コラム

AIを人事評価にどう活かす?技術活用の課題・メリット・導入方法・事例を紹介

人事評価は、企業にとって重要な業務のひとつである。従業員の能力や成果を正確に評価することで、適切な報酬や昇進・昇格の判断を行うことができ、従業員のモチベーション向上や成長促進をもたらす。

しかし、人事評価にはいくつかの課題も存在する。働く従業員にとって重要であるからこそ、評価に一貫性や公平性が求められるため、時間とコストに関する課題はどの企業の人事でも一度は抱えたことがあるだろう。

そんな中、AIの急速な進化により、人事評価の在り方にも大きな変革が訪れようとしている。これまでのように感覚的な評価や主観的な判断に頼った人事評価から、データ分析や機械学習を活用したオブジェクティブな評価へとシフトしていくこの変革期に取り残されないためには、AIをうまく活用していくことが必要不可欠となる。

とはいえ、「技術の進化に頭がついていかない」「AIが便利といっても何をどうしたら良いかわからない」と悩む人事担当者も多いことだろう。

本記事ではそんな悩みや不安を抱える人事に向け、AI活用のメリットや導入の仕方について解説していく。

特に、
・人事部門のリソースが限られている中小企業
・組織文化や評価制度が古いまま変化していない伝統的な企業
・人事評価制度が十分に整備されていないまま拡大している高度成長期の企業
・上層部の意見が評価結果に大きな影響を与える階層構造が強い企業
などの特徴を持つ企業の人事は、本記事をきっかけに自身の組織を見つめ直し、AIを用いながら企業の人事評価制度の改善に取り組んでほしい。

人事評価の5つの課題


上述したように、人事評価にはいくつかの課題が存在する。以下にその例をあげていく。
 

課題1:客観性の欠如
人事評価は主観的な要素が含まれるため、評価者のバイアスが評価結果に影響を与える可能性がある。

 

課題2:妥当性と信頼性
評価基準が明確でない場合、評価結果の妥当性や信頼性に疑問が生じてしまう。

 

課題3:評価基準の一貫性
評価者間で評価基準が統一されていないと、同じ業績でも異なる評価結果が出る可能性がある。

 

課題4:評価プロセスの透明性
評価プロセスが不透明であると、評価される側はフィードバックを受け入れにくくなり、不信感が生じる。

 

課題5:時間とリソースの負担
評価プロセスが煩雑で時間がかかる場合、経営者や人事など評価に関わる人物の負担が増加ししてしまう。

 
これらの課題が払拭されない限り、従業員のモチベーションに悪影響を与えることがあるため、企業は早々にこれらの課題への対処が必要となる。

人事評価におけるAIの活用方法


 
そうした人事の課題を解決するためにAIを活用することは、企業の人事として今後欠かせない要素になってくるだろう。企業にとっても、従業員にとっても重要とされる、人事評価に大きな変革をもたらすことができるAIの導入について、そのメリットをあげていく。
 

データ分析による客観的な評価

 
人事評価におけるAIの活用方法の一つとして、まず「データ分析による客観的な評価」があげられる。従来の人事評価では主観的な評価が多く、公平性や客観性に欠ける場合があったが、AIを用いることで大量のデータを解析し、客観的かつ公平な評価を実現することができるようになる。
 

具体的には、従業員の業績や能力を数値データで収集し、データ分析によって客観的な評価することが実現できる。例えば、売上や生産性などの数字に基づいて評価を行ったり、従業員のスキルや経験値をデータ化し、能力の成長や向上度合いを可視化したりすることも可能となる。
 

このようなデータ分析による評価は公平性が高く、従業員間の評価差が少なくなることが期待できる。また、数値データを用いることで、主観的な印象や好みに基づく評価を排除し、客観的な判断ができるようになるだろう。
 

自動評価システムの導入

 
つぎに、「より迅速に正確な評価の実現」があげられる。AIによる自動評価システムを活用することで、従業員のデータを収集し、オブジェクティブな評価を実施することができる。その結果、より迅速に正確な評価が可能になるはずだ。
 

また、自動評価システムを活用することで、従業員が目標を達成したかどうか、トレーニングの必要があるかどうかなど、さまざまな要素を評価するためのデータを収集することもできる。従業員のパフォーマンスを定量的、定性的な方法で評価できるため、従業員の公平な評価へとつながっていく。
 

さらに、自動評価システムは評価時間の短縮や効率化にも大いに役立つ。従業員が自己評価を行い、そのデータをシステムに入力することによって、人事側の評価時間が大幅に短縮されるのだ。システムによっては自動的にフィードバックが提供されるため、従業員の自己成長が促進され、モチベーションアップにも貢献することができる。
 

人工知能によるフィードバックの自動化

 
従業員へのフィードバック自動化については、従業員が業務上で行った内容や成果について自動的に分析し、適切なフィードバックが提供できるようになる。
 

例えば、従業員の業務において継続的に課題が発生している場合、人工知能は従業員に対して効果的な解決策を提示することができ、また従業員のスキルや能力に合わせて、適切なアドバイスを提供できるようになる。
 

