コラム

「自分らしさ」の見つけ方 ~アスリートへのキャリア支援の現場から~ | 株式会社IforC 代表取締役 高松 隆太

「彼を知り己を知れば百戦殆からず」。中国の兵法書『孫子』の一節であり、就職(転職)活動のマニュアル本やセミナーなどでもよく引用される言葉だ。人生の転機ともなる就職・転職という節目において、自分にマッチする組織を選ぶことはとても重要なことであり、そのためには相手(会社)と自分をしっかりと「知る」必要がある。それでは「知る」ためには、どのようなプロセスが求められるのだろうか。

今回はスポーツイベントの企画・運営業務やアスリートのキャリア支援業務を行う株式会社IforCの代表取締役 高松 隆太氏に、アスリートのキャリア支援現場で感じる「自分らしさの見つけ方」や「自己PRのポイント」についてお話を伺った。

【プロフィール】
高松 隆太
株式会社IforC 代表取締役
東海大学体育学部スポーツ・レジャーマネジメント学科卒業後、ゴルフ用品店チェーンを展開する企業に就職。2015年11月〜、幼少期から大好きだった”野球”を仕事にしたい!という想いに気付き、アイフォーシー(個人事業)を開業。「元プロ野球選手のセカンドキャリアを応援すること」をコンセプトとした野球イベントを、都内中心に定期的に開催した。2018年7月、株式会社IforCを設立。主な事業内容は、スポーツイベントの企画運営や、野球ファンコミュニティ「ウッチャエ」の運営、元プロ野球選手のセカンドキャリア支援を目的とした有料職業紹介事業。
『ウッチャエ 野球FANコミュニティ』(https://ucchae.ifor-c.com/)
『アスリート向けのキャリア支援サービス』(https://sports-student-career.ifor-c.com/)

「好き」を突き詰め、形にする


高松氏自身も、自身のキャリアに迷いがあった。27歳のときだった。この先、何を軸として生きていくのか。自分は何者になりたいのか。半年間毎日のように近所の図書館にこもり、自分との対話を重ねた結果、行きついた結論は一つだった。「自分には野球しかない」と。
 

幼少期から野球が好きで、中学・高校時代も野球に打ち込む日々。「自己分析の結果、大好きな野球に関わる仕事をしたいという思いが一番大きいことに気づきました」と高松氏は振り返る。好きなことを仕事にする。口にするのは簡単だが、いざ実現しようとするとものすごくハードルが高いものである。
 

「正直、野球業界に人脈とかもなく、まったくゼロからのスタートでした(笑)元プロ野球選手の所属事務所を調べて、必死にアプローチをしました。ある選手と知り合いになったら、その方の紹介でどんどん人脈を広げていく。誠実である、約束を守る、必ず連絡を返すといった基本的なことを徹底しながら、相手の信頼を得ることを意識しました」
 

そうして初めて企画したイベントは、2016年3月に池袋のライブハウスで行った「野球×音楽」のイベント。野球ファンのアーティストが演奏する野球にまつわるテレビ番組のテーマ曲に、合間には元プロ野球選手によるトークショー。色とりどりのユニフォームを着てタオルを振り回す“野球好き”たちの熱気と一体感は、今でも忘れられないという。

アスリートの「セカンドキャリア」に対するマイナスイメージを払しょくしたい


このイベントの成功を機に、高松氏はスポーツとエンターテイメントを融合した新しいマーケットを切り拓いていきたいという思いをより強固なものとした。そして現在は、さまざまなスポーツイベントの企画・開催を主事業とし、並行してアスリート学生の就職活動支援や、引退後のアスリートのセカンドキャリア支援にも事業領域を拡大している。
 

「アスリートのセカンドキャリアと言うと、どうしてもテレビなどで特集されるイメージもあり、難しい・暗いといったネガティブな印象を抱く方も少なくありません。でも実際にお会いする元アスリートの方々は皆真摯な対応をしてくださり、同じ目線で話してくださる良い方たちばかりなんですよ。こうした方々の力になりたい、アスリートのセカンドキャリアを明るいイメージに変えたいという思いから、セカンドキャリア支援事業に参入することにしました」
 

ただ、長年一つの競技に打ち込んできたアスリートが、簡単に次のキャリアを見つけることができるのだろうか。高松氏も「そこが問題です」と話す。
 

「そのスポーツを取り除いてしまうと、いっきに自信がなくなってしまうという方も多いんです。一方で、スムーズにキャリアを切り拓ける人には二つの特徴があります。一つ目が、チャレンジを続けている人です。目標を持って前向きに進むエネルギーを持っている方ですね。
 

