コラム

【ウォンテッドリー主催「FUZE2024」レポート】採用のプロが語る、人の本質を見抜く力

2024年10月9日、“DEEP DIVE”をテーマに採用と組織づくりをリードするウォンテッドリー主催のイベント「FUZE2024」が渋谷のヒカリエホールで開催されました。当日は、「人事と採用のセオリー」著者の曽和利光氏と「人を選ぶ技術」著者の小野壮彦氏が対談形式でトークセッションを実施。求職者の仕事に対する価値観が変わる中で、スキルや経歴といった表層ではなく、人の本質を見抜くために必要な視点とは何かーーじっくり語っていただきました。本記事ではセッションの様子をレポートします。採用におけるミスマッチを減らし、組織課題を解決したい人事や経営者の方はぜひ最後までお読みください。

登壇者
小野 壮彦 (おの たけひこ)
グロービス・キャピタル・パートナーズ ディレクター、起業家・ヘッドハンター・経営者メンター。1973年生まれ。早稲田大学商学部卒業後、アクセンチュア戦略チームを経て、1999年にネットエイジの支援を受け、インターネット上の企業間仲介サービスを提供するプロトレードを創業。翌年楽天に買収され、三木谷社長の経営企画スタッフとして薫陶を受ける。ミラノ・ボッコーニ経営大学院にてMBAを取得し、31歳でJリーグ・ヴィッセル神戸の取締役事業本部長に就任。クラブ経営、チーム強化に従事する。その後プロ経営者を目指し、リヴァンプを経てベンチャー企業の役員を経験。コンサルタント、起業家の二面の経験を買われ、2008年、35歳で世界最高峰のエグゼクティブサーチファーム(ハイレベル経営層のヘッドハンター)であるエゴンゼンダー社に入社。ヘッドハンティング、アセスメント、コーチングを100社以上の企業、約5000人の経営人材へ実施。2016年同社の共同経営者(パートナー)に就任。2017年に前澤友作社長にスカウトされ、ZOZOに参画。本部長に就任。ZOZOスーツの立ち上げ、海外72か国へのグローバル展開を指揮。現在は日本最大級のベンチャーキャピタルファンドであるグロービス・キャピタル・パートナーズにて、組織グロースの支援、起業家メンタリングなどにあたりつつ、自身のスポーツマネジメント会社を経営中。

曽和 利光(そわ としみつ)
人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長
愛知県豊田市生まれ、関西育ち。灘高等学校、京都大学教育学部教育心理学科。在学中は関西の大手進学塾にて数学講師。卒業後、リクルート、ライフネット生命などで採用や人事の責任者を務める。その後、人事コンサルティング会社人材研究所を設立。日系大手企業から外資系企業、メガベンチャー、老舗企業、中小・スタートアップ、官公庁等、多くの組織に向けて人事や採用についてのコンサルティングや研修、講演、執筆活動を行っている。著書に「人事と採用のセオリー」「人と組織のマネジメントバイアス」「できる人事とダメ人事の習慣」「コミュ障のための面接マニュアル」「悪人の作った会社はなぜ伸びるのか?」他。

「外向性」と「情緒の安定性」だけでは、優秀さを判断できない


曽和:これまでさまざまな人を見てきた中で、意外な人が成功した事例はありますか?
 
小野:ありますね。たいしたことないと思っていた人が、後に成功した例は珍しくありません。なぜかというと、以前の自分が未熟だったからです。 例えば、実は仕事ができて頭がいいのに、ゆっくり考えて喋る人っているじゃないですか。一見すると会話のテンポが遅くキレがないように見える人です。そういったテンポが自分と違う人は、面接で見逃しがちになります。
 
逆にゆっくりとしたテンポの人は、会話のラリーが速い人のことを、「胡散臭いので友達になれない」「こんな上っ面だけの人は成功しない」と思っています。何が言いたいかというと、それなりの自己認識と自己承認がある段階で大学出た人って、自分に似た人を評価する傾向にあるんです。
 
曽和:いわゆる類似性効果というやつですね。結晶性知能といって、コミュニケーション能力は積み重なっていくので、実は後天的に身につくそうです。年齢を重ねても上達するのに、入り口でコミュニケーション能力を採用基準にしている会社は多いですよね。
 
小野:コミュニケーション能力をどう定義するかが重要だと思っています。 一定時間置いて、整理された形で適切な発言ができる人は、それはそれでコミュニケーション能力が高いと思います。自分の考えがまとまっていないのにペラペラ喋るけど、結局何を言っているのかわからない人っているじゃないですか。必ずしもそういった人が成功するとは限りません。
 
