コラム

外国籍人材の採用・育成のポイント | 株式会社エイムソウル 代表取締役 稲垣 隆司

イーロン・マスク氏が、ツイッターにて「出生率が死亡率を超えることがない限り、日本はいずれ消滅するだろう」と発言したことは記憶に新しい。日本の人口は2008年をピークに減少傾向に転じており、少産多死時代に差しかかっていると言っても過言ではない。
 
そのようななか、産業界で最も問題となっているのが労働力の減少だ。すでに多くの企業では貴重な労働力として外国籍人材を採用しており、ダイバーシティ(多様性)を受け入れる土壌も整いつつある。
 
それでは、外国籍人材の採用を成功に導き、戦力として活躍してもらう人材に育てるためには、どのような工夫が必要なのだろうか。外国人材採用に特化した適性検査「CQI」を提供する、株式会社エイムソウルの代表取締役 稲垣 隆司氏にそのポイントを伺った。
【プロフィール】
稲垣 隆司
株式会社エイムソウル 代表取締役/ PT. Bridgeus Kizuna Asia Director同志社大学卒。急成長したベンチャー企業で人事部責任者を務め、年間600名の新卒採用の仕組みを作る。2005年、株式会社エイムソウルを設立し350社を超える顧客の人事課題解決に取り組む。2014年、インドネシアに進出し、現地でPT. Bridgeus Kizuna Asiaを設立。日系企業に特化して人事課題解決に取り組む。毎月日本とASEANを行き来しながら活動中。“グローバル採用を科学する”をテーマに、外国籍人材の採用・教育・配置のソリューションを展開中。

株式会社エイムソウル
グローバル採用適性検査『CQI

インドネシアで直面した「文化の壁」

人事分野でのキャリアを着実に積み重ねてきた稲垣氏の“決断”は今から8年前にさかのぼる。今後の国内産業の展望を見据えるにあたり、市場で勝ち残るためにはグローバル展開が必要不可欠であると痛感し、インドネシアに現地法人を設立。しかし赴任するやいなや、現地でぶち当たったのが「文化の壁」であった。
 

「まず、時間の感覚が違います。さらに5S、報・連・相、チームワークなどビジネスの根底の部分で意識が異なります。日本人にとって当たり前の事柄が、彼らにとってはそうでないのです」
 
実際に、外国籍人材と同じ職場で働く日本人たちは「外国人社員は朝、時間通りにこない」「仕事中に雑談ばかりしている」との不満をよく漏らすという。この点について、稲垣氏は「日本が特殊なんです」と指摘する。

 
世界62カ国における文化とリーダーシップの関係について調査分析を行った大規模プロジェクトのデータによると、「日本人は業績志向が弱く、プロセス志向が強い」「日本人は計画性を重視し、計画ばかり立てる」といった傾向が顕著なのだという。

 
先ほどの日本人の外国人社員に対するコメントについても、逆に外国籍人材は「日本企業では夕方、定時に帰れない」「人間的な距離があり、会社の雰囲気が暗い」といった日本の文化に戸惑いを感じており、双方に違和感を抱いている現実があるようだ。

 
「外国人採用を行ううえでは、まずこのギャップを認識する必要があります。そしてどの部分は譲れず、どこは譲歩できるか、ラインを探ることが大切です」
 

カルチャーギャップを埋める「インテグレーション」とは


生まれ育った文化や背景が異なれば、振る舞いや行動に違いが生じるのも無理はない。それではこうしたギャップを埋めていくために、私たちはどのような意識を持つべきなのだろうか。稲垣氏は言う。
 

「インテグレーションという言葉があります。インテグレーションとは、統合・統一といった意味を表す言葉ですが、外国人採用においては二つの側面があります。一つ目が、外国籍人材が日本文化に適応できるかという『適応力』です。そして二つ目が、受け入れ側である日本人の『受容力』です」
 

「受容」と聞くと、異なる背景や価値観を持った方々を受け入れるのは感覚的に難しいのではないだろうかという疑問が浮かび上がってくる。その問いを稲垣氏にぶつけると「いいえ、むしろ逆です。私たちはこれまでの人生で、年齢や性別、背景などの違いを受け入れ、受容する経験をたくさん積み重ねてきました。受容すること自体が不慣れだということはまったくありません」との答えが返ってきた。
 

同社のサービスであるグローバル採用適性検査「CQI」および、グローバル採用受け入れ力検査「CQI-Ⅱ」は、まさにこの適応力・受容力を測定するための診断だという。
 

「先ほどお話しましたように、日本は特殊な国です。外国人にとって、特に日系企業はカルチャーショックが大きいと言われています。私たちはそのカルチャーショックから回復するスピードのことをCQ(Cultural Intelligence Quotient=文化の知能指数)と名付けました。外国人採用では、応募者のCQをしっかりと見極める必要があります。また、そもそもカルチャーフィットするかどうかも面接で見極めるべきポイントです。日本文化はもちろんですが、自社の文化に合うかどうかもきちんと判断しなければなりません」
 

もちろん面接時に質問を掘り下げることでこれらの要素を確認できればベストだが、応募者の日本語能力などにより、必ずしも有効な情報を引き出せるとは限らない。「CQI」は現在11の言語に対応しているとのことで、一次情報として応募者の特性を見抜くのに効果的なツールだと言えそうだ。
 

