コラム

ファントムストックとは?メリット・デメリットや適切な会計・税務処理を解説

近年、従業員のインセンティブ向上を目的とした新しい報酬制度として「ファントムストック」が注目を集めています。ファントムストックは、実際の株式ではなく仮想的な株式を従業員に付与する制度です。非上場企業でも導入が可能で、株式の希薄化リスクもありません。本記事では、ファントムストックの概要からメリット・デメリット、さらには社内導入の手順までを解説します。

ファントムストックとは?


ファントムストックとは、従業員に対して付与される仮想的な株式のことを指します。実際の株式は発行されず、将来の一定期間後に現金または株式で清算されます。つまり、株主となることはできませんが、株価上昇に伴う経済的利益を享受できる仕組みです。
 
ファントムストックの目的は、従業員に株主意識を持たせ、企業価値向上への動機付けを行うことにあります。優秀な人材の確保・定着にも役立ちます。株式公開前の非上場企業が従業員に株式に準じた報酬を付与する場合にも有効な手段となります。
 
ファントムストックが注目される理由の1つは、非上場企業でも導入が可能な点にあります。実際の株式発行は不要なので、株主総会での承認などの手続きも必要ありません。
 
また、通常の株式報酬と異なり、ファントムストックは新株の発行を伴わないため、既存株主の持ち株比率が希薄化するリスクがありません。株式インセンティブを付与しつつ、資金調達を阻害しない特徴があるのです。

ファントムストックのメリット

 
ファントムストックには、メリットとデメリットの両面があります。まずどんなメリットがあるのか見ていきましょう。

従業員の現金負担が軽減される

ファントムストックの利益は、権利が確定してはじめて課税の対象となります。つまり、付与時点では課税されないため、従業員は現金を一旦支払う必要がありません。権利確定時に一括して所得課税されますが、その時点で初めて現金化できるため、タイミングの違いで現金負担が軽くなります。

キャッシュフローへの影響が少ない

実際の株式発行がないため、ファントムストックの付与時に企業から現金が流出することはありません。権利確定時に従業員へ支払が発生しますが、そのタイミングまで企業のキャッシュフローへの影響は限定的です。

会計上の費用計上が簡素

通常の株式報酬は、付与日現在の株価を基に費用計上が求められます。一方、ファントムストックは将来の株価変動に応じて費用が変動するため、毎期の評価額の見直しが必要です。この点で会計処理が複雑になりますが、付与時点での一時的な費用計上は不要なため、キャッシュフローへの影響は軽微です。

ファントムストックのデメリット

続いて、どんなデメリットがあるのかについても見ていきましょう。
 

インセンティブ効果が弱まる可能性がある

ファントムストックの付与時点では、将来支払われる金額が不確定です。株価次第で経済的な付与価値が大きく変わるためです。この不確実性が従業員のインセンティブを下げかねません。

付与額の公平性が保てない恐れがある

上場企業とは異なり、非上場企業では株価の公正な評価が難しいことが課題です。間違った株価評価に基づきファントムストックを付与すると、従業員間で不公平が生じかねません。

計上額の算定が難しい

ファントムストックに関連する会計基準は未公開株式を念頭に置いているため、計上額の算定が難解です。外部専門家への相談など、適正な会計処理を行うための手間がかかります。

ファントムストック制度の社内導入方法


では実際にファントムストック制度を自社に導入する際にはどうすればよいでしょうか。具体的なステップについて紹介します。

対象者の選定

経営層、幹部社員、優秀な人材など、重要ポストや高い貢献が見込まれる人物を対象とするのが一般的です。全従業員を対象にすると、コストがかさむ可能性があります。

付与数や権利確定条件の設計

付与するファントムストック数と、その権利が確定するための条件(在籍期間や業績目標達成など)を検討・設計します。条件次第でインセンティブ効果が変わってきます。

従業員への説明と同意取得

対象者に対し、ファントムストック制度の内容を丁寧に説明し、理解と同意を得る必要があります。質疑応答の機会を設けるなど、不明点を残さないよう努めましょう。

社内規程の整備

ファントムストック制度の運用ルールを定める社内規程を整備します。付与対象者の条件、権利確定要件、支払い方法、税務上の取り扱いなどを明記しておきます。

会計・税務面での取り扱い

ファントムストックの会計・税務面での取り扱いには複雑な部分があります。制度の導入検討時から、会計士や税理士など専門家に相談し、適切な対応を講じることが重要となります。ここでは留意すべきポイントを紹介します。

会計上の取り扱い

ファントムストックの会計処理は、以下の3点に留意する必要があります。

1. 付与額は、従業員への人件費相当額として計上

ファントムストックは現物給与と同様に、従業員への報酬として会計処理されます。付与時点では未確定のため費用計上は行わず、権利確定の度に対応する付与額を人件費として費用処理します。

2. 清算方法により、負債計上か資本性金融商品の計上が求められる

ファントムストックの清算方法により、会計上の取り扱いが変わります。
・現金清算の場合は、未払従業員賞与と同様に負債に計上
・株式清算の場合は、資本性金融商品(新株予約権等)として資本の部に計上

3. IFRS第2号に未公開株式関連の会計処理のガイダンスがある

国際会計基準であるIFRS第2号「株式に基づく報酬」には、ファントムストック(未公開株式関連報酬)の会計処理について詳細なガイダンスが記載されています。適正な会計処理を行うため、この基準を参照する必要があります。

税務上の取り扱い

税務面での主な取り扱いは以下の通りです。

1. 従業員側の課税関係

ファントムストックによる利益計上時(権利確定・清算時)に、給与所得として課税されます。従業員は当該金額について所得税の納付が求められます。

2. 企業側の課税関係

企業は、ファントムストックの付与額を従業員給与費用の損金算入ができます。課税所得の計算上、経費として控除可能です。

清算方法による課税関係の違い

ファントムストックの清算方法(現金かストック)で、従業員・企業双方の課税関係に違いが生じます。株式報酬加算価額の有無、源泉徴収の要否などが変わってきます。

取扱は難しいが、人材確保に有効な制度


ファントムストックは、従業員のインセンティブ向上と優秀な人材確保に有用な制度です。実際の株式発行を伴わないため、資金調達を阻害したり株主持分を希薄化させる心配がありません。
 
一方で、株価変動に応じたインセンティブ付与という本来の目的を達成するため、付与額の設計や評価方法の適正化が課題となります。特に非上場企業では株価評価が難しく、公平性の確保が重要になるでしょう。企業がIPOに伴い上場すれば、ファントムストックは役割を終える可能性があります。その際は、通常の株式報酬制度への移行など、報酬体系の見直しが求められます。
 
優秀な人材の確保と長期的なインセンティブ付与を両立させるために、ファントムストックのメリットを最大限に活かせる企業が増えることが期待されています。

 

【筆者プロフィール】
伊藤鮎
2023年VALUE WORKS入社の編集・ライター。前職は約10年間書籍編集者として勤務。趣味はHIPHOPとメタルコアとKPOPと料理とお酒。優秀な人員がよりモチベーションを上げるきっかけにもなるファントムストック制度、運用は難しいかもですが人事施策のひとつとして取り入れるのは効果的そうです!
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