コミュニケーション能力と成功する人を紐解いていくと、そこにはいろんなタイプがあるので、 その中で優秀な人を選んでいくことが重要です。しかし、「コミュニケーションの高い人を選びましょう」とざっくり設定した場合、その判断を面接官に委ねることになるので、活躍できるポテンシャルがある人を見落としがちです。「優秀な人を見落としている可能性がある」ことを前提にいろんな面から多角的に候補者を見極めていくことが大切だと思います。
 
曽和:一般的に面接だと「外向性」と「情緒の安定性」を特に重視しがちみたいですね。その2つが高いと面接では高い評価がつく傾向がどうしてもあるそうです。でも、仕事によっては「外向性」と「情緒の安定性」だけで優秀さを判断できないですよね。適性検査だったり、グループワークだったり、いろんな方法を用いて多面的に見るケースが最近増えているのも、そんな背景があるのでしょうね。

「能力の高い悪人」を採用してしまった場合の対処法


曽和:事前に「能力の高い悪人が最も危険だ。そういう人を絶対入れちゃいけない」というお話があったと思うのですが、こちらについても教えてください。
 
小野: 会社が儲かってくると能力の高い悪人って一定数出てきますよね。ただ、日本の大企業は長年にわたりレピュテーションリスクの管理体制を築いているので、能力の高い悪人は排除されやすいです。
 
一方で、外資系やスタートアップは転職回数が多い人も受け入れる会社が多いので、能力の高い悪人が紛れ込みやすい傾向にあります。このタイプを採用すると何が起きるかというと、エゴの肥大化です。「自分はこれだけ成果を出しているのだから、もっと権限やポジションを与えられて然るべき」「なんであんなやつらが自分より上のポジションにいるんだ」みたいな感情が彼らに芽生えていきます。彼らは優秀で成果を出すので、エゴがどんどん肥大化していくのです。
 
曽和:能力の高い悪人を面接でどう見分ければいいのでしょうか?
 
小野:こういう人って面接では見抜けないから優秀なんですよね。正直、見抜くテクニックはありません。ペテン師的な胡散臭さは、受付や待合室での態度で判断しやすいのですが、優秀な悪い人はちゃんとしているので見抜きにくい。まずは、優秀な悪人が存在していることを知ることが大切です。もし優秀な悪い人を採用してしまった場合は、人事や経営側が早めに判断して切るしかないと思います。
 
ただ、彼らはハイパフォーマーなので、経営側は「今、彼を切るわけにいかない」となりがちです。そこで「いや、この人は会社の文化を破壊する可能性があります」と人事がどれだけアラートをあげることができるかが重要です。
 
曽和:これは永遠の課題ですね。「一将功成りて万骨枯る」というように、いろんな人を使い潰しながら成果を上げる人はいますし、トップが一時的にそれをうまく利用する場合もありますよね。

「守り人材」の選び方と評価のポイント


曽和:4番バッターばかりを集めた野球チームが実はそんなに強くないことは往々にしてあると思います。フォワードばかりのサッカーチームがダメなように、ディフェンシブな人材も組織には必要になりますよね。その時に、 守りの人材の選び方や評価のポイントもお伺いできますか。
 
小野: まず、守り人材には2つのタイプあると思っています。
 
1つ目は、気持ちよく、楽しく、しっかり業務を回してくれる人たち。
 
2つ目が、カウンターを当ててくる人たち。例えば、攻めすぎた時に、「これが抜けてるんじゃないですか」「こっちもあるじゃないですか」「それはやりすぎです」と言える人が本当の意味での守り人材だと思っています。
 
もちろん気持ちよく、楽しく、しっかり業務を回せる人たちも重要ですが、やはり問題に気づいてリスクヘッジできる守り人材は非常に重要です。なぜなら、リーダーシップがあるからです。彼らには自発性やディベートする力もあるので、「ここについて議論しませんか」と持ちかけて、いろんな提案や問題提起をしてくれます。それこそフォロワーシップの神髄だと思っています。
 
フォロワーシップは「リーダーに上手くついていくスキル」みたいな意味に誤解されがちです。しかし、「こう言っていますが、この考え方もありますよね」と提案するマイルドなリーダーシップが、フォロワーシップだと思っています。
 
曽和:角が立たないよう、相手も受け止めやすいような表現で、言うべきことは言う。いわゆるアサーティブ・コミュニケーションみたいなイメージですかね。
 
小野:そうですね。仮にリーダーがクリエイティブタイプで、新しい発想が得意だとすると、もっと実務的で現実的な解を出すことが得意なタイプがフォロワーだと思います。リーダーと違うタイプのリーダーシップを持ってる人がいると、バランスのいいチームになると思います。
 
曽和:例えば CEOをはじめとする経営陣にはいろんなタイプがいると思うのですが、そんな中でCxOを採用する際はやはり他の経営メンバーとの相性や、組み合わせを気にされますか?
 