そして二つ目が、自分の思いを発信し続けている方です。最近ではSNSやYou Tubeなどのメディアを通して誰でも気軽に自己発信をすることができます。有名選手になればなるほど、時に心ないコメントをぶつけられたり批判を受けたりすることもありますが、確固たる思いを持っている方はそこで屈したりしません」
 

思いの強さと伝える力。このキーワードはアスリートに限ったことではないだろう。まさに就職(転職)活動を進めるうえでは、自分の能力や価値観を正しく分析すること、そして相手に伝わるように自信を持って発信していくことが重要になってくる。

企業へのPRにおいて、「自分らしさ」を出す


昨今のコロナ禍において、人と人とがリアルにコミュニケーションを取る機会は大幅に減った。IforC社が主催するアスリート学生向け就活支援講座もオンラインが主流となり、本来であれば例えば会社説明会の帰り道にちょっとしたコミュニケーションを取ることで生まれる学生同士の情報交換や仲間づくりの場が失われてしまっていることを懸念しているという。
 

また、セミナー・説明会や面接もオンライン化が進み、会社やそこで働く人たちの様子を肌で感じ取ることが難しくなっている。そうした状況のなかで、「自分一人で自己分析を行おうとすることは危険だと思います」と高松氏は言う。
 

「就職活動において大切なことは、自分らしさを伝えることです。そのためには自分自身を知る必要がありますが、その際、できれば家族や友人、チームメイトなどに自分の特徴をたくさん挙げてもらうと良いでしょう。そこで得られたヒントをもとに、自分としっかり向き合うことで、自分の“らしさ”や“オリジナル”を発見することができます。他者から意見をもらうということを習慣化できると良いですね」
 

就職(転職)活動を始めたばかりの人たちの話を聞くと、自分の良さや他者と差別化できるポイントが見つからないといった悩みが挙がってくる。数多くの求職者と接してきた経験上、高松氏は「アピールできるポイントがない人はいません。そのように話す多くの方が気付いていないだけです」と話す。そして順調にセカンドキャリアを歩んでいるアスリートとも共通する要素として、一歩踏み出す勇気が必要だと言う。
 

「自己PRも基本はトレーニングです。例えば日常生活で、今日はいつもと違うルートで帰宅してみようなど、普段のルーティンから外れる行動をしてみるだけでも、積極的な自分になるためのきっかけとなります」
 

実際にプロのアスリートといえど、人前で話すことが苦手だったり、自分の意見を発信することに抵抗があったりする人も少なくないそうだ。そうした苦手意識を取り除くために、IforC社は「トークイベントの開催」という手段を用いてアスリートの背中を押している。登壇したアスリートにとって、多くの聴衆の前で話し人々を喜ばせる経験は自信となるだけでなく、自分自身のブランディングにも繋がる。そしてその経験が新たなキャリアをつくるうえでの、第一歩となるのだ。

就職活動は「自分が成長するための通過点」


とかく就職活動を始めたばかりの段階では、どうしても内定をもらうことだけに気を取られがちだ。「今、将来を考え、就職活動をしている人たちは、自分が成長するための通過点だと思ってほしい」と高松氏は話す。
 

「就職(転職)活動は自分の価値観や軸を知るとても良い機会です。これまでの人生の延長に今の自分がある、そんな一連の繋がりを実感できる貴重な時間ですし、大変なこともたくさんあるとは思いますが、是非一つのイベントとして楽しむくらいの気持ちで臨んでもらいたいです」
 

人生の岐路に立つアスリート、学生、求職者の「背中を押すこと」が高松氏のモットーであり、仕事におけるやりがいだ。最後に彼は「そういえば」と続けた。
 

「学生時代、野球部では2番セカンドや6番セカンドを任されていたんですよ。その頃から人と人との繋ぎ役になることが好きだったんですね」
 

過去・現在・未来が、一筋の線で繋がった瞬間だった。
 

<取材・文>
山中 茉由(やまなか まゆ)
早稲田大学在学中から、大学スポーツ新聞の編集・記者および学生WEBライターとして活動。卒業後は大手人材会社に入社し、企業向け教育研修事業部門の立ち上げに携わる。同事業では企画営業部署の責任者を務めながら、全国の大手~中小企業約300社に教育研修コンテンツを提供。自身も講師として、学生のキャリア支援や就職活動支援を行う。現在はフリーランスライター兼採用/教育コンテンツプランナー。趣味は4歳の息子と、愛する横浜DeNAベイスターズの試合を観戦すること。
 
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