コラム

次世代のヒトづくり×テクノロジー大会議「Life is Tech ! JAM 2024」レポート③(生成AI×働き方、最新事例と未来)

2024年6月25日、次世代躍動社会づくりを目的にライフイズテック株式会社が主催した教育カンファレンス「Life is Tech ! JAM 2024」。本イベントでは、AI・デジタル時代の教育や地方創生、企業DX、新しい働き方などのテーマについて、多彩なゲストによる熱いディスカッションが繰り広げられました。
今回は第1回、第2回に続く、第3回目のイベントレポートをお届けします。テーマは「生成AI×働き方、最新事例と未来」です。生成AIの未来に興味をお持ちの人事担当者、経営者の方はぜひご覧ください。

【ゲスト】
小林 史明氏(衆議院議員)
広木 大地氏(株式会社レクター代表取締役 日本CTO協会理事)
橋本 善久氏(株式会社時空テクノロジーズ 代表取締役 CEO)
奥苑 佑治(ライフイズテック株式会社 執行役員 CTO)

日常生活におけるAIの活用シーン

広木氏:生成AIを社会実装するステップは、次の4つです。1段階目が、生成AIを用いて自身の業務効率化を目指す「個人のエンパワー」。2段階目が生成AIを活用し、特定業務の自動化を進めていく「オペレーション変革」。3段階目が、それらをビジネス全体の変革に活かす「ビジネスモデル変革」。そして4段階目が、「産業・社会変革」の実現です。
 
まず、第1段階の「個人のエンパワー」に関して、みなさんは普段どのようなシーンで生成AIを使っていますか?
 

奥苑氏:私は主に「壁打ち相手」として活用しています。生成AIは、自分が知らないことを引き出してくれるいわば「メンター」のような存在です。同時に、自分の頭のなかを整理してもらうこともできます。
 
橋本氏:調べ物や、情報整理を行う際に活用しています。後者については、例えばライブの公演スケジュールをスクショし、GPT-4oの画像認識機能を用いて一覧表を作成したりしています。
 
広木氏:私も、パンフレット上のイベント日程を写真に撮り、Googleカレンダー同期用のリンクを生成したことがありますよ。日常のちょっとした場面でも幅広く活用できますよね。
 

        広木 大地氏(株式会社レクター代表取締役 日本CTO協会理事)

小林:自民党には「自民党AI」と呼ばれるツールがあります。過去の政策をAIに読み込ませ、情報として蓄積をしているため、寄稿文を書く際などに重宝していますね。
 
また現在、より生成AIを使いやすい社会を作るために、さまざまな規制改革に取り組んでいるところです。例えば「アナログ規制改革」では、ハンコの禁止など、約1万条項に及ぶ“アナログ手段に限定されたルール”の見直しを進めています。2024年夏には全条項にテクノロジーが適用される予定であり、自ずとAIの活用推進にもつながっていくでしょう。
 
                   小林 史明氏(衆議院議員)

AIが人手不足を解消する手段に

広木氏:第2段階の「オペレーション変革」についてはいかがでしょうか。
 
橋本氏:当社では「AIによる自動文字起こしサービス」を展開しています。議事録作成時などに、生成AIを用いて文字起こしをするだけでなく、「要約」できる点に好評をいただいています。特に行政機関のお客様では、アイデアの壁打ちに利用していただくケースも多いようです。
 

       橋本 善久氏(株式会社時空テクノロジーズ 代表取締役 CEO)

広木氏:会議の内容は時間が経つと忘れてしまいがちですし、サマリーが生成されるのはありがたいですね。
 
奥苑氏:橋本さんの事例は「Speech-to-Text」ですよね。生成AIは言語変換やチャネル変換に至るまで、活用の幅が広がっています。先ほどの画像認識機能の話もそうですが、身近な部分でオペレーションの変革が起きていると感じます。
 
           奥苑 佑治(ライフイズテック株式会社 執行役員 CTO)

広木氏:生成AIがマルチモーダル化することで、さまざまな場面でのオペレーション変革が期待できそうですよね。
 
小林氏:そうですね。行政でも、最近では「目視規制」がなくなりつつあります。例えば、川の堤防を点検する際に、以前は必ず目視で行うよう法令で定められていました。しかし、最近はドローンで撮影した画像を生成AIでチェックをする手法も増えています。また、鉄塔など送電設備の点検時にも、ドローンが用いられるようになりました。人手不足が社会問題になっていますが、テクノロジーの導入により、むしろ1人あたりの生産性は高まっていると言えます。
 