小野:もちろんです。経営陣の組閣と言いますが、スタートアップの方に口酸っぱく伝えているのが、「自社に合う人やこのファンクションを任せられる人を探すだけだとちょっと片手落ちです。人のタイプもちゃんと考えましょう」ということ。例えば 、リーダーシップに父性と母性があるとします。CxO全員を父性タイプで固めてしまうと、ある時どこかで疲弊してくんですよ。時には違ったタイプの人を入れる観点も経営陣の組閣には重要で、任せたいファンクションだけで人を選んではいけないと思います。
 
曽和:候補者との相性を見るために会食をする会社もあると思うのですが、見極めるポイントはあるのでしょうか?
 
小野:相性を見ていく上で重要なのが、その人が入ることによって1+1=2になるだけでなく、周囲が刺激されて、意識や行動に変化が起きるかどうかを見ること。空いているポジションを埋めるだけだと、特に上のレイヤーになると片手落ちです。例えば、いいゴールキーパーは後ろから的確な指示を出すので、ディフェンス陣全体の動きもよくしてくれます。それと同じで、その人を採用すると、経営陣のシステム全体がアップグレードされるかどうかを確認するといいでしょう。

中途採用でもポテンシャルを確認すべき


曽和:日本全体で見たときに、人を選ぶ技術のレベル感はいかがでしょうか。例えば、経営者と話をして、ヘッドハンティングする時に「この人いいですよ」とご紹介するわけですよね。その時に経営者が「いや、この人はダメだ」ということもあると思います。もちろんどちらが正しいかはわからないですが、その時に経営者の人を見極める技術について思うこともあると思います。その辺りはどうお考えですか。
 
小野:まずポジティブな話をすると、日本人は人を見る目はあると思っています。なぜかというと、日本経済ってメンバーシップ型の大企業が牽引しているじゃないですか。メンバーシップ型の大企業って、長年時間をかけて人を見る社内選抜を一生懸命やっています。社内選抜をする人たちは基本的に自分がずっとその会社に勤めることが前提なので、真剣に人を選びますよね。「あの人は人望がある」「この人は頭いいけど、ここが足りないな」と、何年もかけて見ているので、人を見る目が養われています。
 
一方で、採用や面接は上手くありません。日本の新卒採用ってすごいと思うんですよ。面接の時に人をよく見ていますよね。新卒と同じように人を見ればいいのに、中途採用になった途端に、オーディション型の採用になってしまう。例えば、芸能事務所が新人をデビューさせる時に、数人のおじさんたちがドーンと座って「志望動機は?」「どっから来たの?」みたいなあっさりとした面接をするじゃないですか。あれと同じようなことが起きていると思うんですよ。
 
その原因は某人材企業のCMだと思っていて、大企業の中に「中途採用=即戦力」のイメージが浸透してしまった。実際は即戦力の人材はそう滅多にいるわけではありません。即戦力というより、ポテンシャルがあり入社してから活躍する人を採用すればいいのですが、中途採用では即戦力として完成した人を採用しようとしてしまうんです。「この経験はありますか?」「我が社にはこんな課題がありますが、解決したことありますか?」と、ほぼ経験と知識だけを見て採用していますよね。
 
一方、新卒採用では丁寧にポテンシャルを見極めようとします。日本企業ほどポテンシャルを見る力に長けているはずなのに、中途採用では表面的なスペックしか見ないのはもったいないと思います。
 
ベンチャーにおいても、アメリカの会社と比較すると日本はまだまだです。海外の会社は1時間でどれだけのデータを得られるか真剣に候補者と向き合いますし、面接のレベルが高い。日本の採用現場はまだ発展途上なので、海外の情報なども大いにキャッチアップしていく必要があると思います。

競合に勝つポイントは、候補者体験にあり


曽和:では、質疑応答に移りたいと思います。まず、「内定を出した方が並行して受けている企業に提示年収で負けてしまうことが多くあります。この場合、どうすれば競合企業に勝つことができるでしょうか?」という質問をいただきました。特にヘッドハンティングの場合、会社によって差がつくことも多いと思うのですが、テクニックはありますか?
 
