コラム

【事例あり】DX人材の採用・育成の課題と、成功に導くためのポイント

DX(デジタルトランスフォーメーション)は企業の競争力を高めるために必要不可欠だ。特に人手不足が深刻になる近年ではDXパーソンの採用・育成が重要視され、多くの企業がデジタルスキルを持った人材の採用・育成に取り組んでいる。一方で、比較的新しい分野で専門性も求められることから、DXを推進する十分なスキルを持った人は決して多いわけではない。そのため、DX人材の獲得競争は激化している。そこで本記事では、DX人材の採用・育成における課題を解消し、スムーズに育成・採用するポイントを解説する。

DX人材の採用・育成における5つの課題


DX人材の必要性を感じてはいるものの、採用・育成が思うように進まない。その理由は、主に以下のようなものが考えられる。
 

1.市場のニーズと求められるスキルのズレ


DXは急速に進化している分野であり、市場のニーズや求められるスキルも変化している。しかし、その変化に追従することができない企業も多く、採用・育成戦略が現状に合わなくなってしまうことが発生するケースがある。
 

2.適切な採用方法が見つけづらい


DX人材は多岐にわたるスキルと専門性が求められるため獲得競争が激しい。そのため、適切な採用方法を見つけることが難しいという課題もある。またDX人材は、大学や専門学校などの教育機関からだけでなく、自己学習やオンラインコミュニティからも発掘する必要があり、そのためには多角的な採用方法をとらなければならない。
 

3.スキルアップのための教育・研修体制が整っていない


希少なDX人材を探し出し、採用するには時間がかかる。仮に採用できたとしても、常に求められるスキルは変化していくため、育成するための体制構築も欠かせない。受け入れる企業側も、どのようなスキルが必要か把握した上で教育体制を整えていく必要があるため、採用・育成に多大な時間とコストがかかる。
 

4.プロジェクトマネージャーが不在


DXプロジェクトはチームで進めることが多い。多様なスキル・バックグラウンドも持ったメンバーをまとめながらプロジェクトを推進していくPM的な存在も不可欠だ。しかし、社内にDX専任のPMを置くことはコストやスキルなど、さまざまな背景からハードルが高い。
 

5.人材の定着・離職の問題


DX人材は市場価値が高いため、転職エージェントやサイトに登録するだけで多くのスカウトが届く。中には「今よりいい報酬を約束します」という誘い文句で、強引に転職を促す企業もあるだろう。リファラルなど、知人からの引き抜きなども考えられるため、離職を防ぐための工夫も欠かせない。


市場のニーズと求められるスキルの把握


上述した課題を解消し、DX人材の採用・育成を成功させるためには何をどうやって取り組むべきなのか。まず、急速に進化するDX分野において、変化する市場のニーズや求められるスキルを把握するためには、以下のような方法があげられる。
 

✓業界情報の収集


業界の動向や市場ニーズを把握するためには、業界専門誌や情報サイトなどから情報を収集することが有効だ。また、業界のイベントやセミナーに参加し、業界のリーダーや専門家との交流を深めることでヒントを得ることもできるだろう。
 

✓競合他社の事例の調査


競合他社がどのようなDX人材を採用・育成しているかを調査することで、市場の求めるスキルや人材像を把握することができる。また、競合他社との比較分析を行うことで、自社のDX人材育成戦略の改善点を見出すこともできる。
 

✓従業員アンケートの実施


従業員アンケートを実施することで、従業員のスキルや知識、希望のキャリアプランなどを把握できる。また、どんなスキルや知識をDX人材に求めているのか、率直な意見や要望を収集できるだろう。
 

✓データ分析による市場ニーズの把握


DX分野はデータを活用した戦略的なアプローチが求められる分野。そのため、データ分析による市場ニーズの把握も重要となる。データを分析することで、市場で求められるスキルや知識を的確に把握する。
 

以上の方法を組み合わせ、まずは市場のニーズと求められるスキルを把握しよう。それにあわせてDX人材の採用・育成戦略を構築することが、DX人材の確保へと動く最初のステップだ。企業によっては、DX分野の専門家と協業し、専門家の意見を取り入れながらより正確な情報を得ることも有効なので、ぜひ取り組んでほしい。


適切な採用方法をみつける


次に、新たにDX人材を外部から採用する有効的な手法は何か。主な手法をあげてみる。
 

ソーシャルリクルーティング
ソーシャルメディアを活用したリクルーティング手法。SNSや専門的なコミュニティなどで求職者とつながり、直接アプローチすることができる。DX人材はオンラインで活動することが多いため、この方法は効果的だといえる。(関連記事:SNS初心者必見!採用におけるソーシャルメディア活用のヒント)
 