広木氏:たしかに、人間の代わりに機械が働くことで、労働者1人あたりの賃金は増えていきますね。
 
小林氏:そういう意味でも、今後は「8がけ社会」を意識していく必要があると思います。2040年頃には、あらゆる現場で20%程度の人手不足が発生するとされています。現在10人で行っている仕事を8人で回せる仕組みを作れば、一人ひとりの生活が豊かになり、日本社会も成長するでしょう。
 
広木氏:AIは人間の仕事を奪うのではなく、むしろ人手不足を解消する手段になりうるのですね。

現場の仕事が新たなビジネス創出の起点に

広木氏:次に、第3段階の「ビジネスモデルの変革」に関して、生成AIによって今後のビジネスはどのように変化していくでしょうか。
 
橋本氏:画像生成AIや音楽生成AIの進歩により、クリエイティブ領域を中心に急速な変化が訪れています。1年前には想像がつかなかったクオリティのアウトプットが生み出されているんです。あっという間に生成AIに追いつかれ、追い越されていくという事実に向き合い、生成AIをうまく活用していく必要があるでしょう。
 

奥苑氏:AIの力により、今日“頑張ってできた”ことが、明日には“誰でもできる”ような状況が生まれています。今できることに目を向け、価値を最大化する方法を考えつづけていかないと、企業の競争力もどんどん低下してしまうのではないでしょうか。
 
小林氏:生成AIの進歩により、現場側(フィジカル側)の仕事の価値がさらに高まっています。事務処理や議事録作成などの業務はAIに代わられつつありますが、工事現場の仕事や、現場の人たちをマネジメントする仕事はなくなりません。それだけでなく、規制改革が進むことで、現場の人たちの知恵や発想を起点としたサービスが生まれています。先ほど例にあげたドローン技術もその1つですね。今後も現場の仕事にAIの力が加わることで、新しいビジネスが生み出されるのではないかと期待しています。
 

楽しみながら変化の波に乗ろう

広木氏:最後に、第4段階の「産業・社会変革」ですが、生成AI以後の社会はどう変化していくでしょうか。
 
橋本氏:私たちの想像が及ばないような、大きな変化があると考えています。10年以内には、ロボットが生活に入り込み、人間と会話をするような状況が生まれるかもしれません。一方で、美容師や料理人など、人によるサービスが強みの仕事は今後も残っていくでしょう。だからこそ、人間にしか対応できない領域はなにか、しっかりと見極めていく必要があると感じます。
 
広木氏: AIの特徴の1つに、知能労働からの解放という側面がありますよね。AIを活用することで、“本当はやりたくなかった”知的労働が減っていくかもしれません。
 
橋本氏:そうですよね。繰り返し作業やデータ処理などの業務がリプレイスされ、私たちの仕事が楽になる可能性があると思います。
 
広木氏:そういう意味では、“ちょっと嫌だな”と思う業務からAI活用を進めていくとよいかもしれないですね。その結果、私たちが「やりたい仕事」や「本来やるべき仕事」に注力でき、そうでない仕事が自動化されていくでしょう。
 
小林氏:AIの活用により、総じて「いい社会」が生まれるのではないでしょうか。今までの人数よりも少ない人数で、成果を出していくわけですから、一人ひとりの給料も増え、経済も成長していく。また、障がいなどで特定の作業が難しかった方にも機会を提供できたりと、全員にフェアな社会が実現できると思います。そのためにも、国と都道府県と市町村とが、さらに連携できるようなシステムを整えていく予定です。例えば、これまで各自治体が個別に設けていた問い合わせ先を、1つのコールセンターと1つのチャットボットに集約するなどです。さらに、それらのビッグデータを政府が解析することで、対応すべき問題をより明確にできます。
 
広木氏:最後に本日の感想をお願いします。
 
橋本氏:AIの進歩により、私たちの業務は必ず変化していくでしょう。ぼんやりと眺めているだけではなく、好奇心を持って接していくことが大切です。未知数の部分も多々ありますが、楽しみながら波に乗っていけるとよいのではないでしょうか。
 
奥苑氏:少し前に、Google MAPの会話型AIによる店舗情報の調査が話題になりましたが、「気づいたらAIだった」という状況が今後も増えていくでしょう。そのような社会の波に飲まれる前に、私たちもみなさんと一緒に未来のAI活用のあり方を考えていきたいと思います。
 
小林氏:人口減少社会において、仕事のやり方や生活の仕方を変えていく必要が生まれています。一方で、変革を進めるうえでルールや慣習が歯止めになっているのであれば、率先してその状況を打破していかなければなりません。私たち行政も本気で規制改革に取り組みますので、ぜひみなさんにも自分たちの環境を変えようという思いで臨んでいただけると嬉しいですね。
 

取材・文:金子 茉由