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- 2023.01.24
地域の交通課題をMaaSで解決。事業者たちの「協調」で理想的な移動社会をつくる | 株式会社 MaaS Tech Japan
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株式会社MaaS Tech Japanでは、あらゆる移動データを統合・分析し、最適な交通施策を導くMaaSプラットフォーム「SeeMaaS(シーマース)」を独自開発。鉄道・バスなどの移動実績データと人流データを組み合わせることで、今まで見えなかった交通課題を可視化し、潜在需要を理解することが可能になる。
同社のプロダクトをさらに進化させるため参画したのが、取締役CSO/プロダクト開発統括の清水 宏之氏である。鉄道会社で豊富な経験を積み、大手外資系ソフトウェア会社で活躍していた彼は、なぜスタートアップにジョインしたのか。清水氏のキャリアを辿りながら、公共交通の現実を変えようとする熱い思いに迫ってみたい。
【プロフィール】
清水 宏之
株式会社 MaaS Tech Japan 取締役CSO プロダクト開発統括
鉄道会社のシステム子会社を経て、外資系ソフトウェア会社にてMaaSの取り組みを推進。長野県千曲市の温泉MaaS構築等を支援。プロダクト開発強化に向けた経営体制変更に伴い、2022年MaaS Tech Japanに入社して現職に就く。
鉄道会社をファーストキャリアに選んだのは必然
学生時代にロボット工学を専攻し、ソフトウェアの研究に携わっていた清水氏。その経験を活かすべく、ファーストキャリアには鉄道会社のシステム子会社を選んでいる。
「中学生の頃からプログラミングをやっていたこともあり、コンピューターには親しみがありました。それに鉄道会社で働いていた父親の影響で、昔から鉄道が好きだったのです。そのため、鉄道会社におけるシステム開発をファーストキャリアに選んだのは必然かもしれません」
1年目から「信号制御装置」と呼ばれる運行管理システムに携わり、列車のダイヤグラム(運行図表)のシミュレーションと最適化を担当。機能のメンテナンスを進めながら、2年目には次世代を見越した新たなシステムの研究開発にも加わるようになる。
「システムエンジニアだけではなく、研究開発にも携われたので毎日が充実していました。海外で行われる鉄道系の学会で研究成果を発表したり、フランスやドイツなどで高速鉄道を走らせている業界関係者と交流したり、貴重な経験ができたこともありがたかったです」
列車のコンピューター制御にも携わり、基幹系のシステム入れ替えを担当。大手システムベンダーとのやり取りでは、シリコンバレーにある各社の現地オフィスを訪れ、最新テクノロジーの可能性を日々探っていたという。
「システムに関しては、構築から運用管理まで全て自分たちの部門で行っていたので、さまざまな知見を得ることができました。例えば、社内のデータセンターの場所から、コンピューターの配置、さらにはネットワークをどのように引くのかなど、各部門と連携しながら細部まで設計していました」
入社から17年間にわたってシステム開発を担当し、複数のプロジェクトのリーダーを務めるようになる清水氏。仕事にやりがいを感じていたものの、公共交通全般を扱う仕事をしたいという思いが徐々に強くなっていく。
「地域の交通をどのようにしていくのかという課題が、ずっと心の片隅にありました。例えば、首都圏などの大都市以外のローカル路線においては、電車の乗客減少で廃線になってしまうこともあります。公共交通が廃止されると、通勤・通学が不便になるのはもちろん、その地域に住み続けることが困難になることも。それらの社会課題を解決するため、公共交通を含む幅広いつながりを持っている大手ソフトウェア会社に転職しました」
温泉でのワーケーションが大きな「転機」に
新天地で働き始める清水氏だったが、2017年当時 MaaS(Mobility as a Service)という概念がMaaS先進国のフィンランドから日本に入ってくる。MaaSに対して、彼は直感的に当時から大きな可能性を感じたという。
「フィンランドでは、MaaSアプリ(Whim)の導入・利用によって移動に占める公共交通の割合が48%から74%に伸び、自家用車の利用が減少したといわれています。それまでもMaaSに近い取り組みをやりたいと思っていたので、直感的に『これだ!』と思いましたね。
例えば、首都圏の通勤・通学ラッシュを緩和するため、別の交通手段を案内することもできます。特に人身事故などで路線が動かなくなったときには、その仕組みが非常に役立ちます。入社当初から検討していたことなので、当時の上長とともにMaaS専門部門を立ち上げました。ビジネスワーカーが日々使っているツールと組み合わせた『働き方改革×MaaS』の取り組みをスタートさせています」
