Indeed PLUSは求人業界に革新をもたらすのか?AIマッチングの実力を探る
AIによる最適なマッチングを武器に、求職者と企業をつなぐ「求人配信プラットフォーム」を目指すIndeed PLUS。しかし蓋を開けてみると、その効果には一定の傾向が見られる。経験不問の大量採用や、競合の少ない地方の採用では威力を発揮する一方、経験者採用や都心部での採用では思うような成果が出ていないという。
マッチングを担うAIにも課題がありそうだ。求職者の経験や志向性を的確に判断できず、思わぬ求人が届くことも少なくない。「AIの力を信じられるのか」という疑問の声も上がっている。
そもそも、膨大な求人情報の中で埋もれないための工夫は必要不可欠である。単に人気のキーワードを羅列するだけでは、Indeed PLUSでも効果は望めない。職種や業界ごとに、求職者の志向を捉えた言葉選びが求められている。業界の構図を変える存在となるのか、はたまた時期尚早に終わるのか。本記事では、これまで10年以上求人広告の制作に携わってきた筆者が、Indeed PLUSの実力を探っていく。
Indeed PLUSとはなにか?
そもそもIndeed PLUSとはなにか。HP上では「人材採用のための『求人配信プラットフォーム』です。複数の求人サイトと複数のATS(採用管理システム)をつなぎ、求職者と求人のより効率的なマッチングを実現します」と説明されている。
そして大きな特徴は以下の3点とされている。
・多数の求人広告利用者へのリーチ
・応募管理の一元化
・AIによる効率的なマッチング
「Airワーク 採用管理」や「engage」、「HITO-Manager」といったATSで一度求人広告を作成すれば、Indeed PLUSを通じて、「Indeed」はもちろん、「リクナビNEXT」、「タウンワーク」、「フロム・エー ナビ」、「はたらいく」、「とらばーゆ」「リクナビ派遣」という連携サイトへ同時に情報を掲載。従来はサイトごとに掲載費用、応募者管理コストがかかっていたが、それを一元化できるのだ。
Indeed PLUSで業界の構図が変わる?
「どうせ連携して掲載されるなら、各媒体にお金を払うのではなく、Indeed PLUSを使えば良い」。求人掲載を検討する企業は自然とそう考えるのではないだろうか。
現在のリクルートホールディングスの代表取締役社長兼CEOは出木場久征氏。アメリカのインディードの買収を推進したことで知られる人物だ。リクルートは、数年前からATSであるAirワークの無料導入に力を入れ(松本人志さんのTVCMを目にした方も多いはず)、それが一定の浸透を見せたところでIndeed PLUSをリリース。つまり“Airワークを使えば、すぐにIndeed PLUSを使えますよ”という状態をつくっていたのだ。
営業活動についても、振り切った姿勢が見て取れる。個人的に関係のある複数の企業からは「リクルートの営業さんが、リクナビNEXTを提案してくれず、Indeed PLUSばかりをごり押ししてくる」という声がひんぱんに届く。また、求人サイトを見ても代理店各社がIndeed PLUSの営業を強化していこうという考えが強く伝わってくる。
リクルートがこれまでのサービス“プラスα”という扱いではなく、Indeed PLUSを主軸として捉えていることは明白だろう。“子会社のサービス(Indeed)に親会社のサービス(リクナビNEXT、タウンワークなど)が乗っかる”という形も、出木場氏のキャリアによって障壁にならなかったのかもしれない。
話を聞くところによると、エン転職やdodaといった非リクルートの競合媒体も対抗する姿勢はないようで、求人広告業界はIndeed PLUSという大きな傘の下に、各メディアが連なる形になっていきそうだ。しかし、これが100%求職者、求人企業にとって良いことだと、私には言い切れないのである。
AIの力は信じられる?現場で感じる、効果の実態
長々と書いてきたが、「Indeed PLUSに掲載すれば効果は出るの?」と、気になる人も多いだろう。私の知る限り企業の知名度、職種、待遇面をフラットだと仮定すると採用成功しているのは以下のパターンである。
1.経験や年齢を問わず大量採用を行っている
2.地方都市で募集している
3.珍しい資格を必須としている
1については、Indeed PLUSの長所が発揮された結果だと言える。一度に複数の媒体に掲載されるため露出度がアップし、求職者に求める要件が低ければ自然と応募数が増えていく。2については、競合の少なさが要因である。たとえば、私の居住地である東京都練馬区で営業を検索すると掲載数は3万9751件、出身地である愛知県岡崎市に変えると、その数は10分の1以下の2097件(Indeed での数字※2024年6月14日現在)となる。3についても、2と同じロジックが働いていると考えられるだろう。
これは業界内でIndeedが一般化してきた6、7年ほど前から言われていた傾向で、Indeed PLUSになっても変わってはいない。つまり、その他の「営業やITエンジニアの経験者が欲しい」「20代の若手が欲しい」といった一定の条件を設けると、各段に効果が下がることが多くの企業の課題になっている。
膨大な求人が掲載されている中で、マッチする求職者に求人が届かない――そもそもIndeedは“求人広告のGoogle”といった触れ込みで、キーワード検索で求人を探すことを特徴にスタートした。たくさんの人が検索するワードでGoogleの上位に自社のHPなどを持ってくることを考えれば、その難易度を想像してもらえると思う。
ここできちんと読み込んでいる方は、冒頭に記載したIndeed PLUSが掲げる特徴「AIによる効率的なマッチング」は機能していないのかと思われるかもしれない。私は、そこにこのサービスの大きな問題があると考えている。