外国人採用を成功させるためのヒント


それでは、実際に外国人採用がうまくいっている企業にはどのような特徴があるのだろうか。ヒントは受け入れ時の工夫にあるという。「外国籍人材を受け入れるにあたっては、『環境適応支援』と『業務遂行支援』の二つのアプローチが重要です。
 
環境適応支援とは、外囲国籍人材が働きやすい職場づくりや関係性構築のこと。業務遂行支援とは、コミュニケーションの工夫や傾聴・フィードバックのことです。外国人採用が成功している企業はこれらをうまく両輪で回しています」と稲垣氏は話す。
 
稲垣氏によると、日本語を丁寧に伝えたり、タスクを可視化してわかりやすくしたりといった業務遂行支援に関しては、多くの企業が実施しているそうだ。しかし昨今はコロナ禍の影響もあり、外国籍人材に対して環境適応支援を行うことが難しくなってしまった。なかでもリモートワークが業務手段の主体となったビジネスパーソンへの打撃は大きかったようだ。
 
「そうした状況を打破するためには、オンラインランチなども有効な方法です。特に『食』は相手の文化も知れる良い機会ですね。外国籍人材の方の母国の料理店に連れて行ってもらうといったところから、双方の距離が縮まることもよくあります」
 

他にも、技能実習生を受け入れているある会社では、面接の際に家族面談を行い、家族を含めて来日に対する安心感を得てもらえるよう取り組んでいるそうだ。またある協同組合では、入国前の実習生に対して数年後の目標を言語化する「ライフプランシート」を作成してもらい、自分のキャリアビジョンを描いてもらっているという。こうした入社前のギャップの解消や、彼らのキャリアを踏まえた日本で働くことの意義・意味づけも、外国人採用を成功させる大きなポイントとなるだろう。
 

理想的な「ダイバーシティ&インクルージョン」のあり方とは


外国人採用を考えるうえでは「ダイバーシティ&インクルージョン」の概念に触れておく必要があるだろう。ダイバーシティは「人材の多様性」を意味し、「多様な人材が組織に存在している」状態を指す。また多様な人材が一緒にいる状態を越えて、「1つのチームとして機能している」状態がインクルージョンである。それでは、真のダイバーシティ経営を実現するためには、どのような取り組みが必要になるのだろうか。稲垣氏は言う。
 

「そもそも自社において、なぜダイバーシティが必要なのかを明確にする必要があるでしょう。労働力として、いいことだから、みんなやっているからといった理由では、真のダイバーシティは実現できないと思います。米国の取り組みを見ていても思いますが、“必要だから”という観点で取り組むべきですね」
 

ダイバーシティの必要性。それは異なる人材の視点で物事を見ることで生まれる新たな価値の創出や、イノベーションの促進といった目的が背景にあるのではないか。
 

「VUCAの時代、変化が激しい世の中において、過去の成功パターンはすぐに崩れてしまうと言っても良いでしょう。型にはまった経営には限界があります。だからこそ、外国籍人材を職場に加えることは、組織に大きなメリットをもたらすのです」
 

はじめての外国人採用、拒否反応を示さないで


「これから外国人採用にはじめて取り組まれる企業のみなさんも、まずは外国人だからと言って拒否反応を示さないでいただければと思います。私もこれまでの支援のなかで、言葉・文化の違いは乗り越えられることを数多く目の当たりにしてきました」
 

稲垣氏によると、日本人は変化に弱いと言われがちだが、実は適応力が高い民族なのだそうだ。歴史をさかのぼっても、日本人はさまざまな海外の文化・宗教などを受け入れ、うまくミックスしてオリジナルの文化を築き上げてきている。そういう意味で、変化への対応は速いほうだという。
 
「今後、日本国内では今よりも外国籍人材の比率がぐっと上がってくるでしょう。しかしそういう状況下でも、日本人としてのこだわりの文化や高い技術を、産業・サービス・製品といった手段を通じてもっと誇りをもって世界に発信できると良いですね」
 

夢のある未来を垣間見た気がして筆者も一瞬ワクワクしたが、意外にも「僕は日本を変えたいとかいう気持ちはまったくないんですよ」と稲垣氏は笑った。であれば、稲垣氏のモチベーションの源泉はどこにあるのだろうか。
 

「どれだけ熱く生きるか、ですね。当社も『すべての人に生きがいを』というミッションを掲げているのですが、世の中の人たちが、仕事も生活も全力で、生きがいを感じながら熱く生きてもらうための後押しができればと考えています。人生、限られた時間をどう熱く生きるのか。その原動力は…しょうもないおっさんにはなりたくない!という思いです(笑)」
 

時折ユーモアを交えながら論理立てて語られる話のなかにも、稲垣氏のグローバル事業に対する熱い想いをひしひしと感じ取った。外国人採用に関しては、依然として解決すべき懸念事項が多く存在することも事実ではあるが、それ以上に異なる価値観の融合から生まれる新たな時代の訪れを楽しみにしたい。時間は有限、されど可能性は無限である。
 

<筆者プロフィール>
山中 茉由(やまなか まゆ)
早稲田大学在学中から、大学スポーツ新聞の編集・記者および学生Webライターとして活動。卒業後は大手人材会社に入社し、企業向け教育研修事業部門の立ち上げに携わる。同事業では企画営業部署の責任者を務めながら、全国の大手~中小企業約300社に教育研修コンテンツを提供。自身も講師として、学生のキャリア支援や就職活動支援を行う。現在はフリーランスライター兼採用/教育コンテンツプランナー。趣味は4歳の息子と、愛する横浜DeNAベイスターズの試合を観戦すること。
 
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