このように、人工知能によるフィードバックの自動化は、従業員の成長やモチベーションの向上につながることが期待できる。しかし、人工知能が提供するフィードバックは、あくまでデータに基づいた客観的なものであり、人間の感性や判断力を代替するものではないため、人工知能が提供するフィードバックを適切に活用するためには、日々従業員とのコミュニケーションをとることは欠かせない。

AI人事評価支援ツールの紹介


 
AI人事評価支援ツールは、労働市場の競争が激化する中、企業が求める人材の発掘と適切な評価を目指す画期的なサービスとして、今日までさまざまなツールが開発されている。ここでは、代表的なAI人事評価支援ツールについて紹介していく。

HRMOS

 
AIを活用した人事管理システムで、自動化された評価プロセスにより、正確でオブジェクティブな人事評価を実現する。また自己評価システムも充実しており、社員の自己分析にも活用が可能である。

Workday

 
AIによる人事評価システムに加えて、統合型のビジネス管理ツールを提供している。人事評価だけでなく、従業員の情報やタスクの管理など幅広い業務に対応が可能となる。

ADP Workforce Now

 
人事評価だけでなく、給与計算やタイムトラッキングなどの機能も備えた総合的な人事管理システムを提供する。AIによる効率化や自動化に加えて、クラウド上でのセキュリティも高いのが大きな特徴だ。

SAP SuccessFactors

 
人事評価とともに、トレーニングや才能開発プログラムなどの機能も充実している。また、従業員のエクスペリエンスを重視したシステムづくりが特徴的だ。

Oracle HCM Cloud

 
AIによる人事評価システムに加えて、タレントマネジメントや従業員のエンゲージメント向上などの機能も提供している。また、豊富なデータ分析機能により、より正確な人事評価が可能となる。
 

これらのAIサービスは、人事評価制度を効率化し、従業員のエンゲージメントやパフォーマンスを向上させるのに役立つため、人事は常に情報のアップデートを行いつつ、自社にあったサービスを見極めることが評価制度効率化の一歩となる。

AIの導入に伴う課題と対策


 
人事評価制度のAI支援ツール活用は、業務の効率化や客観性の向上に寄与する。一方で課題もある。評価対象者の個人差やコミュニケーションのニュアンスを正確に把握する困難さ、プライバシーや倫理的な問題を引き起こす恐れがあることから、導入・運用にあたっては慎重な検討が必要だ。また、AIが持つバイアスや過去のデータに基づく判断の限界にも注意が必要となる。特に導入前にあたり対策の検討が必要な課題は以下があげられる。
 

データの適切な管理

 
個人情報の取り扱いについては、法的な規制も厳しく、注意が必要である。そこでデータの適切な管理については、つぎのような対策を事前に講じておこう。
 

データの収集方法を明確にする
データはどのような方法で収集されたかによって、その信頼性や適切さが異なる。そのため、データの収集方法を明確にすることが求められる。

 

データの正確性を確保する
AIはその学習結果に基づいて人事評価を行うため、データの正確性が非常に重要となる。データの入力ミスや不正確なデータがあると、結果が大きく偏ってしまう危険性がある。

 

データの保管場所を管理する
データが保存される場所を適切に管理することも欠かせない。特に、個人情報などの機密性の高い情報を含む場合には、セキュリティやプライバシーに十分注意する必要がある。

 

データの利用目的を明確にする
データの利用目的を明確にすることで、適切なデータ管理が可能となる。また、利用目的が変更される場合には、事前に関係者に通知することも大切だ。

 

データの更新を定期的に行う
時間の経過とともにデータも変化していく。そのため、定期的にデータの更新を行うことが必要だ。また、データの古さや不正確さを避けるために、適宜データの精査も行うようにしよう。

 

プライバシーの保護

 
また、プライバシーの保護も必要不可欠なポイントだ。個人情報を適切に収集・管理し、不正アクセスや漏洩のリスクを最小限に抑えるためには、どのような対策が必要なのか。人事評価制度にAIを導入する際に、考慮すべきプライバシー保護の対策についてもあげていく。

データの収集に関するポリシーの策定
人事評価に必要なデータを収集する際には、どのような情報を収集するのか、どのような方法で収集するのか、どのような目的で利用するのか、利用期間は何かなどを明確に定めておく。

 

匿名化や擬似化の実施
収集された個人情報は、匿名化や擬似化などの方法を用いて、個人を特定できないように加工をする。また、この加工処理を行うためのガイドラインや手順を策定し、実施することも重要だ。

 

アクセス制御の実施
個人情報を扱うシステムやデータベースには、アクセス制御を実施する。アクセス制御を実施することで、不正アクセスや漏洩を防止することが可能となる。

 

第三者への情報提供に関する規定の策定
人事評価に関する情報を第三者に提供する場合は、個人情報保護法などの法令に則って、利用目的を明確に定め、事前に本人の同意を得るようにする。また、情報提供先についても慎重に選定し、契約書などで情報管理を明確にする。