ハッカソンへの参加
ITエンジニアやデザイナーが集まってチームを作り、特定のテーマについて意見を出し合いながらアプリやサービスを開発し、競いあうハッカソンへの参加もDX人材の採用には有効だ。議論しながら1つのサービスをつくる過程の中で、スキルや課題解決能力を詳細に把握することができ、ハッカソン後に意気投合して採用につながるケースもある。
 

インターンシップ
インターンシップに参加する学生の中には優秀な人材も多い。新卒採用よりも応募のハードルが低いため、コストをかけずにポテンシャルあるDX人材に出会える可能性がある。インターンを通じて自社のカルチャーにも触れてもらえるので、そのまま採用できれば大きな戦力として活躍してもらえる可能性がある。
 

プログラミングコンテストへの参加
能力や技術を競いあうプログラミングコンテストは、DX人材のスキルや能力を評価するための手法のひとつだ。腕に自信のあるエンジニアたちも多く参加しているので、優秀な人材に出会える可能性が高い。
 

転職エージェントの利用
マーケットの動向を把握している転職エージェントは多い。どの程度のスキルをもつ人材がどの程度市場にいて、どれくらいの報酬を得ているか情報を提供してもらえるので、自社の報酬を最適化することにも役立つ。また、転職エージェントのデータベースを活用することで、転職意欲が高い優秀なDX人材に出会える可能性も高くなる。
 

これらの手法をうまく活用し、企業にとって最適なDX人材を採用することができるだろう。また、優秀なDX人材を育成するためにも、採用した後の継続的な教育・トレーニングプログラムの充実も必要だ。


スキルアップのための教育・研修体制を整える


DX人材となる候補が従業員で見つかった、または採用ができた場合、つぎに考えなければいけないのが「教育をどのように進めるか」である。DX人材の育成においてスキルアップのための教育・研修体制を整えるためには、以下のような取り組みを行うと良いだろう。
 

✓DXに関する知識習得の場をつくる


DXに必要な知識を習得するために、DXに関する書籍やWebサイト、研修、講座などを提供し、従業員が学習する機会を提供する。DX領域は技術の変化が目まぐるしいため、学習の場は一過性のものではなく、継続的に取り組める環境を整えることが大切だ。
 

✓習得した知識を実践する場を提供する


知識を知っていても実践で行かさなければ意味がない。インプットした知識を確かなものにしてもらうために、実践の機会も積極的に与えよう。当然、いきなり自走することは難しいので、最初はメンターや上司が伴走し、サポートすることが欠かせない。
 

以上のような取り組みを事前に準備したり、実際に行うことで、DX人材の育成における教育・研修体制を整え、DX人材のスキルアップにつなげることが可能となる。


プロジェクトマネージャーを育てる


DX人材が従事するプロジェクトにおいて、円滑な進行や品質の維持のためにはプロジェクトマネジメントが欠かせない。DX人材の基本的な教育をスタートすることができたら、このプロジェクトマネジメント力の強化にも注力することが求められる。そのためには、以下のような対策を講じることが必要だ。
 

✓プロジェクトマネジメントの教育・研修を実施する


プロジェクトマネジメントの基礎知識やスキルを習得するための教育・研修を実施する。プロジェクトマネジメントの手法やツール、プロジェクト管理に必要なコミュニケーションスキルなどを教育することで、プロジェクトマネジメント力を向上させることにつながる。また、リスクマネジメントの観点も装着し、リスクを最小限に抑えるための対策を講じるスキルを身につけることも重要だ。
 

✓プロジェクトマネジメントツールの導入


プロジェクトマネジメントに必要なツールやタスク管理ツール、コミュニケーションツールなどのシステムを導入することで、プロジェクトの進捗状況やリソースの使用状況などを管理し、効率的なプロジェクト運営を行う体制を整える。
 

✓プロジェクトマネジメントの実践


実際に参加するプロジェクト内でプロジェクトマネジメントの実践を経験させる。実践を通じて、現場でしか得られないプロジェクトマネジメントの手法やスキルを学習し、改善点を把握することにつなげられる。
 

以上のような対策を講じることで、DX人材のプロジェクトマネジメント能力を向上させることができる。また、プロジェクトマネジメント能力を持ったメンバーを増やすことで、プロジェクトの品質の向上やスピード感のあるサービスの提供につながる。


DX人材の離職を防ぐために


これまでDX人材の採用・育成の手法について考えてきたが、「せっかくお金と時間をかけたのに退職されてしまった…」という企業も多いはずだ。企業にとって欠かせないDX人材を定着させるために必要なことは、他の従業員の定着にも必要なものである。
 

