次世代のヒトづくり×テクノロジー大会議「Life is Tech ! JAM 2024」レポート②(次世代に続く組織づくりとは。DX人材育成に必要な視点)
今回は全3回にわたるイベントレポートの第2回をお届けします。テーマは「次世代に続く組織づくりとは。DX人材育成に必要な視点」です。次世代人材の育成や活用に課題を抱える人事担当者、経営者の方はぜひご覧ください。
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【ゲスト】
岡島 悦子氏(株式会社プロノバ 代表取締役社長、株式会社ユーグレナ 取締役 兼 指名報酬委員会委員長)
森田 健氏(NEC ピープル&カルチャー部門 カルチャー変革エバンジェリスト)
武子 弘司氏(江崎グリコ株式会社 デジタル推進部長)
受け入れ側が「何もしない」環境づくり
――まずは次世代を担うDX人材が活躍できる環境をつくる上で、みなさんが考える現状の課題を教えてください。
西口氏:まず、「次世代側」と「受け入れ側」が、互いを理解しきれないと思います。スマホネイティブやAIネイティブと呼ばれる人たちが社会に出てくる状況下では、常識にギャップが生じます。「理解し合えない前提で、相手を理解しようとする」姿勢が求められると言えますよね。
森田氏:西口さんの話にも通じますが、NECでは45歳以上の社員が50%を超えるなか、若手の力をどう経営に活かしていくかが課題となっています。私たちの世代が「何もしない環境」をどう作るかが肝になっているんです。私たちに求められるのは、自身の知識や経験を活かし、「若手を社内のリソースにつないで、あとは何もしない」スタンス。その結果、若手からも良いアウトプットが生まれると考えています。
岡島氏:私は経営者を養成する仕事をしていますが、次世代人材が活躍できる場を作るには「抜擢」と「機会提供」が大切だと考えます。小さくてもいいので、次世代のメンバーに意思決定の機会を提供すること。そして私たち受け入れ側は、次世代人材が活躍できる仕組みを整える必要があると思っています。
武子氏:たしかに、上の世代が「何もしない」ことが大切ですよね。なぜなら、組織はトップダウンで作るものではないからです。マイクロサービスを起点にチーム化を行い、成果の創出につなげていくことが、次世代の組織のあり方と言えるでしょう。当社でも適材適所に人を配置する方針のもと、若手の登用やキャリア採用を積極的に行っています。
アジャイル型へ組織開発を進めるポイント
岡島氏:私が社外取締役を務める大手企業ではウォーターフォール型からアジャイル型へ組織開発を進める過程で、ITベンチャーから優秀な人材を採用したところ、組織文化が変わった実例があります。アジャイル型の組織ではたくさん失敗して、どんどんPDCAを回していく必要がありますよね。
同社でも失敗を奨励する仕組みとして、評価基準に「どれだけチャレンジしたか」という指標を盛り込みました。KPIもすべて入れ替え、「ヒットの数」ではなく、「打席に立った数」を評価するようにしたのです。役員全員がライフイズテック社の研修を受け、大きな変革が行われました。
森田氏:実は当社も、ライフイズテック社の協力のもと「リバースメンタリング研修」を実施しています。これは当社の新入社員たちが、部門長とともに課題解決を行うプログラムです。
本プロジェクトの名称である『Tech to the Future』も、実は当社の若手社員がChatGPTで壁打ちをして決めました。若手世代は、新しいやり方を取り入れながら、素晴らしいアウトプットを出してくるんですよね。だからこそ、私たちの世代は、若手人材が持つ能力を最大限に引き出す必要がある。本プロジェクトに参加する部門長たちには、“若手世代には適わない”と思ってもらえたらいいなと考えています(笑)。
岡島氏:一方で、どの世代においても二極化する可能性はありますよね。実際のところ、プロンプトをうまく使いこなせる人と、そうでない人がいると思います。
西口氏:そうですね。あくまで個人的な感想ですが、何らかのプログラムを1から作り上げたことがある人は、プロンプトの使い方がうまいと思います。一方で、部分的な技術に特化した方は、あまりプロンプトエンジニアリングが得意ではない印象です。エンジニアであれ経営者であれ、物事を1から計画し、試行錯誤しながらやりきった人材であれば、プロントもうまく使えるのではないでしょうか。
岡島氏:ポイントは言語化のうまさや、目標設定の明確さかもしれません。
武子氏:個人的に、最近の若手世代のほうが、言語化が上手な印象を受けますね。例えば、当社のアプリ開発メンバーは、アプリを作ったうえにパワポの資料も作ることができ、なおかつ上手にプレゼンテーションができるんです。
横のつながりを重視する若手世代
西口氏:若者でもデジタル的な思考が得意な人もいれば、苦手な人もいます。この差はどのように埋めるべきでしょうか?
