コラム

中小企業におけるシニア採用のメリット・デメリットとは?実践のポイントと取り組み事例を解説

さまざまな背景から、シニア採用を検討している人事や経営者の方も多いことだろう。シニアを採用し、活躍できる環境をつくるためには、シニア層のニーズを理解し、柔軟な働き方や研修制度を整備することが欠かせない。また、適切なキャリアパスを提供し、組織全体でシニア層の採用に対する意識改革を行いながら、世代間のコミュニケーションをスムーズにすることが求められるだろう。

本記事ではこれからシニア採用の取り組みを検討している中小企業の経営者や人事に向けて、シニア採用のメリット・デメリット、そして成功のための実践ポイントや具体的な成功事例について紹介していく。ぜひ人手不足を解消するための新たな人材活用の可能性を模索するきっかけにしてほしい。

シニア採用とは?

シニア採用とは、年齢が高い人や豊富な経験を持つ人を採用することを指す。たとえば長年のキャリアを持つ50代や60代を採用する取り組みなどだ。シニア採用には、経験や知識、洞察力などを持つ高齢者を活用することで、企業にとって多くのメリットをもたらす。一方で、若手採用に比べて採用コストが高くなることなどのデメリットも否めない。そのため、企業は採用方針を慎重に考える必要があると言えるだろう。


シニア採用が注目される背景

シニア採用が注目されている背景には、高齢化社会の進行や高いスキルと経験を持つシニア層、労働力不足の解消、人生100年時代による長寿・健康寿命の向上、そして組織のダイバーシティの重要性などがあげられる。これらの要因から、企業はシニア層の知識やノウハウを活かすことで競争力を向上させていくだろう。シニア層も経済的安定や生活の充実を追求できるため、シニア採用は今後もさらに増えていくことが予測される。


企業にもたらすシニア採用のメリット


 
シニアを採用する大きなメリットはさまざまだが、主に5つ考えられる。シニア人材とは、その人生において若手従業員が想像もつかないような状況に直面し、それを乗り越えてきたスキルと経験をもっている。さらに、何十年にもわたる仕事を通じて、業界や自分の専門分野に対する深い理解も得ている。目標を設定・達成し、長期的な成功を収める上で、シニアがもたらす利点は、中小企業においても見逃せないはずだ。
 

メリット1:シニア層のもつ豊富な経験と専門知識

 
シニア採用のメリットとして、まず「豊富な経験と専門知識」があげられる。シニア層は、長年のキャリアを通じて多くの経験を積み重ねていて、専門知識やスキルも豊富だ。このため彼らが持つノウハウや知識は、企業に新たな価値をもたらすことが期待される。
 

シニア層は業界や職種に関する深い理解があり、問題解決や効率的な業務遂行に役立つことも多い。また、彼らの経験から得た人間関係や交渉力も、企業のビジネス展開や顧客対応にプラスに働くことがある。
 

経験豊富な人材が組織に加わることで、若い世代の社員にも刺激や学びの機会が生まれ、企業全体のスキルアップや知識の共有が促進される。そして競争力の向上や業績の向上につながる可能性を得られるだろう。
 

メリット2:協調性とコミュニケーション能力

 
つぎに「協調性とコミュニケーション能力」だ。シニア層は、長年のキャリアを通じて、人間関係やチームワークの重要性を熟知している者が多い。そのため彼らは協調性が高く、他の従業員と円滑なコミュニケーションを取ることができる。
 

シニア層の高い協調性は、チーム内での役割分担やタスクの進行をスムーズにし、プロジェクトの効率的な遂行に貢献することができる。また、彼らの豊富な人間関係スキルや対人コミュニケーション能力は、顧客対応やパートナー企業との折衝など、ビジネスシーンにおいても大きな強みになるだろう。
 

