創刊の夢が叶いました。それが、社会への提案を行うライフスタイルマガジン『自遊人』です」
 
創刊号は5万部刷り、96%もの売り上げを記録した。雑誌業界では、70%売れれば成功といわれている。当時は、”奇跡”と驚かれた。その後も、部数はうなぎのぼりに増え、160,000部にまで達する。そんな順風満帆な頃、編集部ごと新潟の南魚沼市への移住を決行した。「お米を追求したい」が理由だった。いくら調べても「どうすれば本当においしいお米ができるのか」という疑問に対する解答が得られず、「それなら自分たちでやってみるしかない」と思い立ったのだ。雑誌『自遊人』で、旅・宿・温泉・食を取材して行く中で、最終的に食が一番重要だと思うようになったという岩佐氏。2002年には、雑誌連動型の食品販売事業『オーガニック・エクスプレス』もスタートし、無添加・有機・オーガニック食材・魚沼産コシヒカリ・日本一の米・野菜ジュースなどを販売していた。
 
「食を中心にしたライフスタイルの特集を組んでいたので、より深く農業を学びたいと思ったんです。雑誌で紹介するより、実際に、食べてもらったほうがおいしさがわかる。そう思うと、何のために雑誌を作っているんだろうと、基本的なことに悩み始めてしまって。僕の『リアルメディア』という考え方では、自分で流す情報には責任を持たちたい。単なるモノとして販売すればメディアにはなりませんが、どういうストーリーを伝えたいのか、どんな人に食べてもらいたいのかと考えたらその食べ物がメディアに変わる。最終的においしいお米を届けるまでしなければ完結しないんです。新潟に移住して3年間は、ほぼ田んぼでの農作業が中心の生活でしたが、隔月刊だった『自遊人』も出していたんですよ」

新しい宿泊業のあり方を模索


そんな岩佐氏は、再生という観点から新しい価値作りを目指して宿泊業を始めた。「宿はメディア」という発想にもとづいて、新しいスタイルの宿泊業のあり方を示唆する。2014年5月、古民家を改装した温泉宿「里山十帖」をオープン。まもなく国内外の旅行者から支持され、開業3ヵ月で稼働率90パーセント超を実現した。
 
「多額の借金をして南魚沼の山奥にオープンさせましたが、“地方創生”のムーブメントが追い風になり、早い段階で軌道に乗せることができました。2011年東日本大震災が起きて、もともと観光業が強くない南魚沼が風評被害を受けてダメージを受け、廃業に追い込まれた旅館も少なくない。長い付き合いの農家さんに、廃業する旅館あるから、と声をかけられて宿をやってみようと購入したのが発端でした」 
 
築150年の建物をリノベーション。古い建物をそのまま活かしながら、北欧の家具などを配したモダンな空間は、グッドデザイン賞を受賞した。新潟の伝統野菜を使った料理は、ミシュランの星も獲得し、日本の滋味深い食文化を伝える。宿は発見に満ちていた。地域の魅力を知ることで、暮らし方にも興味を抱かせる。里山十帖は、そんなライフスタイル提案型の宿泊施設だ。
 
「移住したばかりのころ、地元の方に古民家を大切に守るべきだと意見したら、”だったら、お前、住んでみろ”と言われて、”住みます”と返したんですけど、数年経ったら、”ごめんなさい、やっぱり無理でした”となってしまった。とにかく寒くて暗いんです。古いものをやみくもに守ればいいというものではない。過ごしやすい古民家を考えると、現代の暮らしやすさを取り入れるべきだ。それが、僕らのライフスタイルの提案です。地域のショールーム的にライフスタイルを紹介し、地域密着型の暮らし方を示したい。8年住んで知ったその暮らしを皆さんにも体験してもらいたい。地方で暮らす豊かさを享受してもらえる宿を作れたと自負しています」

地域密着型の暮らし方を提案したい


里山十帖から始まった宿泊施設は、少しずつその数を増やしてきた。それぞれが独特のコンセプトを持ち、客を魅了している。2018年8月には、「商店街ホテル 講 大津百町」と「箱根本箱」をオープン。滋賀県大津市の「商店街ホテル 講 大津百町」は築100年前後の町家7棟を改装。周囲の商店街を宿泊者が利用することで活性化させる「ステイファンディング」を提案した。
 
また、「箱根本箱」は日本出版販売株式会社からの依頼で考案した「本をテーマにしたインタラクティブ・メディアホテル」で、名前の通り、本に囲まれて暮らすように滞在するというコンセプトだ。2022年7月には松本十帖をオープン。長野県の浅間温泉街全体の再生を宿泊施設で実現させることをテーマにした大掛かりなプロジェクトである。
 
「現在は、新潟県を盛り上げる大型プロジェクトが進んでいます。飲食店のブランディングはもちろん、レベルアップと飲食店による観光地づくりに力を入れており、地域の農水産業者から施工業者まで含めて潤うビジネスモデルを作ろうと注力しています。また、日本の宿泊業の仕組みはもう限界にきていることを踏まえ、日本初の仕組みを提案するTHE HOUSEシリーズや会員制の宿泊施設を今年末オープンし、新しい宿泊スタイルを模索していきます」
 
多角的に拡大を進めている同社では、現在、全職種で人材を募集している。サービス職をプレゼンターと呼び、すべての仕事で世の中に新たな価値を提案することを大切にする。企画も料理も接客も、全職種がクリエイティブだ。企画、設計、コンセプトを作るスタッフを強化しているという岩佐氏が求める人材は、どのような条件を満たしていれば良いのだろうか。
 
「宿泊施設を複数手掛けていることや、レストランに通うことが多いからかもしれませんが、いわゆる接客業は本当に“クリエイティブ”な職業だと思います。そして“人間力”の塊です。将来、あらゆる仕事がAIやロボットに代替されても、最後に残るのは人間力勝負の接客業。取材やインタビューは接客業と同じですし、そもそも企画は人間の動きをつぶさに観察することから始まります。接客業とクリエイティブ職には共通項が多いのです。求めているのは各職種ともに経験者ですが、経験とキャリアにしがみつくことなく、従来の常識にとらわれず、自分を革新し続けていける人材を求めています」
 
取材・文:山下 美樹子

会社名 株式会社自遊人
事業内容 宿泊・飲食施設のリアルメディア化
リブランディング、コンテンツ開発、リノベーション、支配人派遣、オペレーション受託、経営再建

農産物加工品のリアルメディア化
ブランディング、商品企画、デザイン、販路開拓、製造管理

遊休施設の利活用提案とリアルメディア化
倉庫、空き家、社宅跡地などの利活用提案
所在地 本社 〒949-6682 新潟県南魚沼市大月1012-1
兵庫 〒669-3309 兵庫県丹波市柏原町柏原16-2
里山十帖 〒949-6361 新潟県南魚沼市大沢1209-6
箱根本箱 〒250-0408 神奈川県足柄下郡箱根町強羅1320-491
講 大津百町 〒520-0043 滋賀県大津市中央1-2-6
松本十帖 〒390-0303 長野県松本市浅間温泉3-13-1
創業 1989年5月
設立 1990年12月
資本金 5,350万円
代表者 代表取締役/クリエイティブ・ディレクター/編集者 岩佐十良
取締役 藤本葉子、吉澤早苗、小沼百合香

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