コラム

長年求人広告を作り続けてきた筆者が、「母集団形成」という言葉に違和感を感じる理由

長年求人広告の制作をしてきた私は、「母集団形成」という言葉を耳にタコができるほど聞いてきた。その言葉を聞くたびに、どこかもやもやした気持ちになってしまう。たしかにクライアントからお金をいただき、書く機会を与えていただいている以上、応募0は避けたい。広告を売ってきた営業も、採用担当も、みんなそれは同じだ。ただ、それでも私は質よりも数を追い求める採用のやり方に疑問を抱いてしまう。本記事ではその理由を賛否両論あることは承知で言語化していこうと思う。

母集団形成は本当に必要か


採用活動における母集団形成とは自社に応募してきた候補者や自社に興味を持ち選考に参加する可能性がある人たちの集団をつくることをさす。不人気業界や不人気職種では人口減少の背景もあり、特に地方では求人を出しても応募が全く集まらないというケースも多い。そのためせっかくお金を出して求人を出すのだから、「母集団形成をしてくれ」といわれるのだ。
 
しかし、先方の要望を鵜呑みにし、とりあえず応募者の数を集めようとすると仕事の本質とかけ離れた求人が完成する。「ほぼ残業なし」「フルリモートOK」「未経験でも月給●●万円以上」と、働きやすさや待遇の良さで引っ張る求人がその最たる例である。たしかにこうした魅力を打ち出すことは母集団形成において重要である。ほとんどの求職者は例外なく「できるだけ多くの給与をもらい」「できるだけたくさん休める」会社を探している。そのニーズに応える求人を出すことは理にかなった戦略だ。
 
ただ、多くの採用担当者や営業担当者に、本質的なゴールである「採用後の定着・活躍」の視点が抜け落ちてしまっていることを、私は危惧している。そもそも企業は「休み」や「給与」の多さに釣られて応募してきた求職者を心から採用したいと思うだろうか。

採用の目的を見失ってはいけない


採用とは事業を伸ばすためのものである。特に中途採用において1名の採用枠に対して数百名、数十名の応募数など必要ない。応募が増えれば増えるほど応募者対応の手間がかかり、リソースが奪われていく。本当は求める人物像が明確にもかかわらず、あえてそこを濁して「誰でもOK」のような間口を広げた書き方をするのは候補者に対しても失礼だ。
 
社長や採用担当者、制作担当者の承認欲求を満たしたり、むやみやたらに間口を広げるのではなく、求める人材に対して本質的な仕事の価値や働く魅力を伝え、採用を成功に導くことが本来の求人広告屋の役割である。にもかかわらず、「アットホーム」だの、「和気あいあい」だの、「稼げる」だの、「休める」だの、ワイワイ、キャピキャピを売りにしている広告は多い。当然ギスギスした職場に比べれば、楽しい職場であるにこしたことはない。
 
しかし、大学のサークルの延長のようなノリで成功している会社がどれだけあるだろうか。筆者もかつて20代ばかりのサークルノリのような会社に勤めていたことがあるが、実際は過酷で、“ど”ブラックだった。泣き出す社員もいたし、逃げ出す社員もいた。仕事とは本来辛いものなのだ。それでもなぜその仕事を続けている人たちがいるのか。なぜ歯を食いしばって頑張っているのか。その先に何があるのか。モチベーションの源泉は何なのか。そこにフォーカスして「仕事の価値」を伝えるべきである。

数を求めるほど、採用成功から遠ざかっていく


ただ、採用担当も、求人広告の営業も、制作スタッフも、お金をいただいている以上、応募0は避けたい。もし応募が全くこない場合、関係者は全員詰められる恐れがある。一方、応募数さえ集めておけば「これだけ数を私たちは集めました。その上で採用できなかったのは御社(または上司)ですよね」と逃げることができる。母集団形成とはそうした関係者のリスクヘッジになる便利な言葉なのだ。
 
しかし、実際は母集団形成を図ろうとすればするほど、採用成功や新入社員の定着・活躍からは遠ざかっていく。まず求人広告の営業や制作はやたらと他社求人との差別化を図ろうとする。それは新人時代に上司から叩き込まれるからだ。その結果、相場をやたら気にする。相場より給与は安ければ給与をあげる提案をするし、相場より休みが少なければ休みを増やす提案をする。たしかにこれも理にかなっているのだが、その結果採用すると今度は企業側の首を絞めることになる。
 
例えば、応募が来ないからという理由で相場とかけ離れた高額な報酬を売りにしたとしよう。入社後、新入社員が高額な報酬に見合うパフォーマンスを発揮できない状態が続いたとしても、簡単にクビにすることはできない。すると経営者や上司はその社員に過度なプレッシャーをかけ、ブラック化していく。昨今メディアを賑わせた大手自動車買取販売会社などはその最たる例だ。

いい人材を採用したければ、まず自分たちが変わろう


ではありのままを伝える求人を出して応募が全くこない企業はどう戦っていけばいいのだろうか。まず、「お金を払って求人広告を出せば応募がくる」という考えを捨てることだ。ありのままを伝えて応募が集まらないのであれば、求職者から見て貴社の求人には魅力がないのだ。厳しい言い方になってしまうが、まずはその事実を受け止めることからはじめよう。
 
実は多くの経営者はその事実にうっすらと気づいている。ただ向き合いたくないのだ。その事実を認めてしまえば、自分たちを変革せざるをえないし、面倒だから。「最近の若手は」「うちにはろくな社員がいない」「人材サービス会社の奴らなんてどいつもこいつも」と、他責にした方が楽なのだ。一方、地方の名も無い零細企業でも、ありのままを伝えただけで応募が殺到するケースがある。そのような企業は例外なく、経営陣が日頃から「求職者からモテる会社になるにはどうすればいいか」考え、変革しようと努力している。
 
要は本当に魅力的な企業はちょこざいなテクニックなど使わなくとも、ありのままの事実を伝えるだけで応募がくるのである。いろんな調味料でごまかした料理も、素材が腐っていたら美味しくない。それは企業も同じである。経営者の考え方や組織の体質が間違った方を向いている場合、どんなにお金をかけて求人広告を出したところで、その「匂い」は文面から漂ってしまう。特にSNS慣れした昨今の求職者たちはその「匂い」をどんなに香水でごまかしたとしても、敏感に嗅ぎ分ける。本当にいい人を採用したければ、まず自分たちが変わろう。自戒を込めて。
 
【筆者プロフィール】
田尻亨太
中学と高校ではバレーボール部に所属。身長がそこまで高くなかったので、大学ではバンド活動をすることに。卒業後、大手求人メディアの制作スタッフになる。その後、老舗の求人広告代理店やスタートアップ、ベンチャー、フリーライターを経て、2020年8月にコンテンツ制作で採用を支援する株式会社VALUE WORKSを創業。新米社長として試行錯誤する日々を過ごしている。趣味は銭湯とビール、たまに島に行くこと。
 
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