コラム

カスハラ(カスタマーハラスメント)の実態と対策。従業員を守るために私たちができること

近年、サービス業を中心に「カスハラ(カスタマーハラスメント)」が大きな社会問題として注目を集めています。カスハラとは、顧客や取引先からの著しい迷惑行為を指す言葉。従業員の尊厳を傷つけ、メンタルヘルスに深刻な影響を与えます。年々、発生件数は増加傾向にあり、その影響は深刻です。

こうした状況を受け、東京都は全国初の「カスハラ防止条例」の制定に向け、早期の条例案の提出を目指しています。(2024年2月時点)ただ、カスハラを防ぐためには行政だけでなく、企業や個人レベルでの対策も必要です。本記事では、カスハラの定義や具体例、発生要因、実態、対策について詳しく解説し、この問題に対する理解を深めていきましょう。

カスハラとは?

カスハラは顧客や取引先から従業員に対して行われる、身体的・精神的な攻撃や著しい迷惑行為を指します。具体的には暴言、威圧的な態度、理不尽なクレーム、長時間の拘束、セクシャルハラスメントなどが挙げられます。これらの行為は従業員の尊厳を傷つけ、仕事へのモチベーションを低下させるだけでなく、心身のストレスや不調を引き起こす原因にもなります。さらに、カスハラが頻発する職場は、企業イメージの悪化や人材流出にもつながりかねません。

カスハラが起こる原因と背景

カスハラが発生する背景には、客側の心理的要因と社会的要因があります。心理的要因としては日常生活でのストレスや不満を従業員に向けてぶつける傾向や、金銭を支払う立場であるという優越感・権力意識が挙げられます。また、SNSの普及により、些細な不満を簡単に発信できる環境になったこともカスハラ増加の一因と考えられています。
 
社会的要因としてはサービス業に対する「お客様は神様」という意識や、過剰な要求・期待があります。一部の客は、サービスを受ける対価を支払っているという理由で、従業員に対して理不尽な要求をすることがあるのです。

カスハラの実態と被害状況


労働組合のアンケート調査によると「2年以内でカスハラ被害にあった」と回答した人はおよそ2人に1人とのこと。(参考:“カスハラ” 約2人に1人が被害に 労働組合が実態調査
 
特に、小売業、飲食業、宿泊業、交通機関などの対人サービス業種での被害が多く、「長時間にわたる理不尽なクレームで精神的に追い詰められた」「暴言を吐かれ、恐怖を感じた」「不当な要求を断ったら、SNSで個人情報を晒されそうになった」などさまざまなケースが報告されているようです。

カスハラへの対処法


カスハラへの対処は個人と企業が連携して取り組むことで、より大きな効果を発揮します。詳しく見ていきましょう。

個人レベルでの対処法

カスハラに直面した際に冷静さを保ち、相手の要求や主張を傾聴することが第一歩です。たとえ理不尽な要求であっても、まずは相手の話に耳を傾け、問題の本質を見極めることが大切です。その上で、企業の方針に沿った毅然とした対応を心がけましょう。具体的には、「お客様の要望にはできる限り対応いたしますが、当社の方針上、ご要望にはお応えできかねます」といった言葉で、丁寧かつ毅然とした姿勢で臨むことが求められます。
 
万が一、暴言や暴力を受けた場合は、上司や同僚に相談し、一人で抱え込まないようにしてください。状況に応じて、警察への通報も検討しましょう。自分自身の安全を最優先に考え、適切な行動を取ることが重要です。

企業レベルの対処法

従業員教育の徹底が欠かせません。カスハラ対応マニュアルを整備し、ロールプレイングなどを通じて具体的な対処法を指導することが効果的です。例えば、実際のカスハラ事例を用いたシミュレーション研修を実施し、従業員が適切な言葉遣いや態度で対応できるようにトレーニングすることが考えられます。
 
社内外の相談窓口を設置し、従業員が安心して相談できる体制を整えることも重要です。カスハラ被害に遭った従業員が、気兼ねなく相談できる環境を作ることで、問題の早期発見・早期解決につなげることができます。
 
また、企業トップがカスハラを容認しない姿勢を明確に打ち出し、従業員を守る方針を示すことが求められます。トップ自らがカスハラ防止の重要性を説き、組織全体でカスハラ撲滅に取り組む姿勢を示すことで、従業員の意識向上と行動変容を促すことができるでしょう。
 
さらに、カスハラが発生した際の報告・連絡体制を整備し、迅速かつ適切な対応を可能にすることも肝要です。カスハラ事案を把握した際には、速やかに上司や人事部門に報告し、組織として一丸となって対応にあたる必要があります。

カスハラ防止に向けた取り組み


カスハラ防止に向けた取り組みは、企業レベルだけでなく、行政や社会全体で進められています。

企業の取り組み

カスハラ防止に特化した社内研修の実施が挙げられます。単なる講義形式ではなく、実際のカスハラ事例を用いたロールプレイングや、グループディスカッションを取り入れることで、従業員の理解を深め、実践的なスキルを身につけることができます。また、社内報やイントラネットを活用して、カスハラ防止に関する情報を定期的に発信し、従業員の意識を高めることも効果的です。
 
さらに、優れたカスハラ防止の取り組みを行っている企業を表彰する制度も存在します。こうした制度を通じて、企業のカスハラ防止への意欲を高め、ベストプラクティスを共有することで、業界全体のカスハラ防止レベルの向上を図ることができます。

社会全体の取り組み

メディアを通じたカスハラ問題の啓発が重要です。ニュース報道や特集番組などで、カスハラの実態や防止策を取り上げることで、一般市民の関心を高め、理解を深めることができます。また、SNSを活用してカスハラ防止に関する情報を発信し、社会的な議論を喚起することも有効でしょう。
 
カスハラ防止は、企業、行政、社会全体が一丸となって取り組むべき課題です。それぞれの立場で、できることから着実に実行していくことが求められています。私たち一人一人が、カスハラ問題に関心を持ち、その防止に向けて行動を起こすことで、より良い社会の実現につなげていきましょう。

カスハラ被害者へのメンタルヘルスケア


カスハラ被害に遭った従業員は、ストレスやトラウマを抱えることがあります。こうしたメンタルヘルスの問題に対処するためには、専門家によるカウンセリングや心理療法が有効です。また、職場内での相談体制の充実や、上司・同僚による日常的な声かけ・サポートも重要となります。
 
企業はカスハラ被害者のメンタルヘルスケアについて、適切な支援を提供する責任があります。具体的には、社内・社外の相談窓口の設置、メンタルヘルス休暇制度の導入、復職支援プログラムの提供などが求められます。

カスハラを防ぎ、従業員が安心して働ける環境を

カスハラは従業員の尊厳を傷つけ、メンタルヘルスに深刻な影響を及ぼす社会問題です。この問題の解決に向けては、個人、企業、そして社会全体で取り組むことが不可欠です。私たち一人一人が、サービス業従事者の立場に立って考え、互いを尊重し合う意識を持つことが何より大切ではないでしょうか。
 
企業は、カスハラ防止と被害者支援に真摯に取り組み、従業員が安心して働ける環境を整備する必要があります。同時に、行政や教育機関は、カスハラ防止の啓発活動を推進し、社会全体の意識改革を促していくべきです。カスハラのない社会を実現するために、私たち一人一人が今日から何ができるのかを考え、行動に移していきましょう。
 
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