協調性とコミュニケーション能力が高い人材が組織に加わることで、職場の雰囲気やチームワークが向上し、全体の生産性や業績にも良い影響を与えることが期待される。
 

メリット3:メンターとしての役割

 
シニア層は長年の業界経験や専門知識を持っているため、若手や中堅社員に対してアドバイスや指導を行う「メンターとしての役割」も期待できる。
 

シニア社員がメンターとして機能することで、新入社員や若手従業員のスキルアップや成長を促進し、組織全体の力を高めることにつなげられる。また、彼らの経験に基づく指導は、業務の効率化や品質向上につながり、企業の競争力を高めることにも寄与する。
 

さらにシニア層がメンターとして働くことで、異世代間のコミュニケーションが活性化し、知識やスキルの共有が促進されることも期待される。職場の雰囲気が向上し、社員のモチベーション向上にもつながるだろう。
 

メリット4:企業のイメージ向上

 
高齢者雇用を支援することは、企業の社会的責任(CSR)の一環として評価されることが多く、企業ブランディングに寄与する。そのため、シニア層を積極的に採用することで、企業は社会貢献度の高い組織として認識される可能性が高まり、「企業のイメージ向上」にもつなげることができる。
 

また、シニア層を採用することで組織内の年齢層が多様化し、異世代間のコミュニケーションが活性化する。企業文化がより豊かで柔軟なものになり、多様な価値観を受け入れる企業としての魅力にもつながるはずだ。
 

メリット5:労働力不足の緩和

 
最後は「労働力不足の緩和」だ。少子高齢化が進む日本では労働力が減少し、企業の経営を支える人材の確保に苦慮している。特に中小企業は大手企業との競争において、人材獲得が難しい状況だ。
 

シニア層を採用することで企業は経験豊富な人材を確保できるだけでなく、労働力不足の問題を緩和することが可能となる。シニア層は定年退職後も働き続ける意欲や能力があり、彼らが持つスキルや知識を活用することで、企業の成長や業務遂行に貢献できるだろう。


シニア採用のデメリット


 
シニア採用は企業に多くのメリットをもたらす一方で、いくつかデメリットも存在する。デメリットを理解することは、適切な戦略を立てる上で非常に重要だ。シニア採用が企業にもたらすデメリットの理解を深めることで、リスクを最小限に抑えつつ、シニア層の雇用を効果的に活用する方法を見つけられるよう、ここではシニア採用における主なデメリットをあげていく。
 

課題1:技術やトレンドのキャッチアップ

 
シニア層は新しい技術や業界トレンドに対する適応が若い世代に比べて遅れる傾向があるため、継続的な研修や教育の場を提供する必要がある。最新技術やトレンドのキャッチアップにコストや時間がかかることは想定しておこう。また、デジタル技術の急速な発展や業界内での競争が激しい状況下では、適応力の低さが企業全体の生産性や競争力に悪影響を与える可能性も否めない。シニア層を受け入れる場合、スキルアップや技術革新への対応力を維持・向上させるための支援は欠かせない。
 

課題2:異なる働き方への適応

 
現代の労働環境では柔軟な働き方や新しい働き方が求められることが多く、シニア層が従来の働き方に固執することが企業に悪影響を与えることが起こりえる。例えば、テレワークやフレックスタイム制度、チームワークを重視したプロジェクトなど、働き方や働く環境が多様化している現代では、シニア層も新しい働き方に適応し、柔軟に対応することが求められる。シニア層を受け入れる場合は、働き方への適応力を評価し、適切な研修やサポートを提供することが重要となる。
 

課題3:企業独自の業務や企業文化への適応

 
シニア層が長年異なる企業や業界で働いてきた経験から、企業独自のノウハウやコミュニケーションスタイル、価値観などが異なるため、新たな職場での業務や文化への適応が難しいケースもある。シニア層がスムーズに業務や文化へ適応できるよう、オリエンテーションや研修を充実させ、成長できる環境を提供することが必要となる。
 

