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  • 2022.01.07

「今やらないと、業界の未来はない」職人とデザイナーの未来を切り開く、総支配人の決意 | 株式会社ステイト・オブ・マインド

「縫製やアパレルの世界に新しい風をどうやって吹かせるのか。職人さんを支える技術をいかに日本に残すか。そのために、私たちは全力で取り組んでいます」

そう力強く語るのは、株式会社ステイト・オブ・マインド 取締役の佐藤杏里。日本の縫製業界の再生を目指し、プロの職人に一般ユーザーが依頼できるオンライン縫製マッチングサービス『nutte(ヌッテ)』のグロースに尽力してきた。今ではユーザー数6万5000人以上のプラットフォームに成長している。

2018年には『nutte』に登録しているトップ職人たちと一緒にファッションブランドの立ち上げを支援するサービス『teshioni(テシオニ)』をローンチ。登録している縫製職人たち(1,500人以上)が適正な収入を継続的に得られるよう、ブランドのサポートやECサイトの運営を進めている。

総支配人としてプロジェクトを牽引している佐藤だが、入社前はアパレル系の知識が皆無だったという。どのように彼女は縫製業界を変える決意に至ったのか。佐藤のキャリア遍歴と、職人・デザイナーへの熱い想いに迫る。

【プロフィール】
佐藤 杏里
株式会社ステイト・オブ・マインド 取締役 ブランディング統括 teshioni総支配人。歌手、バレエ講師、ヨガインストラクターを経て、2015年ステイト・オブ・マインドに入社。nutteをはじめとする各サービスの運営、ディレクションに関わり、広報として初期の成長を加速させる。2018年にスタートしたteshioniでは総支配人を務める。

歌手としてメジャーデビューを果たすも、1年で解散

佐藤のキャリアは、音楽業界での挫折からスタートしている。歌手を目指して地元の大阪から上京してきたのは15歳の時だった。
 

「若い頃はひたすらレッスンに励んでいました。20歳でinconnueというデュオでメジャーデビューしたのですが、1年ぐらいの活動期間で鳴かず飛ばずでしたね(苦笑)。ただ、自分の中でやり切った感じもあったのでそこまで悔しくもなく。その後はボイストレーナー、バレエ講師、ヨガインストラクターなど、様々な活動に取り組んでいました」
 

転機になったのは、ステイト・オブ・マインド代表・伊藤悠平との出会いだった。当時は会社を立ち上げる前で、縫製のアトリエを運営していたという。
 

「代表の伊藤は10年ほど個人で縫製業を営んでいたのですが、得られる所得が低かったため、なかなか食べていくのが難しい状況だったそうです。当時、私と同じ夜勤のアルバイトをしていたので、その辺りの苦労を色々と聞いていました。その後、2015年に『会社を立ち上げて人手が足りないので手伝ってくれませんか?』と、伊藤から連絡がありました。ヨガ講師の仕事をしていたので『アルバイトで良ければ』というかたちでジョインしたのが、はじまりです」
 

アパレル関連の仕事は未経験であり、基本的な知識やノウハウのなかった佐藤。普段の仕事に支障はなかったのだろうか。
 

「やらなければいけないことが目の前にあると、それを自然と好きになるんです。洋服について詳しいわけではありませんでしたが、働くうちに洋服がどんどん好きになっていきました。自然と『もっと知りたい』という欲求も高まっていきましたね」
 

事務作業と並行して、ローンチしたばかりの『nutte』のサービス拡充に取り組みはじめる佐藤。本サービスを初めて知った時には、大きな可能性を感じたそうだ。
 

「まず、プロの職人さんに洋服を作ってもらえること自体が『すごいな』と思いました。バレエ講師や歌手としての活動の中で、スタッフの方々に衣装を作ってもらうことがあり、それがとても特別な経験だと知っていたので。それが一般に普及することは、すごく夢があると思いましたね。それに、職人さんが『言い値』で仕事をするのではなく、お互いに納得できる価格を設定できることにも魅力を感じました」
 

職人の意識が変わらなければ、縫製業界の未来はない

『nutte』の運営を続けるなかで、佐藤は縫製業界の現状を少しずつ知ることになる。
 

「一般的に販売されている洋服は、定期的に開催される展示会でサンプル品が買い付けられ、それから工場で量産されます。その展示会で出品する洋服を、自宅や数人の工房で製作している人たちがいるんです。それが『サンプル職人』と呼ばれる方たちで、そういった方々は1着を縫い上げられる高い技術を持っているんです。『nutte』に登録している人の多くはこうした職人さんたちです」
 

佐藤の気持ちが、縫製業界へ大きく傾き始めたのは職人たちへのインタビューがきっかけだった。サービス拡充のため、現役の職人たちに話を聞きにいったという。
 

「『気難しそう』という職人さんへの勝手な先入観で、アポ取りの電話では手がブルブル震えていました(苦笑)。でも実際に会ってみるとみなさん気さくに話してくださいました。地方に行った時には、ご飯をご馳走になったりもしましたね。色々なことを話す中で、縫製業界の苦しい現状が分かってきたんです。『次の仕事に繋がらない』『きっかけがどこにもない』という八方塞がりの状況で……。業界に活気がなく、自分の技術を磨いたとしても、使うところがないと仰っていました。収入的にも生活費を稼ぐのが精一杯で、弟子を雇ったり技術を継承していくこともできません。それを聞いて、今何とかしないと縫製業界の未来はないと思いましたね」
 