IndeedのHPには、求職者と企業向けにそれぞれこう記載がある。「求職者は、使用している求人サイトや、登録している履歴書の内容、求人検索履歴などに応じて、より自分にあった求人情報が表示されるようになる」「企業が投稿した求人情報は、Indeed以外の求人サイトの利用者も含め、より多くの条件にあった求職者に対して表示され、より効果的な応募につながる可能性が高まります」。
「本当ですか……」という話である。自分の経験を横スライドで活かせる業界・職種に転職を考える求職者ならまだ良い。しかし、まったく新しい仕事にチャレンジしたいという求職者と、それを受け入れようという企業の数は膨大だ。AIによるマッチングがさほど機能していないからこそ、現段階の結果が生まれているのだろう。
リクルートでは以前よりAIの活用が進められていた。2019年頃には、リクナビNEXTの求人告知メール(スカウト機能)に求職者の行動履歴を分析して送付する仕組みを採用。たとえば、100通分を申し込んであれば300人以上のターゲットを設定(学歴・経験・居住地など)し、その中から応募確度の高い求職者をAIが選定してメールを送るようになった。
しかし、それでメールの開封率や応募率が上がったというエビデンスはあるのか。何人ものリクルート関係者に聞いたり、リリースが出ていないか検索をしたりしてみても誰も知らないのだ。“AIの力”を世の中にアピールするのには、絶好のチャンスだと思うのだが……。
なお、新卒で就職して以来、ライターや編集、人材関係の仕事をずっと続けてきた私の志向に合っているとリクナビNEXTがおすすめしてくれるのは、焼き肉屋とクスリ・食品・建築材料の営業で、Indeedからはセラピストの求人案内が届いた。つまり、そういうことである。
Indeed PLUSの制作に必要なこと
従来の求人広告は、職種と勤務地を希望に合わせて設定し、検索することが主流だった。前述した通り、Indeedではそれがキーワード検索に変わり、リクナビNEXTなどのサイトも合わせた仕様に変更されている。
リクナビNEXTが発表している「みんなが検索したキーワードランキング※2024年6月5日~6月11日」で、上位に入っているのは「未経験」、「事務」、「営業」、「フルリモート」、「高卒」、「IT」、「土日休み」などである。
であれば、「人気のワードを入れれば、自然と効果が出るのでは?」と思われるかもしれないが、そう簡単ではない。よほど質の低い制作や営業でない限り、そんなことは前提にして求人広告を作成する。たとえば、「東京都×未経験×営業」では1万5654件もの募集(2024年6月14日現在)が並んでいる。その中からAIがマッチングしてくれれば良いが、期待できないのは一つの前の章で書いた通りだ。
そこで求職者にリーチするためには、“もうひと手間”が必要になってくる。人気キーワードをできる限り網羅しつつ、施工管理を例に挙げれば「現場監督」、「管理技術者」「現場所長」というように職種独自の求職者が検索する可能性がある言葉を押さえる。デザイナーであれば、「Photoshop⇔フォトショップ」、「illustrator⇔イラストレーター」を併記するといった具合だ。
職種ごとに求職者はどんな志向を持っているのか、それをもとにどんなキーワードで仕事を探すのか。公表されている“人気ワードだけ”では、膨大な求人の中に埋もれてしまう状況で、求人広告の制作に関わるライターや営業、採用担当はより深く各職種・業界への知見が求められるようになっているのだろう。
求人広告のこれから
求人広告業界は、新聞広告から始まり、雑誌、Webと変遷を遂げ、正社員・アルバイト・派遣・職種などによって分かれた様々なメディアが乱立するようになった。ニーズや理由が合って別になった枝葉を、再び一つに統合しようというのがIndeed PLUSである。ホワイトカラー系がメインだった媒体に、ブルーカラー系の媒体を使っていた企業も大量に流入するといったように、一つのATSで複数メディアに掲載できる分、各媒体の内情は混乱しているように感じている。そして、本来その状況を整理するはずのAIはほとんど機能していないようだ。
リクルートホールディングスの代表・出木場氏は2021年のあるインタビューで、「『そろそろ転職かな』と思った瞬間に、最高にワクワクするようなオファーが届く。そんな世の中を実現したいんです」「(AIによる)技術的なピースはすでに揃っていて、本気で実現しようと思えば、そんなに難しいことではないはずなんですよ」と語っている。
今はともかくきっと遠くない将来、AIが求人票を書き、AIが的確だと判断した人にそれが届く日が来るのだろう。しかし、私は「自分がなにをしたいか、なにが向いているか分からない」という求職者、「○○の経験が必要だと思っているけど、本当にうちの会社に必要なのは違う人材ではないか」という企業を知っている。その気持ちや行動まで、AIは理解できるようになるのだろうか。橋渡しをする“人”がいつまで求められるのか、できれば最後まで見続けていきたいと思う。
【筆者プロフィール】
石原遼一
小学校と同じくらい通った早稲田大学在学中からライターの仕事を始め、卒業後、出版・広告業界で会社員とフリーランスを行き来する生活に。気づいたらHR・求人広告を軸にスポーツ、遊技を含めて雑多なコンテンツをつくる人間になっていた。最近は、クライアントに採用コンサルティングから広告運用まで丸ごと頼まれることも。ありがたいことに営業やお客様からの指名で、月間100~200件ほどの求人広告を制作してきたため、おそらく取材社数は数千、制作実績は万を超えるはず。最近、少し田舎に家を購入。世界一かわいいバーニーズ・マウンテンドック2頭と大型熱帯魚に囲まれ、適度に仕事をしたいと思っている。39歳、独身(絶賛婚活中)。一応、株式会社石原制作所の代表でもある。
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