コラム

点ではなく面で考えよ。社員研修を有意義にするために必要なマインド

年度末の時期を迎えると、毎年とある業界が活気づいてくる――企業向け研修サービス業界だ。あるビジネスマナー講師は、4月単月で年収の2/3を稼ぐと言う。確かに新人の戦力化・定着を促すためにも教育研修の役割は重要だが、果たしてその効果はどのように捉えるべきだろうか。本コラムでは、新入社員研修の意義と、実施にあたって押さえておくべき事柄を、元研修サービス企画営業の視点からお伝えしたい。

その研修、本当に必要?


新入社員研修のあり方を考える前に、まずは前提として、「研修」そのものの意義を考えてみたい。筆者が以前在籍していた人材会社にて、研修サービス企画営業として担当したA社。発注をいただいたことに感謝しつつ、研修への要望を伺ったところ「年度内に予算を使い切らなければならないので、何でもいいから研修を企画してほしい」というオーダーであった。
 

他にも、2年連続で同じ内容の階層別研修を実施いただいていたB社。3年目となれば見直しが必要になろうかと研修プログラムの再設計を提案したところ、「とりあえず上層部に実施しているという報告ができればよいので、そんな工数は必要ない」とのこと。
 

極めつけは、毎年管理職研修を導入いただいていたC社。その年は例年以上に登用試験の合格率が低く、管理職昇格者が1名しかいなかった。ちなみに研修実施費用は派遣する講師1名あたりの金額になるため、参加者が1名でも30名でも金額は変わらない。C社では慣習で例年同様の研修を実施しなければならないと決まっているとのことで、数十万円をかけてたった1名に研修を行ったこともあった。
 

上記はやや極端な例かもしれないが、一般的な企業内研修において、本当に成果や効果を期待して実施しているプログラムはどのくらいあるのだろうかと疑問に思うことがある。例えば、業務で使用するシステムや技術に関する研修であれば、そのまま知識となりすぐに仕事に役立てることができるだろう。また情報セキュリティやハラスメントと言ったコンプライアンス系の研修は、見方によっては「(何かトラブルが起きたときに)会社としては施策を打っている」という対外的なアリバイ作りにもなる。
 

一方で階層別研修(新入社員研修、管理職研修など)やテーマ別研修(コミュニケーション研修、ロジカルシンキング研修など)においては、どこに意義を見出すべきだろうか。企業が提供する研修であれば、そこでの参加者の学びが直接業務に活かされ、業績向上につながることが最終的な目標であるが、研修を受けてすぐに成果が業績に反映するかを判断するのは難しく、そもそも業績向上と研修との関連を明確に示すこと自体が不可能であろう。

研修の効果測定はどのように行うのか


研修の効果測定についてはさまざまな知見があり、過去にも膨大な研究がなされている。教育の達成度を評価する測定手法として最も有名なのが、「カークパトリックの4段階評価法」である。
 

具体的には、研修を実施する目的が「レベル1:Reaction(反応)」「レベル2:Learning(学習)」「レベル3:Behavior(行動)」「レベル4:Results(結果)」の4段階のうち、どこを目指しているのかを確認するところから始まる。例えば、一般的によく行われる研修後のアンケートは、「レベル1:Reaction(反応)」を見るためのものである。また、「レベル4:Results(結果)」の変容を求めるには、企業の利益や生産性などから落とし込んだ指標を作る必要があると言える。
 

こうした評価方法は確かに一つの手法として参考になるが、実際にレベル4までの効果測定を行おうとすると膨大なデータの蓄積と広範囲なリサーチが必要になる。結局のところ、経営課題を踏まえて会社ごとに成果のマイルストーンをどこに置くかということが重要であり、自社が求める成果の創出を目的としたプロセスの設計こそが、「意義のある」研修を企画することに繋がるのではないだろうか。