縫製業界の現状を変えるためにまず必要になるのは、職人たちの意識改革である。『nutte』のプラットフォームの中で、職人たちの意識に変化が生まれることもあるという。
 

「職人さんたちは下請けの時代がとても長いので、依頼の金額が少なかったりすると、『この中でやらなきゃいけない』と思い込んでしまうんです。一方の依頼側は、相場が分からないだけの場合も多くあります。『nutte』で活躍されている方は、この辺りのやり取りが丁寧で、『その金額じゃできないけど、これぐらいなら』というコミュニケーションで仕事を進めています。最初は上手くできなかった職人さんたちも、ユーザーとの会話に少しずつ慣れてきていると感じています」
 

職人と一般ユーザーのやり取りがスムーズになる中で、職人への継続的な発注が生まれていくそうだ。
 

「今までの縫製業は、繋がりでしか仕事を受けられない下請けの構造だったので、1度断ると次がないなど、収入が安定しなかったんです。それに、季節によって仕事量は大きく変わります。一方の『nutte』は、ユーザーからの継続的な受注が可能になり、収入が安定します。月に50万円以上の収入を得られる人も出てきました。『nutte』は、職人のペインを解決するビジネスモデルであり、そこが一番の強みだと思います」
 

マッチング・サービスを通して、救われた職人も多いという。「工場を閉めようと思ってたけど、『nutte』を始めて続けることにしました」などの声が届いている。
 

「登録してくださる職人の方々も自然流入でどんどん増えており、自分自身が受けたい案件を受注できる状況が生まれています。それに、今まではユーザーの声を職人さんが聞くことはほとんどなかったと思いますが、『nutte』ではお客さんが喜んで買ってくださる姿が見えるので、すごく喜んでくださいます」
 

ブランド立ち上げを支援し、制作に専念できる環境を

『nutte』の認知度が高まる中で増えていったのが、ハンドメイド商品の生産数を増やすためのサービス利用である。ブランドを運営しているデザイナーの中には、注文数が増加することで顧客管理に時間がかかり、商品制作が追いつかなくなるケースが多いのだ。
 

「ブランドが成長していくと制作業務が増え、顧客管理や資金管理などの運営業務を並行して行うことが難しくなります。そこで、各ブランドの事業運営に関わる部分を私たちが一緒に行うことで、デザインや制作業務に専念できるようになるのではないかと思いました。デザイナーさんをサポートすることで職人さんへの仕事も回るようになり、連携がスムーズになると考えたんです」
 

そのような想いで2018年にスタートしたのが、初期費用ゼロでオリジナルブランドを立ち上げられる支援サービス『teshioni(テシオニ)』だ。
 

「個人でブランドを立ち上げることは夢のあることですが、スタートしてから『何をすればいいのか分からない』というのが実際のところだと思います。商品リリース前に必要なことを整理・実行し、ブランドを立ち上げ、お客さまに買っていただく。その各工程をサポートすることが私たちの役目です」
 

デザイナーからの「こんな事をやってみたい」というアイデアや要望に対して、「実行するには何が必要か?」というオペレーション設計を考えることも多いそうだ。また、実際の制作業務には、『nutte』でトップレベルの技術を持った縫製職人をアサインしている。
 

「私たちがやる以上は、職人さん側に何らかのメリットがないと、やっている意味がないと思っています。職人さんたちと一緒に私たちも制作部分に携わりながら、お客さまの立場に立ってフィードバックすることを意識しています」
 

サンプル作品はメンバー全員でレビューするようにしており、そのブランドのオリジナリティが引き立つようにチームで作り上げていく。
 

「レビュー段階で『めちゃくちゃいい!』と盛り上がったものは、お客さまにも伝わることが多いと感じています。見る基準としては『ブランドらしさ』という部分を最も重視しており、流行のデザインと比べることは一切ありません。最終的な決定権はデザイナーにありますが、どのブランドに対しても『自分のブランド』と言えるくらいの愛情を持つようにしています」
 

熱量の高いデザイナーが、自走してブランドを運営できるように

『teshioni』で各ブランドの運営をサポートするなかで、佐藤の中には別の課題感が生まれていく。それは、ブランドの立ち上げについて全くノウハウのないデザイナーを育成していく必要性だ。
 

「『teshioni』では継続的にブランドを運営していくために、一定数のフォロワー(2,000人以上)を持つデザイナーの方を選定してサポートしていました。しかし、その選考基準に満たなくても熱量の高いデザイナーがたくさんいたんです。ブランド立ち上げのノウハウが全くないデザイナーさんを私たちがフォローし、一緒にブランドのファンを増やしていく必要があると思いました」
 

2021年に新プロジェクト『maison407』を始動。新たなブランドを立ち上げようとするデザイナーたちが、わずか1年で生産から販売まで、自走できる力を身につけられる。『teshioni』で培ったプロの知見を存分に生かしたプロジェクトだ。
 