その後、少しずつ社内外でMaaSの立ち位置ができ始め、アイデアを一つひとつ案件化させていく清水氏だったが、2020年のコロナショックで完全在宅勤務となりプロジェクトは一旦ステイに。しかし、その期間に参加したワーケーションが現在につながる大きな転機になる。
「長野県の別荘で二拠点生活をしていたときに、SNSでたまたま目に留まったのが長野県千曲市のワーケーション体験会でした。『絶景・温泉で仕事!』のキャッチコピーに惹かれて参加してみると、本当にその通りの温泉街や美しい棚田が広がっており、ワーケーションを満喫できました。
しかし、最寄り駅からワークスペースに行く移動手段がないので、運営事務局の方々がその都度送迎する必要が。参加者の方々も、自分たちだけでは移動できないので他の場所に行くことが難しく、お互い不便を感じているような状況でした」
清水氏は地域の交通課題を解決するため、観光局や運営事務局にMaaSについて説明。そのなかで『温泉MaaS』というネーミングと企画に共感が集まり、さっそく次のワーケーション体験会に「温泉MaaSアイデアソン」が組み込まれている。
「新たな移動サービスを検討するには、自治体や地域の交通事業者との連携が不可欠です。『温泉MaaS』のときにも、市役所、観光局、商工会、地元タクシー会社、地元鉄道会社、旅館事業者など市内外のたくさんの方々と一緒に検討することで、地域に根ざした移動サービスの実現を目指しました」
できるところから始めようと、地元のタクシーを気軽に配車依頼できるLINEアプリの仕組みを企画。ワーケーション参加者が自由に移動できることを、2021年の体験会で実証し、その有効性が確認されている。
「地域の交通課題をニュースなどで見るのではなく、現地に行って実際に住民の皆さんといろいろとお話できたことが、大きな学びになりました。その後のキャリアを考える上でも、大きな転機になったのです。地域交通の課題を解決するため、もっと現場に出て行きたいという思いが日に日に強くなっていきました」
事業者同士の「協調」で地域の課題を解決する
MaaS Tech Japanなら、今まで培ったシステム構築の知見を生かし、地域の交通課題を解決するために直接貢献できると判断した清水氏。同社へのジョインを決めたのは2022年のことだった。代表を務める日高氏とは、以前から交流があったという。
「国内でいち早くMaaSに着目し、専門家として国の委員も務めている日高さんは業界内で特異なポジション。それがMaaSの専門会社であるMaaS Tech Japanの強みだと思います。例えば、ある地域の交通事業者たちが、協調して同じプラットフォームに各社がデータを持ち寄るのは、非常にセンシティブなことです。そのときにMaaS Tech Japanなら、各社と業種や業界でバッティングすることがないので、各社から信頼していただける。中立的な立場で地域の交通問題に取り組めることが、入社の決め手でした」
MaaS業界では、アプリケーションで利用者の利便性を高めるような取り組みが、今まで盛んに行われてきた。例えば、観光地において路線バスやタクシーなどの乗車が簡単にできる「観光地型MaaS」や決済サービスなどがあげられる。しかし、事業者同士の協調を実現するようなサービスは、今まで存在しなかった。その役割を担っているのが、MaaS Tech Japanである。
「これからの社会においては、交通サービスの供給側にも目を向けたMaaSの取り組みが必要になってきます。当社は地域におけるさまざまな事業者の協調に貢献するため、交通データの統合・可視化、分析を可能にする技術の開発を進めています。その基盤となっているのが、同社が独自開発したMaaSデータ統合基盤『TraISARE(トレイザー)』です」
『TraISARE』は、各事業者がバラバラなデータ形式で保持している交通利用状況データを統一のデータ形式に変換。つまり、複数の交通サービスのデータを、同一のデータ基盤上で統合・管理できるようになるのだ。
「交通系ICカードの乗降履歴データや、デジタルチケットアプリを利用した移動履歴データを取り扱った実績もあります。また、路線情報や時刻表といった静的なデータ、行政のオープンデータや人流データ、自動車のプローブデータ※なども扱っています」
※プローブデータ……走行中の多数の自動車から通信ネットワークなどを通じて得られる様々な情報(位置、速度など)。
2022年6月にリリースしたMaaSプラットフォーム『SeeMaaS(シーマース)』は、TraISARE上に統合管理されたデータを横断的に分析・モニタリングができるMaaSコントローラー(いわゆるBIツール)を組み合わせたプロダクトだ。