 

セキュリティの確保
人事評価に関わる情報を扱うシステムやデータベースのセキュリティを確保する。不正アクセスやデータ漏洩のリスクを最小限に抑えるために、適切なセキュリティ対策を実施する。

 

監査の実施
個人情報の取り扱い状況を定期的に監査することで、不正アクセスや漏洩のリスクを把握し、適切な対策を講じていく。監査結果に基づき、システムや手順の改善を適宜実施していく。

 

AIを導入することで生産性向上や公平性の確保など、多くのメリットを企業は享受できるようになるが、同時に上述したようなデータの管理やプライバシーの保護に関する対策を十分にとることは欠かせない。きちんと対策を実施することで、適切な人事評価制度を構築することができる。
 

人間の感性や判断力を補完するAIの開発

 
人事評価においては、従業員のリーダーシップやチームワークといった人間の感性や判断力も重要な要素となる。そのため最近ではAI開発者による、人間の感性や判断力を補完するAIの開発も取り組まれている。
 

例えば、AIを活用した自動要約技術では、人間が煩雑な評価文書から重要なポイントを抽出してまとめる手間を省くことを可能とし、人間の判断力を支援するツールとして活躍が期待されている。
 

ただし、人間の感性や判断力を補完するAIを開発するには多くのデータが必要となり、従業員の業務や能力をより細かくデータ化することが求めらるため、人間の感性や判断力の評価において安易に活用してはいけないということは、留意しておかなければならない。
 

AIはあくまで保管ツールとなるため、すべての判断を委ねるのではなく、導き出された結果をもとに人間が評価を行うことは欠かせないだろう。今後もAIの発展により、より公平かつ透明性の高い人事評価が従業員の成長促進につながることが期待されているが、その評価を判断する者のスキルも必要となることを忘れてはならない。

人事評価制度にAIを導入した成功事例


日本国内の企業でAIを導入した人事評価制度の成功事例をいくつか紹介していく。
 

トヨタ自動車

 
トヨタ自動車は2019年にAIを活用した人事評価制度を導入。AIによる自動化により、従業員の業務内容や達成した成果を分析し、個人の能力や評価に反映することができるようになった。具体的な取り組みとしては、従業員が日々の業務で使用するデバイスから情報を収集することで、生産性や業務の効率性を分析している。
 

日本マイクロソフト

 
日本マイクロソフトはAIを活用した人事評価制度「Modern Work Style」を導入。従業員のメールやカレンダー、チャットなどのデータを収集・分析し、業務の進捗状況やコミュニケーション能力などを評価している。また、従業員自身が登録したキャリアプランや能力開発の実績も評価要素として取り入れている。
 

サイバーエージェント

 
サイバーエージェントでは「HR-Tech」を導入。社員の業務の進捗状況やアウトプットなどを自動的に収集・評価し、KPIの設定からフィードバックの一元管理を実現した。また、AIによる自動化により、従業員が日々行う煩雑な評価作業を軽減することができるようになった。
 

以上が、日本国内の企業でAIを導入した人事評価制度の成功事例だ。これらの企業は、自社の業務や文化に合わせたAIの活用により、人事評価の効率性や公平性を高めることに成功しているのでぜひ参考にしてほしい。

AIの適切な活用で、より透明度の高い人事評価へ


本記事では、AIがもたらす人事評価の変革について、活用方法、具体的なメリット、課題と対策、そして実践事例などを紹介してきた。これにより、AIは人事評価の効率化や客観性の向上、適切な人材配置や育成支援を実現する一方で、データ管理やプライバシー上の問題、コミュニケーションのニュアンスを捉える難しさなどの課題に対する対策が不可欠だということがわかった。
 

今後の人事評価では、AIの活用による革新的な変化を享受しつつ、人間の判断とのバランスを保ち、各課題への対策を適切に実施することが求められるようになる。AIシステムの透明性を確保し、適切なデータ管理・アップデートを行い、継続的なモニタリングと改善を実践することが重要となり、また従業員の理解と協力を得るための教育やコミュニケーションも不可欠になるだろう。
 

先進的な事例を参考にしながら、独自の人事評価制度を構築し、企業全体の成長と従業員の満足度向上を実現することが、AIを活用した人事評価の真の目的であることを忘れずに、今後の取り組みに役立てていってほしい。
 

【筆者プロフィール】
西山 侑里
1993年群馬県高崎市生まれ。空っ風に鍛えられながら、小中高とバスケットボールを追い続ける部活生活を経て、2012年の大学入学を機に上京。大学卒業後、2016年にリクルートの求人広告代理店に新卒入社。売れない営業時代を乗り越え、営業リーダーを任せられるまでに成長。新規部署の立ち上げメンバーとしてIndeedの運用にも携わる。2022年に夢だったライター職に転職。人材業界での経験を活かして求人原稿の制作から、最近ではコラム記事の制作に挑戦中。
 
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