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  • 2024.08.01

消防・防災設備のメンテナンスで建物の未来を守る。売上目標をなくして利益を10倍にした2代目社長の奮闘記 | 株式会社テックビルケア

建物の高寿命化や全国的な自然災害の多発、企業のコンプライアンス意識の高まりなどにより、それらを支える設備保守管理のニーズが年々高まっている。

建物の「今」を守り「未来」につなげるソリューションカンパニーとして、12年連続で増収増益を達成しているのが株式会社テックビルケアである。下請けや孫請けの仕事が当たり前の同業界において「元請け」にこだわり、依頼主のニーズを正確に把握。自社施工のワンストップ対応や業務DX化の推進、さらにはドローンを活用した外壁調査などを行う専門会社として注目されている。

代表を務める茶橋 昭夫氏は、父親の事業を継承した2代目社長であり、入社後の10年間で利益は10倍に。その過程では30年以上続く清掃事業から、新たな防災事業への転換に成功している。

茶橋氏はどのように新たな事業を成長させ、企業全体の利益を高めていったのか。そのキャリアやビジョンを紐解きながら、果敢に挑戦を続けるマインドの源泉に迫る。


【プロフィール】
茶橋 昭夫
株式会社テックビルケア 代表取締役社長 / 防災コンサルタント
ソフトウェア会社、エアコンメーカーの修理エンジニア、防災設備メンテナンス会社を経て、2007年に父親の経営する近畿クリーナ株式会社(現在の株式会社テックビルケア)入社。当時の業界では未開発だったインターネット広告を手がかりとして、防災部門をメイン事業へと育て上げ、社員全員を一体化するためのルールや仕組みづくりにも携わる。
2019 年 4 月 代表取締役社長に就任し、入社からの10 年ほどで経常利益を 10 倍にまで成長させている。著者に『[2代目社長奮闘記]売上目標をなくしたら利益が10年で10倍になった!』(現代書林)がある。

大手企業への就職を蹴ってSEの世界へ

テックビルケア社の前身となる近畿クリーナが設立されたのはバブル期のこと。茶橋氏の父親がたった一人で創業し、さまざまなビルの清掃業を請け負いながら事業を拡大していった。その中で消防設備の点検や調査を依頼されることも少しずつ増えていったという。

「私は当時大学生でしたが、付加価値の高い消防設備点検の仕事に魅力を感じていました。というのも、従来の清掃業とは異なり資格が必要になってくるので、ライバルが少なく市場が大きいのです。例え業者に清掃を頼まないビルがあったとしても、消防点検は行政からのチェックもあり必ず必要になってくる。いずれ父から会社を継ぐと思っていたので、会社をより成長させるためには最適な事業だと思っていました」
 
当時の社内において消防設備点検の仕事はほんの一部だったが、茶橋氏は大学時代に消防設備士の資格をすべて取得。資格はI類から7類まで消防設備の種類によって決まっているが、彼は1年半ほどで一気に取ったという。
 
「自分で言うのも何ですが、業界に入る前からI〜7類まですべての資格を取る人はまずいません(笑)。私の場合は、すでに父の会社で消防設備点検のアルバイトをしていましたし、いずれ会社に入るなら消防の資格が絶対に必要だと思っていたので集中して学びました」
 
しかし、彼はそのまま父親の会社に入社したわけではない。最初のキャリアとして選んだのは、意外にもソフトウェア開発会社でのSEだった。
 
「自分でパソコンを組み立てるほどSEの領域にはまっていました。自分の実力で勝負してみたいという気持ちが強かったんです。その気持ちを理解していた父も、『最初は他の会社で社会人を経験しなさい』と背中を押してくれていましたね。学校の推薦で大手企業に入る選択肢もありましたが、自分の市場価値を知りたかったので就職活動をしました。当時は超就職氷河期だったので、友人からは『おまえはアホか』と呆れられましたが(笑)」
 
SEとしてメーカーの営業支援に役立つソフト開発に携わり、朝から晩までずっとパソコンに向き合い続けた茶橋氏。エンジニアの仕事はやりがいがあったものの、頭の片隅にはいつも父の会社のことがあったという。
 
「父の会社を継ぎ、清掃業から競合の少ない建築物の防災設備へのシフトを考えたときに、当時の父はそれほど専門的な点検ができるわけではありませんでした。専門的な知識と経験を私が習得し、先頭に立って事業を進めていく必要があると考えていました。」
 
「一刻も早く防災設備の現場経験を積みたい」と思った茶橋氏はソフトウェア開発会社を2年間で退職し、防災専門の会社へ。現場であらゆることを学ぶべく、保守点検の仕事に取り組み続けた。その中で気付いたのは、防災業界における新たな顧客獲得の可能性である。