課題4:雇用形態や報酬の調整

 
シニア層は多くの場合、長年の経験や専門知識を持っているため、適切な報酬や雇用形態を設定することが重要となる。しかし中小企業では、経験豊富なシニア層に対して適切な報酬を支払うことが財政的に難しい場合もある。
 
また、シニア層と若い世代との間で報酬や雇用形態に差が生じることで、職場内での不満や緊張が生じる可能性が高まる。これを解決するためには、企業は柔軟な雇用形態や報酬制度を導入することが必要だ。例えば、パートタイムや契約社員などの柔軟な働き方を提案し、報酬はスキルや業績に応じた制度を検討することが効果的だ。このように雇用形態や報酬の調整に取り組み、従業員間で公平性を保つことで、シニア層が安心して働ける環境を整えることができる。


シニア採用成功のための実践ポイント


 
では、シニア採用を成功させるためにはどのような取り組みが必要なのか。シニア採用を成功させるためには、いくつかの実践ポイントを知っておくことが重要である。これらのポイントを押さえることで、企業はシニア層の能力を最大限に活用し、組織全体のパフォーマンス向上につなげることができる。
 

採用プロセスの見直し

 
採用プロセスの見直しは、シニア採用において非常に重要な要素だ。年齢ではなく、スキルや経験を重視することで、シニア層が適切に評価される環境を作ることができる。
 

具体的には、求人広告で年齢制限を設けず、スキルや経験をアピールするポイントを強調する。そして書類選考では、履歴書や職務経歴書において実績や成果を示すことを求めるようにしよう。面接では年齢に関する質問を避け、業務遂行能力や過去の実績、将来のビジョンに焦点を当てた質問を行うと良い。これによりシニア層が自分の能力を十分に発揮できる採用プロセスが実現され、企業にとっても優秀な人材の確保へとつなげられる。
 

オンボーディングの強化

 
シニア採用においてオンボーディングの強化が必要な理由は、シニア層が新たな組織や業務に適応するためのサポートが重要となるためだ。シニア層は豊富な経験や知識を持っているが、新しい環境での業務に慣れるまでには時間がかかるケースが多い。また、企業文化や働き方の違いから、コミュニケーションの壁が生じる可能性も考えられる。
 
そこで、オンボーディングの強化によって、シニア採用の社員が早期に適応し、その能力を十分に発揮できる環境をつくることができる。結果的にシニア採用によるメリットを最大限に享受し、組織全体の業績向上や働き方改革にもつなげられる。
 

労働環境の整備

 
シニア採用における労働環境の整備により、シニア層が持続的に活躍できる場を提供することで、企業が彼らの能力を最大限に活用できる場を整えることができる。
 

シニア社員に対する柔軟な働き方の具体例として、「フレックスタイム制度」や「テレワークの導入」があげられ、これらを実践することでシニア社員のライフスタイルや健康状態に配慮した働き方が可能となる。また、職場でのエルゴノミクスの考慮や、業務に適した設備の整備も大切だ。シニア社員が安心して働ける環境が整うことで、長期的な雇用安定や生産性向上につなげることができる。
 

キャリア開発のサポート

 
シニア層が更なる成長を目指し、働きがいを持って活躍できるよう支援するキャリア開発のサポートも欠かせない。具体例としては、シニア社員向けの研修やセミナーを開催し、新たなスキルの習得や知識の更新を促すことが挙げられる。また、キャリアカウンセリングや定期的な面談を実施することで、個々の目標や希望に応じたキャリアプランを見直し、適切な役割やポジションに配置することも大切だ。
 
これらの取り組みを通じて、シニア社員が自分の価値を再認識し、自己成長を続けることができる環境を整えることで、企業にとっても長期的なパフォーマンス向上を実現することができる。
 

