コラム

裁量労働制とは?導入メリットやデメリット、2024年度実施の改正ポイントを紹介

裁量労働制とはあらかじめ定められた時間を労働時間とみなす制度。実際の労働時間ではなく、企業と労働者の間で定めた時間を働いた時間とし、その分の賃金が支払われます。すべての職種に適しているわけではないため注意が必要だったり、2024年4月1日に法改正が行われたこともあり、「詳しいことはよく知らない」という人事の方もいるのではないでしょうか。そこで本記事では、裁量労働制とはなにか、他の制度との違いや導入するメリットと問題点、法改正のポイントについて紹介します。気になる方やこれから導入を検討している方は、ぜひ参考にしてください。

裁量労働制とは?


労働基準法が定めるみなし労働時間制の一種で、勤務時間の制限がなく、従業員の裁量で勤務時間を決定できます。例えば1日のみなし労働時間が7時間だった場合、労働基準法で決められた上限を超えなければ、1日の労働時間が9時間でも6時間でも、契約した7時間働いたとみなされ給与に反映されます。

裁量労働制の種類とは


裁量労働制には主に以下の二つの種類があります。それぞれの特長について、詳しく見ていきましょう。

専門業務型裁量労働制

研究者や編集・ライター、弁護士、映画・TVの制作スタッフなど、専門性の高い職種が該当する「専門業務型」の裁量労働制です。具体的には以下19の職種が対象業務になります。
 

(1)新商品若しくは新技術の研究開発又は人文科学若しくは自然科学に関する研究の業務
(2)情報処理システム(電子計算機を使用して行う情報処理を目的として複数の要素が組み合わされた体系であつてプログラムの設計の基本となるものをいう。(7)において同じ。)の分析又は設計の業務
(3)新聞若しくは出版の事業における記事の取材若しくは編集の業務又は放送法(昭和25年法律第132号)第2条第4号に規定する放送番組若しくは有線ラジオ放送業務の運用の規正に関する法律(昭和26年法律第135号)第2条に規定する有線ラジオ放送若しくは有線テレビジョン放送法(昭和47年法律第114号)第2条第1項に規定する有線テレビジョン放送の放送番組(以下「放送番組」と総称する。)の制作のための取材若しくは編集の業務
(4)衣服、室内装飾、工業製品、広告等の新たなデザインの考案の業務
(5)放送番組、映画等の制作の事業におけるプロデューサー又はディレクターの業務
(6)広告、宣伝等における商品等の内容、特長等に係る文章の案の考案の業務(いわゆるコピーライターの業務)
(7)事業運営において情報処理システムを活用するための問題点の把握又はそれを活用するための方法に関する考案若しくは助言の業務(いわゆるシステムコンサルタントの業務)
(8)建築物内における照明器具、家具等の配置に関する考案、表現又は助言の業務(いわゆるインテリアコーディネーターの業務)
(9)ゲーム用ソフトウェアの創作の業務
(10)有価証券市場における相場等の動向又は有価証券の価値等の分析、評価又はこれに基づく投資に関する助言の業務(いわゆる証券アナリストの業務)
(11)金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発の業務
(12)学校教育法(昭和22年法律第26号)に規定する大学における教授研究の業務(主として研究に従事するものに限る。)
(13)公認会計士の業務
(14)弁護士の業務
(15)建築士(一級建築士、二級建築士及び木造建築士)の業務
(16)不動産鑑定士の業務
(17)弁理士の業務
(18)税理士の業務
(19)中小企業診断士の業務
 
※引用:厚生労働省「専門業務型裁量労働制

企画業務型裁量労働制

一方で企画業務型裁量労働制は、事業の中核を担う労働者が創造的な能力を十分に発揮できるよう2000年4月から施行された制度。事業運営上の重要な決定が行われる企業の本社などにおいて企画立案、調査・分析などを行う労働者を対象とした裁量労働制です。
 
※参考:厚生労働省「企画業務型裁量労働制
 

わかりやすい例でいうと、本社や管理部門の経営企画や事業企画などが該当します。企画、立案、調査・分析を伴うのであれば、財務・経理、人事なども対象です。

裁量労働制とフレックスタイム制度との違い


では、裁量労働制はフレックスタイム制度と比較して何が違うのでしょうか。それぞれの違いについて、見ていきましょう。
 
フレックスタイム制度は1日の労働時間の長さを固定的に定めず、一定期間についてあらかじめ決められた総労働時間の範囲内で労働者が日々の始業・就業時刻、労働時間を自分で決定できる制度です。労働者は日々の都合にあわせて、働く時間を自由に配分できるので、プライベートと仕事のバランスを取りやすくなります。賃金は実際に働いた時間に応じて支払われるという点が裁量労働制と大きく異なる点となります。
 
※参考:厚生労働省「フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入手引き

裁量労働制を導入するメリット


裁量労働制を導入することで企業や労働者にとってさまざまなメリットがあります。以下、詳しく見ていきましょう。

生産性の向上

裁量労働制は、時間にとらわれることなく仕事を進めることができます。ベストなパフォーマンスを発揮できるタイミングで仕事に取り組むことができ、結果として生産性の向上が期待できます。