「防災はニッチな業界ということもあり、大手企業が消防点検をメインに行なっているケースはほとんどありません。小規模な防災会社や個人がメイン業務の片手間で請け負うことが多いんです。また、当時所属していた防災会社もそうでしたが、下請けや孫請けの仕事が大半なので新たな顧客を獲得しようと動いている会社はほとんどいません。つまり、防災の設備点検を専門に行う会社として認知が得られれば、新規顧客を獲得するチャンスは十分にあると思いました」
 
2年間の防災専門会社における経験で、防災に関する豊富な知識と技術を習得。「これなら父の会社に戻ってもやっていける」という手応えを感じた茶橋氏は、2007年に父の会社へ入社。しかし、新たに立ち上げた防災設備部門の専従者は彼の他に1人だけだった。

業界に先駆けてデジタルマーケティングを導入

どのように防災関連の仕事を増やしていくのか。テックビルケア社にとって喫緊の課題を、彼は当時まだ目新しいデジタルマーケティングで解決しようとしていた。
 
「前職で働いていた頃、お客様の立場になって防災専門会社をインターネットなどでリサーチしたときに、会社名がそれほど出てこない状況でした。業界全体でWebに注力していないのは明らかで、依頼できる会社をなかなか見つけられない。つまり、Web経由であれば競合他社とぶつからないので、テックビルケアに入社してすぐに『消防設備点検を引き受けます』という営業ページの制作に取り組みました」
 
業界に先駆けた取り組みとして、ネット広告もスタート。広告に載せる文章なども考えながら、予算を配分していった。
 
「最初からすぐに仕事が入ってきたわけではないので、『本当に効果があるのか?』と周囲に言われたこともありました。それでも父の許可をとって、数十万円の予算をさらに投下。『これで結果が出なかったら』と不安にもなりましたが、ようやく少しずつ問い合わせの電話がかかってくるようになったのです。半年ほど続けていると、私たちのスケジュールがほとんど埋まっていくうれしい結果に。Web広告は当社の事業成長に大きく貢献していると思います」

茶橋氏が入社して3年ほど経った頃には、消防設備点検で安定した売上が見込めるようになる。というのも、消防設備の法令点検は半年に一度行う必要があるものの、オーナー企業にとって設備点検の業者を変えるのは非常に手間がかかるからだ。信頼できる業者と長く付き合うことが企業側のメリットになり、それがテックビルケア社の安定した収益にもつながっていく。
 
「安定性でいえば、“サブスク型”のビジネスに近いかもしれません。中長期的な視点で収益を考えられるので、広告費も少しずつ増やすことが可能に。実際にインターネットで広告を打つと、日本全国のまったく知らないお客さまから依頼が入ってきます。ビルのオーナーやマンションの管理組合、最近では病院や老人福祉施設を持つ医療法人、さらには全国自治体の官公庁や省庁からも問い合わせをいただきます。当社のようにお客さまとの直接契約がほとんどの会社は、業界でもめずらしいと思います」

既存社員が2名だけに。会社を救った新たな社内制度

着実に売上を増やしていくテックビルケア社だが、防災点検の金額設定については悩むこともあったという。
 
「昔はどうしても仕事を増やしたいと思い、安さを全面に出した営業をしたこともあります。リピート率が高いので、少し我慢すれば軌道に乗ると安易に考えていたんです。しかし、実際に現場に入ると想像以上のつらさで社員が疲弊していく。ある現場では、20店舗ほどのパチンコ店の消防設備を朝の4時から点検し続けることもありました」
 
当時の経験を教訓に、社員の働く環境やお客さまとの関係性を最も大切にすることを決断した茶橋氏。値下げではなく、サービスに合った適正金額を提案していく。
 
「従来の金額より高くなるのでお客さまの反応は厳しいと思いましたが、受け入れてくださるお客さまがほとんどでしたね。値上げは『お客さまが離れるのではないか』という恐怖があり、企業としてなかなか踏み切れないと思いますが、サービスの品質が担保されていればお客さまに理解してもらえる。お客さまと自社のサービスを信じることが、何より大切だと実感しました」
 
また、茶橋氏は事業運営において従来設定されていた売上目標やノルマをなくしたという。それはなぜなのだろうか。
 
「売上は企業の存続のために重要だと思いますが、社員からすると大きな数字を見せられたところで、何をすればいいのかよく分かりません。それに、目標達成で自分たちにどんなメリットがあるのか実感しにくい。それなら、売上の数値に固執するよりもサービスの応対品質や人材育成などにフォーカスした方がいいのではないかと。もちろん、経営計画などで売上の数値を出していますが、社員に伝えるのは利益目標です。目標を上回った分が社員に還元されるようにして、モチベーション向上につなげるようにしています」
 