新人に必要な教育を考える


では新入社員に必要な教育という観点に立ち返ったときに、どのような施策が有効なのだろうか。新人においては純粋な成果ベースでの効果測定が難しいため、「入社3年以内の離職率」という基準を設定し、目標を達成したD社の事例を紹介したい。
 

筆者が以前担当したD社は、毎年20名前後の新入社員を受け入れているが、入社3年以内の離職者はなんと7年連続で0名であった。D社では人事部門メンバー全員が特に新人育成に対する強い思いを持っており、採用の段階からキャリアカウンセリングを行いつつ内定者の不安を解消する取り組みを行っていた。
 

また定期的な内定者研修(懇親会含む)や、1年目では年に3回の新入社員研修、2年目以降のフォローアップ研修といった継続的なoff-JTの場を設けていた。研修内容もさることながら、各研修を点ではなく「線」で繋ぐ工夫が奏功し、新人たちに会うたびに毎回前向きなエネルギーを感じた。
 

D社で特徴的だったのが、OJT・メンター制度の整備である。同様の制度を導入している企業は多々あるが、D社では新人受け入れ前にまずその年度の「OJT・メンター任命式」を行い、社長直々に認定証の授与を行っていた。そして人事担当者と私たち外部ベンダーとで作成した新人受け入れマニュアルをOJT担当・メンターに配布するとともに、事前研修では自身が受け持つ新人への育成計画をかなり細かい部分まで踏み込んで策定した。
 

さらに特筆すべきは、「人事担当」「OJT担当・メンター」「OJT担当・メンターの上司」の三者面談を、しくみとして行っていたことである。とかくOJT・メンター制度はその担当者にすべての育成を任せがちになってしまう傾向にあるが、現場の上司や同部署の社員も巻き込むことで、OJT担当・メンターのメンタル面でのフォローに繋がる効果があったようだ。
 

結果、同社の若手社員の離職率は極端に低く、また新入社員時代に組織的なフォローを受けていた彼らのなかには後進育成に対する意識が自然と芽生えており、新しく入った社員に進んでサポートを行う好循環が生まれていた。まさに点の研修が線に、線の教育が「面」になったのだと思う。
 

こうした成功例を目のあたりにして、大事なのは「組織全体で新人を育てる」という風土を作ることであるということを実感した。新入社員研修はあくまでもその一つの手段に過ぎない。ビジネスマナーやコミュニケーション、仕事のすすめ方など社会人のベーシックマインドやスキルを習得する機会を設けることは大切であるが、それらのマインドやスキルを現場で発揮しやすい環境づくりを行うことこそが、新人に対する最大のサポートになるのではないだろうか。
 

尚、この話は新卒社員に限ったことではない。むしろ中途社員の方が、前職とのギャップや周囲からの期待とのギャップで、組織社会化の取り組みが求められていると言っても過言ではないだろう。

目的を明確にした上で、「面」の研修計画を


会社として望む成果の創出に向けて、研修の効果を最大限に発揮させるためには、研修と現場との接続が欠かせない。人事担当の皆様には、新人教育において「何を行うか」を考えると同時に、「どう行うか」にも注力して検討いただきたいと考える。教育や研修においては、やりっぱなしが何よりもったいない。限られた教育投資のなかで、最大限に費用対効果を高めるためにも、組織として新人をどう育てたいのかを明確にしたうえで、「線」や「面」の視点で研修計画を立案いただければ幸いである。
 

<筆者プロフィール>
山中 茉由(やまなか まゆ)
早稲田大学在学中から、大学スポーツ新聞の編集・記者および学生WEBライターとして活動。卒業後は大手人材会社に入社し、企業向け教育研修事業部門の立ち上げに携わる。同事業では企画営業部署の責任者を務めながら、全国の大手~中小企業約300社に教育研修コンテンツを提供。自身も講師として、学生のキャリア支援や就職活動支援を行う。現在はフリーランスライター兼採用/教育コンテンツプランナー。趣味は4歳の息子と、愛する横浜DeNAベイスターズの試合を観戦すること。