コラム

大人の発達障害とは?特徴・強み・支援・対策について

「何度も同じことを言っているのになぜできないのか」「コミュニケーションが全然とれない」営業時代、“後輩には優しく”を徹底してきた私だったが、唯一そんな風に怒った後輩がいた。彼は1歳年下の男性営業。新卒入社4年目となるタイミングで、わたしと同じチームに配属された。

人の入れ替わりが激しい求人広告代理店では、入社3年も経つと中堅層として営業目標が上がるのはもちろん、後輩のマネジメントなども任される年次となる。当然彼も大手企業を任され、チームの業績に貢献するべく期待が寄せられたが、現実はそうならなかった。彼の配属後しばらくすると、「レスポンスが遅い」「業務のフローを理解していない」「お客さまへの対応が悪い」などさまざまなクレームがメンバーから寄せられたのだ。

真偽を確かめる監視役も含め、私は彼のサポート係を務めることに。なるべく商談に同行し、レスポンスのチェックやフローの不備がないかを逐一確認した。するとクレーム通り、「チャットの返信に1週間以上」「必要なフローについて毎回同じことを質問したり、共有が必要なことも勝手に進めてしまう」「お客さまからの対応依頼を2週間以上放置し、クレームになる」など、さまざまな問題が明らかになった。彼の代わりにお客さまに謝罪する日々にわたし自身も疲弊。「これ以上はとても面倒を見切れない」とサポート係を辞退しようかと考えている時に、彼の転職が決まった。どうやら彼自身、給与や待遇で会社に不満を抱えていたらしく、会社も引き留めることなく退職が決定した。

そんな折、世間ではテレビや雑誌、新聞などさまざまなメディアを通じて「大人の発達障害」に関する話題に注目が集まっていた。「大人の発達障害」とはつまり、大人になって仕事での困難さが続くようになったことがきっかけで、医師に相談し、診断されることを指す。思い返せば、彼も発達障害の特徴にかなり当てはまることが今になってわかる。

私のように、問題を抱える従業員のマネジメントで悩んでいる経営者や管理職もいることだろう。そうした場合、どのように対処していくべきなのか。どうすればみんなが働きやすい環境にすることができるのかを解説していく。

大人の発達障害とは


大人の発達障害は具体的にどんな症状なのか。以下があげられる。
 

注意欠陥・多動性障害(ADHD)


この障害の最も一般的な特徴は、注意力が散漫であることだ。ADHDの人々は、集中力がなく、物事に熱中できず、すぐに退屈してしまう。さらにADHDの人々は落ち着いていることが難しく、いつも動き回っているような多動性も認められる。またADHDの人々は、行動を抑制することが難しく、即座に自分の欲求に従う衝動的な行動をとることがある。
 

自閉スペクトラム症(ASD)


社会的な相互作用やコミュニケーション、行動のパターンに問題がある疾患。ASDの典型的な特徴は、社会的な相互作用の困難であることだ。そのため他人との関係を構築することが難しく、表情やジェスチャーの解釈が苦手である。またコミュニケーションにも問題があるため、言葉の意味を理解することが難しく、単語の意味を文字通りに解釈する傾向がある。さらにASDの人々はルーティンを好むため、行動パターンにも問題がある場合が多い。
 

学習障害(LD)


読み書き、計算、言語理解、記憶などの学習に影響を与える障害。LDの人々は、学習に問題があるため、同年代の子供たちよりも発達が遅れがちとなる。典型的なLDの特徴は、読み書きや計算が苦手なことがあげられる。また、言語理解にも問題があり、文章の意味を理解することが難しいこともある。さらに、記憶力にも問題があるため、情報を長期的に覚えることが難しく、短期的な記憶に頼る傾向がある。
 

発達性協調運動障害(DCD)


手や足を使って協調運動を行うことに問題がある障害。DCDの人々は、ボールを投げたり、キャッチしたり、自転車に乗ったりすることが難しい場合がある。また、ボタンを留めたり、ネクタイを締めたりなどの細かい動きを難しく感じる場合もある。
 

これらの障害は、社会的なコミュニケーションや言語能力、社会性、学習能力、思考力などに影響を与えるとされている。これらの障害は生涯にわたって持続するため、早期の発見と適切なサポートが必要となる。