優秀な人材を確保しやすくなる

実力に応じたフレキシブルな働き方ができるので、優秀な人材確保にもつながります。成果を出せる人であれば自分の裁量で労働時間を圧縮できるので、スキルの高い人にとっては魅力的な制度と言えるでしょう。

従業員のモチベーション向上

従業員が自分の仕事に対する責任のもと、ある程度自由を得ることで、モチベーションを向上させるといった効果も期待できます。「自由にさせてもらっている分、頑張ろう」といった会社への貢献意欲の向上や、「この勤務スタイルを継続するために、きちんとやらなければ」といった責任感を持たせることができるでしょう。

裁量労働制のデメリット


裁量労働制は多くのメリットを提供する一方で、いくつかの問題点も抱えています。具体的にどんな問題点を抱えているのか、詳しく見ていきましょう。

長時間労働

裁量労働制は、労働時間よりも労働の成果を重視する制度です。しかし、その反面「結果が出るまで働く」という考え方が浸透すると、過剰な労働時間が生じやすくなるという可能性が高まります。実際に、裁量労働制の下で健康を害する従業員が増えるという問題が生じています。

成果評価の曖昧さ

成果主義を前提とする裁量労働制では、成果の評価基準が明確でないと問題が発生しやすいです。評価基準が主観的であったり、不透明であったりすると、公平に評価されることが難しく、従業員が自身の労働に対する対価が明確でないという不安感を抱くことになります。

適用範囲の誤解と濫用

裁量労働制は一部の専門的な職種にのみ適用可能な制度ですが、企業側の誤解や濫用が問題となることもあります。適用範囲が明確でないため、不適切な職種に裁量労働制を適用し、法制度を乱用することが可能となる場合もあります。実際に本来適用されるべき職種でないにも関わらず、裁量労働制が適用されているケースも報告されています。

2024年度の改正について


上述した問題点が数多く確認されたことを受け、長時間労働などの問題点の改善、より柔軟な働き方の実現に向けて2024年4月1日から裁量労働制は改正されることになりました。今後、新たに裁量労働制を導入する企業、そして既に導入済みで制度を継続していく企業は、新たな対応が求められることとなります。

改正の内容


では、具体的にどんな改正内容となるのか、厚生労働省による告示について紹介します。詳しい手続きなどはしっかり調べ、必要な対応について理解しておきましょう。

専門業務型・企画業務型共通

専門業務型裁量労働制において、労働者からの明確な同意を得ることが必要になりました。企画業務型裁量労働制では、労使委員会の決議に定められることが義務付けられていましたが、専門業務型裁量労働制についても労働者の同意を得ることを労使協定に定める必要があります。また、同意がない場合に労働者に不利益な取り扱いをしないよう定めることも義務付けられます。さらに、専門業務型と企画業務型裁量労働制の両方に共通して、労働者が同意を撤回できる手続きができ、その同意及び撤回に関する記録を保存することも労使協定や労使委員会の決議に明記する必要があります。

企画業務型裁量労働制

企画業務型裁量労働制では、以下4つの点が改正となります。

労使委員会に賃金・評価制度を説明する

労使委員会の運営規程に、対象労働者に適用される賃金や評価制度について、使用者が労使委員会に事前に説明する必要があることなどを明記する必要があります。さらに、賃金や評価制度に変更があった場合には、変更内容を労使委員会に説明し、労使委員会の決議に基づいて行うことが必須となります。

労使委員会は制度の実施状況の把握と運用改善を行う

制度の趣旨に沿った適正な運用の確保に関する事項を労使委員会の運営規程に定める必要があります。

労使委員会は6ヶ月以内ごとに1回開催する

労使委員会の運営規程において、委員会を少なくとも6ヶ月に1度は開催するという規定を設ける必要があります。

定期報告の頻度が変更

定期報告の頻度について、労使委員会の決議の有効期間の始期から起算して、初回は6ヶ月以内に1回、その後1年以内ごとに1回必要になります。

従業員の定着と企業の成長を実現しよう


労働人口の減少や慢性的な人材不足に直面している中、多くの企業が従業員の定着に向けて、多様な働き方を模索しています。このような状況の中、今回の裁量労働制の改正は、企業にとって働き方を見直す良い機会となるかもしれません。改正された裁量労働制は、企業にとって従業員の労働環境をより柔軟に設計し、それぞれのライフスタイルや能力に合わせた働き方を提供する良き方法になるでしょう。裁量労働制を正しく活用し、従業員が仕事と私生活のバランスを取りやすくすることで、企業に対する従業員の満足度と共に企業の持続可能な成長を実現できるはずです。
 
【筆者プロフィール】
西山 侑里
1993年群馬県高崎市生まれ。空っ風に鍛えられながら、小中高とバスケットボールを追い続ける部活生活を経て、2012年の大学入学を機に上京。大学卒業後、2016年にリクルートの求人広告代理店に新卒入社。売れない営業時代を乗り越え、営業リーダーを任せられるまでに成長。新規部署の立ち上げメンバーとしてIndeedの運用にも携わる。2022年に夢だったライター職に転職。人材業界での経験を活かして求人原稿の制作から、最近ではコラム記事の制作に挑戦中。X(Twitter)
 

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