キャリアアップの機会を提供する

DX人材には、常に新しいテクノロジーを学び、キャリアアップを目指す機会を提供することが重要だ。例えば、定期的な教育・研修制度の導入や、外部セミナーやカンファレンスへの参加支援などが挙げられる。また、技術的なスキルアップだけでなく、リーダーシップやプロジェクトマネジメントのスキルアップにも注力することが必要だ。

 

ワークライフバランスの改善

DX人材は常に最新のテクノロジーを習得し、プロジェクトの締切りに追われることが多いため、ワークライフバランスが崩れがちとなる。したがってワークライフバランスの改善が企業には求められ、フレックスタイム制度やテレワーク制度の導入、有給休暇の積極的な取得支援などを行う必要がある。

 

良好な労働環境の整備

DX人材は、ストレスの多い環境で働くことが多いため、良好な労働環境を整備することが大切だ。例えば、職場の雰囲気を改善するための取り組み、社員同士のコミュニケーションを活発にするための施策、健康管理やストレスチェックの実施などに取り組むことが、従業員定着のポイントとなる。

 

適正な評価制度の導入

DX人材は、高いスキルを持っているため、適正な評価制度の導入は欠かせない。例えば、能力や貢献度に応じた昇給や昇進制度の導入、定期的な評価やフィードバックの実施などを行う必要がある。適正な評価制度があることは、モチベーションの維持にも大きく作用し、結果従業員の定着へとつなげることができる。

 

以上のような取り組みを講じることで、DX人材の離職を防止することができる。DX人材の育成には多大な時間や費用が必要なため、離職によるダメージはなるべく防ぎたい。その企業で働くメリットを感じられるように、企業努力が欠かせないだろう。(関連記事:離職を防ぐポイントは?中小企業が取り組むべき従業員満足度向上にむけた施策)


国内の企業のDX人材育成の取り組み事例


最後に、国内企業のDX人材育成の取り組み事例をいくつか紹介する。これら企業の取り組みを知識として頭に入れることで、自社での取り組みの成功につなげてほしい。
 

日本マイクロソフト株式会社
日本マイクロソフトは、DX人材育成のために「Microsoft Professional Program(MPP)」というオンライン学習プログラムを提供。MPPは、ビジネス分野や技術分野など、様々な分野のコースを提供し、修了することでマイクロソフトの認定資格を取得することができる。
 

野村総合研究所株式会社
野村総合研究所はDX人材育成のために「デジタル・アカデミー」という研修プログラムを実施。デジタル・アカデミーでは、データサイエンスやAI、クラウドなどの分野についての研修を提供し、社員のスキルアップを支援している。
 

NTTデータ株式会社
DX人材育成のために「Digital Talent Development Program(DTDP)」という研修プログラムを実施。DTDPでは、データサイエンスやクラウド、DevOpsなどの分野についての研修を提供し、社員のスキルアップを支援している。
 

ソニー株式会社
ソニーはDX人材育成のために「Sony AI×EDU」というプログラムを実施している。Sony AI×EDUでは、AI技術やデータ分析、プログラミングなどの分野についての研修を提供し、社員のスキルアップを支援している。
 

これらの企業は、DX人材育成に力を入れており、オンライン学習プログラムや研修プログラムなどを提供することで、社員のスキルアップを支援している。企業がDXに取り組む上で、DX人材育成は非常に重要な課題であるため、今後も注目されていくだろう。


競争力を強化し、新たなイノベーションを生み出す企業に


DX人材の採用や育成は簡単なことではないが、慎重に検討し、確実に実行していくことで、成功へと結びつけることができる取り組みだ。DX人材を確保することで、企業は最新技術を使った高品質なサービスの提供が可能になり、競争力を強化することにもつながる。「効率的な業務プロセスの構築や業務プロセスの最適化を図りたい」「新たなビジネスモデルを開発し、イノベーションを生み出したい」そんな企業の願いを実現し得るDX人材の採用・育成に、ぜひ積極的に取り組んでほしい。
 

【筆者プロフィール】
西山 侑里
1993年群馬県高崎市生まれ。空っ風に鍛えられながら、小中高とバスケットボールを追い続ける部活生活を経て、2012年の大学入学を機に上京。大学卒業後、2016年にリクルートの求人広告代理店に新卒入社。売れない営業時代を乗り越え、営業リーダーを任せられるまでに成長。新規部署の立ち上げメンバーとしてIndeedの運用にも携わる。2022年に夢だったライター職に転職。人材業界での経験を活かして求人原稿の制作から、最近ではコラム記事の制作に挑戦中。
 
<採用広報に興味のある企業のご担当者さまはこちらをクリック!>