ブランドの選考では、実績、経験などを一切不問にしており、応募資格は「洋服のブランドを本気で立ち上げたい方」のみ※。ブランドの立ち上げを一からサポートしていくことを大切にしている。※帽子・バッグ・雑貨等は除く
 

「着実にブランドの規模を大きくしながら、お客さまを段階的に増やしていくことを重視しています。ブランドを立ち上げてすぐになくなってしまうと、お客さまが定着せず職人さんの仕事が急になくなることにもつながるので。それを防ぐためにも、『maison407』では独自のSTEP制度を設けて、『洋服のパターンをどういう形にするのか?』『何着作るのか?』『いつまでに売り切るのか?』などいくつかのプロセスを設定しています。ステップ5をクリアした段階で、安定したブランド運営ができるようになる設計です」

そのプロセスの中で最も重視しているのが、「ブランドミッションを決める」ということ。「このブランドがあると、誰がどのくらい幸せになるのか?」と考えることがスタートになる。
 

「一般的なアパレルの商品では、販売数や型数などの数量とターゲットを決めてすぐにスタートすると思いますが、ブランドを立ち上げるとゼロから積み上げていくプロセスが必要になってくるんです。『どんな思想、どういうアプローチで作っていくのか?』というコンセプト部分が最も重要で、ここが決まらないとその後の制作が大きくブレてしまいます。このコンセプトが決まらないと先に進めないので、デザイナーさんはここで一番苦労することが多いですね。イメージが湧いていても言語化できないことが多いので」
 

コンセプトが決まらない場合、そこで1〜2か月足踏みすることもあるとのこと。それでも、デザイナーたちを見放すことは決してしない。
 

「上手くいかなくても、別にその人の人生が終わるわけじゃないので。何回でも挑戦すればいいと思っています。アパレル業界においては、チャレンジできること自体が土壌として不足しているんです。『maison407』で早い内にたくさん失敗してもらい、その裾野が広がっていき、色々な方がチャレンジしてくださればいいなと考えています」
 

『maison407』では、デザイナーたちの挑戦を次世代に伝えていこうとする想いから、ブランド運営や制作過程のドキュメンタリー動画を撮影。ブランド立ち上げでどんなことに困り、それをどのように乗り越えていったのかをYouTubeで配信している。
 

「デザイナーを志す人に伝わるよう、映像でも残していきたいと思っています。ホームビデオ感覚に近いんですけど、他のデザイナーさんの試行錯誤の日々を見てもらうことで、『悩んでるのは私だけじゃないんだ』と感じられるのではないかと。誰かのチャレンジを潰さないように、サポートしていきたいと考えています。商品PRの動画配信に協力するなど、色々な取り組みを続けています」

職人やデザイナーといつでも繋るオフィス

デザイナーや職人と伴走していくマインドは、ステイト・オブ・マインド社のオフィス・レイアウトにも表れている。
 

「デザイナーさんや職人さんが作業するアトリエをオフィスの中央に配置して、メンバーのみんなが見えるようにしています。弊社ではデザイナーさんと職人さんが主役なので、それを支えるエンジニアや他のメンバーが『自分の仕事が何に繋がっているのか?』常に意識できることが大切だと考えています」

現在はワンフロアの広いオフィスだが、以前はマンションの一室からスタートしているとのこと。その原点を忘れないようにする想いが、maison407の名称に込められている。
 

「マンションの一室から新たなブランドがどんどん立ち上げられていった昭和60年代の話を、職人さんたちからよく聞くんです。『“マンションメーカー”があった頃はね』と皆さんその時代が素晴らしかったと話されます。私たちも本当に小さなところからスタートしているので、そのマインドを忘れないようにしながら、日本を代表するようなブランドを育てていきたいと考えています」
 

ステイト・オブ・マインド社には色々なメンバーが参画しており、洋服が好きな人、縫うことが好きな人、さらにはエンジニアとして活躍する人も多い。特定の分野の洋服作りに偏ることもないので、幅広い分野から自分のやりたい仕事を選ぶこともできる。
 

「自分が望めば、どんなことでも出来る環境があると思います。例えば、デザイナーたちのドキュメンタリーを撮影しているメンバーも、『撮りたい!』と自ら志願して取り組んでいます。何でも色々なことに挑戦できて、それを積極的にサポートしていく会社なので、やりたいことがある方はぜひ私たちのプロジェクトに加わっていただければと思います」
 

取材・文:平原 健士、撮影:鈴木 智哉

会社名 株式会社ステイト・オブ・マインド
本社所在地 東京都東京都目黒区大橋1丁目6-13 STUMPS IKEJIRI OHASHI 3階
役員 代表取締役 : 伊藤悠平
取締役   : 佐藤杏里
事業内容 縫製職人のマッチングプラットフォーム【nutte】
洋服の染め直しサービス【and colors】
個人のファッションブランドの立ち上げを支援するサービス【teshioni】
戦略的にデザイナーとブランドを成長させるプロジェクト【teshioni maison407】
資本金 2億461万円
設立年月 2015年2月
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