「交通計画やまちづくりを検討するときに、『SeeMaaS』を活用することで、交通関連の多様な種類・形式のデータを、企業・自治体が活用できる状態まで引き上げることが可能になります。例えば、路線ごとの特徴を一元的に把握することにより、その地域に最適な新モビリティを導入検討していくこともできるのです」
ニューノーマルな働き方に合わせたMaaSとは
同社が提供する『TraISARE』と『SeeMaaS』は、地域の交通機関に対してどのような変革を起こすことができるのだろうか。
「これからの時代は、民間企業が単独で公共交通を維持していくことは、ますます難しくなっていきます。人口減少や少子高齢化が進む中で、すでに自治体からの助成金がなければ成り立たない地域も多々あるのです。自治体の支出も今後維持することが難しくなっていく中で、地域の公共交通を維持運用していくには、その地域の需要にあった仕組みを自治体、交通事業者、地域の関係者・住民が一体になって検討していく必要があります」
各地域においては、交通事業者の経営統合や共同経営など、協調がすでに検討されているケースも出てきているという。そこまでいかなくても、地域の交通事業者がこれまで企業秘密にしてきた「利用状況を示すデータ」を開示し合い、効率的な交通体系を検討していくような動きが生まれつつある。
「MaaS Tech Japanでは、広島県の主導で県下の市町データに基づき、公共交通計画の策定を促す取り組みの支援を進めています。また、石川県金沢市で行われた『金沢MaaSコンソーシアム』において、金沢市内の交通事業者たちが利用状況を示すデータを持ち寄り、地域の交通移動ニーズを明らかにすることにも取り組んでいます」
また、社会全体のMaaSの動きとしては近年急速に進んでいるニューノーマルな働き方に合わせた交通サービスも生まれている。ホテル宿泊と新幹線の切符を組み合わせた法人向けのワーケーション・サービスがその一例だ。
「今後、カーボンニュートラル社会を目指すにあたって、個々の行動変化も求められると思います。できるだけカーボン負荷の低い移動手段を選んで移動するなど、これまでのスピードや乗換の利便性だけでなく、社会的な要請による条件も加わってくるかもしれません。そのときに、移動手段をスムーズに選択して利用できるかどうかは、ユーザー目線で非常に重要なことです。私たちも、社会状況を考慮しながらプロダクトを開発していく必要があると感じています」
2023年からMaaS需要はさらに高まる
多様化する社会状況に合わせて、MaaS Tech Japanはどのような展望を描いているのだろうか。
「2023年から地域の交通を見直す動きが、より活発になってくると考えられます。国交省が政策の策定に乗り出しているからです。各地域の交通手段として、鉄道、バス、タクシー、オンデマンド交通、シェアサイクル、自動運転による交通サービスなど、さまざまな交通サービスを組み合わせることが、一層大切になってきます」
「その地域の特性やニーズに合った交通体系を検討する必要がありますが、そのためにはまず現状をしっかり理解しなければいけません。現在の交通サービスのデータや周辺データを統合し、可視化することで、現状の利用状況や潜在ニーズを明らかにすることができるのです。それらの場面においても、MaaS Tech Japanの提供するサービスがますます必要とされると考えています」
どのような人材が同社では求められているのか。最後に清水氏に聞いてみた。
「公共交通の現状の課題を認識しつつ、それをどのように解決したらいいのか、考えられることがまず必要です。一つの交通モードに固執せず、さまざまな公共交通が持つ特性を考慮していく。地域の自治体、交通事業者、周辺産業の方たちなどと一緒に考えていくことが求められます。
一方で、多くの地域を支援するには、MaaS Tech Japanのノウハウや課題解決の方法を標準化して、プロダクトに落とし込んでいくことも重要です。地域の交通課題を解決するスキームを展望し、技術的に支援していきたい方とぜひ一緒に働きたいと思っています」
取材・文:VALUE WORKS編集部
会社名 | 株式会社 MaaS Tech Japan (マーステックジャパン) |
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本社所在地 | 東京都千代田区有楽町一丁目10番1号 |
役員 | 代表取締役:日高 洋祐 取締役:渡邊 徹志、岡部 亜門、清水 宏之、庄司 隼平 |
事業内容 | プラットフォーム開発事業 コンサルティング事業 メディア事業 |
資本金 | 1億9,750万円 |
設立年月 | 2018年11月 |