仕事における発達障害者の特徴


こうした障害をもつ発達障害者が職場にいる場合、どんな特徴から見極められるのか。以下のような特性があげられる。
 

・非公式のコミュニケーションルールを把握するのが難しい。
 
・現在の状況や他人の感情を正確に理解するのが困難である。
 
・他人との社会的な距離の維持が困難である。
 
・比喩や曖昧な表現、ジョークの意味を掴むのが難しい。
 
・自己表現、特に自分の感情や考えを他人に伝えるのが難しい。
 
・言葉の解釈、使用、およびトーンが独特である場合がある。
 
・ルーチンやパターン(場所、時間、スケジュールなど)に強く依存する。
 
・興味や関心が特定の範囲に限定される、または特異な偏りがある。
 
・状況が変化しても感情や行動を柔軟に調整するのが困難である。
 
・予定が急遽変更されると混乱をきたすことがある。
 
・特定の感覚(聴覚、視覚、触覚、嗅覚など)が過度に敏感だったり、鈍感だったりする。
 

このように、発達障害を抱える人々は新しい環境や不確定な状況、そして人々との対話に対して困難な場合が多く、職場でのコミュニケーションやチームワークを乱してしまう可能性がある。


職場で活かせる発達障害者ならではの強み


しかし、職場において発達障害者ならではの強みもある。
 

細部への注意


発達障害者が持つ特性の一つとなる細部への注意力は、物事の詳細に対して非常に敏感であるという能力を指す。彼らは見落としやすい詳細を捉え、一般的な視点では気づかない洞察を提供することが可能だ。具体的には「データのパターンを見つける」、「エラーや異常を発見する」、「複雑な手順を正確に実行する」といった形で活かすことができる。職種でいえば、品質検査やデータ分析、プログラミング、研究などの仕事において、この特性は非常に価値があるものとなる。
 

専門知識


発達障害者が特定の分野に対して非常に高い関心を持ち、それについて深く学び続ける能力を指す。彼らは興味を持つ対象に対して一貫して集中し、綿密に研究を重ねる結果、その領域において深い理解と高度な専門知識を身につけることが可能だ。そんな能力を活かし、困難な問題を解決する際に必要な、深遠な洞察や創造的な解決策を生むことがある。そのような特定分野への情熱は研究開発、製品開発、プログラミング、データ分析などの専門的な分野において活かされるケースが多い。
 

繰り返し作業への忍耐


発達障害者が一貫して同じタスクを繰り返すことに対する高い忍耐力と集中力を指す。この特性は、日々のルーチン作業や手順が一定の職務において非常に価値がある能力となる。例えば、データ入力、在庫管理、品質検査など、一定の手順を繰り返す作業において、彼らは優れた効率と精度を発揮することができるだろう。
 

問題解決能力


発達障害者が特異な思考スタイルを活かして新たな解決策を見つける能力を指す。発達障害者は往々にして独自の視点やアプローチを持つため、彼らの思考は新しいアイデアや解決策を導き出すことがある。これは特に複雑な問題や困難な状況に対処する際に活かすことができる。例えばプロジェクト管理、研究開発、製品設計など、創造的な思考が求められる場面で非標準的な解法や創造的なアイデアを提供できる。
 

真面目さ


発達障害者が職務に対して一途な取り組みを見せ、規則や手順への厳格な遵守を行うという特性を指す。この特性は職務の責任感や誠実さを保証し、適切な業務遂行を確保することを可能にする。発達障害者は指定されたタスクを注意深く、綿密に、そして規則に従って完遂することに力を注ぐため、細心の注意と規則の遵守が重要とされる業務で大いに役立つことができる。
 

直接的なコミュニケーション


発達障害者が間接的な表現や言葉遊びを避け、明快で直接的なコミュニケーションを好む特性を指す。彼らはたとえ話やダブルミーニングを理解するのが難しい。それは一方で明確で具体的なコミュニケーションスタイルを持つことを意味する。発達障害者発達障害者の発言は文字通りに受け取ることができ、その結果、曖昧さや誤解を減らすことにつながる。
 

創造性


発達障害者が持つ独特の思考スタイルを活かし、既存のパラダイムを超えた新しいアイデアを生み出す能力を指す。彼らは一般的な思考パターンから逸脱し、新たな視点や発想を提供することができる。そうした発達障害者の独特の視点は、既存の問題に対する新しい解決策を提示したり、未知の可能性を探求する独自のアプローチにつなげることができる。そのため彼らの創造性は、革新的な発想や突破的なアイデアを求める業界・職種でも活用されている。