茶橋氏が入社してからの10年間で、防災設備部門の利益は10倍に。清掃業から防災事業へのメイン事業の転換にも成功し、2019年には同社の代表に就任している。しかし、一連の事業転換についていけない既存社員も多かったという。
 
「私が入社した頃から数えると2019年当時に残っていたのは2名だけで、若いメンバーとの世代交代が進みました。事業転換で『会社に合わなくなった』と感じるのはある程度仕方のないことですが、より働きやすい環境をつくることはとても大切です。代表就任後は『裸の王様』にならないための仕組みづくりを進め、社員への定期的なアンケートを実施。良い回答も悪い回答もすべて公開するようにしています」
 
働きやすい環境を実現するために、年1回の頻度で社長との「コツコツ面談」も実施。社員同士でおやつを食べながら雑談する「もぐもぐタイム」や、社員同士の交流を増やす「飲み会全額負担制度」、さらには全社員が現場の仕事を入れずにアイデアや意見を出し合う「みらい検討会」も月に1回ペースで開催している。

「スタッフとその家族を招く懇親会『家族会』も開催して、社員の家族にとっても良い会社だと思ってもらえることを目指しています。今は有給休暇なども取りやすくなり、家族会で社員の奥さんから『主人の表情が明るくなって、毎日楽しそうです』と言われるようになりました。また、最近では社員が自ら社内制度のアイデアを出し合う『テックビルケア福利総選挙』を開催。メンバー全員で投票し、高級会員制リゾートホテル『エクシブ』の費用を会社が負担する制度などが採用されています」
 
リスキリングも導入しており、防災関連の資格取得以外にも費用を支給。気になる書籍の購入や料理教室など、社員一人ひとりがそれぞれ興味のある分野で活用できるそうだ。

ドローン活用や住宅診断で業界をリードしていく

防災点検の業界はニッチなので、各社が人材獲得で苦戦することも多い。その中でテックビルケア社は新卒採用にも取り組み、予定通りに採用を進められている。
 
「若い社員も多く、業界内では風通しの良い社風で好意的に受け止めていただいています。応募者の傾向としては『防災で社会へ貢献したい』と考えている方が多いような印象ですね。入社後のギャップも少なく、毎年匿名で行なっている社内アンケートの『自分の仕事に誇りを持っていますか?』という質問では、ほとんどの社員が『誇りを持っている』と回答しています」
 
従業員エンゲージメントの高さで順調に事業を拡大しているテックビルケア社だが、今後の展望についてはどのような構想を抱いているのだろうか。最後に茶橋氏に聞いてみた。
 
「1つ目は競合他社と差別化するためのオウンドメディア開設。少しずつ他社の広告出稿が強まっている状況なので、オーガニック検索でも問い合わせが来るように記事を充実させていきます。2つ目はドローンや赤外線カメラを活用した外壁調査診断事業です。赤外線技術で建物の外壁やその他の部分に潜在する問題をスピーディーに検出しつつ、ドローンも使うことで、広範囲の検査や高所、危険な場所の検査を安全に行うことができます」

さらに茶橋氏は3つ目の施策として、住宅の状態を専門的に評価するための調査「ホームインスペクション(住宅診断)」にも注力していくという。
 
「今まで法人のお客さまを中心に5,000棟以上の建物を見てきましたが、今後は一般住宅の診断にもスコープを広げていきたいと思っています。日本では住宅診断がまだ根づいていませんが、欧米ではかなり一般化しているからです。中古住宅を売買するときには、必ず第三者目線のホームインスペクター(住宅診断士)が入り、物件の欠陥や不備をレポート化するのが当たり前に。当社にもホームインスペクターや、ビルディングドクターなど、建物に関連する専門資格を持ったメンバーがいるので、総合的な『防災』の観点も踏まえて最適なアドバイスをしていきたいと思います」
 
取材・文:VALUE WORKS編集部
 

会社名 株式会社テックビルケア
本社所在地 大阪府摂津市鶴野4丁目10番22号
役員 代表取締役 茶橋 昭夫
事業内容 ・消防設備点検、防火対象物点検、防災管理点検、建築設備定期検査、特定建物定期調査
・防火設備検査、非常用発電機の負荷運転、貯水槽維持管理
資本金 1,000万円
設立年月 1983年3月(現在のサービス開始は2010年)
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