小野:あります。まず本当に提示年収で負けているのか確認する必要があります。例えば他社が1000万円で提示しているのに、自分たちの会社では600万円で提示しているのであれば、明らかに競合より提示年収が低いので太刀打ちできません。その場合は、 マーケットを見直す必要があります。
 
ただ、提示年収で競合と僅差で負けた場合、内定辞退の理由は本当に年収のせいと言えるのでしょうか。選考においては、候補者体験が何より大切だと思っています。 エントリーやカジュアル面接、内定に至るまでに、候補者をどれだけワクワクさせることができたのか。体験の価値をどれだけ提供できたかが鍵になると思います。
 
内定辞退された選考を注意深く振り返ってみると、たとえば 1回目の面接と2回目の面接の期間がものすごく空いていて、候補者を放置していたなどの原因が見えてきます。面接でもワクワクさせられたのか、処理プロセスに則っただけだったのかを振り返り、改善点があれば面接や内定に至るまでのプロセスを見直していく必要があると思います。ちなみに、面接手法も構造化面接ばかりがベストとは限りません。つまらない面接になってしまいがちというデメリットもあるからです。
 
曽和:構造化された面接も評価するだけなら精度は上がるかもしれませんが、候補者に嫌な感じを与えてしまうのが難点ですよね。私もリクルートからライフネット生命に転職する間に色々な会社を受けましたが、提示された年収に上と下で3倍の差があって、最終的に真ん中くらいの年収を提示した会社に転職しました。お金だけが判断基準にはならないと自分の体験を振り返っても思いますね。

オンライン面接のコツは、目線を合わせること


曽和:では次の質問にいきましょう。「IT企業で採用担当をしています。 オンラインでの面接が増えてきているのですが、オフライン時代の面接とオンライン時代の面接で今切り替えた方が良い、あるいは考えるべきポイントなどはありますでしょうか」とのことですが、いかがでしょうか。エグゼクティブ転職でもオンライン面接はありますか?
 
小野:もちろんあります。個人的にはオフライン面接もオンライン面接もそこまで違いはないと思っています。ただ、選考プロセス終盤あたりで、候補者の人間性を確認するためにも、オフライン面接は実施した方がいいですね。オンライン面接だけで決めてしまうのは厳しいと思いますが、面接をオンラインでやること自体はいいと思っています。
 
その時のポイントは、パソコンの画面越しでも相手に目線を合わせること。オンライン面接の時は、パソコンが目の前にあるのでどうしても目線が他のところに移りがちですよね。メモをとりながらだと、パソコンについているカメラの丸いレンズに目線がいかないので、相手はずっと「この人とは目が合わない」と感じてしまいます。オンライン面接では、できるだけ相手と目線が合うようにパソコンのレンズを見ながら話してください。あと、オープンなボディーランゲージも大切だと思います。
 
曽和:そうですね。オンラインだとさっきの外向性や情緒安定性を過度に評価することがなくなる一方、言葉に集中するので、知性や誠実さをしっかり見られるようになるとも言われています。実は面接の精度が高く部分もあるので、目線を合わせるなど相手に嫌な感じを与えないようにしながら、オンライン面接を取り入れるのもいいと思いますね。

タレントショーで、社長の成長を促す


では、最後の質問にいきましょう。「当社はプロとしての当たり前基準が高くありません。 当たり前基準が高い人を採用して、カルチャーを変えたいと思いますが、そもそもこの課題は採用で解決すべきか悩んでいます。カルチャー変革に関して、採用で貢献できることに対して意見を伺いたいです」ということですが、いかがでしょうか?
 
小野:人は見たことのないものは想像できません。そこで採用には至らないかもしれないけど、「こんなすごい人がいるんだ」と思わせるレベルの高い人を社長などの意思決定者にぶつけるタレントショーという方法があります。
 
仮に社長が「うちの役員はこの程度の人しか採用できない」と候補者のレベルを想定して、「こんな人がほしい」とオーダーしたとします。すると「もっとレベルの高い人を狙った方がいいのでは」と私たちは問題意識を持つわけです。そこで何をするかというと、「こんなすごい人がきてくれるわけがない」と思ってもらえるレベルの高い人を紹介するのです。
 
例えば、「年収1500万円レベルの人を探してきて」と言われたのに、年収3000万円の人をあえて連れていくやり方ですね。「社長、この方すごいのでカジュアル面談の時間を取って、エンゲージしてください」と。すると、「こんなすごい人が世の中にいるんだ。でも、この人年収3000万か…うちには無理だけど、たしかにいいな」と社長の心境にも変化が起きます。すると「もっと上を目指さなきゃ」と社長の視座も上がっていくんです。社内からのオーダーを受けるだけでなく、「こんな人もいるので会ってみてください」と提案することはとても重要だと思います。
 
取材・文:田尻 亨太
 
\オウンドメディア制作、採用広報に興味をお持ちの方はこちらをクリック!/
 

関連記事
競争を回避しながら、求める人材にアプローチする方法は?「理念経営×人事」セミナーレポート①(ゲスト:人材研究所・曽和氏)
失敗しないリファラル採用のポイント。「理念経営×人事」セミナーレポート②(ゲスト:人材研究所・曽和氏)
早期退職を防ぐポイントと理念経営における「文化」の見直し。「理念経営×人事」セミナーレポート③(ゲスト:人材研究所・曽和氏)