コミュニケーションの促進

 
シニア採用の成功に向けてコミュニケーションの促進が大切な理由は、異世代間の理解を深めることで、協力し合いながら円滑に業務を進めることができるからだ。具体例として、定期的に開催されるチームビルディングイベントや勉強会などの実施があげられる。これらの活動を通じて、シニア層と若手従業員が互いの価値観や考え方を理解し、協力体制を構築することができる。
 
また、リーダーシップ研修を実施し、異世代間のコミュニケーションを円滑に行えるリーダーを育成することも重要だ。こうした取り組みを通じて、シニア採用がチーム力の向上や企業文化の強化につながり、結果的に組織全体の業績向上に貢献する体制にすることができる。


中小企業の取り組み事例


シニア採用に積極的な中小企業が増えています。彼らはシニア層の豊富な経験や知識を活かすことで、業績向上や労働力不足の解消につなげている。本記事では、実際にシニア採用を成功させている中小企業の取り組み事例を紹介する。
 

株式会社マルヨシ

 
マルヨシは、金属加工業を手掛ける企業で、シニア層を積極的に採用している企業だ。ここで活躍するシニア人材は豊富な経験と技術を持ち、高品質な製品の開発や生産に貢献している。また、若手職人への技術指導やアドバイスも行っており、次世代の技術者育成にも一役買っている。
 

株式会社イチバン

 
イチバンはアパレル・ファッション業界で事業展開を行っている企業だ。同社ではシニア層を積極的に採用し、オフィスワークや商品管理、営業などのポジションで活躍させている。また、シニア層は豊富な経験と人間力を持っているため、顧客との信頼関係構築や新人教育などでも大きく貢献している。
 

まるき食堂

 
まるき食堂は地元で愛される小さな食堂で、シニア層の採用にも積極的に取り組んでいる。同社で活躍するシニアスタッフは、その豊富な経験を活かし、接客や調理のスキルを若いスタッフに伝えることで、店舗運営の効率化やサービス向上に貢献している。また、長年の地域住民としての人脈も活かし、地元の顧客との良好な関係を築くことに成功している。


助成金を活用してよりスムーズなシニア活用へ


 
シニア採用においては、シニアの職業再就職や再就職支援を目的とした政府からのさまざまな助成金を利用できる。例えば高齢者を雇用することで、労働力の減少や高齢者の貧困などを防ぐことを目的とする「高齢者雇用促進助成金」は雇用する高齢者の支払われる給与に応じて支給される。
 

また、シニアのキャリアアップや再就職支援を目的とする「シニアキャリア・リターンシップ助成金」はシニアが就業している期間に応じて支給される。
 

これらの助成金を活用することで、シニアの採用に対する負担を軽減したり、シニアのキャリアアップや再就職を支援することができるため、シニア採用に関心のある企業は、是非これらの助成金を活用することを検討してみてほしい。


シニア採用を通じて、多様性のある組織をつくろう


 
シニア採用は豊富な経験と専門知識を活用し、企業のイメージ向上や労働力不足の解消に貢献することができる、中小企業にとって多くのメリットをもたらすチャンスだ。しかし、その実現には多くの課題があげられるため、本記事で紹介した実践ポイントと取り組み事例を参考に、シニア採用に取り組んでほしい。そうすることで、企業がさらなる成長と活力を得ることができるだろう。シニア採用を成功させ、輝く企業へと導くために、今こそ戦略的な取り組みを始める時だ。
 

【筆者プロフィール】
西山 侑里
1993年群馬県高崎市生まれ。空っ風に鍛えられながら、小中高とバスケットボールを追い続ける部活生活を経て、2012年の大学入学を機に上京。大学卒業後、2016年にリクルートの求人広告代理店に新卒入社。売れない営業時代を乗り越え、営業リーダーを任せられるまでに成長。新規部署の立ち上げメンバーとしてIndeedの運用にも携わる。2022年に夢だったライター職に転職。人材業界での経験を活かして求人原稿の制作から、最近ではコラム記事の制作に挑戦中。

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