武子氏:当社の場合は、何かが不得手でも“この人はダメだ”と決めつけるのではなく、個人の長所を適切な場所に当てはめるようにしています。デジタルスキルは、「データ分析」「デジタルリテラシー」「ビジネスデザイン」の大きく3つに分けられます。各メンバーの適性を踏まえた配置をすることで、能力を最大限に発揮してくれるのではないでしょうか。
岡島氏:入社する会社を選ぶ際も、“異能”の人材が入ってきたときに、面白いと思ってもらえる組織風土、環境があるかが大事ですよね。
森田氏:そうですよね。私もインクルーシブな環境を作った会社が強いと思っています。私自身が「カルチャー変革エバンジェリスト」として一番変えたかったポイントが、まさに環境の部分。大企業は経営資源が充実していますし、本来であれば何でもできるリソースがあります。しかし、チャレンジできない人が多く、そこを突破するアプローチの必要性を感じていました。
岡島氏:Z世代は「チームで取り組みたい」という志向を持った人が多いと感じます。実際、イノベーションを生み出すためには、同じコンピテンシーの人ばかりが集まってもあまり効果がないですよね。
森田氏:最近の若手世代は、チームを作って成し遂げるのがうまいんですよ。横の関係でつながり、役割分担をしながら協力してプロジェクトを進めることに長けています。まさにアジャイルな進め方ですよね。私たちの世代は、どちらかというと指示命令など縦のつながりを重視してきましたので、純粋に良い動き方だと思います。また、当社の場合は、先ほどご紹介したプロジェクトのように、若手社員と役員を直接つなげる試みを行っています。若手が希望するプロジェクトに対し、役員がスポンサーとなり投資をしていく。通常のヒエラルキーと異なる手法をとっていますので、スピード感がまったく違いますね。
西口氏:現場はアジャイル型で行っているのに、実際はウォーターフォール型の意思決定を行っているケースも多いと思います。森田さんのお話を聞き、「意思決定者」をはっきりさせる重要性を感じました。
森田氏:そうですね。最初にコミットする役員や部長などが最終責任を取るものの、あとはすべて現場に任せるという状態が理想的だと思います。
西口氏:そうなると、そもそも組織は不要なのではないかという考えにも至ります。
岡島氏:それはありますね。「個の復権」という話もありますが、個人が会社をうまく“使い尽くす”ことが大切かと。
武子氏:社会に大きな影響を与えるために、会社を利用するという考え方ですよね。
岡島氏:先ほど事例にあげた大手企業でも、エンゲージメントサーベイを行った結果、仕事においてフロー状態(活動に完全に没入し、集中している状態)に入っているメンバーが約42%いるというデータが出ました。彼らは会社を使い尽くす感覚なのだと思いますし、好きなことに没頭できるとやりがいも大きいのではないでしょうか。
森田氏:人的資本経営が話題になっていますが、当社もこの10年間で人と組織に大きな投資を行いました。その結果、カルチャーが大きく変わりましたし、企業価値も高まっていったのです。社員一人ひとりのやりがいが高まるだけで、業績も大きく変わりますよね。
次世代に続く組織づくりのために
――新たな時代の組織づくりには、どんなきっかけが必要でしょうか?
岡島氏:小さくてもいいので、次世代人材に1からビジネスを作り上げるプロセスを経験してもらうことだと思います。そのためのファーストステップが、登用と抜擢です。能力を持っている人たちに機会を提供し、「勝ち癖」や「未来の自分への自信」を持ってもらうことが大切だと思います。
西口氏:みなさんのお話をうかがい、受け入れ側がトライ&エラーを許容する環境を作ると同時に、意思決定のポイントを明確にする必要があると感じました。自由度の高い環境づくりが組織を変えるきっかけになるでしょうし、次世代の方々が会社選びをする際も、そのような環境があるかを指針にするとよいのではないでしょうか。
森田氏:次世代の方々には、ぜひ会社を使い倒してもらいたいですね。私たちは何もしない代わりに、責任をしっかりと取る。そして、会社のさまざまなアセットに若手をつないであげることが大切だと思います。
武子氏:上に立つ人間の役割は、「鮮度ある場をいかに作りつづけられるか」です。そのためには、自社という枠組みで物事を考えるのではなく、外部の人ともアグレッシブに意見交換できる機会を作ることが大切だと思います。当社も近日「オープンイノベーション」を実施する予定ですが、そのような場を今後も提供していきたいですね。
取材・文:金子 茉由
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