職場における発達障害者の支援と対策


職場における発達障害者の支援と対策は、その人々の能力を最大限に引き出し、彼らが生産的で満足感のある職場生活を送ることを可能にするために不可欠だ。具体的な対策としては以下があげられる。
 

職場の環境調整


過度な騒音や明るすぎる照明など、特定の環境要素は発達障害者にストレスを与えることがある。そのため、フレキシブルなワークスペースや静かな作業エリアを提供することで、これらの問題を緩和することができる。
 

職務の合理的配慮


発達障害を持つ社員に対し、タスクの明確な説明、期待値の明示、具体的なフィードバックの提供など、職務上での配慮することもあげられる。また、適切な仕事の配分も重要となる。
 

職場全体の教育とトレーニング


一緒に働く従業員の理解を深め、従業員の理解のもと支援の仕組みを整えていくことが必要だ。具体的には、発達障害の理解を深めるセミナーやワークショップを実施すると、職場全体が発達障害者に対応するための適切な知識と理解を得ることができる。
 

これらの対策を行うことで、発達障害者が職場で成功し、互いに尊重し合う環境を生みだすことができる。


発達障害について本人(従業員)へ伝える方法


上述したような発達障害の特徴をもっているものの、医師からの診断や自覚がない発達障害者もいることだと思う。その場合、会社側から本人へ医師の受診を勧めることが求められるだろう。ここで気を付けなければならないのは、必ず敬意と配慮を持って該当の従業員に接することだ。健康や心理状態については個人的なものであるため、その人の尊厳を尊重し、その人の感じ方や状況に理解を示しながら伝える必要がある。
 

そのため、対話の環境はその人が安心して話すことができる静かでプライベートな場所であることが望ましい。話し手としては、批判的な言葉遣いや偏見を避け、全てのコミュニケーションがその人の利益を考えたものであることを明確にすることが大切だ。
 

そして、発達障害の可能性を指摘する際には、具体的な観察や懸念を共有し、その人が苦労している具体的な状況を指摘することが重要だ。無理に診断を下すのではなく、プロの診断を受けることを勧めることが必要となる。これには、「医療専門家に相談することで、もし発達障害が存在すれば、その人がより効率的に働くための支援やリソースを利用することが可能になる」といった説明も欠かせない。
 

最後に、会話を終える際には、その人が自身の状況について思い悩むことなく、支援を受け入れることができるよう、組織としての全面的なサポートを保証しよう。これはその人が自身の能力を最大限に発揮することを可能にし、組織全体の生産性と職場の雰囲気を向上させることにもつながる。


発達障害者への理解と受け入れる心をもつ


働くことは私たちの生活の大部分を占め、個々の価値を発見し、自己実現する重要な手段だ。これは発達障害者にとっても例外ではない。そのため、彼らが自己の能力を最大限に引き出し、職場での成功を享受できるようにするためには、わたしたちが彼らの特性と強みを理解し、適切な支援を提供することが重要となる。
 

これは単なる個々の責任ではなく、組織全体が発達障害者の働きやすい環境を作るために、共に努力し、理解し、受け入れることが求められる。そんな環境の実現には、リーダーシップの強いコミットメント、従業員への教育と研修、そして適応的な職場環境の構築が欠かせない。
 

そうした取り組みは発達障害者を助けるためだけではなく、職場の多様性と包摂性を高め、全ての人々が自分自身の能力を最大限に活かすことができる環境を創出するための重要なステップにもなる。これが達成されれば、職場はより生産的で創造的なものとなり、それぞれの個々の強みを活かすことで、組織全体としての成功を実現することが可能となるのだ。
 

【筆者プロフィール】
西山 侑里
1993年群馬県高崎市生まれ。空っ風に鍛えられながら、小中高とバスケットボールを追い続ける部活生活を経て、2012年の大学入学を機に上京。大学卒業後、2016年にリクルートの求人広告代理店に新卒入社。売れない営業時代を乗り越え、営業リーダーを任せられるまでに成長。新規部署の立ち上げメンバーとしてIndeedの運用にも携わる。2022年に夢だったライター職に転職。人材業界での経験を活かして求人原稿の制作から、最近ではコラム記事の制作に挑戦中。
 

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